第3話 《ステータス詳細》
「それじゃあ、とりあえず中に入りましょうか。丁度、私の仲間が先に集まってて今向かおうとしてたとこなの」
パーティーか。まあ、こちらとしては綺麗なお姉さんに手とり足とり教えてもらうのも悪くないが、別に人数が多くて苦労することは無いだろう。
……まあ、高レベルパーティーに足を引っ張る低プレイヤーがいなければの話だが。
「そうですか、分かりました」
健悟は、表情を笑顔のまま頭を縦に頷かせ、先を歩くエンゼルの後ろをついて行くと、先ほどまで体当たりを続けていた扉の前に立ち、中央に手を添えると奥に押し込む形で扉が前進し、開いた。
……おかしいな、さきほど自分もまったく同じ開け方をしていたはずなのだが……?
押し方を間違えたのか? それとも何か別の理由があるのか。兎に角、こうして立ち塞がっていた壁は取り除かれた。
内部の広さは言うなれば、公立の体育館ほどの広さか(あくまで自分の見知った体育館の基準だが)。辺りをぼんやりと小さな豆電球20,30ばかりが一面に釣り下がって照らし、階層は外から見た感じ大体2,3階層。天井の高さも扉に釣り合ってなかなかのものである。
そして、その一階に机を囲んだり、突っ立ったりしてザ・冒険者風の皆さんが駄弁ったり、騒いだりしている訳だが。
その中には、見た感じからして人間ではないものも多々いて流石異世界設定だなーと思いつつ、辺りを見渡しているとちらほら不思議な人種を目にする。
特徴的な長い耳と素晴らしい容姿。間違いない、エルフ族だ。
あの肌白さと言い、あのナイスバディーと言い、神話通りの大層なモノをお持ちのようだ。
その素晴らしいハイクオリティーが至る所でで繰り広げられているのだから、なんとも……
「ほーらっ、どこ見てんの。健悟君の目的はこっち」
突如、ぐいっと首がへし折れそうな勢いで首が90度回転する。
力のこもり具合から、優しさが微塵も感じられなかったため……多分、健悟の下心丸出しの視線を感じ取っての行動だろうか。
それにしても、女性と思えぬほどパワーがえぐい。
「ぐぇっ……あ、れですか?」
「そう、冒険者ギルド受付。貴方の欲しがってたギルドカードはあそこで発行できるのよ」
そう言って、受付カウンターの向こうでにこやかな表情で立つお姉さんに視線をやり、首を擦る健悟を余所に、エンゼルの手に引かれて受付のお姉さんの前まで連れてかれる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件は何でしょうか?」
「この子のギルドカードを発行したいんだけど、お願いできるかしら?」
「かしこまりました。それでは、登録をするための身分証明、登録料金が発生しますが問題ございませんでしょうか?」
「はい、お願いします」
淡々と、健悟の代わりに段取りを進めるエンゼル。
すると、一通り終えて受付のお姉さんが「少々お待ちください」と頭を下げて、背後の扉の奥へと消えていく。
……あれ、そういえばお金のこと考えてもなかったが、無駄にリアリティを求める俺なら、まさか日本円使えない展開じゃ……
「あのーエンゼルさん。お金って見せてもらえませんかね……?」
「ん? 別にいいけど……はい」
小声で尋ねた健悟に、エンゼルは左腰につけた袋から一つの硬貨を取り出しそれを目の前に見せる。
……思った通りだった。つくづく変なリアリティが発生しているせいで、目の前に置かれた硬貨が全く見たことのない造形をしている。
健悟は、ソレを見るなり顔を抱えてたらーっと冷や汗を垂らし、
「……すいません。ボク今一文無しです……」
「ええっ、一マリーも? まさか、どっかで落としちゃった感じ?」
「面目ないです」
あまりの申し訳なさに頭も上がらない健悟は、目を合わせられず視線が逸れる。
もう、なんかとてつもなく申し訳ない。いくら夢とはいえ、会って数十分の人にお金を払って貰うなど失礼極まりないというか、悲しくてしょうがないというか。
だが、そんな表情をする健悟にエンゼルは多少の笑みを浮かべて健悟の頭に手を乗せると、静かに呟いて、
「いいのよ、元々ギルドカードの発行ぐらい私が出してあげるつもりだったから。それに! 何より、師匠として弟子の門出ぐらい祝ってあげなきゃ、ね」
人差し指を立ててウインクを見せたエンゼルは健悟にそう微笑みかける。
……こんなもの食らったら、お姉さん好きの全国の一般男性は一発KOではなかろうか。
だが、これぐらいでハートを持ってかれるほど俺の心は甘くない。何故なら、俺はお姉さん派じゃなく、妹派! これしきのことで、乗り換えてしまうほど安い男ではない。
……揺らいでないと言ったら嘘になるが。
「ほんっと、何から何までどうもありがとうございます」
「いいの、いいのっ。やっぱ師匠としてね? 頼れるところ見してやりたいのですよっ」
得意げに鼻を鳴らして胸を叩くその姿は、『師匠』という響きに憧れを感じての行動に見えるが……まあ、本人が楽しそうにしているから別にいいか、と微笑。
と、お姉さんが帰って来たようだ。
「お待たせしました。では、こちらにご名前のご記入をお願いします」
そう言われて、目の前に提示されたのは一つのカードと羽ペン。
形状はまんまポイントカードみたいな物だが、一つ違うのはそこに何一つ記入されていない真っ白な無字のカードであることだった。
とりあえず、羽ペンを手にしてその触り心地に感化しつつ、カードを見て、何処に名前を記入しようかと手を降ろし、ピタリと空中で静止させる。
そういえば、文字読めないんじゃ書けもしないんじゃ……
「ん? どうしたの?」
「あ、いやっ、あはははは……」
顔を覗き込むエンゼルに軽い微笑をかましてお茶を濁すが、流れ的に書くしかないか、と諦め半分の覚悟を決めて日本語でしっかりと『鯨舵 健悟』と記入する。
……案の定二人とも頭を横に傾けた。
「……申し訳ございません。我が冒険者ギルドでは『クメール文字』でのご記入のみとさせていただいております。ですから民族文字はお控えいただきたく……」
「……すみません」
ダメでした。
いや、そんな気しかしてなかったから別にいいけど、思えば話せる癖に読み書きできない設定はちっとおかしくねえか? と、不服気な心持。
結局、文字の記入に関してはエンゼルが代わりに努めて、隣にいる俺は何もせずスラスラと書かれていく暗号の様な文字をただ眺めるだけ。
「―――はい、『クジラダ・ケンゴ』様ですね。それでは、次に魔力検査及び所持スキルの確認を行います」
そう言って、受付のお姉さんはカウンターの下に潜り、一つの台座をカウンター上に置くと、台座の差し込み口にカードを突きさして健悟の前へと持ってくる。
……コレだ。この時を待っていた!
やっぱ異世界。魔法やらスキルはあるんだなー、とか言うテンプレの感想は興味ない。
というか、この俺が夢の中で異世界を作るとして『魔法』という、ファンタジー鉄則の存在を作らない訳が無い。
そして、何より異世界やるんなら俺TUEEEEEEEは超必須! 別にラスボスをワンパンするパワーが欲しいわけじゃないが、それでもそれなりにチート系の魔法であることは所望。
ひどくても、不死身ぐらいの力は欲しいものだ。
「それでは此方の手形の位置に両手を置いて、しばしの間お待ちください」
健悟は、なるだけ二ヤケ顔を制止し、口端が微妙につり上がる表情で、ゆっくりと手形に自分の両手を嵌めていく。
さて、この世界だとどんな感じで魔力やスキルが分かるのだろうか。
よくある奴は水晶に手をかざして分かったり、カードに血を垂らして分かったりするものだが、コレは又別のジャンルの様。
まあ、それでも規格外の数値が出たりして2人が驚くような光景にはなってしまうんだろうがな……
健悟は、鼻高々にしてお姉さんの言う「しばしの時間」を妄想で満喫する。
……やたら、しばしがなげえな。
「……まだですかね」
「……少々お待ちください」
お姉さんが困惑の表情をする。
これは、あれだ。これもよくある強すぎちゃって、機械がエラー起こしたパターンだ。
うんうん、よくあるよくある。これぞまさに主人公補整。
お姉さん、不思議そうに機械を覗いたり触って確認しているけど、多分原因は見つからないんじゃないかなぁ……故障した訳じゃないし。
頬がメチャクチャつり上がるのを感じた。
「……申し訳ございません。台座から両手を離して貰ってもよろしいでしょうか」
頭を下げながら聞かれ、健悟は頬を釣り上げた笑顔を向けて両手を上げると、お姉さんは台座の向きを変えて試しに自分の両手を置いてみる。
だが、問題無く台座は起動。指先のちょい上あたりに出来ている隙間から、液晶画面の様な物が立体となって宙に浮かんだ。
これまた、全く読めなかったりするのだが多分これがステータス画面だろうか。
結構近未来な設定で制作されてるんだなあ、と半ば感心した様子で浮かんだ液晶画面を眺める。
ということは「故障」じゃないってことは、明確に分かってしまったわけで。
「申し訳ございません、ケンゴ様。お手数ですが、別の台で試していただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、ハイ。大丈夫ですよ」
受付のお姉さんは、幾度か頭を下げてその場を立ち去ると奥から一目見ただけで分かる、今さっき封を開けたばっかの新品を目の前に提示する。
それから、行った工程は先ほどと何一つ変わらない。
カードを差し込み、両手を置いてしばし待ち、隙間からステータス画面が提示されるのを待つ。
だが、器具を新品にしても尚ステータス画面が顔を出すことは無かった。
「……」
お姉さんが口に手を当て押し黙る。
一方、エンゼルの方はどうやら状況を掴めずにいるようで小首を傾げていた。
「これは……大変ですね」
お姉さんが段々と神妙な面立ちになっていく。
やばい、二ヤケが止まらない。今まで、営業スマイルを崩さなかったお姉さんが笑顔を見せない。ということは、素で驚いていることは確実なのだろうが、早くその驚いている事実について述べてほしい。
じゃなきゃ、傍から見たらただ二人のお姉さん見て喜んでいるクソ餓鬼にしか見えないし、絵面がひどい。
零れ出る笑顔を必死で右手で受け止め、此方を訝しく見つめる二人の女性に目だけは真剣なふりをする。
そして、熟考を終えた末、困惑した表情を崩さぬまま憐れむような目線で健悟を見つめ、
「魔力そのものを持っていないなんて……」
「……へ?」
釣りあがった頬が凝固した瞬間を肌身に感じた。




