第4話 《仲間》
階段を上る最中、健悟は眉をひそめて読めない字で書かれた真っ白なギルドカードに視線を落としていた。
そんな中、少し慌てた様子で健悟を見たエンゼルは全力でフォローしようと必死に言葉を紡いで、
「そ、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ! きっと、別に健悟君しかできない何かが絶対見つかるはずだ、からっ……」
「……今、本気で思案してみて見つからなかった表情してましたけど、本当に期待しちゃってもいいんですかね?」
「あぁ――……いやぁ……」
訝しむように視線を向ける健悟に、エンゼルは手で遮って顔を逸らす。
と言っても、こんなこと彼女が悪いことなど微塵もないので責めるつもりもないし、むしろコレに関しては俺も予想外のことだったわけで―――
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「あの、その『魔力そのものを持っていない』ってどういうことですかね……?」
「言葉通りの意味です。本来、生命体が必ずしも持っている存在それが魔力というものです。ですが、『クジラダ・ケンゴ』様からは、何故かその魔力が一切感知できないという結果なのですが……」
受付のお姉さんは半ば困惑した表情と共に、物珍しそうにこちらに視線を送っていた。
つまり、言わば今の俺は『心臓がないのに生きている』という謎現象と同義ということか。
「測定器の故障や測定不可っていう可能性はないのかしら?」
一番気になっていた質問を先にエンゼルが声に出して唱えた。
「その可能性はかなり低いと思われます。先ほど試していただいた2台目の方は最近入手したばかりの新品なため、機器の不備は考えられません。それに故障や測定不可等の異常は本来≪ERROR≫と表記されるものであって、何も起こらないということはそれ以外の可能性……つまり、魔力の欠乏が考えられるのです」
ということは、強すぎて表記されない可能性は皆無ってわけか……
「ちなみに、前例とかってありますか……?」
「ないわけではないですが、アレと同じかどうかは……」
「……‘’ヒュブリス‘’」
ぼそりと零したエンゼルさんに、受付のお姉さんはハッとする。
健吾は首をかしげるしかないが、二人は慌てたように話を戻そうとした。
「そ、それじゃあ、スキルなんかはどうなるのかしら? 種類にもよるけど、普通は魔力を必要としないものでしょう?」
「それに関しても詳しく調べてみなければ分からないです。……私の知識不足ゆえに、申し訳ございません」
申し訳なさそうに受付のお姉さんは頭を下げて、健悟の目の前にギルドカードを差し出した。
「一応、お渡ししておきます。役に立つ時が来るか分かりませんが持っていて損は無いと思われますので」
「……はい、ありがとうございます」
眉を落としたまま、健悟は差し出されたカードを受け取ると白いカードに書かれた自身の名前だけを見つめる。
そして、別れ、旅立ちを祝うように受付のお姉さんは腰を深く折り曲げた。
「クジラダ様の冒険に神の御加護があらんことを」
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「なーんか、この世界俺に厳しいわぁ……」
「そ、そんな落ち込まないでよ健悟君。私だって、そんな魔力欠乏している人間初めて見たんだから……。あっ! もしかして、健悟君ある意味世界で一人だけの欠乏している人間かもよ!? なんか、世界で一人だけって凄くない!?」
「じゃあ、今すぐこの世界で一人だけの椅子譲ってあげましょうか?」
「あっ……いや、それは……」
「ほらぁ! やっぱいらないんじゃないですか!」
割と八つ当たりもいいとこなのだが、無性に雑魚設定にされている現状に鬱憤が溜まる。
先ほどから、何に置いても欠損が多すぎる気がする。魔法は使わしてくれないし、スキルも明確には分からないし、まあエンゼルさんと出会ったことだけは当たりな気はするが……いや、それを差し引いたらむしろマイナス要素の方が多い気がする。
とにかく、そろそろ俺TUEEEEEEEE展開舞い降りてくれないと、全然割に合わぬのだ。
「……てゆうか、今自分たちって何処目指しているんでしたっけ?」
「えっ? あ、言ってなかったっけ? 私の仲間のとこ目指してる最中だって」
あ、ギルドに入る前にそんなこと言ってたな。
「確かに言ってましたね。場所はどこにいるか分かってるんですか?」
「分かってるわ。というか、アイツがあそこじゃないと嫌だって駄々こねるから自然と集合場所がそこに定着しちゃってるだけなんだけどね……」
そういって、頬をピクリと動かしたエンゼルの表情は苦笑よりの微笑。
一体どういう人物なのか、尋ねてみたが「すぐ会えるから、自分の目で見てみなさい」とだけ返され、淡々と階段を上って行く。
今現在、二階にある酒場のその上の階に到着。
感覚的には、二階に開けた酒場の様な物があり、その上に同じく下の階と上の階が繋がっている吹き抜けの酒場がある。
至る所で冒険者が酒を飲み明かしたり、戦闘の準備をしたり、仲間の募集を呼び掛けたりと騒がしく盛り上がっているが、目指すのは吹き抜けのあるその上の階。
丁度二階が見下ろせる吹き抜けの端の一角に座る、ある三人組のところへと駆け寄った。
「遅れてごめん! ちょっと用事済ましてて」
エンゼルが両手を合わせて声をかけた。
「あっ、エンゼルさんおはようございます」
「オイオイオイオ~~イ、『遅刻は厳禁っ!』ってこの前言ってやがったの何処のどいつだよ?」
「まあまあ。エンゼルが理由も無しに遅れてくる訳ないだろう? 理由ぐらい聞いてあげようじゃないか」
3人が此方に気付いた様子でエンゼルの声に呼応する。
すると、一人背もたれに寄りかかって一本のナイフをプラプラと遊ばせている男性が、健悟の存在に気付いたようで剣先を此方に向けながら問いかけた。
「あん? どうしたんだぁそのガキンチョ」
「ああ、そうそう紹介するわぁ! 今日から私の弟子になった、健悟君です!」
「あ、よろしくお願いします」
誇らしげに紹介され挨拶せねばならない流れかと思い、とりあえず頭を下げる健悟。
すると、ヒュッと風切り音が聞こえると同時に目線の先で、足と足の間に一本のナイフが着弾し、突然のことに変な声を上げて後ろに崩れ落ちた。
「オイオイオイオ~イ、なんだこのへっぴり腰。たかがナイフ一本で後ろにすっ転んだぜ?」
「ちょ、ちょっと、ディラ! いきなりなんてことしてるのよ!」
「あぁ? 挨拶してきたから挨拶し返してやっただけだろうが。何か文句あっかよ? テメェの言う道理は叶えてやってるつもりだぜ?」
「ナイフ投げつける行為の何処に道理があるのよ! あぁっ、もう大丈夫?」
ナイフを投げつけた男性にエンゼルが叱責すると、尻もちをついた健悟に優しく手を差し伸べる。
その手に感謝の意を告げて立ちあがり、ちらと先ほどの男性の方に視線をやるが、向こうは悪気が無いような素振りで椅子に深く座り込んだ。
これは面倒なタイプ……多分、先ほど言っていた『アイツ』とはこの人のことだろうか。
まあ、どちらにしろよくある典型的なヤンキーみたいなタイプで極力接していたくはないな。
健悟は背もたれに寄りかかって座る男性に嫌悪感が募った視線を浴びせると、ふと右側の椅子からぬっと大きな顔が此方を覗きんだのを感じた。
「ごめんね、大丈夫かい? ディルゲートのことだから傷を負わせるようなヘマはしないだろうけど、怪我とかは大丈夫?」
「あっ、ハイ。別に掠った様子もない……です」
そう言って、足を振り上げたり両手をプラプラして見せ、無傷であることを証明。男性は安心したように「良かった」とだけ一言呟いた。
「あのぅ、エンゼルさん。さっき言ってた『弟子』ってどういう意味なんでしょうか……?」
「ああ、えっとソレを一から説明する……その前に。健悟君に皆のことを紹介しないといけないわね」
エンゼルさんは少女の問いかけを一度制止し、コホンと軽く咳払いするとその場にいる三人のことについて軽い紹介が始まった。
まず初めに説明が入ったのは出会い頭にナイフを投げつけた『ディルゲート・バーティカル』と言う者から。
見た目は、無駄に尖った八重歯が特徴の三白眼を持つ厳つい顔。高さは大体自身より少し高めぐらいで、体格はかなり細身の方。
髪は目元が少し隠れぐらいの長さで、癖っ毛が割と特徴的。配色の方は黒に少し赤が混ざったような色合いをしており、瞳の色は深い赤色を見せていた。
そして次に説明が入ったのはフードを被った小柄な少女『ユリ・カリオロース』。
まるで子猫のような愛くるしさで、フードの奥から覗かせるその髪色は青空の様な美しい水色をベースとされていて、所々に濃い青色の髪が隙間から覗かせる。瞳は琥珀の様な色合いだ。
見た目は、さほど身長が無いところからして小学校高学年辺りだと推定。健悟と目線を会わせぬようフードを深く被って遮っていることから、人見知りの内気な少女であることが伺えた。
……しかし、これほどの幼げな少女をエンゼルさんが旅に同行させるだなんて思えないのだが……?
そして、最後は健悟に気遣って声を掛けてくれた巨体の『ダグタリオ・ハイルング』。
身長が2M弱あり、腕の太さが大体健悟の2,3倍はあるという驚異の巨体。だが見た目の方は、肉体とは裏腹の温厚な顔つきで深緑の髪色と青色の瞳が特徴的。歳は30前半のように見える。
太さと高さが相まってその姿はまさに壁の様で、だがそれと反比例するように優しげな雰囲気が感じられた。
「―――以上が今まで冒険してきた私の仲間たちよ」
「……なるほど。扉の前で困っていたから声をかけ、戦闘のいろはを教えるため弟子にした、と」
「ハハッ、意味分かんねえな!」
「……それこそがエンゼルさんのいい所じゃないですか」
「さっすがユリちゃん! 分かってるわぁ!」
鼻で笑うディルゲートを睨むユリにエンゼルは、満面の笑みを浮かべてユリに抱きつく。
だが、そんなことお構いなしと言った様子のディルゲートはナイフの剣先を人差し指で操ると、エンゼルの方へと質問を投げかける。
「んでよぉ、ちなみにコイツはどういう系統なんだァ? 見たとこ、玄人には全く見えねェが……せめてなんか秀でる所があんだろうな?」
「うーん。無いわけじゃないんだけど……」
「オォ、面白ぇ。あるんならさっさと言えよ」
エンゼルは気まずそうに此方に視線を一度向けると、目を伏せて静かに答えた。
「魔力が、全く無いの……」
「……は?」
「えっ……?」
「……」
物に躓いたかのように、三人の表情が固まる。
いや、やっぱそういうレベルで珍しいんだなと実感するがはたしてコレはどのような反応を示されるのか。
物珍しげに見られるか、困惑されるのか、はたまたバカにされるのか……
「……すごい……。魔法どころか、魔力が無いなんて……なかなか見ることはできませんね」
「う~ん、凄いけど不憫だよねえ。大抵のことは魔法で解決するけどソレが無いのだとすると……」
「ギャーーハハハハハハハハハッ!!!! ま、魔法が、つ、使えないなんてこと、ブッ! あんのかよ……ッ!」
ものの見事に三パターンを上手く展開してくれたな。
いや、全然嬉しくないんですけど。というか、ディルゲートって人笑い方がメチャクチャうざいんだけど。
っていうか、いつまで笑ってんだ!
「ッハァ……――――んで、なんだぁ。まさかとは思うが、そんな物珍しいガキンチョ連れ、ブッ! きょ、今日の目的地に連れてくわけじゃねえよな……?」
「そのまさかだけど、何か不都合かしら?」
先ほどまで、爆笑をかましていたディルゲートが一瞬にしてその表情を固めた。
操っていたナイフが地面に突き刺さり、釣り上がった口角がえげつない角度をキープして、椅子の片足が宙に浮いた状態でその場に静止していた。
この発言に、思わずダグタリオも眉を寄せている。
「……エンゼル。ちょーっとそれは厳しいんじゃないかなぁ……?」
「何よ、別に健悟君は私が守るから問題ないわよ」
「いやバカかテメェ!? あそこは俺らのモンで、こんなガキンチョに教えんのかよ!? いくらお前の我儘でもまかり通らねえからな!?」
「……私は別にどちらでも……」
何か、議論が始まった様子の4人。
どうやら、今日の目的地のことについてどうやら問題があるようだが未だ詳細が分からない俺は見ての通り置いてけぼり状態。
まあ、かといって加勢することもできないため何もできない訳だが。
「―――ハァ、このバカ一度口にすると折れねぇから面倒なんだよ……」
「アンタにバカとだけは言われたくないわよ」
「まあなんとかなるんじゃないかな。それじゃあ、今日の陣形を変更して、僕が壁役になるからエンゼルはサポートから前衛に交代、健悟君はエンゼルとディルゲートの間に入っていつも通り後方支援はユリに任せたよ」
「……分かりました」
「さっすが、ダグ~! 伊達に私たちのリーダーやってないわぁ!」
「あーあー、まーた甘やかしやがって……」
ディルゲートは不服な様子で、落ちたナイフを後ろポケットにしまい込むと、立ち上がってエンゼルの右隣を抜けていく。
「どこに行くんだい? ディルゲート」
「ちんたらやんのは性に合わねぇから先行ってんぞ。どうせ後であの洞窟前で落ち合うんだろ?」
「大丈夫かい、一人だけで」
「はっ、バカにすんな。あそこら一帯の雑魚じゃもう話になんねーよ」
じゃあな、と言った様子で右手を振って階段を下りていくディルゲートの姿が段差に隠れて見えなくなって行く。
そして、ようやく見えなくなってきた頃合いになるとエンゼルが軽くため息をつき、今は見えない後ろ姿に視線を残して、
「アイツ、戦闘の時だけは頼れるんだけどねぇー……」
ポツリと溢していた。
「……さて、それじゃあ僕達も出発しようか」
「あっ、その前に気休めでも装備を整えないと。健悟君の」
「……」
「そうだね。けど、装備って言ったってどんなタイプにさせるんだい? 流石に僕みたいな重量系ではないだろうし……」
「まあ、必然的に軽量の装備で、近距離と中距離辺りをやらしてあげたいわよね。これからのことを考えると」
そう言って、エンゼルは顎に手を当てて少しばかり間を開けると、軽く頷いてとりあえず武具屋に立ち寄ってから、あらましを決めようということになった。
「初心者となるとあまり高品質なの却って重荷になるかもしれないから、手軽なのを揃えておきたいわね」
「分かりました。お任せします」
とりあえず次の方針が決まり、ダグタリオとユリが外していた装備を整え出している間に、ふと、何故ココが集合場所であるのか、という話を思い出しエンゼルに問いかけてみると、
「……ディラが、人を見下せるこの場所が一番気持ちが良いんだって」
割としょうもなく、納得のいく答えに思わず微笑を漏らした。
更新が一カ月ほど開いてしまい、申し訳ございません。




