第42話《シンプルに運が悪い》
刃を向ける子供が2人。フードを深く被っており、表情は読めない。
だが断言できる。下手に動いたら殺される。
「…ФФЩШУННДБЁЙ」
「…!?」
訳の分からない言語。発音もきいた事の無いものだ。
レオは…寝てる。
こんな状況でピクリとも動かないのは流石だが、少しぐらい違和感感じろよコイツゥ!
健吾がレオに合図を送るか否か、曖昧な感情で微かに動かした動作に2人は空気を置き去りに視界から外れた。
気付けば、腕を羽交い締めにされて、首元に刃が光る。
もう1人の方は、正面から心臓の手前で刃を静止していた。
こんなもの誰が見てもわかる。動いたら死ぬ。呼吸で胸が上下することすら神経を使わなければならない。
この危機的状況。その原因は、数十時間前まで遡るー――
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あの後、俺たちは先の山まで撤退した。
適当に移動して迷子になっても構わないし、何よりパンを拾いに行くためだった。
だが、そこに彼の姿はなかった。
正直、予想はついていた。あのときの表情。どこか悟ったような顔…多分、着いていけないことは本人が一番分かっていたのだと思う。
だが俺は考えないようにしていた。どの結果であれ彼の考えを尊重しようと考えていた。
だが、もし、図々しくついてきて、パンのせいで色んな問題に巻き込まれて、死にそうな目にあったとしても――――俺は一向に構わなかった。
だけど、彼は何も言わず去っていった。何も置き手紙もなく去っていった。
それがパンなりの想いだったんだ。
だから、森の奥へと続く足跡には目を向けることはしなかった。
もしそれをしてしまったとしても、その行動の結果は誰も求めていないことだと分かっていたから。
―――それから、結局そこから移動して、今度は別の町を探すため移動をしてる途中。
空から見下ろしてはいるが、眼科に広がるのは森、森、森。
町ぐらいすぐ見つかるだろうと楽観視していたため、日が落ち始めてそこそこ焦り始めてきた。
…野宿なんてしたことないが、土の上って寝れるのか? 地面とか、体がめちゃくちゃ痛くなりそうだし、というか虫。虫ってこの世界居るのか…? 蚊だらけの外とか絶対寝れる自信がない。
ただでさえ、体が返り血で気持ち悪いってのに。
…というか、そうだ。一つ説明しないといけないことがあった。
レオのことだ。
実を言うと、パンがいなかった時点で、レオとは解散するつもり満々で手を振ろうとしたら、何故か足で掴まれて空へと旅立たされた。
それで、なんか有耶無耶で飛んでいるのだが、一体どういうつもりなのだろうか。
身を乗り出して頭部から少し覗かせる瞳を見ても彼の心情は読み取れない。
……特に行く宛がないから? 周りに後ろ指さされてる姿に同情したから? それとも、まだ様子見るため?
………分からない。まるでそんなに仲良くもない女の子に校舎裏に呼び出された気分だ。
というか、そっちの方がまだマシだ。こちとら人じゃない上言葉も通じないのだから、自分の物差しで測れるものが存在しない。
――――――――まあ、いいか。
乗せてくれるなら有難いに越したことはない。自転車もどさくさに紛れて回収しようとしたけどダメだったし。歩いて街を探そうとしてたら間違いなく餓死をしていたし。
レオの好きにさせよう。
そんな感じで思考停止していた健吾。
会話がない中、数時間空を飛んでいていて、初めこそ沈んでいた心が浮足立っていたが何事も飽きは来るというもの。
上空数百メートルとなると普通に寒いし、空腹は容赦なく襲ってくる。
レオに声を掛けて、飲み場と食料捜しを提案するといやいやながら、着いてきてくれた。
水場は実はチラチラ視界の端に映っていた。
その中から適当に選んだ後に付近に着陸する。
湖の大きさはおおよそ体育館一つ分くらい。普通に大きな水場といった感じ、湖としては小さいかもしれない。
後は、木の実でも生えてればいいが、そこまで事は簡単じゃなかった。
結局、軽く体を洗って森の中を数十分歩き回ったが、木の実は見つからず、湖の近くに帰ってきたらレオが寝ていた。
いや、そりゃ飛んでててくれたし、文句はなかったが少しぐらい探してくれてると思ったのでムカつきはした。
だが、小競り合いになっても間違いなく勝てないことは分かっていたので、仕方なく大きめの葉っぱを数十枚かき集めて、簡易的な寝床を作った。
ちなみに、一番の問題であった虫だが、もちろんいた。
なので、どうなったかというとまともに寝れないぐらい顔の周りが痒い。
しかも、蚊なのか分からない虫に刺されて色んな症状が出る。
そこだけ熱くなったり、痺れたり、謎の膿が出たり……本気で目が覚めたら地獄の門の前にいる覚悟をした。
だが、周りも暗みはじめ、明るみがないとなると人間はすごいもので意外と眠りにつけたりする。
そりゃあ、洞窟から脱出して、村人助けて、逃げ回って、何も食べないで、体力は底を突きぬけていた。
嫌な症状の感覚を遮断して、目を閉じたら一気に意識が暗闇へ沈んでいった。
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そして、目が覚めたらこのざまである。
ホント、運がなさすぎる。
しかも顔だけ以上に痺れてめちゃくちゃ顔が引きつって嘲笑みたいになってる。
どうなっているのかは分からないが、言葉を上手く発せないのも状況を悪化させている原因に間違いない。
そこで、レオが目を覚ました。
軽く伸びをして首を振り回した後、コチラへ視線を向ける。
二人の子供も気付いたようで、この時の表情と言ったら凄いと言ったらない。
先程までクールな暗殺者だったのが、目を丸くして口をこれでもかと開けたアホ面に。
2人とも手にしたナイフを落とさない辺り流石と言わざるを得ないが今ならデコピンで簡単に落としてしまいそうだ。
そして、現状に気付いたレオが一気に2人を蹴散らして――――……くれることはなく、体を上半身だけ動かすと気だるそうに水辺に顔を突っ込んで、水面が泡立っている。
これには思わず3人とも呆然するしかなく、動揺してレオに刃を向けていた方が、
「な、なにアレ!? ド、ドラゴン!? 岩じゃないのあれ?!」
「お、落ち着け! ドラゴンなんてココらには生息できないはず。突然変異した鳥類種の何か…」
「をまえら、しゃべれふのは?」
思わず声を発してしまった健吾は即座に後悔した。
2人はすぐさま健吾の首を掻っ切ろうと、動き出そうとした。
「ををを! すとっふ、すとーふ!」
「……? お前、言葉が通じてるのか?」
すんでのところで手が止まり、背後の子供が声をかけてくる。
それに対して一生懸命頭を縦に頷くと、後ろの子がフードを外した。
「うわ、よく見りゃスズメカに刺されまくってんじゃん!」
「え? あっ、ほんとだ! え、じゃあこの人ゴブリンじゃなくて…人間?」
2人して、フードを外してナイフを下げる。
そして、マジマジと顔を覗き込み__腹を抱えて転げ回った。
「ケハハハハッ、こ、この人顔がボゴボゴかと思ったら、こっ、これ、全部スズメカ…っ」
「ど、どぉりで言葉が通じ…ッブォファ! 通じ、ないよ…ケハハッ!」
顔をのぞかせた2人は小学生ぐらいの2人組。
驚くぐらいソックリな顔つきで、何より特徴的なのはその耳。
よくある、あれだ。所謂、ケモ耳と言うやつだ。
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「ご、ごめんなさい。てっきり縄張りにゴブリンが入ってきて…っ、るから、どこのどいつだとおもってぇ…へぇっ!そしたら、勘違いぃ、…うぉっぶふっ」
どうやら、腫れ上がった顔がゴブリンに見えて襲ってきたらしい。
そんなに酷いのかと思い、水辺で確認してみたところ。
まあ…あれだ、他人にこれ見られたら死にたくなるレベルだ。
「ちょ、ちょっと笑いすぎでしょお兄ちゃん。失礼じゃない」
「ひひんだ、きにひないでくれ」
健吾は、女の子の方に手を振って促す。
「す、すみま…びゅふぉっっ!」
彼女の鼻から勢いよく粘液が飛び出る。健吾は思わず固まった。
―――お嬢さん。君、お兄さんよりよっぽどひどいよ。
「―――っはー、はっーーあーしんど。あと1週間は笑わなくていいや―――それで、兄ちゃん。ここで寝てた理由、聞こうか?」




