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異世界で村人A  作者: キリン衛門
鍵のかかった箱庭
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第44話≪救助作戦≫

「い、やっ、やぁ…嫌ぁ……っ」


「っ、おい、しっかり抑えろよ」


「ひひ、すまんすまん。あんよのお行儀が悪い子だな」



 2人の男が小さな女の子を羽交い絞めるように抑え込むが、抜け出た右足がもう一人の男の顎に入る。


 だが、全くと言って効いていない様子の男はゆっくりとミサンガを首の後ろへと巡らせた。



「辞めろ―――っ! フローラを放せぇぇ!」



 数ある檻の1つから少年の叫び声が聞こえる。


 叫び声に呼応するかのように鎖の軋む音が聞こえ、どうしようもならない現状がありありと伝わった。


 その悲鳴が空を切った時、突如巨大な砂塵が舞った。


 辺りに響く轟音。周囲を纏う砂埃。何が起きた分からない彼らの視線は必然と、砂塵の塔に集まった。



「ぎぇっ」


「ぎゅ」



 その砂塵を見上げた数秒の間に、小さな悲鳴が聞こえた。


 正体は、不明。敵の数も知れず、状況は混沌と化す。


 誰もが、『敵襲』だと認識した時点で、既に同胞の幾つかの姿が見えない事態に発展していた。



「おいおい、どうなってんだ!? 憲兵か?! 同業者か!?」


「なんだなんだ、敵襲か!? 何処だ!? 全く見えないぞ!」



 慌てふためく、声が聞こえ未知への恐怖が伝染していた。


 たじろぐ盗賊達は、敵を探すことに躍起になり瞬きの間に背後を取られていることに気付かない。


 そして、何より檻とモンスターの死角のせいで目の前を歩いて横切っているというのに、正体が分かっていない彼らは平然と歩いている2人を敵だと認識できなかった。



「おめェら! 檻の上に上がれ!!!!」



 響き、轟く声が周囲に行き渡る。


 その声に、弾かれるように動く盗賊達は軽快に檻の上へ飛び乗り、生き残った山賊達が顔を見合わせる。




 その数は、およそ10名。


 そこそこの数であるが、相手の数を把握できないので油断はできなかった。




「アニキ! なんで、檻の上に集まっちまうんですか!? これじゃあ、俺らが敵だって知らせてるようなもんじゃないっすか!」




 同じ檻へと飛び乗った小柄なおっさんが声を掛ける。だが、その頭を思い切り叩き、



「うるせぇ、いいかよく聞けお前ら。敵の目的は奴隷の奪還だろう! となると端から解放されてる恐れがある。端から檻を確認して逃げられてねえかみてこいッ!」



 アニキと呼ばれた男性は、大手を振って手下に指示をすると真ん中の檻の上で佇み、周囲を警戒する。


 部下たちは、檻の上を乗り越えて外周の柵を確認していき、無事であることを確認して回っていた。




 檻の位置はとても距離があるものではなく、真ん中の5mサイズの檻を省けばほとんどが2m以下の小ぶりの檻が20個ほど。


 外周など時間をかけてみて回る量ではなかった。










 ――――だが、その距離感は群れのトップを潰すには十分すぎる距離。


 檻の影からはじけ飛んだ2つの琥珀の彗星は5m上空にいる、敵を確実に捉える。


 2人の息の合ったタイミング。アニキと呼ばれる男の死角から弾けるように飛び出した。


 だが、その刃は喉元のはるか手前で止まる。



「ハッ、まだまだクソガキじゃねえか」



 そう呟いて笑ったそいつは、掴んだ2人を激しく打ち付けた。



 骨が軋む音。

 隣にいなくても空気を伝って聞こえる鈍い音は、肺が押しつぶされて声のでない2人の口から微かに漏れる。



「お前ら、もういい。集まれ」



 ゾロゾロと集まる盗賊達。

 檻を背後に小さな輪が出来上がると、中央に2人が蹴り飛ばされた。



「な……ん、で…」


 口から抜けるように声が零れる。

 セレスはあれからピクリとも動いていない。



「あ? そりゃ、残りの人数と部下が散り散りになって真っすぐ狙うと言ったら俺様しかいねえだろ?」



 そいつは、腰を屈めて視線を合わせる



「それにしても、見た感じ義勇団って感じでもねぇな……あ。おいバーバー、さっきこいつ等と似たような獣人居なかったか?」



 先程、アニキと呼ばれてた男の近くにいた小柄な男が答える。



「へ、へぇ…確かにこんぐらいのがきんちょだった気がしやすね」


「ハハァ、確か獣人は多種族と比べても特に群れるンだったな」



 男は不敵に笑うと、ゆっくり腰を上げて小さな檻の方へと歩み始めた。



 手下の男たちも、アニキとやらに気を惹かれていて、こっちを見ていない。



「……………セレス…聞こえるか…?」



 囁くように尋ねるが、セレスの反応がない。

 胸も微かに動いているが、頭の出血が止まっていない。



 これは、早く診てもらわないといけないのは明白。だが、この状況でへリオとフローラを連れて、更にセレスを担いで逃げ出すことなんてできるのか。



 ―――無茶だ。



 あのアニキってやつが鋭すぎる。



 さっきの、同時攻撃も、瞳を閉じて且つ俺らにしか聞こえない周波数の声でタイミングを取った。


 挟み撃ちの形で確実に動脈だけを狙った。あの体格だ、首以外の急所は致命傷にはならない。()()()()()、脚だけを狙ったのだ。


 追いつかれなければいい。殺すことが目的ではなかったからだ。



 だが、それすらも読まれていた。


 これでは、逃げ出すなんてとても――――




 その時、小さな周波数の音。


 それは、若い獣人だけが使えるサイン。リアンは思い切り顔を上げて、セレスを見た。

 先程と体勢は変わらぬが、口元がかすかに動いている。



 ”誰かが近づいてきたらその人を転ばす”。そう、聞こえた。


 最善とは限らないが、今のところ一番勝算は高く思える。何より、セレス意識があることが何よりの喜び。可能性は微かな灯となって点く。

 


 そこに、転がるフローラとへリオ。


 リアンはその現象に戸惑いを隠せなかったが一瞬にして血の気が引いていくのを感じた。


 2人の首に巻きつかれたミサンガ。これが意味するのは――――



「あ……あぁ……あああああああああああぁぁあぁあぁっっっ」


「知らねえわけじゃねえよなあ、この()()()()の意味を」



 リアンの瞳から大粒の涙が溢れ出る。

 

 セレスは、震える口を血が出るほど噛みしめて必死に抑えていた。それは、まさに一瞬の隙を着くために感情を必死に抑えて、小さな最後の可能性に賭けていたから。


 

 リアンは嗚咽を上げながら、目を見開いて口から涎を垂らす2人の元へにじり寄る。


 瞳を抑えてあげ、頭を軽く撫でるが反応はない。


 まるで人形を振れているかのような感触。悲哀と憎悪。この感情が強く沸き上がった。



 そこへ、歩み寄る男の足音が真隣に来た瞬間。

 セレスが動いた。


 爪と牙を立て、奴の足へと飛びかかる。



 リアンは、それを見逃さない。

 瞳に涙を浮かべながらも、その音に反応して周囲の盗賊達に飛びかかろうとするが、背後で聞こえたのは短い悲鳴と鈍い音。



 いやな予感を拭えないリアンは心臓の高鳴る音を耳にゆっくりと振り返る。



 宙に舞う。小さな体。


 時間が止まったように感じた数秒は、一瞬きするのと同時に何かが落ちてくる音で締めくくられる。



「せ、セレ……ス……」


「甘ェな。パパとママに教わらなかったか? 死んだふりすンなら心臓も止めんだよ」



 その男は、転がったリアンを足で小突くと顔が大きく歪んだセレスの顔が現れた。



「げぇっ、アニキィ。獣人の小娘は高く売れるんですから、顔はやめてくださいっすよ、顔は~」


「グダグダ言ってねえで早くミサンガ全部つけてこい」



 小柄な男はヘイヘイ、と腰を低くして他の手下を連れて去っていく。



 リアンは、目の前の光景を眺めて呆然と涙を流すことしかできない。


 心を何処かに置いてきたかのように、抜け殻になってると男が近づいてきて、顔を何回か軽く叩く。



「おいおーい……こりゃダメだな。おい、バーバーこいつ、あいつらにあげてこい」


「へいへい、けどコイツ雄ですが、まだ幼くて価値はあるんじゃ?」



 男は、リアンの襟を掴むと持ち上げてバーバーという男に投げて渡した。



「いや、もうソイツはダメだ。ロットス兄弟にくれてやれ」



 抜け殻のリアンは地面に転がっている所をバーバーに担がれて上下に揺れながら、男の去っていく姿を目にする。


 腕は痺れて満足に動かない。垂れ下がった両手を閉じて、開いて、また閉じて…



「あっ、ガルー遅いぞ! 全く、お前が呑気にしてる間大変だったんだからな」


 

 バーバーという男が声を荒げた。


 奥から小走りにでフードを被った男が現れる。その男は、背は高く、右半顔を覆う刺青と長刀を手にしていた。


 ガルーと呼ばれる男性は、リアンをじっと見つめると、腰を屈めてリアンを軽く奪い去る。


 その行動にちょっと慌てる様子のバーバー。



「あっ、ちょ……いや、まあいい。とにかくこいつをロットス兄弟の所へ運んでこいってよ。ったく、お前がいない間大変だったんだからな」


 こくっ、と小さく頷く。


 その様子に立ち去ろうとしたバーバーは訝しんで、



「……おい、ガルー。なんで喋らねえんだ?」



 無言で答えるガルー。



「……? おい、ガルー?」


 恐るおそるフードの中を覗き込もうと、近づくと勢いよくガルーは歯を剝きだした。



「うおわっ、と……ああ、なんだ。なんか食ってんのか紛らわしいな!」



 バーバーは肩を落としてガルーの背中を強く叩くと、揚々と手を振って去っていく。『ちゃんと仕事しろよ』ということだろう。


 去り行くバーバーを眺めながら一歩も動かないガルー。一呼吸ゆっくり行ってよしっと活き込むと、


「…………俺のこと覚えてます?」



 視線を変えぬまま背負われた状態で声を掛けられたリアンは戸惑い、眉を顰める。が、不思議な感覚を覚えた。


 聴いたことのある声。だが、確実に覚えているほどではない声。



「そういえば、そっちの名前は教えてもらったけどこっちはしてなかったすもんね」



 男はリアンにしか聞こえない声量で呟くように話す。


 背中越しに行われている会話。


 だが、その声と雰囲気から伝わる空気は不快感や恐怖よりも安心感が伝わってきた。



「挨拶おくれました、鯨舵健吾って言います」




 

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