第30話『裏側≫
__思えば、あれがすべての始まりか。
アカキィがいなくなって、暫く何も手につかなくて、スギヤマさんの話聞いて……『エターナル』を手にすればと思って……。
_____俺っちは間違えたのか……?
無情に奪われる命をどうにかしたかった、たすけたかった、でも……手のひらは小さかった。
……バカのことを考えなければ、誰も死ななかったのか……?
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俺っちが、たまたまエターナルの在りかを見つけて、入ってみたはいいものの肝心のエターナルが取り出せない。
ならば、スギヤマさんにこじ開けてもろおうと、軽くけしかけて今度見てもらおうとしていた。
そんな時、別の人間『健吾」が現れた。
人間のくせに敵対心も力も弱かった。だから全く警戒してなかったが、彼にはひらめき力があった。知識は乏しく戦闘能力も低かったが、今作戦において侮れない存在。
だから、作戦の決行を遅くする予定だった。
とりあえず、スギヤマさんがエターナルを取り出せればよし、だめならまたほかの手段を探すまでだった。
……だが、そんなときに悲劇は起こる。
スギヤマさんの所在を知ろうと家に寄ってみたところ、彼の姿がなかった。
本当なら、健吾が寝てるうちにエターナルに尋ねるつもり(最悪、寝首を掻くつもり)だったが彼の好奇心を舐めていた。
鍵はサイコキネシスで長い年月かけて解いたのだが、軽いロックしかかけてないため、こじ開けられる可能性がある。
それはまずい。彼ほどの者なら簡単にエターナルをこじ開けてしまうかもしれない。横取りするつもりがこのままではまずい。そう思った最中、ガロールとツェーリンが着けてきていた。
二人は、最近こそこそしているリッキーを気にかけ、相談するように促してきた。
だが、ここで答えるわけにいかない。どうにか振り切って地下へと向かおうとしたが、突如、ギュリエス種の介入が入る。
アカキィのことで怒りがこみ上げそうになるが、歯が立たないリッキーはどうすることもできない。
だが、どうやら様子がおかしい。
寝込みを襲うならまだしも、正面切って襲ってくることは今までなかった。
理由としては、彼らがそもそも正攻法で戦うのを好かないことと、ガロールの体格を警戒しての行動だった。だから、こうして正面にいるのはおかし……
いや、様子が妙だった。目が虚ろで体中から血が噴き出したりしてる。体のバランスもおかしい。
健全ではないのが確かだった。
そして、その刹那。ガロールが襲われる。
鋭い牙が方に食い込んでいるガロールの表情が歪んでいる。
同様のあまり、脳がパニックする最中ツェーリンは冷静に逃げるよう伝えた。
もちろん。死ぬほど嫌だった。
だが、死にたくなかったし、どのみち足手まといは目に見えてる。だからスギヤマさんを呼び出すことにした。
スギヤマさんを呼べば助けてくれる。みんな助かる。そう自分に言い聞かせて。
だが、ちょっとすぎた直後。ある破壊音が聞こえた。
即座にチビのものだと理解した。
もう、その時にはリッキーの頭にエターナルは消えていた。
スギヤマさんのところに向かうよりも、二人が助かることだけを祈った。
____だが、間に合わなかった。
泣きじゃくる健吾の声が聞こえ、リッキーも涙を流しながら部屋に入り、嘘をついた_________
それからは、まさかのユグドラシルの登場により、エターナルの問題は解決。
あとは、開き方を聞き出すだけだったが単純に聞いても教えてもらえるわけはないのはわかっていた。
だから、スギヤマさんを利用した。敵がいれば、警戒心はそちらに向き、こちらが薄まる。
恨みはなかったが、皆を救うため仕方がない行為だった。
二人にはスギヤマさんの犯行であるよう印象操作し、ユグドラシルがぽろっとこぼした瞬間。閃光で目くらまし。
あとは、エターナルを手に強いやつらを殺して回り、二度とアカキィみたいな犠牲者を出させない目論見だった。
「もういいだろ、茶番は。俺も答えが聞きたい······なぁ、リッキー」
………。
きっと、ここで俺っちの考えを言っても理解してくれないだろう。
「流石。大正解だヨ、健吾」
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「まずは、杉山さんの事。お前は杉山さんが死んで生まれ変わったところを見ていないと言っていたが、ガロール曰くお前らは生きていた杉山さんを見ていないんじゃなかったか?」
……あぁ、そういえばそれ間違えたなーって思いながら言った気がするな。よく覚えてるな健吾。さすがだ。
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「·······随分と過大評価してくれるじゃん。それじゃあ、その評価の褒美ってことで1つ尋ねたいんだけど答える気はある?」
聞け聞け。
これでお前と仲良く話せるのは最後かもだしな、健吾。
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「ーーーガロールとツェーリンの件だ。まず、お前は『いつもの寝床』で襲われたと言っていた。けど、2人が居たのは俺と杉山さんがいつもいる1階········話が矛盾してる。となると答えは1つ。寝床ではなく、1階にいてガロールとツェーリンを殺した後に魂を引っこ抜いてゾンビにさせ、俺を襲わせようとしたんじゃないか?」
・・・二人のことで疑われたくなかったな。
正直、健吾ならそれはないと信じてくれてるかもと思ったが……いや、その目。疑ってはいるがどこかでそれはないと断言してくれてるんだな。
…………。
「ーーーバカなんだよ。アイツらは」
本当に。みんな大馬鹿野郎だよ。
俺っちのしてることなんて気にしなきゃいいのに。気ぃ使ってくれなきゃよかったのに。
そしたら、少なくともお前らは死ななかっただろうに。
健吾……お前も大馬鹿野郎だよ。
ほんとは、殴りたいんだろ?
拳がいたそうだ。
だが、殴れないんだろ。勝てないっていう答え以外にもまだ、どこかで信じちまってんじゃねぇか……?
俺っちらのあの三日間をよ……。
「健吾、すまねェナ________」
直後、リッキーの五感はまるで無重力のような感覚に陥って、体の内側から霧散したようだった。
その後の記憶はない。
真っ暗な空間と、無音の世界。誰もいなければ誰の声もしない。
孤独で、独りぼっちで、静寂な___________
____________。
…俺っちは、どこで間違えたんだろうか。
地下世界に来たときから? それとも、アカキィと出会ったときから? エターナルを知ってから?
……それとも、生まれた時から? 力がなく、生まれた時から襲われる運命が決まっているあの時からか……?
……。
変な夢物語を見なければまだみんな無事だったんかな。
変な悪役気取って自己犠牲を持ち込まなければみんなで暮らしてたんかな。
……。
父ちゃん、母ちゃん。俺っち、何が正解かわからなかったよ。
あのまま奪われたままひっそり暮らしてたほうがよかったんかな。それとも、立ち向かうのが正解だったんかな。
ガロール、ツェーリン、アカキィ…………………
「キィ――――」
真っ暗な暗黒の世界。音も、香りも、光も見えない中で心に語りかけるように聞こえる声。
どれだけ、その声をまちわびて生きていたか。
第一声、たったそれだけでそれが誰なのか分かった。
!? アカキィ、お前か!? お前の声なのか!?
「キィー!」
あぁ、聞こえるぞ! お前の声が聞こえるぞ!
「キィキィ!」
嬉しそうな声。あの頃の無邪気で、わがままで、愛くるしいあの時のままの声。
体の底から込み上げるものがある。
涙が出るはずはないのに、目頭が熱い。錯覚かも知れないが、錯覚だと信じたくないほど現実的だった。
聞こえる……聞こえる、ってことは、やっぱり。俺は死んじまったのか……?
耐えられなかったのか。俺っちの肉体は。
そうか、そうだよな。体小さかったし……弱かったから。
結局、誰も守れず傷つけちまっただけだったんだな……。
「そんなことねーよ。リッキー」
真っ暗な世界から再び声が聞こえる。
「が、ガロール!!」
彼は、嬉しそうに喉を鳴らせて吠えた。
「お前は昔からそうやって一人で抱えん混んでたよな。知ってたぜ、そんな風に悩んでたの」
顔は見えない。どんな表情も、思いもしているかくみ取りにくいが心で理解出来ていた。
優しい、声色のガロールだった。
「す、すまなかった! 俺っちが変なことしなけりゃお前は、お前は……っ!」
「あれはお前のせいじゃなかったさ。なるべくしてなった結果だ。ツェーリンも、お前を恨んだりしてねーよ
「あぁそうだと桃桃桃」
ツェーリンの声も聞こえる。
「ツェーリン!」
「リッキーの行いが正しいとは言い切れない画画画、僕は尊重する世世世。アカキィの件で、一番悩んで、苦しんでいたのはリッキーだったから寝寝寝」
二人の声が心の奥に浸透していくように伝わる。これは、自分の幻聴か? それとも本人達の意思か? それはわからない。だが、間違いなく心を埋めていく何かを感じていた。
「俺っ、俺っちはお前らに伝えたいことがっ……!」
おいおい、と鼻で笑う調子でガロールが話す。
「こっちに来るのはまだ早いぜリッキー。自分でやった始末だ。お前がケツ拭いてこい。そしたら、死ぬほど聞いてやるよ……あ、死んじちまってるか」
「僕たちはここまで打打打。彼によろしく名名名____」
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ぼんやりと霞んだ視界が瞳を開く。
体が嫌に重い。まるで岩石に挟まれているような、重荷を乗せられているかのような感覚だ。
しかも、視界を何度も横切る物体がある。
詳しくはわからないが、なんだこれは……
……悲鳴が聞こえる。
物体の間を何かが潜り抜けているな。
なんだあれは……
今いったいどういう状況だ?
二人の声が聞こえた後、視界が急に開き始めて……
今度は、嫌な声が聞こえるな。
これは忘れない。ギュリエス種のやつか。
死んでもこの声だけは覚えているからな。
……ギュリエス種が視界を横切ったな。
何をしようとしているんだ?
なんだ?
何を忘れてる?
なんだ? 誰だ?
「______彼によろしく」
彼? 誰のことだ?
あの姿……。
リッキーの視線の先。それは、縫うように飛ぶ姿の物体。
手を伸ばしても届く場所におらず、遥か彼方。
何もできない。力及ばない。そんな、思い。
その瞬間。手の届かなかったあの瞬間と重なった。
息子を守るために突き落とされ、どんどん離れていく何もできない自分。
己の無力さを呪った____
「テェ……ダァ、スナ………」
瞬間、一本の鋭い触手がリッキーのところを飛び出し、ギュリエス種を捕まえ、枝分かれした先端が出口の岩を刻んだ。
その様子にチビは視線を下に向けリッキーを見ると暗がりの奥に埋まる、リッキーの瞳をとらえる。
依然と、何も変わらないその美しい黄金色。チビはその瞳を見続けて、視線を戻して出口へと消える。
大した別れは言えなかったが、自分にその権利がないことはわかっていた。
だが、これで心置きなく。みんなのもとに行ける。
あの時、何もできなかった後悔を。
少しは、晴らせた気がするから____
______崩壊の音が、辺りに響いた。




