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1-9 ソロ②

前話、討伐の証拠についての部分を「統一されていれば猿の片耳だけでよい」を「両耳必要」に修正しました。


「初手の速度も残りをバラした手際も大したモンだったが、初手の直後のありゃなんだ? こけそうになってなかったか?」


 猿たちの耳を回収した帰り道。リニッドから道中を含めた講評をもらっている最中に問われた。


「確実に仕留めるために助走なしの最速で突っ込んだんだけど、手応えがなさ過ぎたんだよ。正直、かわされたのかと思った」

「バカ、あんなもんかわせるイキモノ、低く見積もって単体で四級だ。群れたら三級は堅い。鎧を着た相手でも斬るのかって威力だったぞ」

「……そうか、それでか」


 納得する。俺がこれまで戦っていたのは戦場だ。敵の魔族は有象無象の木偶魔族を除けば防具を着けているか、防具がいらないほど体表の堅い生物が多かった。それらを基準にしたまま生身の猿に攻撃したのだから勢い余るのは当然だ。


「ま、なんにせよ今回みたいなことはないようにしろよ。相手を見くびって出し惜しみするのは論外だが、必要以上の威力を出しても疲れるだけだからな。確実に相手を仕留められる最低限の威力が理想だ」

「なるほど、加減難しそうだな。……ん?」

「どうした」

「なんか魔物っぽい気配がする」


 魔力が薄い地帯に入ったことで魔力感知も有効になってきた。

 感知に引っかかったのは魔物の領域内からセントの街の方角へ高速で移動する気配。

 耳をすますと枝をへし折り土を踏みしめる音がする。魔力感知と合わせて判断するに、人が魔物に追われている。


「これは、助けたほうが……」

「助ける必要はない」


 リニッドがきっぱりと断言する。これまで聞いた中で最も冷たく、断定的な声音だった。


「魔物の領域に入る人間なら手に負えない魔物に関わらないよう細心の注意を払うなんてのは前提条件だ。それすらできないやつはいずれ死ぬ。それにこのでかい足音、四級討伐種の大牙猪あたりか。下手に手ぇ出せば俺たちまで危険だ。罠にでもかけようとしてんのかもしれんし、後から言いがかりをつけられんためにも他の討伐者やら狩人やらには関わらないのが暗黙の了解だ」


 意思の疎通が取れてればまた別だけどな、とリニッドは話を締めた。

 合理的な話だ。たとえば獲物の毛皮を入手する依頼を受けている人からすれば、助けるつもりで炎の魔法でも撃たれて毛皮が台無しになれば損害賠償請求くらいするだろう。

 売れる素材が採れる魔物でもなければ依頼もなしに討伐する理由はない。魔物との戦いは常に危険が伴うし、依頼がなければ報酬だってない。報酬どころか近辺を狩り場にする狩人に怒られることすらあるという。

 気配は次第に近付いてくる。

 俺とリニッドは魔物をやり過ごすべく草陰に姿を隠し息を殺す。


 やがて一人の人と一匹の魔物が目の前を駆け抜けた。

 大牙猪は名前の通り巨大な牙を生やした茶色と黒の縞模様の猪だった。体も大きく体高二メートル近くあるのではなかろうか。

 追われていたのは白髪の子供だった。肩ほどの髪の長さからすると少女だろうか。すでに息も絶え絶えで死にものぐるいという言葉がよく似合う状態だった。罠があるとか計算高い雰囲気はなく、ただただ必死に逃げている様子。

 リニッドは嫌そうな顔をして目を逸らした。見かけに似合わない良識を持ったリニッドからすれば子供を見捨てるのは気分が悪いのかもしれない。俺にああ言った手前、自分が手を出すわけにもいかないのだろう。


「意思の疎通が取れてればいいんだよな」

「おいサイカ、お前まさか」

「ちょっと行ってくる」


 リニッドの話を聞いて納得した。

 子供だから助けてやろうなんて場違いな正義感も持っていない。手に負えないような魔物が出る地域へ不用心に立ち入るようなやつは遠からず死ぬ。そんな人が死んだところで感じ入るものはないし、死体を見つけたりしなければ死んだことに気付きもしないだろう。

 ただ、初依頼を気分よく終わらせたかった。初依頼です、あっさり成功、報酬もらってリニッドに引率代を払って、ありがとうございましたと言って気持ちよく終わらせたい。きっとリニッドは嫌そうな顔をしても悪くは思わないだろう。

 だのに帰り道で魔物に潰された子供の死体とか見つけてみろ。台無しにもほどがある。

 リニッドは呆れたような困ったような顔をしながらも失笑した。


「やっちまえ」


 了解、と心の中でだけ応えて地面を蹴る。姿勢は低く、錬気のスパイクで地面を捕える音がザンザン響く。

 大牙猪は速いが師匠に比べればドンガメだ。すぐに追い越し、追われる少女に声をかける。


「こいつ、仕留めていい?」

「ぁっ!?」


 俺の存在に気付いていなかったらしいその人はびくりとこちらを見て幽霊にでも出くわしたような顔をする。

 呼吸の乱れがひどい。言葉で返せる状態じゃないだろう。


「いいなら首を縦に振れ。ダメなら横だ」


 必死に走っている状態で首を横に振るなんて面倒なことはしたくないだろうという心情まで計算に入れた問いのつもりだったのだが、その人は何度も小刻みに首を縦に振った。


「おっけー、承諾した」


 意思の疎通は取れた。さあ俺、やっちまえ。

 全身に錬気を巡らせ身体能力をできる限り強化する。

 支部長曰く、俺は戦闘力だけなら単独三級レベル。先ほどの猿で戦争の時ほど敵が強くないことを理解した。現に今、大牙猪に背後を取られていても何の脅威も感じない。


 つまりここでは俺ややTUEEE!!


 速度を維持すべく回していた足を緩める。

 左腰に提げた剣を抜き、錬気を込める。

 頭蓋は硬そうだ。斬るのは難しく斬れたとしても走る勢いが残っていれば体当たりを食らってしまう。

 ならば。


「っらあ!」


 振り返りざま、頭をめがけて全力で剣を振るう。

 ずごん、と鈍い音。

 重撃。師匠から教わった技のひとつ。高密度の錬気を具現化させることで剣に質量を追加。超重量の棍棒のようにする打撃技。

 大牙猪は体が大きいだけあって重量も相応だ。走る勢いを合わせてすさまじい衝撃があった。

 同時に大牙猪の頭を潰した感触があった。

 勢いを完全には殺しきれず後ろにはじき飛ばされる。足を緩めなかった少女の前までごろごろ転がることになった。受け身を取りつつ立ち上がる。


「うわっ!」


 少女は驚いてつんのめり、前のめりに転んだ。俺は少女の安否より先に大牙猪の様子を確認する。

 大牙猪の動きは完全に止まった。頭のあたりが詳しく描写したくない状態になっている。あれは死んでいるだろう。


「猪は仕留めたぞ。きみは無事……じゃないかもしれんが、生きてるな」


 さて、その場の勢いとはいえ俺はこの子の命を助けたわけで。別にあれこれ期待するわけではないが、俺にもちょっとくらい異世界ファンタジーのテンプレとか舞い降りてくれてもいいのではないだろうか。

 なんて考えながら手をさしのべると、少女は自力で立ち上がった。

 ……まあ、構わないけれど。


「……生きてる。ありがとう」

「よかった。それにしても、女の子一人であんなもんが出る場所まで突っ込むなんて無茶が過ぎるぞ」


 言うと、少女はばしばし体を叩いて体についた土を払いながら、こちらをうっすら睨み付けた。


「助けてもらっておいて悪いけど、ボクは男だ」


 ……

 …………

 ………………マジか。

 確かによく見ると顔の輪郭は角張っているような気がする。髪の長さもさっきは肩くらいに見えた気がしたのだが、顔を合わせてみると女性ならベリーショートと言われる程度の長さ。ウェズリーと同じくらいだろう。

 声の高さもボーイソプラノというか、カウンターテナーというか、そんな程度。

 つまるところ、男である。


 ――ざけんな異世界ファンタジー。いらんところでばっかりテンプレを外しやがって。


 思わず地面に膝をついた。内心を言葉にしなかった自分の理性の強靱さに感謝したい。

 助けた彼女、ではなく彼は気味悪そうにこちらを見ていた。


ヒロイン不在は続く。

それはそうと投稿前に「俺ややTUEEE!」が「俺ややTUREE!」になってることに気付いて確認って大事だなーってなりました。

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