第29話 『赤毛のアカキィ』
今日も相変わらずの晴天。
なれたかどうかでいうと正直まだ慣れていない。
感覚? が狂うっていうのか。目が覚めても晴れ、寝る前も晴れで体がまだ睡眠状態に入ろうとしない中無理やり床に着く。
そのせいであまりすっきりとした睡眠はとれないが初期のころと比べれば比較的にマシになったと思う。
リッキーは重ねた草の屋根を除けて、差し込む光に思わず目を伏せる。
……やはり、この明るさだけはまだ慣れない。
「んぁ、なんだ……もう起きてたのか……リッキー」
ガロールが目を覚ます。
寝ぐせ(?)がいろんな方向にと散らかっていて、別のモンスターみたいだ。これが、夜中なら飛び上がってたかもしれない。
「スマネェナ、マブシカッタカ」
「ん……どのみちそろそろ起きる時間だろ。ツェーリンは……ほっとくか?」
「アァ、スイミンジカン、オレラヨリモヒツヨウミタイダシ、ソットシトイテヤレ」
あれから大体1か月は経ったか。
度々見かけていたツェーリンとはここ3,4日前から一緒に過ごしてる。
初めは、疑い深かかったが冷静に物事を見れるし、なにせ博識だった。食料の良し悪し、他種族の危険性と安全性を事細かく教えてくれたおかげで変なことに巻き込まれずに済んでいる。
そして、一緒に過ごしているといえばこいつも……
「キ、キィ……」
穏やかな表情で満足げに寝ている毛むくじゃらの魔物。警戒心がまるでない頭の数本が赤毛のベスティア種、アカキィだ。
アカキィとはその後の2日前ほどに出会い、一緒に過ごしている。なんでもはぐれたみたいで、独りでいるところを保護した。
初めは、他種族であり警戒したが、ツェーリン曰く戦闘能力が皆無であるということで親が見つかるまでの間の共同生活だ。
なんでも、治癒能力を持っているが、仲間に対しては効果が薄く他者に対して効果を発揮するらしい。なんとも不自由な特性だがその見た目と非力さから愛玩動物して可愛がられやすく、自然界では大体が餌にされやすい。
その話を聞いて、昔の自分を見ているようでほっとけなかった。
「ま、特徴的な赤毛もあるし、すぐに家族も見つかるだろ」
「ア、アア。ソウダトイイナ……」
リッキーはアカキィの顔を見て、自信なく頷いた。
この一か月、色々なことがあったが他にも出会いがある。
ツェーリンの紹介で案内された人物は、不思議な喋る木板。「スギヤマ」さんだ。。
何がすごいかといえば、木板だし、魔法が使えるし、結構強いし、何よりもと人間ってことだ。
初めは、人間は敵だと思っていたから警戒心丸出し。大体魔物が追いやられる理由って人間のせいだったりするが、スギヤマさんだけは別だった。
周りをよく見てるし、みんなに分け隔てなく優しく謎の変な物体ですら贔屓しない。
ここまで情に厚い人物は初めて会ったくらいだった。
それに、彼を心の底から信頼したのはある事件がきっかけだ。
と、その話をするにはまずギュリエス種の話が必要だろう。
この地下世界で数少ない肉食。とりあえず嫌な奴だ。地上を追われてか、それともここを嗅ぎつけたかは知らないが、三匹の群れとなって徘徊している。
一度、スギヤマさんに対して倒すようお願いをしてみたが、ここの管理者でもない自分が、生きるために他者を食らう肉食動物を殺す理由はない、と取り合ってくれなかった。
けど、身の回りで、手の届く距離で、もし襲われたら必ず助けてやる、とそれだけは約束してくれた。
初めは、正直その言葉に信用が持てず疑っていたが、驚いたのはある日。寝込みを襲われた時のことだった。スギヤマさんとの距離はかなり遠く、期待ができないときに4人は襲われた。
真っ先に強そうなガロールが寝込みで襲われそうになったが、野生の感で何とか喉元は防いだ。
次にリッキーはサイコキネシスで目くらまし、九死に一生を得たが、隠れていた三匹目がツェーリンを襲った。
その時、一本の針がギュリエス種の眼前を横切る。その針は、地面に突き刺さると半分ほどめり込み、周囲に一切の亀裂を起こさない。驚異の貫通性を見せつけた。
その威力に目をひん剥いたギュリエス種は尻尾を巻いて逃げだし、九死に一生を得た。
『お、大丈夫だったか? 到着が遅れてすまんな。嫌な気配感じて、放ったが……まあまあ誰も怪我無くてよかった』
遠方から聞こえるスギヤマさんの声。
四人の脳に直接語り掛けているかのようだったその声。強さ、信頼性、カリスマ。
リッキーをトリコにするのに時間はかからなかった。
そんな日々を乗り越え、ようやく安定した日々が始まっておよそ半年。
散歩をしては、風呂に入り、木の実を食らってはスギヤマさんと話をしたりしていた。
アカキィとはリッキーが一番仲良くなり、散歩をするときもいつもべったりだった。
ベスティア種が愛玩動物とされる理由が、可愛さ以外にも訳があるのだがこれが実は厄介だったりする。彼らはどんなに勉強しても、成長しても言葉を発せなかったのだ。
しかも脳能力が低く、個体によっては話が理解できないものいるらしい。しかも、声帯が生まれつき弱く、掠れるような「キーー」という音しか出ない。
アカキィはその中でもかなり悪いほうだった。
仲間同士では伝わる何かがあるらしいが、他種族と共存が難しいのはそこであり、その点がリッキーは苦しんだ。
ドウダ? ハラヘッタカ? とか、オマエハドッカラキタンダ? とかを聞いても全部キーしか返ってこない。喜怒哀楽はわかっても会話ができない。
そのうえ、目を離したらどこかに消えるし、いたずらが大好き。そのうえ、元気で走りまわるし、飯はよく食うし……。まあ、それが可愛かったりした。
だが、このままではまずかったので腹が減ったらお腹をさする様教え、眠くなったら目を隠すように教えたり、身振り手振りで伝えさせるよう必死に努力した。
そんな生活を続けていたある時、ガロールと二入でほかのベスティア種を探しに行くことにした。
大体がだめだというが、個体によっては頭がいい個体もいるらしく、もしかするとアカキィと会話ができるかもしれない、運が良ければ家族が見つかると思った。
二人は、さっそく出発することに決め、アカキィが眠ってる間に探すことにした。
起きてる間に連れまわしてまた迷子になられても、滞ってしまうので、起きないうちに。と
ツェーリンはスギヤマさんのところに行ってるが、すぐ帰ってくるだろう。
……そうだ! ついでに、前から教えてくれていた七変化の滝のところ行ってみるか。今日がお酒だといいな。どんな味か気になるしなぁ……
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リッキーは意気揚々としていた。
頭のいい個体は見つからなかったが、別のベスティア種と出会えて、好物を教えてもらった。帰りに見つけたのでアカキィに上げたら喜ぶかなぁ。と思っていた。
そして、次いでに七変化の滝にも行った。今日いってみたら酒ではなかったが、なんと滝の色が七色だった。飲んでみたら、甘くも苦くもなく、それでいて鼻から抜ける匂いが何とも言えぬ味わい。
おいしいか尋ねられたら、回答に困るが、もう一度飲みたいかと尋ねられたら、必ず頷いてしまう何ともいいがたい中毒性を感じていた。
いい日だった。アカキィも喜んでくれる。
そう、
いい一日すぎたのか。
俺っちが幸せすぎたからアカキィがひどい目にあったのか。
だったら、俺っちを殺してくれ。
アカキィは何も悪くない。ばかでおっちょこちょいだけどかわいいやつで、ただただ食いしん坊なだけだった。
……殺してくれ。
アカキィじゃなく
あいつを独りぼっちにさせたまま……
置いて行ってしまった。
俺っちのことを
殺してくれ_____
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アカキィの墓は貧相なものだった。
亡骸の上に砂をかけて、小さな木の実を植えてやった。
それは、アカキィがよく口にしていた木の実で。アカキィが忘れ去られないように、新たな木として、この世に根付かせるためだった。
あの後、ツェーリンが着いたのは二人の後。犯行はギュリエス種の可能性が高かった。大きな牙と爪痕。見るも無残な姿だった。
スギヤマさんはその時、二人も基地にいるものだと思って警戒していなかったらしい。
……これは、ツェーリンが早く帰ってきていたらこうなっていなかったのか?
……スギヤマさんがずっと警戒してくれていたら?
……いや、俺っちが気を緩ましていたせいか?
……誰、誰の、せいなんだ。
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瞬間。両親の最後の影がよぎる。
弱者。力。家族。涙。友。敵。力。味方。血。知能。力。
様々な雑念と思い。
いろんなものが大波となって吹き荒れる。
そして嘆いた。
己の無力さに。
憎んだ。
己の脆弱さに。
怒った。
この世の不条理に。
そして、決意した。
力を、
守る力を、手にすることを。




