第35話≪あの爆発は≫
レベル差があるのは承知だったし、体格の大きさからくるハンデも了承していた。
だが、これほどクソゲーじみてるとは思ってもいなかった。まるで攻撃が見えない。
前で構えていたレオも反応が間に合わなかったようだ。
次弾を構える熊に健吾は、思考を巡らせていた。だが、そんな考える間を与えるわけもなく、熊のくしゃみが始まろうとする。
その時、レオが一瞬にして液状化すると健吾の両足に纏わりつく。
あまりの気持ち悪さに悲鳴を上げる健吾だったが、そんなのお構いなしにまた視界が吹き飛ぶ。
今日何度目か、そろそろ頭がおかしくなりそうだった時に健吾は驚愕の光景を目にする。
視界の前方に広がるのが、今までの煽りの光景とは変わって俯瞰の画。つまり、キメラを見下ろすような視線になっていたことだ。
キメラも突然視界から消えて、左右を見渡しているが気付いていない。
健吾も、驚きながら足を見るとそこには、見たことのない黒いブーツ。
そして靴底から血液のように壁に張り巡らさた黒い線が走っている。
健吾は、状況が状況なだけに、アドレナリンが出ていたのか。こんな最中とても興奮をしていた。
「これ、レオか……!?」
思わず、声を漏らすが返答はない。
というか、そんなことより下半身だけ急に動いて腰がめちゃくちゃ痛いのと、俯瞰の光景。つまり宙ぶらりんの状況。
段々と頭に血が上り始めていた。
すると、その声に気付いてかキメラの尾にいた蛇たちがこちらに気付き、三つの頭がこちらを瞬時に振りむいた。
やべ、と短い声を出した後、足が天井から離れて自由落下をする。
突然のことに驚いてレオの名前を呼ぼうとすると、今度は体を這って全身に纏わりついた。
着地する寸前に両手から黒い槍のようなものが伸びると地面に突き刺さり、急ブレーキをかける。
短い悲鳴を上げて、肩が脱臼するかと思ったが、腰の時同様激痛程度で何とかなりはした。
「ギブギブ。このままだと俺死んじゃう」
かすれた声を上げて、レオが離れた健吾は地面に落下する。
そんな高くはなかったがかなり痛かった。レオの底が知れなかったとはいえ、お互いに体のキャパを理解できていない気がした。
だが、そんな相談会をする暇はなく、とにかくレオに助けてもらって逃げの一手。
注意がベスティアに向いてはいないとはいえ、いつか死んでしまいそうなぐらい非力な逃げ方をしていた。
どうするべきかと悩む暇もなく、再度攻撃が飛んできて今度はレオが健吾のひざを折る。
理解する間もなく視線が崩れ落ち、瞬く間に何かが顔の前を通る。
健吾はもう何が何だかわからない中、九死に一生のやり取りで冷汗がだらだら。
弱気を見せないという唯一の信念だけで、体を動かしていた。
と、その時、また理解する間もなく今度は背後から強烈な風が舞い込んだ。そして、また時間を空けずに今度は白霧。何の攻撃かと思い、動揺するがレオが背中へと移動していた。
「これ、どうなってんだ?」
小声でレオに尋ねるが、背後から手が生えて、横に振る。わからない、という合図だろうか。
だとしたら、奴の攻撃しかありえないが……何かおかしい気がする。
数センチ先も見えない白霧だし、これでは向こうも見えないはず。
相手には見えてるのなら、話は別だが――――
健吾は何かに気付いてすぐさま伏せた。相手には見える、それはつまり視覚ではなく嗅覚でも同じこと。
匂いが分かってしまえば、居場所は見えてるも同義。健吾はそれを警戒した。
だが、この状況。実はキメラは鼻を使えないでいた。亀裂から地上の匂いがかすかに漏れ、さらに土煙のせいで健吾の位置が大体しかわかっていない。
所かまわず襲うのも手だが、この時キメラは得体の知れないレオという存在に、野生の感からむやみな行動は起こせないと躊躇っていたのだ。
だが、それに気づかない健吾は、ただただ這いつくばっている。
まったく変わらない戦況。だが、健吾には攻撃のカードはない。ただ好機を狙うのみ。
その時、頭上を空を切る音と背後で破壊音が轟く。目を開いてなくても、状況は分かる。
だが、同時に不思議に思った。なぜ、屈んでる自分に当てられなかったのだろうと。
と、そこへ幾つかの破片が体を跳ねると同時に綺麗な水晶が完全を転がる。他のとは全く別物のの薄黄色の水晶の塊。
――健吾は、それを一目見たとき既視感を覚えた。
見たことある形、白霧、謎の爆発……エンゼル、さん……?
何日前かの記憶。鮮明ではないが、あの緊張感は嫌でも覚えていた。
確か、ディルゲートさんが助けてくれて、
―――思い出した。秘境に入りたての頃に見つけた、アッシェ鉱石だ。
あの謎の爆発は、あの鉱石によって引き起こされたものだったのか。
だが、なぜ自分が握ったときに爆発はしなかったのか……?
と、そんなことを考えている間に霧が段々と割れ目に吸い込まれていき、キメラの顔がちらつかせる。
不味い、と察する間にレオが動く。霧を割いて振り下ろされる右手を巨大化した手で応戦。
だが、体格差の問題で半分も威力を押えられず吹き飛ぶレオを庇う形で転がる。
土煙を上げながら、中腰で止まった時にはいたるところから擦り傷が、そしてレオの右手が大きく形を崩して地面に垂れていた。
「お、おい! 大丈夫か?!」
……返事はない。気を失う、という概念があるのかは知らないが目をつむっている。
その時、顔を覗こうと持ち直したときまた煙に包まれた。
今度は抱えていた右手から噴き出す。
また雲隠れしようとする二人に対し、キメラはいい加減に腹が立ったか、煙が立ち上がりきる前に狼が生暖かい強風を吐き出して、吹き飛ばした。
健吾とレオはまたしてもむき出し。加えて、レオは動くのも難しい状態。
何度目といったピンチか。
誰もが諦めるだろうという、状況にいながら健吾は―――嫌らしく笑みを浮かべた。




