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異世界で村人A  作者: キリン衛門
地下世界編
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第26話《卑怯者》

 余韻とともに消えた絶叫の後、まるでそれがトドメであったかのように地響きが始まった。

 辺りの瓦礫に手をかけて何とかよじ登り、周囲を見渡せるポイントまでたどり着く。

 360度見渡してみると、壁の至る所に亀裂が走っている。


 杉山さんの言っていた『崩れる』って言ってたのは、まさにこのことか。


「きー、きーっ」


「あ、あぁ、そ、そうだな。どどうにかして出ないと·······」


 心配そうに身振り手振りするべスティア夫婦に言葉を投げかけるが、その握りこぶしに汗がにじんでいた。

 誰も頼りが居なくなった状態で引っ張るのは自分しかいない。

 果たして、自分にその役目が担えるのか? 力不足なのではないか? と、疑問が沸きあがる。


 だが、彼らの表情を見た時。間違いなく自分しかいないのだと痛感した時、締まりのない表情を浮かべながらも心の奥底で決心を付けようとしていた。


 とにかくべスティア夫婦を連れて、チビも連れて、ここから離れよう。


 けど、どこに逃げる? ココが崩壊しても大丈夫な場所······家は絶対無理だろうし、地下の地下はリッキーが天井壊してしまったし、そもそも崩壊に耐えられても地上に出れるのか?


 健吾が頭を悩ませる中、亀裂はどんどんと進行していく。

 そんな中で、舞い戻ってきたチビ。


 従順になった、という訳では無いが健吾の隣に座り込んで指示を待っている。

 杉山さんの残した遺言を守り抜こうとしてるのだ。


「きー······っ! きーーっ!」


 べスティア夫婦が悲鳴をあげる。

 隣を見ると、瓦礫のひとつが落ちてきたみたいだ。べスティアサイズ並にあるので相当怖かったのだろう。

 二人共仲良く抱き合って、つま先立ちで竦み上がっている。


 早くしなければ。

 そう気持ちが逸り、冷や汗が垂れる。


 モタモタしていたら、全員瓦礫の下敷き。

 指示を出せるのは自分だけ。

 自分の発言ひとつで生死が決まる。

 決断を下すのは自分。

 遅れればその責任は自分。


 自分。責任。決断。指示。死。生存。



 今まで、他人の指示ばかり仰いできた健吾は、この状況が酷く息苦しかった。

 何も考えず、他人に合わせるのがどれほど楽であったか。命を背負う立場とはどれほどに重いものなのか。


 16年生きていた彼にとって、今までにない経験だった。


 だからこその恵みか。それともただの偶然か。何はともあれ、辺りを見渡す視線の先に過去の記憶と結びつけるあるものを見つけた。


 それは、ここに来る時にきた入口。

 この地下世界を初めて目にする時に来た入口だ。


 あそこなら、横穴になっているし崩壊から逃れられるかもしれない。

 そう思っていた健吾の思考は馳せる気持ちが強く、見つけた瞬間、無意識のうちのに叫んでいた。


「あそこだ!! チビ、運べるか!?」


 目配せと指差しで即座に合図。


 そして、流石というべきか。

 有無を言わずに脅威の反応速度で、両手で健吾を掴み、片足ずつでべスティア夫婦を掴んだチビは即座に上昇した。


 準備も上昇のアソビの部分も無かったが為に、体がえげつない勢いでくの字に曲がり、短い悲鳴が上がる。

 べスティア夫婦も同じ反応をしていたが、俺よりも掴まれた体制が悪く、片方は宙ずりになっていた。


 3人とも急激なGがかかる中で、チビは右斜め前方からの落石を目撃していた。

 又も反射神経で即座に反応したものの、その時に身体が半身になったので、乗車中の3人は振り子状態。


 下手なジェットコースターよりも圧倒的に怖い上に、そのアトラクションは安全装置なし。

 失敗すれば、地面に直撃or落石による頭骨粉砕の地獄が待っていた。


 だが、雑ながらも不思議な事に回避率100%の操縦者は、危険運転をしながらも未だにかすり傷の1つも付けずに走行している。


 上昇と速度を上げつつ、右へ左へ避けていく中で唐突、頭上から暗がりが指す。

 位置的にハッキリとは見えなかったが、予想ぐらいはつく。規格外のサイズの落石だ。


 4人の中で唯一目視できたのは、チビ。

 本人なら全く痛くも痒くもないだろうが、他3名は違う。食らったら間違いなく即死だ。


 そんな咄嗟の状況でチビが行ったのは、当然落石の範囲からの脱出。

 だが、空中でそんな機敏な動きもできないため、苦肉の策として投擲が行われた。


 とどのつまりどういうことかと言うと、前方向にGがかかっていた3人が突如、左方向にえげつない勢いで方向転換。


 視界はえげつない事になり、強風で目が乾きそうになるのを防ぐ為、即座に視線を下に向けて回避。


 その時に写る眼下の景色と高度と浮遊感は、まるでスカイダイビングそのものだった。


 いや、パラシュートも先導してくれる人もいないから、飛び降り自殺みたいなものか。


「〜~~〜~〜~〜~〜~っ!!!!」


 べスティア夫婦も健吾も声にならない絶叫を上げていた。

 段々と降下を始めてる。

 もう、正直股事情がどうなってるか分からないし、多分顔は目もあてらないことになってる思う。


 その最中で目尻にあるものを捉えた。


 ギュリエス種だ。

 しかも、あの時のギュリエス種。その威圧感はゾンビになっても健在。

 高く積み上がった瓦礫の上に立っており、虚ろな目でこちらを見つめている。


 元々腐敗している体であったがさらに進行している。右肩の肉が抉れ落ちて、骨が剥き出しになっているのに当たり前のようにたっている。

 しかも、そんなことはお構い無しの鋭い視線。


 間違いなく、襲いかかる気だ。


 そんな懸念をしていると、当たり前のように予想が的中して、鋭い歯が襲いかかってくる。


 空中では避けれない上、地上であっても抵抗はできない。

 とにかく噛みつかれたらそのまま、地上に引きずり下ろされてしまう。


 健吾は目を見開いて両手で顔を守ろうとしたが、チビの反射神経の方が鋭かった。


 ギュリエス種を見るや否や、足の形を変化させてネコ科の足に変化させて体を縮こまさせる。

 そして、爪を落石に合わせてくい込ませ、引っかからせると、勢いを付けてコチラへと飛んできた。


 すると、こちらに飛んできていた鋭い歯が一瞬にして遠方に蹴り飛ばされ、浮遊状態であった3人をついで代わりに拾っていく。


 チビのおかげで命拾いはしたが、状況は何も好転していない。


 それどころか落下物の量は増えてるし、先程より高度が落ちている。

 これは、間に合うか間に合わないか、正直運次第と言ったところか。


 とにかく、出口を目指す以外選択肢のない4人はチビに全てを託して加速。

 後は、何事も起きない事と落石量の幸運を願うのみだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 右へ、左へ、振り回されるように移動しながらも着々と距離を縮める。

 その距離、僅か60M。


 初めと比べるとまさに目と鼻の先までたどり着いた所で、神様のいたずらの如くハプニングは起こる。


 まず、先程蹴飛ばしたギュリエス種の目覚め。

 見下ろす景色の中で起き上がるのを目にした。

 あの様子じゃ、まったく応えてない様子。


 だが、距離的にこちらのほうが半歩先ゴールに近い……はずだった。大きな音を立てて落石が勢いをまし、我々のところに振ってくるかと思われた。

 いや、正直降ってきてくれたほうがありがたかった。


 落石の向かう先は、なんと出口。出口の上の壁を崩して、塞いでしまったのだ。


 苦虫を噛み潰した表情をする健吾だったか、負の連鎖はさらに加速する。


 大きな物音とともに、下方に転がる黒い物体の存在が蠢いていた。

 リッキーだ。杉山さんの命懸けの攻撃を食らっても尚、生きながらえていたのだ。


 まさに、それ程までにエターナルが強力であるということか。


 ーーーー状況は考えうる限りの最悪なものだ。


「·······っ」


 健吾は眉をひそめながら、下唇を噛む。


 こう言った場合、まず何をすべきか。

 頭の中で案を絞り出して、優先順位を考える。


 やはりまずは出口を確保しなければ意味が無い。

 だが、あの壁を通るのにチビの力が必要。いや、チビの力じゃ開けられてもまた崩れてしまうだろうか。

 むしろ、崩壊を早める可能性まである。


 むやみに力を振るえない。


 他にも、その間は意識がそちらに向くため俺ら3人を必ず守れる訳では無い。

 下のギュリエス種からの攻撃は避けられないし、俺ら自身も空中では避けられない。


 何より、1番読めないのはリッキーだ。

 リッキーが行動を起こすのと起こさないとでは状況が雲泥の差。

 最悪の場合は全滅もありえる。


 後は常時落下の落石を避け続けなければならない。


 というかこれが一番厄介。

 チビは全く問題ないが、俺らが大問題な以上さっきみたいに守り続けなければならない。





 ______どうする。何をする。

 何をすればいい。


 なあ、杉山さん、ユグドラシルさん。


 俺はあなた達みたいに即決できない。


 んじゃ、何をすりゃいい。


 どうすりゃいい。



 何が答えなんだ。どうすりゃ答えなんだ。


 最善手って何だ。


 答えってなんだ。



 俺は、俺は_____



 そんな、葛藤と悶絶した中で自体は動く。



 飛び上がるギュリエス種。降り注ぐ無数の落石。身体が暴れだすリッキー。


 可能性と言う名の炎が消えゆく音がするーーーー



 絶望のふちで健吾が捻り出した答えは『気絶』というものだった。

 判断を下す者として、責任回避という最低最悪の逃げの答えを編み出して、意識を遠ざけて行った。


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