表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で村人A  作者: キリン衛門
鍵のかかった箱庭
47/51

第46話≪最善ではなく、最悪で動け≫

 雄たけびを上げて、突撃する盗賊達…かと思いきや威勢を上げるだけで、盗賊達はその場から動かない。


 動かない。その事実は、本来であれば、それが普通であるように想像がいくものだった。

 盗賊と言えば野蛮で粗暴で、知恵のなさそうな存在をイメージするが、彼らはコレを生業としている。


 闇雲で、無策にただただ襲うなんてことはあり得なかったのだ。


 彼らはけたたましく笑いながら、何人かが檻の奥へと引っ込むと何かを掴んで戻ってくる。

 その手には、気弱な魔物を一人、また一人とひきづり集団の前に立たせ始める。


 誰が見ても分かる通り、【盾】だ。


 その姿を見て、人魔団体は動揺をあらわにする。

 想像だにしていなかったのだろう。手に掴んでいる立派な剣は若干下がり、口々に「卑怯だ!」「正々堂々と勝負しろ!」と罵るが、彼らはそんな言葉を全く気に掛けない。


 場が止まり、硬直状態。

 誰もが、次の一手を様子見、先に動いた方が後手を取ることになる。



 ―――この瞬間を、リアンは待っていた。



-----------------------------------------------



「まず、間違いなく奴らは奴隷魔物達を盾に使うと思います」


 リアンはそういって、救出のあらすじを説明していった。


「盗賊というものは、奴隷1体でもとても慎重に扱います。例え奴隷であれ商品。わざわざ自分から食い扶持を手放すことはないでしょう。なので、基本は絶対逃がさないように手元に置きますし、檻から出すなんて真似はしません」


 そういって、奴隷たちを指さす。

 確かに言われてみた通り、奴隷たちには必ず誰かが付いており一艇間隔で見張りが付いている。


 ――ただ、一度だけ、それでも開ける瞬間があります。


 大事な奴隷を出すとき、それが――――



-----------------------------------------------



 ()()()()()()()()とき、だ。



 まさにリアンが予想していた通りになった。

 そしたら、この先は彼の説明した通りのことをすればいい。


 合図を皮切りに2人を連れ出す。分かっている、簡単だ。タイミングを間違えなければ捕まることはない。


 リスクは少ない。分かっている。

 話を聞いただけでも明らかにリアンのほうが危険な目に合うし、下手したら自分が居なくてもどうにかなるかもしれない。


 だけど……それでも――――




-----------------------------------------------




 ―――健吾さんは、間違いなく『弱い』。

 それは、初めて会ったときに分かってる。それも、かなり。下手したらあの人魔団体の中央にいる人より弱い。


 だからこの作戦も、自分一人でどうにかなるように組んだ。

 後は、人魔団体次第だけど、あっちもあっちで期待はしていけない。



 先生の口癖だ。『最善ではなく、最悪で動け』

 


  だからこその…救出作戦だ。



 ①1体の魔物を開放する。

 ②戦場が動くので、その騒ぎに紛れて”アニキ”の檻に紛れ込む。

 ③その隙にへリオとフローラを連れて救出。

 ④戦場が落ち着いた辺りで、セレスを抱えて逃走。


 ―――が、簡単な作戦。

 もし、人魔団体が勝てば万々歳。そうでなくても彼らは、人魔団体の後処理で人が割かれるし、生物は終わった後が一番気が緩む。


 それゆえアニキという男につけ込むには、その油断しかない。

 健吾さんには③だけをお願いしているが、それも戦況次第で最悪自分がいければ問題はない。


 問題は①のどの魔物を開放するか………。


 一番は、少し暴れてくれそうな奴だ。可能性が何倍にも膨れ上がる。

 その中で見つけた、あのアニキとやらの近くにある、中央に隠された布の被った檻の奴……。


 なんだ、何か嫌な予感がする。


 先の戦闘中にも見かけていたが、気にしていなかったのは盗賊達があの周辺だけ近づかなかったからだ。

 考えることが多くて気に掛けていなかったが、そもそもそれはおかしい。


 奴隷1体でも捨て置けないのが盗賊なのに、誰も近づかない理由ってなんだ? 檻に近づかないことによって起きる可能性ってなんだ?


 ……………ダメだ。頭が回らない。血を流しすぎたかもしれない、な。兎に角作戦以外のもの考えるのはやめておこう。


「と、突撃ィ―――ッッ!!」



 突如、雄たけびがある。

 咄嗟に振り返ると、そこには勢いよく剣を振り回しながら走り出す人魔団体の姿。


 リアンにとって予想外の展開となった。


 向こうが勝手に動くとは思っていなかったので、早々に➁へ移動しなければいけないが、時間がない。

 アニキの檻までまだ距離はあるし、視線が一か所に集まるということは混乱に紛れられないということ。


 奴隷たちの合間を縫っていく予定だったのに、これでは動きがバレバレだ。



 だが、一番の最悪はこの混乱に乗じれず一人になった時だ。



「……くっ!」


 リアンは、はにかんで方向転換をすると近くの奴隷を盾にしている盗賊に飛びかかった。


 不意打ちも相まって、重症のリアンでも盗賊難なく撃破。

 再度起き上がろうとする前に蹴りを入れて沈ませると、近くの魔物達の方へ振り返り、叫ぶ。



 彼らと共通の言語で一言。『逃げろ』と。



 勿論、それを聞いてすぐに動くものはいなかったし、皆震えるばかりでしゃがみ込んでしまう。

 だが、リアンの背後で起きている惨状を見て、命の危険を感じただろう何体かはゆっくり体を動かしだす。


 リアンはそれを見送ると、他の檻へと駆ける。

 視線が人魔団体に向いている間に、何個かの檻を開放することを目的とした。


 戦況を見る限り、あと少しももたなそうだ。既に2,3人の人魔団体のものが真っ二つに切り裂かれ、盗賊達は怯む様子もない。


 焦るリアンだったが、彼が考えるより体の損傷は激しかった。


 少し速度を上げただけで体がついてこず、口端から血が滲む。

 間違いなく、肋骨が折れているが、止まるわけにはいかなかった。


 これを合図に少しでも、せめてフローラとへリオだけでも―――



 汗が滲ませ、痛みをこらえ、素早く流れていく景色の中で、その瞬間だけ。まるでスロー再生したように遅くなる世界で目にしたのは、檻の中のへリオとフローラ。



 と、何処にもいない健吾の姿。



 若干の淡い期待と現実に気を惹かれ、背後から振り下ろされる気配にリアンは気が付かなかった。



------------------------------------------------


 ―――揺れる、揺れる。


 一体、今どうなっているのか。

 視界の端がかすんでいる。体が動かない。両手…も、背中に張り付いて動かせない。


 いや、これは縛られている、のか。


 首は動く、が頭が重くて動かせない。な。

 だが、目線だけでも、事態がどうなっているのかだけで


「…すみません。やっぱり俺には勇気が出ませんでした」


 聴いたことのある声。

 その声に体がビクッと動く。


 勢いよく上半身が飛び上がって体を起こすと、そこには蹲った健吾の姿。

 そして、薄暗い部屋。いや、これは檻の中だ。


 ゆっくりと周りに視線を送ると同じように押し込まれている他の奴隷たちと、人魔団体の人も数人いる。


 その中でも、健吾は一切傷を負っておらず、全くの無傷のまま蹲っていた。


 分かっている。


 分かっている。

 分かってはいるが、その姿に憤りが抑えられないリアンは滴る血を引きずるようにして健吾の前に立ちふさがる。


「……見捨てたんですか」


「……」


「……あの、2人はまだ幼いんです。言葉もまだまだ使い始めたばかりで自分1人じゃ狩りもできない。自分の名前だってまだ書けない! …それを、貴方は………っ」


 悪くない。そう…………悪くない。


 だって、彼は弱くて、非力で、赤の他人で2人を見捨てた男なんだ。


「……すいません」


 この期に及んで、言い訳すらもできないのか。

 この男は。


「何度も考えた。だけど、痛いのはいやだ。身を捨ててまで立ち向かえるほど、勇敢じゃない。何度も思った、情けないって――――」


「貴方ってひッッーーー!」



「―――だけど、何もしないで尻尾巻いて逃げる方が情けないって思った」




 直後、爆音が響き渡る。と、同時に鼓膜を引き裂くような劈く絶叫。


 弧を描くように空を舞う―――布が靡く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ