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1-15 買い物

「よし、買い物に行くか」


 受付で報酬を受け取り昼食を済ませ、ウェズリーとシュラットに声をかける。


「買い物? 何か買うものあったっけ?」

「自分の胴体見ろよ。鎧、そのままでいいのか?」

「「あ」」


 ウェズリーとシュラットは互いの胴体を見合った。

 フォルトの戦闘で傷んでいたのであろう鎧はビスベスの攻撃を受けて表面が削れ、いくつか小さなひび割れができていた。命を預けるには心許ない。


「それに明後日くらいにはセントを出るからな。チファたちを誘って旅に要りそうなものを準備しておいた方がいいだろ」


 二人は壊れた鎧を補充しなければならないという事実に直面し経費というものを意識したらしい。足取りが重い二人と共に宿へ戻りマールとチファに声をかける。

 買い物に行こうと誘ってみると、マールが旅に必要なものをリスト化してくれていると分かった。その上それらが売っている店舗まで調べてあった。


「せっかくの機会だし、どういう店で揃うか実際に見れた方がいいでしょ?」

「助かります」


 思わずマールを拝んだ。人に揃えてもらうよりも自分で選ぶ方が勉強になる。

 五人で買い物に出る。マールにウェズリーとシュラットを防具屋に案内してもらい、保存食や水嚢、酒、換えの靴などを購入していく。

 ふと目に付くものがあった。


「髪染め……買ってくか」


 この世界に写真はない。そのため髪の色は人を識別するために大きな情報となる。

 これまで会った人は茶髪や金髪が多かった。青っぽい髪や緑っぽい色の髪も見た。

 そんな中で黒髪は探せばいる程度のレアリティ。逆を言えばぼんやり雑踏を眺めても見当たらない。部類としては珍しい方だろう。

 勇者のひとりであることを隠そうと思うなら共通する特徴はなるべく消した方がいい。幸いさほど目立っていないはずなので今から髪色を変えてもそうそういぶかられることはないだろう。

 何色にするか悩みつつ、隣に立つチファを見る。

 チファの髪は赤褐色。明度はさほど高くない。

 

「よし決めた」


 赤の髪染めを手に取った。

 この髪染めはもとの髪の色と髪染めの色が混ざって発色するらしい。

 脱色しないで赤色の髪染めを使えばチファのようにならないだろうか。

 うまく近い色になってくれれば周りは俺とチファがきょうだいだと思うだろう。髪の色が違っている上に妹っぽい子を連れているとなれば勇者と結びつける人はそう多くないはず。


「……おそろいですね」


 ふへへ、とチファが笑う。

 おそろいだな、と返しながら髪染めを購入すると、店員が使い方を教えてくれるという。

 髪を染めるなんて初めての経験なのでありがたくお言葉に甘えることにした。

 今回購入した毛染めは絵の具のようだった。適量を手に取り頭を洗うように髪全体になじませる。

 本来なら乾燥を待つところだが、店員が温風で一気に乾かしてくれた。

 その結果は。


「これは……なんというか」

「こ、これはこれで……?」

「……あんまり鮮やかじゃないね?」


 店員が言いよどみ、チファが疑問系でフォローしてくれた。マールは穏当に刺してきた。

 その声を聞いてなんとなくどんなザマなのか予想がついた。

 店に備え付けられていた姿見に目をやる。

 髪の毛は確かに染まっていた。驚くべき技術により色むらはない。

 しかし、色が悪かった。

 買ったのは鮮やかな赤色の髪染め。目指したのはチファのような赤褐色。

 だったのだが、俺の頭は錆びた鉄のような色になっていた。

 そう悪い色では無いと思うのだがなんとなくイメージが悪い。どこかみすぼらしい感じがする。


「……まあ、こんなもんか」


 もう少し格好いい出来を期待していなかったと言えば嘘になるが、蛍光色のような赤に比べればよほどマシ。初めての染髪にしては上出来。悪目立ちするほど変な色では無いはずだ。色調も暗いからけばけばしくもない。

 店員は申し訳なさそうにしていた。なんでも髪になじませる都合上、そう簡単にやり直すことができないらしい。

 またちょくちょく染めないといけないと思い、複数本の髪染めを買った。

 ちょっとだけおまけしてくれたのでむしろ得をしたかもしれない。



 必要なものを一通り買いそろえて防具屋に戻るとウェズリーとシュラットはまだ悩んでいた。

 いくつかの防具の前を行ったり来たり。値札を見てため息をついている。最初に値札を見た時には青ざめていたが、さすがにもう顔色は戻っている。

 ……ビスベス討伐は赤字でも、魔族を倒した分を含めればギリギリでプラス収支だろうに。


「よう、決まったか?」


 声をかけられ振り返った二人は人相が変わりそうなほど眉間にしわをよせていた。

 そんなに悩ましいのだろうか。


「いや、まだちょっと……」

「悩む余地とかあるのか? 二人にあったサイズの鎧とかあんまり無いだろうし、大きさの時点でかなり選択肢は絞られてる気がするんだが」

「そーだよ、そーなんだけどさー」


 言いながらシュラットは値札を見せてくる。

 なるほど、高い。サイズは小さいはずなのに大人用のものとさして変わらない値段である。

 ウェズリーやシュラットくらいの歳で探索者になる人は少ないという話だ。子供向けの装備は需要が少ないので供給も少なく割高、といった具合だろうか。

 経験を積めば四級になれる二人は上のランクの鎧も見ていたようだが、そちらはそもそも子供向けサイズのものがなかった。等級相応の素材を使った鎧を作ろうと思えばオーダーメイドになりそうだし、一点物は当然さらに高価だろう。これから身長が伸びることを考えればなおさら手は出ない。


「……じゃあ、ひとまずこの辺を買っておけばいいんじゃないか?」


 わりとカッチリした全身鎧を見ていたので別の一角にあった胸当てを提案する。

 二人は小柄で体重も軽い。盾を使うウェズリーにしても攻撃を受け止めるタイプではない。いっそ軽くて最低限の防具にした方がいいと思うのだ。今回鎧が壊れたのだって自分で受け止めたせいだし。


「なるほどなー、これなら手ぇ出せるなー」

「さすがに胸当てだけだと不安だから胴当てもほしいかな」

「んー、おれは胴当てまではいいや。動きづれーし」

「あと魔物相手だとどの辺が重要かな。太ももよりすねの方が攻撃されやすいかな」


 二人は再び話し合いを始める。これはまだ当分決まらなそうだ。特にウェズリー。

 少しの間ふたりを見守っているとチファからの視線を感じた。


「サイカは防具を買わないんですか?」


 俺は防具らしい防具を身につけていない。チファにはそれが不思議だったらしい。


「防具を着けても重たいだけだからなあ」


 フォルトで師匠から受けたトチ狂った訓練の成果として、俺は条件反射的に身を守るようになった。

 師匠の剣はおかしいほどの鋭さだった。防具を着ける暇なんてなかったが、着けていたとしても鎧ごと刻まれていただろう。

 師匠以外でも戦う相手は鎧が意味をなさないようなやつが多かったので必要性を感じないのである。必要なら錬気の鎧でごまかせるし。


「買うなら防刃性のある服とかだな。そこのマントみたいな。それよりチファも旅装を整えた方がいいんじゃないか? 服屋もあるしなんか買ってこうぜ」


 近くにあった服屋を指さす。

 いいですとチファは遠慮していたが、チファはほとんど服を持っていない。旅をする以上、毎日洗濯するというわけにはいかないし動きやすい服を何セットか買っておいた方がいい。なんなら旅装関係ない流行り物を買ったっていい。


「マール、何組か選んでやってもらえる? 予算は気にせず旅装に限らず。報酬はマールの服もまとめて買っちゃうということでひとつ」

「うんいいよ任せて引き受けました。さ、行こうかチファちゃん」

「でも服だってただじゃないですし、買ってもらうなんて」

「サイカがいいって言ってるんだからいいの。せっかくだからいろいろ着てみよ? 可愛い格好したらきっと喜ぶよ」

「そうそう。喜ぶ喜ぶ」


 適当に相づちを打っていると意外なほどの力強さでマールはチファを引いていった。

 防具を選ぶウェズリーとシュラット。服を選ぶチファとマール。どっちについていた方が楽しいか。

 考えるまでもない。後者だ。こっちでどういう服が流行ってるのかちょっと興味あるし。なんなら自分用に何着か買ってもいいし。

 ウェズリーとシュラットに一声かけて店を出る。

 ファッションとかあんまり興味なかったが、チファとマールのファッションショーなら大変興味があるのである。

 人目に付かないようスパッと魔法の袋から金を取り出しつつ服屋へ向かう。


「あのっ!」


 どん、とタックルのような勢いでぶつかられた。

 慌てて走っていたのかと思ったら違う。服を引きちぎりそうな勢いで掴まれる。

 ぶつかってきたのは女性だった。身長は俺とそう変わらない。

 少しの間、下を向いて息を切らしていたが、ぐっと服を掴む手を強くし、顔を上げる。

 その顔はどこかで見たような輪郭で、べったりと血が付いていた。


「兄貴を、リニッドを、助けて」


さあいよいよストックが残りわずかとなって参りました。

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