第7話 《終わりという言葉》
「……今んとこ面白みのねぇ風景しか続かねえな」
「平和で良いじゃないか」
「そうよ。ただちょっと、希少アイテムがあまり手に入らなくてちょっと気落ちしてるけど……」
「一応……プラチナ3,4相当のドロップ……アイテム見つけたから……いいじゃないです、か」
「しっかし、言われてみればほんとに風景変わってない気がしますね」
ダグの示した道を進むこと約5分。
大した変化も、異常も起こらずただ淡々と前進していくだけの作業。
だが、少しばかり変わった点もあって……
「これは『アッシェ鉱石』じゃないんですか?」
そう言って、指さしたのは少しばかり青色が霞んだアッシェ鉱石とはまた違う、赤色の水晶。
「それは『テモーク鉱石』だね。性質はほぼ同じなんだけど、『アッシェ鉱石』と違って爆発するんじゃく、辺り一帯を白煙が覆うんだ」
「なにそれ、厄介極まりないですね……」
「他にも、閃光効果のある『グラッシュ鉱石』、激臭漂う『ランバル鉱石』等々……地域によって効果は様々だけど、秘境にしかない特殊な鉱石は結構種類が多いんだ」
「「へぇー」」
「なんでエンゼルも一緒になって頷いてんだ。アホか」
いつも通りの辛辣的な言葉を並べて、ディルゲートになんやかんや騒ぐのをまたダグタリオが治めて、苦労人だなぁと健悟は感慨にふけっていた。
そういえば、自分も小6の時は気性が荒く、色んな揉め事起こしてはキムに手助けしてもらったけなぁ……。
一緒に先生とこへ謝りに行ったり、年上に絡まれた時はキムが助けに来てもらったりもしてたなぁ……あれ、そう思うと結構な悪ガキだったんだな俺。
そんなことを考えていると、ふと帰り道が気になった。今のところ当てもなくズンズン最奥へと進んでいるが帰りのルートは把握しているのだろうか。
「ん? あぁ、それはユリの《残り香》で印を残してるから、帰り道は問題ないよ」
「へぇ~、凄いですね。ユリさんって何でも出来るんすね」
「……っ、そ、それほど……でもっ……」
顔を赤面とさせ、フードを深く被りこんだユリさんの言葉は今日初めて、俺に向けて放たれたものだった。
まあ、コレが何とも嬉しいことで。
まさに、初めて名をつけたペットが呼び名で振り返るの同様、初めて赤子が自分の名前を声に出して近づいてくるのと同じぐらい、健悟は嬉しかった。
「おおっ? なかなか珍しいじゃないか、ユリ。僕とディルゲート以外の男性で返答をしたのは」
「だっ、バッ……ベ、別に。い、今のは……なんていうか……その、ふ、不可抗力……っていうか……ただの、勘違い……というか……」
「ブッ……ククッ、顔真っ赤にして言ったって説得力ねぇぜぇ……?」
恥ずかしそうに下を向いていたユリに畳みかけた汚らしい笑顔のディルゲート。
が、ニヤニヤとした笑顔の目の前で、突如数本の前髪が燃え始め、それに気付いたディルゲートが慌てて消そうと躍起になる。
「あっ、コラ! ユリ!」
「むぅ……」
「かあーっ! あっつ! こんのユリ、テメェ! 俺の前髪だけ狙ってピンポイントで燃やしやがったな!?」
「今のは完全にアンタが悪いわよ。むしろいいお灸になったんじゃないかしら?」
「あ? んだと?」
「あーハイハイ、そこまで。もうコレ以上いがみ合わない、いがみ合わない」
又も苦労人のダグタリオが仲介役として、二人の顔を無理やり引きはがして宥める。
ストレスで早死にするタイプだなという感想が心の中で零れた。
というか、ディルゲートという人に会ってからエンゼルさんの頼れるお姉さん感が0になった気がする。いや、端からなんか意識してそうしている様に伺えてはいたが。
まあ、これはきっと仲間の前だから素が出ちゃってのあれだろう。
これは、『喧嘩するほど仲が良い』と言う奴なのか、それとも素で毛嫌いしているのか……詳しくは分からないが、自分的には前者なのではないだろうかと考えたりする。
それから、また歩き進んでいると大きく開けたところに出た。
風景に変わりがあったわけではないが、今までの様に入り組んだ道や陥没などはそこにはあらず、武道館並みに開けた大地は今までの様な神秘性よりも、寧ろ人工物に近しい印象を受けた。
そして、天井が今までと違いぽっかりとした穴が開いている。
「……なんだぁ、ココ?」
「ひろ……ま? それも……作った……?」
「広間なんて作ってどうするのよ? 人の滅多に来ない秘境なんかに。ましてやこんな大きい広間を作る意味なんて……」
「流石に、ココを居住区にしている人間がいるとは思えないけど……。まあ、とりあえず、何処かに繋がってる道が無いか探してみようか?」
全員がダグタリオの意見に賛成を示し、四方に散開して脇道を探していくことに。
だが、武道館並みに広い広間だ。無論、そう簡単に道が見つかることなく、地道に歩き進むも延々と同じ壁が伝っているだけだった。
そんな時、誰かの声が辺りに響く。エンゼルさんの声みたいだ。
「あんだァー? 脇道見つけたのか?」
「いや、脇道は見つからないけどその代わりにコレが……」
そう言って恐る恐る指を指したのは、一つの爪痕。だが、問題はソレではなくその大きさにあった。
壁を深く抉ったその爪痕は、全長4Mほど。横幅はパックリと壁に隙間を作り、手がすっぽりと奥へと入れてしまうほど。
まさに、此の世のものとは思えない物であった。
「……でかいね」
「いとも簡単に抉る破壊力と大きさ……こりゃあ、結構なモンが期待できそうじゃねぇーか!」
「コレ見て、喜ぶのはディラぐらいね……」
「この爪痕……真新しい……ですね。まだ、近くに……いるかも……です」
「えぇ、こんな爪痕残すぐらいの怪物と戦いたくないんだけど……」
「あ? 何だビビってんのか? 昔言ってた、『未知との遭遇は冒険者の特権』とかなんとか言ってた野郎は何処へ行ったよ?」
「ちょっ! そ、それはまだ駆け出しの頃に感極まって口走っちゃっただけで、べ、別にっ……!」
「そんなこと言ってぇ、女英雄のスキルに憧れて使えもしねぇスキル名叫びながら木刀振り回してた、うる若き幼女は何処のどいつだっけか?」
「わっわああああーーー!! ちょ、ちょっと!!! そんな昔のこと掘り返さないでよ、恥ずかしいぃ! てか、今も十分うる若いわよっ!! そんなの言ったらアンタだって……!」
またディルゲートのいじりが始まったところで、エンゼルとの軽い口喧嘩のような物が発生する。
これに、呆れたように三人は肩を落としてため息をつかせると、呆れを含ませた笑みでソレを眺めていた。
――――その時、突如その団欒を引き裂くように、辺り一帯を衝撃が走った。
初めは、その衝撃の正体が分からなかった。だが、咄嗟に耳を塞いだのと空気の震えを感じてコレが咆哮なのだと、少し遅れて気がついた。
振動で、上に連なっていた鍾乳石が幾つか落ちてくる。幸い、誰一人当たることはなかったが、、ソレぐらいで喜んではいられない。その咆哮を出した張本人が必ず何処かに居るからだ。
「~~~ッッ! あぁぁ、み、皆大丈夫かい……?」
「―――んか、言ったかダグ? ダメだ、まだ耳が痛くて全然聞こえねぇ」
「ああああああああ、ずっとキ―――――ンって言ってるよぉ……」
「―――ッ」
皆がそれぞれ、他の者心配や状況の整理をつかせようとする中、一人、健悟だけは顔を歪めてずっと両耳を塞ぎ手を離せずに立ちつくしていた。
「アア―――ふぅ。とりあえず音が安定してきた……って大丈夫かい、健悟君?」
「あれ? どうしたの健悟君……?」
健悟は心配そうに此方を覗きこむ二人を見て、何を言っているのか全然理解できていなかった。
ただただ、ガサガサとノイズ音のような物がずっと耳の中を這いずりまわっているだけ。それ以外の音は全部シャットアウトされてしまっていたのだ。
「これは、状態異常か……ユリ、回復魔法で健悟君頼めるかい?」
「……任せて……ください」
「あぁっ大変! 大丈夫、大丈夫? 待っててね、今ユリちゃんが治してくれるからっ」
「……おい、わりぃがこっちはこっちで客人がいるみてぇだぜ?」
ディルゲートが短剣を引き抜いて臨戦態勢をとると、天井にある横穴からひょっこりとあるものが飛び出し、それが落下。
まるで落石のようなその巨躯は大きな地鳴りを立てて地面に幾つかの亀裂を走らし、赤い眼光で此方を睨みつけた。
「コイツぁ……キメラって奴か」
「みたいだね。けど、ちょっと形が聞いた話と違う……この秘境だからこそ生まれた生物か」
ユリと健悟を守る様にして立つ三人は、キメラと睨みあいをきかせ一定の間合いをキープする。
その間に、ユリが健悟の耳元へと手を近づかせブツブツと唇を動かすと、ほんわかとした色どりの空間が健悟の耳を覆い、癒し始めた。
健悟は、煩く響くノイズ音に顔を歪めていたが、治癒を始めたユリのおかげでそのノイズは温かな感覚に包まれてスーッと何処かへと消えていき、気付けばまるで何事もなかったのように音を鮮明に捕え始めていた。
「―――あれ、音が……」
「終わり……ました」
「ありがとう、ユリ。それで、大丈夫かい健悟君」
「え、あ、はい。なんか、おかげさまで」
「そりゃよかった、それじゃあ病み上がりで何だけどどっかの遮蔽物とかに隠れておいてくれないかな。ちょっと、これは健悟君を庇う余裕なんてなさそうだから」
此方を向かず、それだけを言い放ったダグタリオは両手に握りしめた2Mほどの大剣を前に構えていた。
その剣先が示した方向は全長3~4Mほどはある大きな怪物の姿。
中央にある主軸だと思われる頭頂部はライオン、そしてその右サイドに狼で左サイドには熊の顔があった。
胴体は鷲のような羽毛と翼があり、尻尾には3体の2M級の大蛇。
まさに怪物という字が体を為したような凶悪の見た目をして、5人の前へと立ち塞がっていた。
「三人とも、今回ばっかしは手が抜けるような相手じゃないのは身に染みて分かってるよね……?」
「うん。私も全力で行くわ」
「ハハ、舐めんな」
「……はい」
「よし、じゃああの作戦でやるしかないね」
「ちなみに言っておくが、別にアレやる前に俺が倒してもいいんだろ?」
「フフッ、できるなら、ねっ!」
4人がキメラから目を離さず、同時に頭を頷かせると数秒の間を開けて、ほぼ同時にエンゼルとディルゲートが一気に加速して左右へと散開した。
キメラの狼と熊が二人の後を目で追う。その瞬間にダグが正面からライオンの頭めがけて突進を開始した。
その接近に気がついた様子のライオンは空気を震わす咆哮を轟かして、ダグタリオに火炎を浴びせさせる。
だが、それを左手を振り払って出来た黄色い膜で防ぎ、突進し続けるダグタリオは大剣を右肩に乗せて勢いと力にものを言わせて大きく振り下ろした。
大きい金属音が鳴り響く。だが、それは傷口を作った音ではない。牙と大剣が衝突した際に起こる金属音であった。
みれば、大剣を牙が挟みあい掴まっている。どうやら受け止められたみたいだった。
「――――くっ!」
挟まれたまま大剣はびくともせず、上下左右何処にも動かない。
その時、先程までエンゼルを見ていた狼の頭が此方に顔を向かせ、無防備のダグタリオへと牙をつきたてようとした。
だが、その横顔から鋭い血しぶきが突如として吹き出して、驚きと激痛のあまりに狼はライオンの頭と衝突して、大剣を離さした。
「助かった、エンゼル!」
「へへ! いつまでも助けてばかりじゃいられないからね!」
一度下がった二人を見つめる狼とライオン。
その逆サイドで、二本の短剣を手に低い姿勢のまま加速する一つの影が接近していた。
「グルゥオオオオオオオオアアア!!!!」
その影に気付いた熊が咆哮を発するが、ライオンほどの威力はなくあくまで威嚇だけの様な物。
だが、相手の位置を知らせるにはかなりの有効手段。ライオンと狼はその声に反応してディルゲートの方を向こうとしたが、ここで位置の悪さが出た。
熊に隠れて姿が捕えられないのだ。
その隙をディルゲートは逃さなかった。
開かれた巨大な口元へと飛び込む前に、手にある短剣を両目へと投げ込んで眼つぶし。
見事目玉にブッ刺さった熊は怯んで口を閉じ、そこに畳みかけるように新たな短剣を手にして首元へと飛び込むと回転しながら喉を削り落した。
「グゥゥウオオオオオオオオアアアアア!!!」
先ほどの咆哮とは打って変わって、痛みを織り交ぜたような力強いものとなって轟かせる。
「ちっ、やっぱ短剣じゃ気管まで届かねぇか」
熊の顎下を眺めながら下へと落ちていくディルゲート。すると、隙を見計らってか落下しているところ狙って来た三体の大蛇がディルゲートめがけて飛びかかって来た。
無論、空中での制御はほぼできない。方向転換も出来なければ上昇することも不可能。
つまり、落下先で待ち構えていれば必ず食われてしまうのがオチなわけだが。
それは、あくまで何も対抗手段が無いものの話だけである。
ディルゲートは左右と正面から襲いかかってくる大蛇の口が体半分を覆いかけた時、突然姿を消した。
これには、大蛇達も驚くしかない。何処だ何処だと見失ったディルゲートの姿を追おうと、周囲を見渡すがソレらしきものは見当たらず、気付いたのは突如として落下してきた物によって一体の大蛇の頭が貫かれた時であった。
「ハハッ、ぶぅあーかっ! とっ捕まえてぇなら俺から目ぇ離すんじゃねぇぜ!」
そう憎たらしげに叫んで、ディルゲートは一匹の頭の上へと飛び移ると怒り狂った大蛇がそれを捕まえようと躍起になる。
だが、寸でのところで空中ではあり得ない横跳びや何も無いところで突如空中へとジャンプしたりして規則が読めず、ただただ大蛇達が後を追いまわすだけの結果に。
「はぁ、アイツ……こんな状況で遊んじゃって、まぁ」
「まあ、あっちはディルゲートに任せよう。それより―――ユリッ! 準備はまだかい!?」
「まだ……ちょっと……」
襲いかかる火炎や噛みつきを避けたり、反撃を加えながらダグタリオが叫ぶ。
防戦一方。という訳ではなさそうだが、押してる訳でも押されてるわけでも無いこの状態のままではじり貧するのは目に見えている。
となると、今ユリさんがブツブツとつぶやいているのが切り札だろうか。
と、そんなことを考えている間に一瞬、剣が弾かれて狼に隙を見せてしまったエンゼルが右足で叩かれて、風切り音と共に石壁へと衝突した。
「っ! エンゼル!」
砂埃で安否が視認できないエンゼルを見て、ダグタリオが敵から視線を逸らしてしまった瞬間。ダグタリオの横腹を抉るように右足が振り払われ、短い悲鳴を上げて石壁へと衝突した。
「あっんの、クソバカ共。隙なんて見せやがって!」
二人の砂埃を確認して、ディルゲートは一本の短剣をキメラの右足へと突き刺すと注意を此方へ向かせるように促した。
「オラァ! こっちこいやデカブツ!!」
眉をひそめて挑発するディルゲートは此方を振り返ったライオンの目の前まで、わざと近づいて煽り、火炎を鮮やかに避けて見せ、畳みかけるように罵倒を始める。
「オイオイオ――イ! 何だァこれぇええ?? だっれもこんなしょぼいの寄越せつってねぇえぞぉ!!??? もっと、全力でこいやヘイヘイへ――――イ!!!!」
勿論のことだが、キメラに人間の言葉は通じない。
だが、ケツを振って見せたりあっかんべーして見せたり、突然寝そべり始めたりして、完全にバカにしていることだけは伝わったようで、三体の頭がそれぞれの雄たけびを上げるとディルゲートめがけて突っ込んできた。
「ハハ! そうだそうだ、捕まえてみやがれウスノロ! できるもんならよお!」
そう叫んで、ディルゲートはわざとらしく寸でのところで避けていき、どんどん上昇してキメラの手の届かないところまで逃げ延びる。
ある程度の距離が離れたキメラは、唸り声をあげて体を震わせると大きな翼を展開。今まさに飛んで見せようとしていた。
だが、このことはディルゲートも予測済み。翼の存在も知っていたので飛べるであろうと考えてはいたが、ソレを生かすにはこの空間では狭すぎると読んでいた。
故に、下手に飛び立ったら何処かに鍾乳石に衝突してダメージ、運が良ければ落下の可能性も十分にあった。
まさに、余裕の心持。そう、その心の隙が、予想外の結末を生んだ。
大きく翼を広げたキメラは、飛び立とうとはせずにその翼をディルゲートめがけて振り払った。
すると、初めはただの風であったものが速度を増して、鋭利な風を生み、幾刃のかまいたちとなって襲いかかって来たのだ。
「んなっ!?」
かまいたちが視認できた、その瞬間にはもう手遅れ。体を庇うようにして構えた腕を多くの刃が皮膚を抉り、激痛と出血で足場が揺らいだディルゲートはそのまま垂直落下。
ほぼ無抵抗で落ちて行ったので、相当な深手を負ったに違いない。
実質、皆がほぼ一撃でダウンを取られることとなった。
「そんな……」
落下してきた大きな鍾乳石へと隠れていた健悟はその惨状を見て、恐怖と絶望を感じた。
全体的に、弱さなど見受けられない。というか、攻防が激しすぎて半分くらい目が追いつかなった時の方が多かった。
だが、それもほぼ一撃で皆が倒れた。
後は、ユリさんしかいない。けど、前衛がいないんじゃ後衛が剥き出しに……。
周りに誰もおらず、ユリさん一人で立っている戦場で健悟は何もできずに見つめることしかできなかった。
ユリさんも、杖を握りしめたまま下を俯いている。
絶体絶命、もはやこれまでと思われた局面でポソリと何かの呟きが聞こえた。
「……終わった」
その声は、ユリさんのものだった。
と、その瞬間一つの爆音と熱風。そして、激しい閃光が辺りを覆った。
あまりの熱風に健悟が鍾乳石の後ろへと隠れる。暴風がよぎる轟音と悲鳴を上げる鍾乳石が、耳をつんざく様に聞こえ、時間が経つことに段々と収束を始めた。
健悟は、完全に安全になったことを確認して半面を横にずらす。
そこにあったのは、狼と熊の半分が消し飛び、ライオンと胴体が下から抉り取れるように燃え尽きた死骸の姿。
まさに一瞬の出来事。一秒足らずの一瞬に、さきほどまで息をしていたキメラの姿屍が立ちつくしていた。
「ぅ、おう……」
「……クジラダ。向こうの……アイツの、安否確認してきて……私は……こっちの二人を……」
「っ! は、はい! イ、いってきますっ」
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「ッハァーッ! うおおお、死んだかと思った」
「さすがに、今回のは、つつっ、僕も怪しかったよ」
「本当、ユリちゃんのおかげで助かったわぁ! ありがとね、ユリちゃん!」
「それほど……でもっ……」
皆が気絶していた事の顛末を告げるとユリに称賛の嵐が湧く。
にしても、凄いのがあれを一撃で倒すのもそうだがエンゼルさんとダグタリオさんの損傷部分の治癒。
ディルゲートの骨まで届いていた傷すら跡形もなく治し、完璧に治癒させてしまうことも驚きの一つであった。
「前回コレした時、森が半壊しちゃったから使用をためらったけど、使って正解だったね」
「んだな。じゃなきゃ、今頃全員お陀仏だぜ」
「あらー、ディルゲートが他人を認めるなんて珍しいじゃない? なんかいいことでもあった?」
「ああ!? んだ、茶化してんじゃねぇぞ?!」
「別にいいじゃない!? アンタだっていつもこんな感じで茶化してくるじゃない!! 私にも攻撃のターン寄越しなさいよ!」
またもや始まった、言い合い。だが、これも生きているからだと考えると中々に見てて楽しいもので、みているこっちも笑えてくるのだった。
だが、その中でも一人だけ笑顔を見せない人物が。
「……? ユリ? どうかしたのかい?」
「おかしい……」
「あ? なにがだよ。もう凶悪モンスター倒して万々歳じゃねぇか? どうせ、アイツが此処の主で占めぇだよ。詳しく調べる暇なかったが、60Lv近くは有ったんじゃねーのか?」
「違う……あの爪痕……」
ディルゲートの珍しく嬉しそうな表情を遮るかのようにユリが先ほどの爪痕を指さして唱える。
「あれ、6M近くは……ありました。けど……さっきのじゃ……あの大きさは……出せません」
「全力で引っ搔いたりしたんじゃないの?」
「質問がアホだな」
「何か言った!?」
「いや……全力で、やって……も、多分無理……です」
「それじゃあ、何だと思うんだい?」
皆がユリの発言の意図を理解できずに首を傾げていると、ユリが表情を暗くして杖を握りしめて言葉を発した。
「わからない……ですか? 今倒したの……小さい……多分、子供。そして、ココはその住処……。最初に敵を見つけて放った……咆哮は、威嚇や……興奮じゃない……」
ここでようやく、下を見続けていたユリが4人の目を見るように顔を上げて自身が考え付く、最悪の事態の予想を口にした。
「親に、敵の居場所を……教えたかった……」
辺りに地鳴りが響いた。音と気配の差が先ほどとはまったくもって違う。
亀裂がひしひしと自分たちの足の隙間を通って張り巡らされていく。
顔を見ずとも、咆哮を効かずとも、姿を捉えずとも、背中でハッキリと感じる。
――――恐怖と絶望の威圧感が5人を襲った。
ようやく、大体の構成が固まってきました。
投稿遅れて申し訳ございません。
そして、相も変わらず量が多くて、というか量を増してお送りいたします。




