第37話≪ぶち込む拳≫
駆けてる間、健吾は自分のアイデアを2人に伝えていた。
最終的に口の中に鉱石をぶち込めれば流石に倒せるだろうと考えていた。だが、左の頭でも右の頭でもなく、真ん中のライオンを倒さなければ終わらないのでは、という仮説にたどり着く。
理由としては、3頭が同時に攻撃してくることはなく、必ず一頭だけが放ってきていた。
つまり、3つ頭があるが思考をするのは一つなのではないかと、そう考えた。
そこで、真ん中に位置するライオンの頭。
あの頭は俺らがどこにいても一番視線を追ってくること、視線が見切れた時に遅れて左右の頭が動くことが、この時健吾はわかっていた。
でなければ、行動を起こす際にほかの思考と喧嘩になりまともに攻撃できるはずもない。
更に、中々アイツは頭が悪い。
壁が脆いというのは分かっているはずなのに、変わらず火力の高い攻撃をしてくる。
ただ、連発してこないあたり、連続で打てないか、加減をしているか、のどちらかになるだろう。
だが、どちらにしろライオンの火球を引っ張り出すのは難しくないと考えていた。
「とりあえず、作戦はこうだ――」
煙が立ちのぼる鉱石を集めて、 ベスティアに袋をそれに入れて持たせて指定位置で発動。走り回りながら自分で持つことで視界を奪ってもらう。
レオには、爆発する鉱石を一緒にばらまいてもらい、その後俺に擬態して、囮になってもらう。
こうすることによって、キメラは俺が奴の体に鉱石をあてて回り、視界を奪っている。つまり足元をうろついているものだと考えるだろう。
そこで、止めに俺の姿に擬態してもらって、視線を下に落としたことにより上からの意識を薄れさせる。
最後、俺を空中から落としてもらい、それを口に放り込むって算段だが―――まあ、話してて命懸けなことが多すぎて、説明してる自分が一番参ってる。
なんだか、感覚が麻痺っているのだろうか。
何度も命のやり取りを繰り返すと案外慣れてしまうのかもしれないな。
そう、自分に笑いかけると、その作戦途中でレオが眉をひそめた曖昧な表情を見せた。
健吾は不思議になって尋ねようとしたがキメラが動きだし、体が宙を浮いた。時間がない、だが、予定に問題なし。
話しながら回収した鉱石の数も凡そ問題ない、足りない分は煙に巻かれながらこっそり集めよう。後は、1番でかいのを探して放り込むだけだ。
健吾はそう意気込んで、手に掴んだ白霧が舞う鉱石をめいっぱい放り投げて奴にぶつけて、
「わっ、おいなんだこれ眩しっ、光ったぞ!」
思わず動揺せずにはいられなかった。
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「はっはっー!! やりぃ! どうだァ!」
健吾は自由落下をしていく中、嬉しそうに喜び、レオに救助してもらう時に誤って舌を噛みそうになる。
足に掴まれて、宙ぶらりの隣には仕事を終えて満足そうなべスティア。
爆発して悲鳴をあげているキメラを嬉しそうに罵っている。
いや、言葉が分からないので罵ってるのか分からないが。
と、壁の崩壊が本格的に始まった。さっきのがようやくトドメだったのだろう。
むしろよく耐えたものだ。さすが地下世界に広がる秘境といった所か。
穴をめざして上昇していく中、健吾は下のキメラを見下ろし軽い挨拶をしてやろうかと思っていた。
―――その時、一頭のキメラの頭がぐるりとこちらを向いた。
狼頭。明らかに意志を持ってこちらを見ている。
これはまずい。読みを違えていたか。
いやもしくは考えないようにしていたのかもしれない。あれは、ライオンが操作していたのではなく、たまたまライオンだっただけで、本当はどの頭でも指揮系統の権限を持っていて―――
狼頭が此方を見上げて、短く空気をためる。
――まずいッ、空中でうまく避けられる可能性は低い。
少なくともベスティアか俺のどちらかは当たる可能性がある。
避けられない――健吾はとっさに顔を覆った。だが、その弾丸の先は三匹を掠ることなく、明後日の方角へ。音の違和感に健吾は思わず、顔をすぐさま上げる。
当てられなかった? いや、ダメージのせいか。それともやはりただのバカ……
健吾は、顔を上げて着弾点に目をやると言い知れぬ失望感が漂った。いや、失望を超えて尊敬をしてしまったのかもしれない。
彼は決してバカではなかったということだ。
先ほどまで目指していた出口が見事に塞がれていたのだ。
「なっ…!」
これにより、3人が入るほどの穴が閉まり、絶望的状況となる。そんな中、狼頭は嫌らしく微笑んだ。
まるで弱った獲物を部屋の隅へと追いやり、捕らえようとする捕食者の目線。
再度口を膨らませ、俺らにターゲットを絞る狼頭。
だが、その視線を捕らえる寸前に下降して、視線から消え、大きな拳を生成して形が変わる勢いで狼頭にぶち込んだ。
それには、2人して目を丸くしていた。
これ程の威力がある癖に今まで俺たちは何を頑張っていたのだろうか。というか俺らが邪魔してただけでレオひとりでどうにかなったのではないか。
思わずその思考が過ぎるか、そんなことはつゆ知らないレオはとても満足そうに拳を戻して上昇を続けた。
穴までの距離はレオの飛行能力をもってすれば、崩落には間に合うのだが、問題は通れるかどうかだ。
先程の要領で破壊したら何か起きるかもしれないが、高確率で生き埋めになる。
何より穴は潰すより拡張する方が難しいのだ。
どうする――――どうする…!?
遠くから見るだけでも穴の大きさはべスティアが入って万々歳ぐらい。間違いなく俺は無理だ。
時間もないし、決断は早くなければいけない。着いた時に決めるぐらい、早くしないと…。
だが、どうする? 今のところ良くも悪くも1つしか思いつかない。小さな穴を抜けるのに、どう考えても邪魔なやつが一人いる。
レオは形を変えられるし、どうせ抜けられるだろう。
望遠鏡で覗くように穴がどんどん近づいてきて、思考の速さと近づく速度が噛み合わない。
とにかく時間が無い。とにかく考えるだけの時間が…………
どうすれば――――




