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1-1 セント

「ようボルダ、久しぶりだな」

「……! レナード、無事だったのか!」


 街道を歩き、セントの街の外壁、今は閉じた門に近づくと、レナードさんが声をあげた。一瞬の間を置いて門番も応える。知り合いらしい。

 ボルダというらしい門番は無骨な大槍を持った大柄な男性だった。レナードさんと話す様子から見るに二人は同年代のようだが、全体的にがっちりしていて無精ひげを生やしたボルダの方がいくらか年上に見える。有り体に言ってしまえばおっさんっぽい外見だった。

 二人がなにやら世間話を始めてしまい暇だったのでセントの街の外壁を眺める。


「なんかこう、触ったら痛そうなデザインだな」


 門は大きく高さ五メートルはありそう。だが、フォルトの城壁の方が大きかった。大きさだけでは圧倒されたりしない。

 特徴的だったのはその城壁の外観。あちらこちらに棘や刃が仕込まれており、うかつに触れれば流血間違いなしといった様子。おそらくこれも魔物対策なのだろう。規模の大きな有刺鉄線みたいなものだ。


「おいサイカ、何してんだー!」


 観察しているとレナードさんに大声で呼ばれた。まだ呼ばれ慣れない名前なので反応が遅れそうになった。

 慌ててレナードさんたちがいる方へ戻るとボルダがいぶかしげに俺を見ていた。


「で、レナード。こいつがそのガキか?」

「ああ。こんなナリだが腕は確かだ。単独ならおれより強いぞ」

「……いまひとつ納得いかんが、おまえが言うならそうなんだろうな」


 レナードさんは世間話をしていただけでなく俺の事情も説明してくれていたらしい。

 ボルダがうさんくさいものを見るような視線を向けてくるのも無理はない。自分の外見が弱そうということは理解している。


「そこは納得するとして、だ。フォルトが陥落したって報を受けて、出入りの審査を厳しくするよう命令が出てる。身分証のないやつを入れるのは難しい。場合によってはフォルトの連中が来ても門前払いしろって命令が出てるくらいだからな」

「そんな!?」


 ボルダの言葉に声を上げたのはチファである。同じ国の人間を見捨てるという選択が信じられなかったのだろう。

 命令の意味はわかる。セントの人口はわからないが、フォルトより規模が小さな街だ。フォルトの住人が大量に押しかけたらセント内にある食料でフォルトの人たちまで賄うことができないかもしれない。住処を追われた恐怖から暴徒化する連中がいないとも限らない。あの街の連中なら集団強盗くらいやらかしかねないと思う。鎮圧するのも手間だし、そもそも立ち入らせないというのは合理的な判断だ。

 ボルダは眉間にしわを寄せてチファから目をそらしている。

 いくら合理的な判断と言っても冷酷なことは確かだ。それを子供に責められたら痛いと感じるくらいに善良な人らしい。

 どうどう、と俺がチファをなだめているとレナードさんがボルダと会話を再開した。


「その身分証を作るためにセントに入りたいんだが」

「ああ、話はわかった。お前が推薦して探索者にするんだろう? 普段ならそれで問題ないが、今は駄目だ。身分証持ちで討伐者として実績があるレナードを入れるのは問題ない。まだフォルトの連中が来ていない今ならレナードの家族とあとの四人も入れられる。だが、身分証を持ってないそいつは無理だ。そういう規定になっている」

「規定って、少しくらい融通きかせてもらうことはできないか」

「できない。規定は法だ。おれが勝手に特例を作るのは違法行為だ。武器を持つおれたち兵士は、誰より規律を重んじるべきだ」


 にべもなく俺の立ち入りは拒まれた。

 街に入れないのは困るが、この人の言い分もわかってしまう。

 身分証を持っていない俺は流民か何かと見なされるだろう。

 ボルダが受けている命令は、危険があると判断したら同じ国に生きる人間を見捨てろというもの。ボルダの話から察するに緊急時用の特例なり規定なりといった法律があり、現在それが適用されている。

 隣の街の自国民すら閉め出せという法律に基づく命令が出ている状況で、どこの誰とも知らない子供を街に入れるのは難しい。法的にも心情的にも立場的にも。


「それはわかるが、こいつはそもそも――」

「レナードさん、落ち着いてください」

「タ――っ、サイカ、お前のことだぞ、このままだと街にも入れない」

「無理言っても仕方ないってレナードさんもわかってるでしょう。いくら言いつのっても同じです。ここは通れません」


 ボルダは俺を通すつもりはない。通すかどうか決める職権を持っていないし、規律違反をすることもない。

 なら食い下がることに意味はない。悩んでいるならともかく結論が出ているなら問い続けるだけ時間の無駄だ。

 レナードさんには下がってもらう。ボルダに視線をやると怪訝な顔をしていた。

 街に入りたい本人が説得をやめさせたならさぞおかしな光景に見えるだろう。

 だが、俺だって街に入るのを諦めたわけじゃない。レナードさんのおかげで状況はある程度わかった。


「レナードさん、先にセントに入って組合の人に話をしてもらえませんか」

「……ああ、そうか」


 それだけ言うとレナードさんは腑に落ちたように表情が和らいだ。

 ボルダに食い下がっても無意味なら、食い下がる相手を変えるだけでいい。


「ボルダ、おれたちだけでいいから手続きを頼む」

「ああ、それなら構わないが……?」


 さっと身分証の確認やらをすませてレナードさんたち一行は門の内側へ入って行った。

 去り際にチファがちらちらこちらを見ていたので「またあとで」と手を振った。

 門の外に残ったのは俺とボルダだけである。

 沈黙。ボルダはこちらを注視したまま黙っている。待つ間暇なのでボルダに話しかける。


「というわけなんで少しお世話になります」


 外壁に近づき、刃のない部分に背中をもたれかけて座る。フォルトからここまで急いで来たのでそこそこ疲れているのだ。移動速度を上げるためにマールさんを背負ったりしてたし。


「……レナードたちだけで行かせてよかったのか?」

「それしかないでしょう。どれだけごねたってボルダさんは俺を通すつもりがないんですから」

「まあ、そりゃそうだが」

「ならレナードさんに頼んで組合の人からあなたの上司に話を通してもらった方が建設的です。この街が今、戦力不足なのは分かっていますし」


 間近の街、フォルトで大規模な魔族との戦闘があった。

 セントの街もアストリアスという国の都市のひとつ。救援に兵を送ったりしただろう。稼ぎを求めてフォルトへ向かった討伐者も少なからずいるはずだ。

 となれば必然、セントは戦力不足の状態。短期間とはいえ信頼できる人物から戦力を紹介されたとなれば利用したいところだろう。

 うまくいけば組合の上の人からボルダの上司に話が行くはず。うまくいかなかったら、そのときに考えよう。魔物の領域が近くにあるらしいし、そこから強めの魔物を何匹か追い立てて街を襲わせて、これ見よがしにボルダの前で仕留めるとかいいかもしれない。恩を押し売りしてやろう。


「……お前、今なんか物騒なこと考えてねえか」

「いやまさかそんな。最悪の場合にどう対処しようか考えてただけですよ」


 鋭いなこのひと。


「正直、おれにはお前の考えがうまくいくとは思えんのだが」

「え、何か大きい穴を見落としてます?」


 即興だったのでどこかしらに穴があるかもなーとは思っている。

 たとえば組合と門の管理をしている組織の間につながりがなかったら話が通ることもない。門を管理している組織はセントの街を運営する公共団体のはず。組合で発行する身分証が街への立ち入り審査に使えるくらいだから組合は半ば公的な組織とみていいはず。つながりはあるはずだ。

 パッと無理だと断じられるほどひどい穴には気づかなかった。


「お前の実力だよ。魔王軍と何度も戦って生き残ったってんだから弱いってことはないだろうが、組合が口利きするほどなのか? レナードは自分より強えって言ってたがそれだって眉唾だ。レナードはもともと三級の討伐隊に所属してたんだぞ」


 少し話を聞いてみると、兵士になる前のレナードさんはかなり活躍していたらしい。所属していた部隊(ゲーム風に言うとパーティみたいなものだろう)はかなりの早さで三級まで昇格し、三級になってから怪我や家の事情で解散するまでの数年で結構な戦果をあげたとか。レナードさんはそこで前衛のリーダー的な立ち位置にいたとのこと。

 そのレナードさんが俺のことを自分より強いと言ったことが引っかかっているようだ。実力だけでなく人となりを知っているから、俺を街に入れるために大げさなことを言ったのだと考えている。


「俺も本気で戦ってるレナードさんを見たことがないから、レナードさんより強いなんて言えないですけど」


 ボルタを横目に見て、軽く敵意を混ぜ込んだ錬気を放つ。

 その瞬間にボルタは跳び退り大槍を構えていた。

 こちらをにらみつけるボルタに笑って手を振り敵対する意思がないことを伝える。


「少しは戦えます」


 錬気を体外に放出するのは効率が悪いからか他の人がやっているのは見たことがないが、悪意を込めた錬気を相手にぶつけると威圧したり怯えさせたりすることができる。

 今回はボルタに俺が弱くはないことを伝えるため、一瞬だけ威嚇させてもらった。

額に汗をにじませながらもボルタは槍を下ろしてくれたが、嫌そうな目でこちらを見ていた。


「……薄気味悪いガキだな」

「えっ」

「魔力がほとんどない上に立ち振る舞いがまるっきり素人かと思ったら、凶悪な気配を放つわしゃべり方がやたらかしこまってて不気味だわ」

「もしかして敬語って一般的じゃないんですか」

「ンな嫌みたらしい言い回し、貴族か役人くらいしか使わねーよ。おれみたいな門番に使われた日にゃ背筋がゾワゾワしてかなわん」

「あー、そりゃどうも。変に目立ちたくないし言葉は崩させてもらう」

「おう、そうしろ。気味ぃ悪い」



―――


 しばしボルダと昨今の通貨事情や魔族との戦いが社会的にどうとられているか、衛兵の婚活事情などの雑談をした。ファンタジーの兵士というと脳筋で無能なモブキャラというイメージがあったが、ボルダは知識が広かった。この世界の一般的な知識はもちろん社会情勢や組合の成り立ちについても知っており、非常に有意義な雑談だった。

 日本にいた頃はニュースを真剣に聞いたことはなかったが、この世界だと社会情勢が死活問題にもなりうる。そうでなくても興味深い話だった。

 雑談に熱中しているうちに結構な時間が経っていた。伝令らしい兵士がボルダに書類を届けに来た。


「サイカ、お前の企みはうまくいったぞ。臨時だが街に入る許可が下りた」


 よし、と内心拳を握りしめる。穏便にことが済んだ。


「まだ町中での武装許可は下りてないから街に入る前に武器は隠しておけよ。荒くれもいる街だから舐められないようにしとけ。……おれに言えるのはこれくらいだな。

 改めて、だ。セントへようこそ、サイカ。目的を達成できることを祈っている」

「ありがとう。ボルダもいい嫁さんが見つかるといいな」

「ほっとけ」


―――


「お前の読みは当たってたよ。ここの支部長に話してみたらとりあえず会ってみるそうだ」


 セントの街に入ってすぐのところにレナードさんとウェズリー、シュラットが待っていた。チファたちは先に宿を取って休んでいるらしい。ウェズリーとシュラットもついでに登録だけしておくつもりのようだ。

 四人連れ立って探索者組合がある場所へ向かう。

 討伐者組合ではないのかと聞いたところ、討伐者というのは探索者の分類のひとつらしい。


 魔物の領域と呼ばれる地域がある。山だったり砂漠だったり洞窟だったり地形はさまざまだが、通常の地域に比べて著しく幻素の密度が高い点が共通している。

 そういった幻素の吹きだまりには生きるために幻素が必要な生物、魔物が集まる。大量の幻素を取り込んだ植物が変異したり、生長に一定以上の幻素が必要な植物が育つ。

 そんな魔物の領域に分け入って成果を持ち帰る人の総称が探索者であり、そこから生活目的で獣や魔物を確保する人を狩人、敵対生物を仕留める人を討伐者、限定的な環境でしか育たない植物を採集する人を摘み師、などと分けて呼ぶようになったのが始まりだとか。

「サイカがなるなら討伐者だろうな」とはレナードさんの談。


「狩りや採収みたいな生活に根ざした仕事は地元民の方が地理的に有利だ。組合でも流れの連中よりも地元民の生活を優先するから依頼を受けるのも難しい」


 それはそうだ。ひとつのエリアに絞って毎日のように出入りしているなら当然内部に詳しくなる。そのエリアに慣れた人の方が手間と時間をかけずに目当てのものを確保できるだろう。

 まして狩りや採収で生計を立てている地元民がいれば流れ者より優先するのは当たり前だ。よほど人手が足りない時でもなければよそ者より地元民に仕事を回す。

 そもそも俺は植物の見分けがつかないので採収は無理だ。


「その点、討伐者は楽でいい。仕事はむしろ積極的に紹介してもらえるからな」

「討伐者だって地元の人がいるんじゃないですか? 狩りや採収みたいな日常の仕事と違って、依頼の絶対数は討伐者が一番少ない気がするんですが」

「それはその通りだが、だからこそだ。だいたい討伐者が街に着いた時に依頼が残ってる場合は地元の討伐者が対処しきれない獲物がいるってことだからな」

「あ、そうか」


 討伐者は依頼の数が少ないから、一所に留まることは少ない。

 数少ない一所に留まる討伐者がいるなら、依頼があれば組合はすぐ討伐者に伝える。

 仕事が立て込むという状況が少ない討伐者は依頼があればすぐに片付けることができる。

 それなのに依頼が残っているということは地元の討伐者が対処しきれなかったということだ。


「でも、そんな都合よく地元の人が対処できないようなのが残ってるものなんですか」

「結構残ってるぞ。魔物の領域は地形も済む魔物も少しずつ変わってくからな。時々やたら強い魔物が住むようになることもある。討伐依頼も全てが緊急ってわけじゃないから後回しにされて塩漬けになってるのもある。あとはまとめて駆除する時に人手が必要って場合もある」


 理由はいろいろだ、とレナードさんはまとめた。

 話を聞く限り流れの討伐者で食っていくには土着の討伐者を超える腕を持っていることが前提だ。そのあたりは甘くない。

 自分で獲物を選ぶのも難しそうだ。当然ながらどれだけ強い魔物を倒しても依頼人がいなければ達成報酬は手に入らない。ゲームのように鱗だとかを売れればいいが、獲物の体の損傷を最低限にしつつ仕留めるのは難しい。やはり楽して稼げる仕事なんてない。


 俺の腕はどの程度通用するのか。不安を募らせながら歩いているうちに探索者組合の支部に着いた。

 外観はきわめて普通。他の店と大きく違うところはない。三階建てで一階に依頼の紹介所、二階と三階に事務室や応接室、資料室なんかがあるらしい。

 ギルドとかいうといかにもファンタジーな感があるが、組合と訳すとそれだけでものすごく事務っぽい。事実、二階以上は事務所だ。

 気負った様子もなくレナードさんが組合支部の扉を開けた。その背中についていく。

 建物の中も特別変わったところはない。待合室も兼ねているのであろう紹介所は大きなテーブルがいくつも設置されている。そこで飲み食いしている人たちの格好も普通。武装している人もほとんどおらず、普通の酒場のような印象を受けた。

 これから仕事に出るなら酒なんて飲まないだろうし、飲み食いしてる人は今日、もう仕事がない人なのだろう。食事中まで重くて窮屈な武装をする理由はない。

 受付のあたりにはファンタジーらしい格好をした人が少なからずいた。素材の買い取り交渉でもしているのか難しい顔でにらめっこしているおっさんやら、「なんでだよ!」と叫ぶ少年とか、なにやら物品を受け付けに渡してにこやかに去って行く人やら様々だ。

 特に注目されるでもなく俺たちは受付にたどりついた。受付にいたのはこれまた際だった特徴のないおじさんだった。こちらに気づくとうっすら笑った。


「お、レナード。戻ったね。紹介したいっていうのはそっちの彼かい?」

「ああ。こんなナリだが腕は確かだ」


 レナードさんがちょいちょいと手招きする。挨拶しろ、ということらしい。


「初めまして。サイカとも……いう。レナードさんからの紹介で来た。よろしく」


 申します、と言いそうになって、ボルダとの会話を思い出し訂正した。

 どうにも違和感があって言葉遣いが堅くなる。受付のおじさんはどことなく優しい用務員の先生みたいな雰囲気がある。むしろ敬語でないと話しづらい。

 そんな内心が顔に出ていたのかレナードさんと受付の人がそろって吹き出した。


「れ、レナード、ずいぶん毛並みのいい子じゃないか。彼は本当に討伐者になるのかい」

「おれも予想外だ。敬語の時より普通に話す時のが畏まってるってどういうことだよ」


 声を上げて笑ったりしないが二人とも顔を赤くしてぷるぷるしている。

 俺の顔もたぶん赤くなっている。もちろん二人とは違った理由で。

 ……ウェズリー、シュラット、お前らも笑うんじゃない。蹴飛ばすぞ。


「もっと肩の力を抜いて話していいよ。僕らと君らの立場は対等だ。年上だからってむやみに敬う必要はないから」

「そうだぞ、もっと砕けた言葉遣いに慣れろ。おれにも敬語はいらんからな」


 言ってからさて、と二人は居住まいを正した。

 受付のおっさんが改まって口を開く。


「本題だけど、きみはレナードの紹介で討伐者になりに来たんだね」

「そう。今の俺は住所不定無職だから、身分を証明するものと仕事を手に入れるためにここへ来た」


 この世界において、生物の強さは縮尺が狂っている。

人間に限っても戦闘職の人と非戦闘員では強さの次元が違う。戦闘職の人の中でも強さの幅はかなり広い。フォルトの一般兵士と師匠の差を地球基準にたとえてみれば、普通の歩兵一人と機甲師団くらいの差がある (たぶん)。

 魔物を初めてとする動物も物理法則をガン無視して存在するようなバケモノがごまんといる。

 その手のバケモノは基本的に魔物の領域から出てこないが、魔物の領域内では強大な障害として立ちふさがる。万が一にも領域から出てくれば都市が壊滅しかねないようなものもいる。

 上位のバケモノに対抗しうる戦力はいくらあっても困らない。それどころか野放しになって管理できない方がよっぽど困る。

 ゆえに強者や資質がある者を囲い込むための制度がある。

 三級以上の討伐者からの紹介で身分証をゲットできるのもそんな制度のひとつだ。


「厳密に言うとそれは違う。紹介されれば必ず登録できる、というわけではないんだ。紹介があればこちらで審査する、というだけでね」


 言われ、自分のほおが引きつったのがわかった。

 審査ってなんだ、面接試験か何かか、バイトの面接くらいしか経験ないぞ。知識問題にしてもこっちの法律なんてあんまり知らないし、魔物の生態なんて聞かれてもフォルト周辺の一部のしか分からない。

 先に言っておいてくれれば予習できたのに、とレナードを横目に伺うと目をそらされた。


「といっても通常は紹介があれば簡単な面接だけでほぼ登録できるんだけど」

「……通常は」

「レナードの話を聞いた支部長が興味を持ったみたいで、自分が面接をしてみようと言っていたよ」


 余計なことを。軽くにらむとレナードはあらぬ方向を向いていた。

 レナードのことだから、少しでも俺が街に入れる確率を上げようと誇張気味に話したのだろう。気遣いはありがたい。すごくありがたい。でも、ほどほどにしてくれればもっとありがたかった。

 ……なんて考えても意味ないか。そもそもレナードがいなければ登録できないわけだし。俺のためにしてくれたことで、そのおかげで面接を受けられる。なのに些少のやっかいごとで文句をたれるのは違うだろう。些少で済まなかったらその時に怒ろう。


「支部長はいちおう忙しい人なので、すぐに行ってくれないかな」

「支部長は基本的にいい人だから、そんなに構えなくていいと思う」

「いちおうとか基本的にってところにものすごく引っかかるんだけど」


 レナードのフォローになってないフォローを背に、組合の三階へ向かった。


各話の長さは気分やきりのよさでまちまちです。

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