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異世界で村人A  作者: キリン衛門
地下世界編
9/51

第8話 《これが夢の終わり》

「――――ッ」


「で、ででか……い」


「は、はは……もう、笑えてくるぜこのサイズ……」


 怒り狂った様子の親キメラは眉間にしわを寄せて、先ほどの子とはケタ違いの咆哮を響かせる。

 辺りがまるで強烈な地震でも起きてるのかと思わせるほどの縦揺れに、頭上の鍾乳石がこれでもかという勢いで落下を繰り返す。

 威力も先程の子キメラと大して変わらない。


「ユリ! あまり無茶をしちゃダメだ! さっきので大きく魔力も削れて……!」


「……ッ」


 ユリさんが、下唇を噛んで必死に耐えしのんでいる。

 健悟は、今のユリの動作とダグタリオのかけた言葉に理解を示せず、多少困惑。

 だが、落ちてきた一つの鍾乳石が頭上で謎の破裂を起こしことによって、曲がりなりにも現状の予想がついた。


 多分、今自分たちはユリさんが作った結界(?)らしきものの中に居る。

 それによって、落下してくる鍾乳石と爆音から守られていると予想。周りを見た時ほんのり視界が水色に染まっているし、理由の一つに入るだろう。

 でなければ、こんな爆音聞いたら鼓膜が引きちぎれてしまいそうだ。


 辺りの振動が収縮し始めて、キメラの口がゆっくりと閉じていくのを目にする。

 未だ、洞窟内に反響する咆哮が聞こえてはいるが、気にしない程度の声量に近づいていた。


「ッ!! ユリッ!」


 杖を前に構えて、姿勢を崩さず立っていたユリが力尽きるように後方へとよろめく。

 だが、すぐ近くに居たダグタリオが抱え込むようにユリの背中へと手を伸ばすと地面に接触するよりも早く、ダグタリオの腕の中へと吸い込まれていった。


「大丈夫かい!? しっかりと意識保ててるかい!?」


「……な、なん……とか」


 ユリの手が脱力して垂れ下がる。ド素人がみても分かるぐらい、危険な状態だろう。ユリの顔色が青白く成り始め、瞼が半分近く降りてきている。


「過度の魔力消耗で、体が悲鳴上げてるのか……エンゼル! 上級フール持ってなかったっけ!?」


「えっ、ああ、あるわ、あるわよっ!」


「おいおい、わりぃがそんな暇くれねぇみてぇだぞ……!!」


 三人の会話の最中。6~7Mほどはある巨躯のキメラが大きく右腕を振り上げて空中で留まる。


「! 来るぞ! 気をつけろ!!」


 そのディルゲートの警告が放たれた直後。キメラの右腕が風切り音と共に勢い良く振り下ろされて、辺りに微風が吹く。

 が、その直後。空間に引っ張られるような感覚を肌身に感じ、暴風と衝撃を交えて健悟の直ぐ左隣を大きな爪痕が駆け巡った。


「……う、うっそ……」


「……あ……ぁ……」


 茫然とすぐ隣を駆け巡った爪痕に、思わず3人は目を見開いて眺めていることしかできなかった。

 爪の隙間で茫然とするディルゲートとエンゼル。寸でのところで当たることのなかった健悟。

 そして―――


「ぐぅっ……うっが、ぁぁぁああああ、あ、あああああああああ……っっっ」


 地面に血の斑点を作り激痛に悶絶するダグタリオは今は無き左腕の傷口を右手で抑え、激痛に顔をゆがませる。

 どうやら、運悪くダグタリオだけが直撃したようだった。地面には使いものにならなくなった左腕と染みわたる血、だがユリだけは離すまいとしっかりと胸中へと庇いこんでいた。


「ダグ!! ~~~~っ、ディラ! おねがい! ダグの出血だけでも止めるから、ほんの少しだけでも良いから、時間を稼いで!!」


「……」


「でぃ、ディラ!?!?? ねぇ! 聞こえてる!? ディラってば!!」


 何の反応も示さず、ポカンと立ちつくすディルゲートはまるで感情のない人形の様に伺えた。


 想像を絶する破壊力。まさに動揺するにはうってつけの要因だが、実はこの時ディルゲートの内心でそれとは別の感情が湧き上がっていた。

 5人の中で一番戦闘態勢が整い、避けるなり、受け止めるなり、反撃するなり一番余裕を持っていたディルゲート。

 だが、今の一撃。心の底から、避けられるという自信が湧いては来なかった。キメラを睨みつけ、相手の動作を見つめている間に、爪痕が両隣を駆け巡っていった。


 まさに、この時今まで絶対に湧き上がることのなかった一つの感情。今までの自信と環境のせいで感じることが無かった、深い『絶望』を感じた瞬間だった。


「う、うあ、うああああああああああああああああああああああっっっ!!」


「!? ディ、ディラ!? どうしたの!?」


 絶対に勝ち目がないと本能的に悟ったディルゲートは武器を投げ捨てて、最初に来た入り口へ逃げ出そうと走り始める。

 だが、そんな無防備な人間をキメラが残すはずはなく、中央のライオンの口が大きく開いて赤く燃え始めると、一つの巨大な火球がディルゲートを追うように射出される。


「……もぅっ!」


 腰を低く構えて、地面を抉り取る様に発射されたエンゼルは、火球よりも早くディルゲートの元へと到着し、寸でのところで回収して難を逃れた。


「っ……はぁ、はぁ……。ま、まったく、どうしちゃったの、よぉ……はぁ、アンタらしく……ないじゃ、ない……」


「もう無理だぁあああああああ、死ぬぅ、死ぬううううううう、死んじゃうううううううう」


 いつもの憎たらしい表情とは全く別。まるで幼児退行をしたかのような泣きじゃくった顔は何とも醜いもので、いつものディルゲートの見る影が無い。


 だが、そんな状態でもお構いなしのキメラは再度、火球の準備をすると射出方向をしっかりと二人の元へと狙い定める。

 泣きじゃくるディルゲートと、《加速アクセル》使用後のクールタイムに入っている様子のエンゼル。現状、二人にその危機を打破する手立てはないようで赤々と燃えるライオンの口から逃げ延びることが出来ずにいた。


 死。そう感じさせたエンゼルの瞳に微かな涙が浮かび上がると、せめてもの思いで庇い守る様にディルゲートの体を覆い、両目をギュッと瞑らせた。

 が、その瞬間―――


「うおっらあああああああああああああああああ!!!!!!」


 一つの雄たけびと共にカツンと小さなナイフがライオンの顎に直撃する。

 だがダメージどころか、刺さりもしなかったナイフは虚しく地面へと落下していきカランと渇いた音を鳴らした。

 まったくもって意味が無い一撃……かと思われたが、キメラの注意を一度だけでも引かせることはできたようだった。


 火球を消して視線を下へと落とすキメラ。その先に居たのは、盾と片手剣を見よう見まねで構え、膝をガクガク震わす一人の人間の姿。


「け、健悟君――――――――!!」


 雄たけびに瞳を開いて視線の先を見やり、かつてないスピードで顔が青ざめていくのを感じた。

 現状、一度も戦闘をさせたことのない健悟の初戦闘。誰でも分かる、敵いっこない絶望的な一戦を誰が心配せずに見守っていられるだろうか。


「健悟君!! ダメ、絶対無理よ! お願いだから、逃げて――――っっ!!!!」


 スキル使用による反動で、駆けつけにいこうにも体が上手く言うことを効かない。となると、健悟には逃げて貰う他ないが、彼の横顔見る限りそんな考えは一つも過ぎってはなさそうだった。


 キメラと健悟の睨みあいが続く。

 傍から見れば、強者同士の戦いに見えたりするのだろうか。だが、あいにく蟻VS像みたいな現状で本人目線からしたら絶望でしかない。


 ちなみに補足しておくと俺、鯨舵 健悟と言う人間はこういう場合見て見ぬふりが得意な人種だ。

 普通こんな場面に出くわしたらそりゃあ喜んで逃げ出すし、財布だって喜んで差し出してやる。


 だが、なにか今日は気の迷いがあったのか、こうして短剣片手に立ち向かっている。

 さて、ファンタジー風の世界観に酔いしれて、イキってしまったのか。

 ……まあ、SA○の世界とかあったら? 別に死んでもいいとか思ってたし? あんなゲーム世界で戦って死ぬなら、将来デスクワークのお仕事するよりマシだと思ってたぐらいだしぃ? 別にいいと思ってたんだけどさ。


 それとも、これが夢だと理解しているからこそ多少自暴自棄になって挑んでみたのか、それは行動した本人ですらよく分かっていない、が。

 ただ一つ、今の現状で言えるのは―――やっぱ、やめときゃよかったの一言。


「グゥルゥウオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 初めの咆哮よりは小さめ、威嚇のための咆哮って感じだ。

 だが、極小サイズの健悟にとってはそれでも結構キツイ。爆音もそうだが何より、それによって引き起こされる風によって軽く体が後方へとよろめいた。


 その瞬間、キメラの右手が大きく振り上げられる。

 本来なら、華麗に避けたりカウンターに移ったりするのが定石なのだろうがそんなカッコいいことができるわけもない健悟は、その手を見た瞬間、先の攻撃が頭をよぎって全力で前へと走り抜けた。


 普通ならあの振り下ろされるスピードを避けきれる自信なんてあるわけないのだが、幸いエンゼルさんのくれたマントのおかげで、寸でのところで回避。

 先と同じ亀裂が背後で駆け巡る音が聞こえた。


「うひょおおおおおおお、うおっぶねぇええええええええええええええ!!!!!!」


走っている現在の足元まで伸びる亀裂。あんなもの食らったら一撃で体が真っ二つ……考えただけでも死ぬほど恐ろしい。

 というか、取り合えず次の手を考えなければならない。現状、時間稼ぎが目的で反撃手段が0の自分にとっては、せいぜい逃げ回るのが限界。

 といっても、次の一撃は避けられる気なんてしないが。


 ハハ、と渇いた笑みを浮かべて走っていると先ほどまで後ろにあった亀裂がいつの間にか自分を追い抜いていた。

 いや、それより亀裂が至る所に駆け巡っている。地面もなんかミシミシ言っている。


 これは……。


 この時、ふとある可能性を考えていた。よくある漫画やアニメでこんな感じで亀裂が入った時は、大抵地面に穴が開く。

 まあ、現実にじめんに穴が開くどころか亀裂が走るなんてことあるわけないし、そう考えると有り得ない可能性の方がでかいわけだが。ただ一つ、そういえばこの世界……


 ファンタジーの世界だっけ。


 ビシッ、とどこかで決壊したような音が聞こえそれが連鎖的に活動を始める。その場の全員が辺りを見渡し、周囲を確認。そして、そのほぼ同時にキメラ含めて全員が危険を感じ取った。


 だが、その考えは既に手遅れだった。


 亀裂が辺りに走り終わった後、重さに耐えきれなくなった岩盤がキメラを囲うようにして粉砕。勿論、その下に居た健悟は逃げ出そうとキメラの外側へと走り抜けるが、落下の方が一歩早く、落下を開始していない岩盤へと手を伸ばすが崩壊を始めた床のせいで視線がどんどん下へと落ちていく。


「け、健悟君!!!!!! は、早く、掴まって!!!」


 息切れをしながらも手を差し伸べに来てくれたエンゼルの元へと渾身の勢いで右手をめいっぱい伸ばすが、二人の指先が軽く掠れ合う。

 眉をひそめながら叫ぶエンゼルの顔を見ながら足場を完全に失った健悟は、抵抗なんて出来ずにただ自由落下を繰り返していく。


 落ちていくさなかで見えたのは、必死の表情で叫ぶエンゼルさんの顔。目の端に移る岩石の雨。段々と視界に移る暗闇の世界。





 ――――嗚呼、こういうときって大体ココで夢が終わるんだよな。

今回は比較的少量になりました。

初めは、健悟のキメラとの戦いを書こうと思ったのですがよくよく考えたらそんな化け物相手に太刀打ちなんて出来る訳ないか。と思い、単調に切りあげました。

これからも、不定期更新になりますがよろしくお願いします。

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