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異世界で村人A  作者: キリン衛門
地下世界編
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第5話 《戦闘》

 一つの獣が木々や草を掻き分けて森の中を激走する。

 理由は一つ、敵の接近を感知したからだ。


 元々、群れで活動のしない獣たちは自分の身は自分で守ることを鉄則とし、縄張りの確保は必然。故に、縄張り内に入って来た敵は極力撃退するのが当たり前である。

 だが、これはあくまで極力であって必ずしも行わなければならない行動ではない。

 自分より、上位の存在及び複数の敵の襲来は自分の命を最優先にし、その場から離脱せねばならない。


 そして、今回の事案はその後者、いや前者も含むかもしれない。

 足音を感知して向けた視線の先におよそ3,4体の影を見かけ、その雰囲気から戦ってはいけないという野生本能が強く反応したからである。


 そのため、手段を講じる前にまず失踪。奴らの手が届かぬ距離に身を置こうと考えての行動だった。

 脚には自信がある。逃げ切るぐらいたやすいと過信したその時だった。


 微かに見えた丘の起伏から、一つの影が飛び出し瞬く間にその意識は暗闇へと投げ出された。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「いやぁ~流石速いねぇ、エンゼルは。もう僕なんて離されちゃって離されちゃって」


 ダグタリオが厚みのある金属音を鳴らしながら走り寄る。


「まぁーねっ! っていうかダグは壁担当だから、速さとか全然必要ないじゃない」


「……い、いや、……ハァ……そ、それを抜きにしても、バ、バカ速くないっすか……?」


 息を荒げてようやくエンゼルの元へと辿り着いた三人は、膝に手をついたり座り込んだりして各々が休憩を始める。

 一応念のため、言っておくが決して俺の脚は遅くは無い。部内でも速度は3番目に早いし、クラス内では男子19人中5番目をキープしていた。

 その代わり持久力がまるで無いことが痛手だが、それでも速さだけはそれなりに自信があったほうだ。


 だが、今のエンゼルの速度はその速さのおよそ2倍近く。

 速さだけで言うならそれこそ、ボ○ト以上の超人スピードが出てもおかしくないほどの速度を誇っていた。

 

「……いつもなら見逃すレベルのモンスター……何故わざわざ倒しに向かったんですか?」


「え? そりゃあ、折角健悟君いるんだからさ、バンバン倒して見せたくなっちゃうじゃないっ?」


 エンゼルは嬉しそうな表情で此方を見て、鼻高々として見せる。

 そうして引き抜いた剣から血が滴り落ち、足元にいる猪の様なモンスターが亡骸となって横たわっているのだが、今となっては何だか普通の光景に見えてきた。


 その理由はというと、それこそ初めは嫌悪感を抱き、夢ならばと目を逸らしてはいたが途中から亡骸が当たり前のように転がっており、もう見慣れてしまったのだ。

 それに、自転車通学をしていた頃から潰れた猫の死体などよく見かけてたりしたからそこで耐性がついてしまったのかもしれない。


「はは……まあエンゼルが楽しそうで何よりなのはいいけど、少しは周りも見て欲しいな。次その速度以上とか出したら流石に擁護しきれないからね?」


「うっ、すみません……」


 いつもの笑顔は変わらずに、少しだけ声のトーンが怒りの方に揺らいでいるのに気付きエンゼルは申し訳なさそうに謝罪。

 ……と、ちょっと待てよ。


「……え。その速度以上ってどういうことですか……?」


「ん? そのままの意味よ? 大体、今のが20%ぐらいの力でやったから全然速度に余力はあるかな」


「い、今ので20%……!? どんな人体構造してんすか!?」


「えっ、普通に《加速アクセル》ってスキルだけど……見たことない? 割とポピュラーな奴なんだけど」


 これで、ポピュラーな種類なのか!? ……いやそう考えると、加速系のスキルって割かしアニメでよく見かけることあったような……その影響か? とすると、もしかして瞬間移動のスキルとか千里眼のスキルとか出てきたりすんのかな……。


 他のスキルの存在をぼうっと考えていると、呼吸を整え終わって汗を拭っている健悟にふとエンゼルが声をかけた。


「あっ、そうそう。そういえば、走り心地とかはどうだった? それなりに動きやすかったんじゃないかしら?」


「あーそういえば、着ていたの気付かなかったですね。そうですね、ホント何ら変わりなかったと思います」


 そういって、手を振り回したり腰をひねったりして柔軟性を再度確かめた。

 そう、実はというと装備の方をご購入(勿論、俺の財布ではない)させていただき、今絶賛活用中なのだ。


 ちなみに、どういうものをつけたかというと序盤の方で買えそうな皮装備一式+鉄の胸当てとエンゼルさんのおさがりであるマントを頂いた。

 本音を言えば、鉄の鎧やら黒光りする仮面なんか装備してみたかったが、その頑丈さゆえに重量が重すぎてまともに歩くことができなかったので却下。

 ……メチャクチャカッコよかったのだが。


 それと、エンゼルさんの様な軽量の鎧もなくはなかったのだが、初めてということでいきなり体重が変動しやすいものはあまりお勧めしないのだとか。

 だが、その代わりエンゼルさんから頂いたこのおさがりのマントはかなり面白い能力を持っていた。


 風の加護を受けたマント……らしいのだが、感覚的に言うと常に追い風がやってくる感じと言えばいいか。速度が上がるのはもちろんだが、何より走りやすいのが特徴だ。

 だが、あくまでおさがりであるのは理由があって平原で走るのは何ら問題は無いのだが、マントが故にたまに枝や樹木に引っかかったりして走りにくいんだとか。

 ……何故、ソレをよこしたのか。


 まあそれはともかく、それが防具で武器の方は盾と片手剣と投げナイフが2本、装飾など一切ないシンプルな見た目の一品だ。

 あとは、『フール』と呼ばれるポーションらしき液体を2本ほど頂きそれをポーチに入れ、後は頂いた錠剤もポーチに入れた。


 と、これが約30分前に起きた購入の結果で、現在は目的地に目指す最中である『イデアルの森』という割とモンスターのレベルが低い森を通っていた。


「割かし、今日はモンスターが多いね。気のせいかな」


「……エンゼルさんが片っ端から倒していってるからそう感じるだけじゃないですか……?」


「そうかなぁ……?」


 不思議そうに首を傾げるダグタリオだが、そんなことを余所にエンゼルは絶好調の様子を見せてモンスターをなぎ倒していく。


 ちなみに、今どんな感じの状態になっているかというと横一列になって三人が歩き、その遥か前方でエンゼルさんが元気よく戦っている。という形なのだが、どうも『ユリ』という人が喋りはするものの一向に此方とは目線を合わせてはくれなかった。


 というわけで、ココもキムの手法でフレンドリーに行こうと試みるわけだが、


「そういえば、ユリさ……ちゃん? って見た感じ、幼く見えますけど戦闘の方って大丈夫なんですか? いや、お前が言うかって感じかもしれないですけど……」


「……」


「ほら、聞かれてるぞユリ」


「……」


 ダグタリオに背中を押されるも、返すのは無言の返答。

 てっきり人見知りのせい、かと初めは思ったが時間が経つにつれなんか意図的に避けられている気がした。


「……ハァ、ごめんね健悟君。ユリって知らない人が少し苦手なんだ」


「まあ、ちょっとそんな気してました。別にしょうがないですよ、まだ出会って1時間も経ってないですし」


「いや、というかそもそも男性自体がアウトっていうか何と言うか……」


「あっなるほど。もう男性自体が……」


 その手のタイプが別にクラスメートにいなかったわけじゃない。話しかけても、逃げていくしグループを作る際も女子としか組まないし、男女のペアとなると何かと理由をつけて仲良しの女子と一緒になろうとする奴がいたが……そんな感じのタイプだろうか。

 そう考えると、ダグタリオさんはユリさんに相当信頼されているんだなと感慨にふけった。


「ってことで、先ほどの質問僕が代わりに応えちゃうけど、実はユリは健悟君が想像しているより遥かに長寿なんだ。だから、今君が見ているユリは人間と同じ年齢で見ちゃいけない訳で―――って痛い痛い。大丈夫、大丈夫、実年齢は言わないから」


 ユリは口を膨らまして、装甲のない頭めがけて何度も自前の杖を振り下ろして叩く。

 その様子から察するに事実であることは間違いないだろうが、そうなるとユリという人物は人間ではないのだろうか。


「えっ? あぁ、まるで人間じゃないって? そうだよ、ユリは他種族とのハーフだよ。ただ、本人は一切どの種族のハーフか言わないし被ったフードの下も決して見してはくれないんだけどねぇ」


 そう言って、ユリの方へと視線を降ろすダグタリオだがユリはその視線を遮るようにフードを深く被るだけ。またもや何も口に出さず、黙り込んでしまった。


「はは、まあこんな子だけど仲良くしてやってよ健悟君。こんな感じで無口な子だけど」


「他人と話すの嫌いではないので寧ろ自分からよろしくしたいのですが、それより一つ確認してもいいですか?」


「ん? なんだい?」


「えっと、そう考えるとユリ……さん? ってまさかダグタリオさんより年上なんですか……?」


 ダグタリオはフッと軽く笑うと目を伏せて、ゆっくりと人差し指だけを持ち上げると真剣な面立ちで言葉に力を込めて放った。


「遥かに……上っ!!!!」


 この数秒後、後頭部に強烈な一撃をくらったダグタリオから響く音は、まさに除夜の鐘を彷彿させた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……エンゼル、素朴な質問を聞いていいかい」


「ん? 何どうしたの?」


 あらまし辺り一帯のモンスターを狩り終えてエンゼルが額の汗を拭いながら応える。

 普段あまり目にすることのない獣の死骸の量。これを可哀想と思っていいのか、これが基準値なのか分からないが、それでもこんなのが渋谷のド真ん中にでもばら撒かれていたら地獄絵図にでも成り変るのではなかろうか。


「元気よくなぎ倒していくのはいいんだけど、健悟君に戦い方を教えるって言ってた話はどうなってるのかな」


「え、あっそうだった……。た、大変……ごめん、健悟君スッカリ忘れてた……」


「い、いや別に大丈夫ですよ! まあ確かにいつ教えてくれるんだろうとは常々思ってましたけど」


「うあ、ご、ごめんなさい……」


 倒すことに集中していたのか、それともカッコいい所見せたいと思って忘れていたかは定かではないが、ダグタリオの一言で落ち着きを持ったエンゼルは、早速敵との交戦について説明をしようとする、が……。


「……ほとんど、倒しちゃっていないかな」


「……周囲に何も感じられない、わね」


「……今、《捜索サーチ》を使ってみましたけど……、ほとんどが1KM以上先。その上目的地とは正反対のばかりですね……」


「健悟君、本当にごめんなさい」


「あ、いえいえ。いないならもうしょうがないですよ」


 頭を下げてしっかりと謝罪を述べるエンゼルに、手を横に振って宥める。

 まあ、とはいえ戦闘をしてみたかったのはあったにはあったし、なにより頂いた武器で試し切りをやってみたかったので残念と言えば残念だが……致し方ない。

 なにせ、モンスターとかち合うことがなかったし、目の前まで見えても横からエンゼルさんが飛び出してきて倒しちゃうものだから。


「というか、聞こうと思って忘れてたんですけどその目的地って何かあるんですか? 出発前になんか軽くもめてた気がしますけど……」


「あぁ、そうだった。まだ健悟君には説明してなかったじゃない。えっと、事は昨日の夜から話をして

決まってたことなんだけど、2日前にイデアルの森で必要な素材があったから日が落ちるまで採集していたのよ。そしたらね! 見つけたのよ! 偶然! ティアール鉱石を!」


「ティ、ティアール鉱石……?」


「あれ、知らないかしら? まあ言ってしまえば、希少種モンスターやレアアイテムなんかが落ちてる秘境でしか出現しないもので、滅多にお目にかかれない代物なんだけどこの前ホントぐ~ぜん見つけてね!」


「っていってるけど、実のところを言うと根っこに引っかかってすっ転んだ矢先穴に落ちて偶然見つけたっていうある意味ミラクルの連続で起きたのが種なんだけどね」


「ダグーッ!! それは言わない約束じゃないっ!」


 誇らしげにするエンゼルにダグタリオが事実を述べると、顔を赤面させたエンゼルが叫ぶ。

 そのやり取りに健悟は軽い微笑を溢し、逸れた話題の続きを訪ねた。


「で、まあ今から向かうのってその秘境地なんだけど勿論それに伴う危険性も出てくるのよね」


「秘境、故に未確認のモンスターとか文献に載っていない危険アイテムとかだね。たまにだけど、その土地にそぐわない凶暴モンスターとかも発見されたりするんだ。推奨レベル10の土地に60レベルのモンスターとか」


「それ本当にヤバい奴じゃないですか! 増援とか呼ばなくていいんですか?」


「呼ぶのも手だけど、基本的には呼ばないわね。秘境の場所を他人に知らせると先に行かれて奪われる可能性があるし、お金を使って雇うとなると秘境ならではの危険性を加味して相場の10倍に跳ね上がったりするのよ」


「なるほど……」


 秘境に行くにあたって、数を増やしすぎると争いになるのか。

 そりゃまぁレアアイテムなんて言うぐらいだから無課金者が2%ぐらいの排出率のキャラを当てるぐらいの難易度だろうか。

 詳しくは知らないが、3人の反応を見るにソレぐらいの難易度は合ってもおかしくはなさそうだった。


「相当凄いんですね……。あれ、じゃあ今日会ってばっかの自分を誘い込んじゃってよかったんですか?」


 ふと、気がついた疑問。

 そういえば、酒場のところで無駄にディルゲートとやらが無駄に嫌がってたのはコレが理由か。


「僕的には反対なんだけどね。どんなことがあるか分からない危険区域だし、正直完璧に庇える自信なんてどこにもないしね。あっ、別に君が途中でレアアイテムを強奪して逃げないかなんてことは気にしてないよ? 僕はどちらかというと秘境にしかない神秘性に熱意を持って動くタイプだから、そこらに落ちてるレアアイテムなんてあまり興味が無いんだ」


「私は……どっちでもいい……」


「私としては、むしろ賛成よ? というか増援を呼ぶことに全面拒否したのってディラだけだし、私としてはもっと大人数で挑むべきだと思うんだけどね。ただ、レアアイテムの横取りだけはやられてほしくないからまあ、その点なら健悟君は安心だと思って」


 三人が三種三様の回答を述べたわけだが、こうしてみるとディルゲートって人。端から独占する気満々か。

 いや、当然の心理っていっちゃあそうだが、別に自分はレアアイテムとか現状まるで興味ないしどちらかというとダグタリオさんよりの感想の持ち主だから、秘境と言う絶景を見るために危険区域に足を踏み入れそうな気がする。


「全容は分かりましたけど、さっきから歩いてばかりで目的地っぽいのがまるで見えないんですけどどこにあるんです?」


「もう見えてくるわよ。まあ見えたりはしないかもしれないけど」


 そう言って、腰辺りまで生え伸びている長草を掻き分けてどんどん奥へと進んでいく。

 と突如、前方を歩いていたエンゼルが止まり、突然のことに鎧が鼻とぶつかり思わず顔をしかめた。


「ンがッ……ってて、どうしたんですか、エンゼルさん」


「あっ、ごめんなさい。丁度到着したもんだから」


 エンゼルが指を指したのは、下り斜面の複数の木々の根が蠢く場所で唯一何の変哲もない土の部分。

 簡単に言えばただの地面だ。


「……いや、何も無いんですけど」


「これはそう見えてるだけ……よっ」


 そう言い残して、エンゼルが土の元へと飛び込む。すると溶け込むようにエンゼルが吸い込まれていき、靡いた髪が遅れて地面へと消えていった。


「それじゃあ、お先に失礼」


「……」


 続いて、ダグタリオも地面へとダイブ。その後を追うようにユリも地面の中へと消えていった。


 何の変哲もないところに人が消えていくこの光景だが、そういえばこんなシーン似たようなのを映画で見たような。


「まるでハリ○タみてえだ」


 ふと、昔見た映画のワンシーンを思い出して笑みを溢すと、三人の後を追うように何も無い土の中へと吸い込まれていった。

ユリが敬語は使うのはあくまで癖って感じです。ですから、年上の癖に年下にタメ語ではないはそのためです。


 それと文章って長かったりしないでしょうか。割とこの量を書くとなると一日以上かかってしまうのですが、だからと言って小分けにするとえげつない話数になったりする気がするのですが……。

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