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異世界で村人A  作者: キリン衛門
地下世界編
26/51

第25話《リッキーとユグドラシルと杉山と》

 何も見えなず、何も聞こえてないと寝てる感覚ーーー


 ーーーいや、寝てる感覚って起きてる間分からなくねえじゃん。

 と、なるとこれってどういう感覚?


 表現難しいなこれ·······、ぼーっとしてる感じ? いや、ちょっと違うな。

 体は全部動くけど、何も見えない·······人形········あっ、いや人形は逆か。あれは見えてても動けねぇんだわ。


「いつまで目ぇ瞑ってんだ、早く起きろ」


 体を揺すられて、反動で目が半開きになり何となく風景に色がついてる気がした。

 そのまま、二瞬きして目を開くと視力が戻っていることに気づいた。


 もしかすると、もうちょい前から治ってたりしたんかな。


「くだらねぇ事気にすんな。とにかく緊急事態だ、もうあちこちガタが来てる。もうじき崩れるぞ」


 杉山に言われて、健吾は辺りを見渡すと先程の記憶とは全くの異世界具合に驚愕する。


 まず、密室だった部屋の上部分が開放的に。

 というか、穴の大きさが1.5倍から2倍近くに広がってる。

 それに、辺り一面の千切れた根と瓦礫の山。


 生存者を確認するため周りを見ると、姿のないリッキー、無傷のユグドラシル、遠方に座るチビ、顔の隣にある木板、そしてそれを持っているべスティア夫婦。


「ハハッ、お前たちも中々タフだなぁ」


「キキーーーっ!」


 二人とも、チョイチョイ擦り傷や血が滲んでいるが致命傷は無さそうだ。

 いつも通りの元気の良さがある。


【妬いちゃうね。出来れば私の心配もして欲しかったな】


「あ、すみませんすみません。ユグドラシルさんの事だからどうせ生き延びるかなって」


 ユグドラシルは乾いた笑いをあげる。


【まぁ、確かにいつもならこんなのなんて事ないんだけど、状況が状況でね。寝起きだったのと咄嗟に庇ったのが相まってもうじき死ぬと思う】


 健吾は思わず息を飲む。


「そんな、だってどこも怪我なんて·······」


【表面上はね。だが、皆に覆いかぶさった時に無理をしすぎた。もう内面はボロボロだ。ものの数分もしないうちに枯れて、息絶えるだろう】


 そう言っていたユグドラシルの右の頬が剥がれ落ちている。

 まるで、長年生きた老樹の幹が段々と剥がれていくように······。


「おう、ユグドラシル。死に際に教えろ。ああなった奴の止め方は知っているか?」


【手段は二つ。奴からエターナルを引っこ抜くか、摂取した本体を殺すしかない】


 杉山はなるほど、と呟くとボソリと


「まぁ、殺しちまうのが手っ取り早いわな」


 思わず息を飲む音が聞こえた。


「ま、待ってください!」


 反射的に杉山の発言に意を唱えたのは健吾。

 健吾は彼の木板に掴みかかりながら叫んだ。


「こ、殺しちゃうんですか? な、何とかなりませんかね·······? ま、まだ二人を殺した事についてはっきり聞けてないんですよ。さっきもまだ続きが言いたげで········」


「諦めな。ユグドラシルも瀕死。俺もこんな姿。わりぃけど手加減できる余裕ねぇんだわ。言ったろ? 難敵を倒すよりも超手加減する方が難しいって」


「で、でも········」


 健吾は食い下がった。

 ガロールとツェーリンを失った以上、もう友人を失いたくなかった。

 例え、悪いことをしようとしたのだとしても、まだ止められる、そう思っていた。


 それに、ガロールとツェーリンの件がもしも故意でなかったのだとしたらまだ誰も殺していないはず。

 屍の王がリッキーじゃなかったら、って話だけど·········けど、まだーーーー


「すまん健吾、ハッキリ言うわ。リッキーはもう助からん。身の丈にあってない力を手にした反動で体の組織が崩壊してる。例え上手く引っこ抜けてもエターナル無しじゃ生きれねぇんだよ。だろ、ユグドラシル」


【うむ·······。その通りだよ·······】


 健吾は眉をひそめ、口を幾度かパクパクさせながら、でもっ、もしかしてっ、と食い下がろうとした。


 だが、何個か案を上げたところで、ユグドラシルが背後を顎でしゃくった。

 健吾は不穏に思いつつも、ユグドラシルの指す後方を眺めた。


 度肝を抜かれた。

 そこに居たのは、至る所がボコボコに膨れ上がった黒い塊。

 大きさはユグドラシルさんよりも大きく3.4mほど。


 距離的には少し離れていてその場から動いていない感じだが、時々膨らんだりいくつかの場所が増えたり減ったりして、心臓のように鼓動している。


 これは一体なんだ? ーーーいや、分かっている。

 ただ、元の形より想像できない異形だけに数秒思考が停止した。

 これがあんな手のひらサイズの彼だったなんてーーー


「ーーーーもう、わかったろ」


 健吾は何も言い返さなかった。

 _____これから、救いのない友達殺しが始まる。

 ハッビーエンドはない。

 殺せても殺せなくてもバッドエンドが待ってるクソッタレなゲームの始まりだった。


「········っ」


「気持ちはわかる、俺も何度も味わってきた。頑張って乗り越えろ」


 杉山の声は優しく暖かった。初めての頃会った命を軽んじる者と同一人物とは思えないくらいに。


【········さて、というわけでリッキー君を仕留める方法を考えたい所だけど、その前にどうしても気になることがあるから死に際にいいかい?】


「おめぇ、死に際、死に際って案外死なねぇじゃねぇか。もう数分だったぞ」


 ユグドラシルはまた笑う。けど、先程よりもつらそうな様子だ。


【未練があると死にきれなくてね。今回の首謀はリッキー君だったが、屍の王は彼じゃなく、目的はエターナルだったと言ってたね?】


「はい、リッキーが言ってたことが事実なら」


【となると、明かりを消したのは誰なんだろうね。·········もしかすると、第2の黒幕がいるんじゃないかな。それが屍の王で、2人が手を組んでたりしたら納得いかないかい········?】


 これは、予想外の案が出た。

 もうこれ以上居ないだろうと思っていたから、その裏ということか。

 そう考えると屍の王のタイミングは納得いく。


 健吾は心の内に跳ね上がる自分と落ち込む自分を抱えた。

 何故なら、それが本当ならばこの中にまだ裏切り者がいるということになるのだから。


「あり得るとしても考えたくない話、ですね·········」


「同感。もう面倒なのはこりごりだ」


 このメンツの中にいる。

 考えたくはないが、リッキーの件がある以上どうしても0%は無いと思ってしまう。


 この状況で、先程の流れから考えるにべスティア夫婦が刺さるが······いや、まさかなぁ。


「ちなみに、上の鉱石はあくまでランプみたいなもんで、エネルギーはエターナルだったんだろ?」


 杉山の問いかけに、あぁとユグドラシルが返す。


【原理としてはエターナルのエネルギーの行先を私が操作して、植物の成長やら明かりやらを操ってた。だが、私と言えど強大な力を操るには代償がいる。その代償が長期睡眠·······という訳だけど、明かりが消えたというのはその回路に問題が生じたという事だね】


「回路に問題?」


 この疑問を問いかけたのは俺だ。


【うむ。エターナルに繋がる草や根。この地下世界の至る所に張り巡らしておいた私の一部に傷がつくと、そこからエネルギーが漏れだして、正しく伝わらずに明かりが消えるということさ】


「草と根か·········」


 杉山の声がした。

 思い当たる節があるのだろうか。

 例えば、リッキーの不可解な様子を見たとか。

 もしくは、欠損していたそれを目にしていたとか。


 暫く考え込んでいた杉山は、何かを思い出したかのように「あっ」と呟いて、べスティア夫婦を1度見つめて話し始めた。


「すまん。それの犯人俺だわ」


【!?】


 口をあんぐりと開けて目を見開いたユグドラシル。

 相当驚いたのだろう。始まっていた老朽化が急激に進んで、顔の皮膚が面白いぐらいにボロボロこぼれ落ちてる。


「いや、べスティア夫婦と一緒に健吾の服を作ろうとして、俺が素材探し手伝ってやった時に深い地中に良質な素材発見してだな。俺がその一部を引っこ抜いてべスティア夫婦にくれてやったんだが······」


 ユグドラシルは杉山の発言と同時に健吾をバッと見やって服をマジマジと眺める。

 それから、深いため息をついて皆が聞こえるギリギリのトーンで呟いた。


【本物だ。それは間違いなくエターナルを繋いでた回路の一部だね········考えもしなかったから、マジマジと見なかったけどまさか、こんな近くに答えがあっただなんて】


「いやぁ·······これは、真面目にすまん」


 隣にいたべスティア夫婦も現状を理解して、物凄く申し訳なさそうに頭を下げてる。

 ユグドラシルも呆れて頬をひきつって笑っている。

 それから、ユグドラシルは短いため息をついて、


【まぁいい。この中にまだ裏切り者がいるって言うよりも遥かにマシさ。っ、そろそろ、動き出すみたいだよ】


 ユグドラシルの発言と共に背後のリッキーの膨らみの凹凸が激しくなった。

 まさに、鼓動が早まったみたいだ。


 ようやく取り込めたっていう感じだろうか?


【どうするつもりだい。悪いけど、私は何も出来ないよ】


 ユグドラシルは愛想笑いを浮かべて、肘だけになってしまった両腕を掲げて肩をすくめる。


「問題ねーよ。そろそろだと思ってた頃だ」


 杉山の発言に1番に反応したのはチビだった。

 今まで、テコでも動かないような様子で遠方で此方を眺めていたチビであったが一瞬にして杉山の付近に飛び込み、じっと見つめている。


「おいおい、前にも言ったろ。今更そんな顔すんなって」


「どういう意味です·······?」


 健吾の質問に対して、杉山は間をあけて応えようとしたが、それよりも先に察しの言ったユグドラシルが答える。


【君·······死ぬ気だね?】


「っ!」


「·······しゃぁねぇだろ。他に誰がリッキー止められるってんだ。それに、死に場所は前からずっと探してた········ここいらが潮時だ」


「で、でも········っ」


 杉山さんまで居なくなってしまうのか。

 ガロール、ツェーリン、ユグドラシルさん、杉山さん········ここに来てから大して経っていないのに別れが多すぎる。


 何か、何かないのか!

 俺に何か出来ることは無いのか!


 皆を救うための超パワーとかないのか!?

 土壇場に追いやられたからこそ発揮出来る力ないのかっ!?


 あるだろ! 物語の主人公ならピンチを覆す何かがあるだろ!!

 アニメだったらそうだ。みんなが無理だと匙を投げた状況でもたった1人で覆してしまう。

 そんな何かがーーー







 何も·······何も、無いのかよ················


「気負いすんな、健吾。まだこの世界に来たばっかだろ。出会いなんて沢山ある。悲観すんなって」


 杉山さんは元気よく笑うと、まるで別人のように静かになり、チビの名を呼んだ。


「リッキーの上まで上げてくれ。あとは何とかする。その後、お前はケンゴについていけ、分かったな?」


 チビはあまり乗り気ではなかった。

 それもそうだろう。唯一心の許せる人物が消え、これからは心の許せていない健吾と共にいることになる。

 嫌だと思うのが当たり前だろう。


 チビは、杉山の問答に対して初めてNOと首を振った。


「駄々をこねてくれるな。時間が無い。お前の口から了承が聞けなきゃ安心できねぇじゃねぇか」


 チビは俯いている。


 目を合わせようとはしない。

 黙っていれば切り抜けようとしているのか?

 いや、どうやらそうではないようだ。


 杉山の無言の圧に押し負け、渋々頷くチビ。木板からは安堵の声が聞こえた。


「········ありがとう」


 杉山の優しい感謝の言葉とともにチビの体が身震いを始める。

 身体が砂状のように頭から無くなっていくと弧を描いて大きな円を生成していき、全てが砂に変わると、また別の形に変わっていった。

 下から順に砂が固まり、脚、胴体、腕、頭、翼、尾、と形を象っていく。


 そして、全ての変化が終わった時、そこに経っていたのはべスティア種ではなく、小さな1匹のドラゴンに生まれ変わっていた。


【これは·······いい冥土の土産を見れたね】


「ち、チビなのか······?」


 健吾の疑問に対し、チビは此方に一度視線を送るだけで、すぐ目を逸らす。


「そうだ。チビの本当姿はこの姿だ。今までは変な警戒心を産ませないためにべスティア種になってもらってたが、用を成すにはこの姿が必要でな」


 そう言って、チビに合図するとトコトコと駆け寄ってくる。

 杉山は何も口にしない。

 多分、言いたいことはチビに伝わっているのだと思う。


 杉山はチビから視線を切り、健吾に一声かけると軽く笑った。


「健吾。長い物には巻かれろ、だがたまには外れてみんのも一興だぜ。んじゃ、あばよ」


 その言葉を皮切りにチビは大きく口を開いた。木板を咥えようと屈み、躊躇い、眉をひそめた。

 が、目を瞑って勢いよく噛み付くと、即座に上空へ。見る影のないリッキーの上空へと飛び立つ。


 その時、突如上昇していくチビの身体が大きく歪んだ。背骨がありえない角度に曲がり、真っ二つになろうとしている。

 だが、チビの体は元は砂状。真っ二つに裂けたところで、砂に戻り復元。変わらず上昇を続けた。


 一体何が起こっているのか、健吾には分からない。

 目に見えない何かにチビが襲われてるし、空に対応するチビの凄さにも圧巻。


 と、また今度は足を引っ張られるような形で振り回されている。


「なんだあれ······どうなってんだあれ。なあ、ユグドラシルさん」


 いつも見たく解説が入ってくると思っていたが返答がない。

 不思議に思って振り返ると、そこには白い砂の山に立つ1本の苗。


 ·············流石に、かのユグドラシルでも限界だったというわけか。


 1度視線を逸らしている隙に、状況に変化があった様子。

 杉山の叫び声が聞こえ、チビの身体が3等分位になっている。

 相も変わらず、元気そうだがどうやら木板を手放してしまったよう。


 まだ、高度が足らないのだろうか。

 いや、そうではないようだ。


 あくまで心配したのはチビの事であって、杉山さんはもう全ての用意ができているみたいだった。


 遥か上空から落ちる木板にまたも謎の力が降り注ぐ。

 木板の周りの空気が可視化できるほど歪んでいるのがよく見える。

 だが、それほど強い力を持ってしても杉山さんの木板は依然として形を変えていない。


 そこから、木板から白いモヤが堰を切るように拡散する。

 今までのとは比べ物にならない、まるで雲のようなモヤだ。


 そこにまた謎の力がかかろうとするがモヤを掴むことが出来ず、綺麗な抉った後だけが空に残る。

 モヤの形が変わっていく。

 まるでティッシュのこゆりのような形のモヤが無数に生成され始め、その先端がまるで針のような鋭さを演出する。


 全てのモヤが象り、しっかりとした立体物として形を残した時、木板が消滅した。

 全方向から握りつぶされるように圧縮を掛けられた為、球体のような形しか残らなかった木板はもう見る影がない。


 その瞬間、間違いなく杉山の木板という存在がこの世から終わりを告げたのだが、彼が残した遺産はしっかりと役を担っていた。


 木板が消滅した後、全てのモヤの槍は主をなくした為自由落下を始める。

 勿論、謎の力も抵抗して数を減らしていくが、それを遥かに凌駕するモヤの槍。


 気がついた時には、無数のモヤが黒い固まりを突き抜け、大地に響く絶叫が広がる。

 それから、全く微動打にしなくなった黒い塊は空間に残る余韻だけを残してその生命の終わりを告げた。

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