第22話《兎を見つけて大穴へ》
風になるってこんな感じなのかな。
割と速度考えてくれているからか分からないけど、とても心地いい風なんだよね。
·······普通こういう時って、目も開けられないくらいの豪風じゃないん?
なんで、こう気持ちいい感じに、ねぇ。
あれ、芸人魂でも芽生えてんのかな俺。
「キキタインダケド、ナンデエターナルウゴイテネートオモウ!?」
少しの沈黙の後に、あ、私? とユグドラシル
【分からない······エターナルを止めても従者が止まる訳でもないし、辺りを暗くしても奴らの動きが鈍くなる訳でもない。ただ、中央に居るならある事実に気付いてるってことかな】
「ある事実·······?」
【百聞一見にしかず。見ればわかるさ】
ユグドラシルはそう言いながら走り続け、時に壁を走ったり、時に襲いかかるモンスターを拘束したりと器用なことをやってのける。
本当に圧巻する動きだし、この人と会えなかったら俺たち即死だったのではなかろうか。
そうこうしていると本当にあっという間に現地に到着。
別に位置が分かるわけではないが、疾走をやめて俺らを下ろしたあたり、ここいらにその目的のものがあるらしい。
「······なんもないすよ」
「ァー、イツモトオナジフウケイ。ツマンネェフウケイダ」
【ここで暮らしてた者達の趣味なんて分からないさ。それに、私の求めてるのはココじゃなくて下だからね】
そう言ってユグドラシルが地面を指した。
ーーー元の住人。
杉山さんも知らなかったし、疑問もなく生活してきて地下世界の事を深く考えないで過ごしてきたが、ここの住民はどこに行ってしまったのだろうか。
【·······あまり、答えたくない問いだね。気にしないでくれ、っていう回答で逃げさせてくれ】
ユグドラシルはそれ以上語らず、地面に手を当てて黙ってしまった。
いつも以上に集中して地面を見つめているユグドラシルに、いつも以上にソワソワする2人。
今まで護って貰ってただけに余裕があったが、あまりの集中具合に、俺らのことを気に止めてないのではないかと不安を感じた。
「ゆ、ユグドラシルさん? まだーーでしょうか?」
【······】
無言の返答。
思わずすみませんと謝りたくなるが、それ以上に心臓が締まって冷や汗がたれる。
これで護ってもらえる可能性が低くなったのだ。
リッキーに声をかけ、警戒心を煽ろうするが、下手に神経を尖らせるのも不味いかなと悩んだ。が、どうやらさっきのやり取りはリッキーも気がついてたようだった。
健吾は、不安を募らせつつリッキーに負けじと戦闘態勢を作るため腰に手を伸ばすが、何も感じない食感を覚え緊張が走る。
おかしい、武器はそこそこ持っていたはずだ。
まず片手剣と盾。あれは·······どっかで落としたな。
それと投げナイフが2本!! あれは········キメラの時と········ガロールの時と············
···················。
「り、リッキー。お前なんか武器持ってねぇ?」
まるでロボットのように首がカタカタと震えながらリッキーを見やると、アホカオマエ! との怒号が返ってくる。
「コンナチッセェカラダノドコニアルトオモウヨ!?」
「んだよなぁ、そうだよなぁ。4次〇ポケット〜とかねぇよなぁ」
健吾の焦燥が加速する。
噛まれたら終わりなのに武器ないってやばくない!? 防げないんだぜ!?
避けるか。いや、そう何度も避けれるかな。
1回·····? いや、ミスったらゼロか。
え、結構やべぇじゃん。マジでやべぇじゃん。
てか、なんも武器ねぇのリッキーも同じなのになんであんな冷静なの!? やっぱ、モンスターならではの何かーーーーはっ、まさか秘策あんのか!?
「ヒ、ヒサクッテワケジャネーガ、オレモモンスターノハシクレ。マホウグライツカエンノサ」
「ど、どんな奴が!? 頼らせてもらってもいいか!?」
「エ、エヘェ? タ、タヨルゥ? オレッチヲ〜?」
なんかめっちゃムカつくくらい嬉しそうやなこいつ。なんやねん、状況わかっとるんかおどれ。
「オレッチハフタツマホウガツカエル。ヒトツハジブンヲチュウシンニ、ミンナヲマブシクサセル『フラッシュ』」
「·······ゾンビ相手に意味あんのかそれ」
「ヘ?」
「だって、アイツら目で追ってきてねぇだろ? リッキーも見てただろ。目がえぐれても襲ってきたやつ」
リッキーの表情が固まる。だが、まるで何事も無かったように説明は続いた。
「フタツメハモノニフレズニウゴカス『サイコキネシス』」
「おおっ! それ超実用的じゃん!!! 対ゾンビ魔法じゃん!」
先程と一転して、中々の効果的な能力に明るくなる健吾。だが、それとは裏腹にリッキーの顔は暗かった。
「ダガ、サイコキネシスハオレッチノマリョクガヨワスギテ、ゼンゼンウゴカナイシ、ゼンゼントバナイ」
健吾の表情が固まる。
なんかこう、しょうがないのかもしれないが、出来ればもっと、こう·······な。
「どうするか」
「ドウシヨカ」
二人顔を見合わせて、口端を引きつると裏路地の暗がりから声が聞こえた。
二人は女の子のような悲鳴をあげて抱きつき、奥からしのびよるソレに、肩を震わせながら凝視していた。
案外可愛らしいものが出てきた。
ビジュアルは兎というのが1番近い。けど、尻尾が猫のに長く、毛が通常よりも長くサラサラ。
耳は折れ曲がり、大きさは本当に一般的な兎と同じくらいの大きさだった。
あまりの愛くるしさに思わず健吾の手が緩む。
きっと、この子は逃げてきたのだ。この荒れ狂う騒動の中、生きているものたちが多くいる場所へ必死に逃げてきたのだ。
そうだ、そうに違いない。とても可哀想な兎さん、俺たちと一緒にーーーー
と、手を差し伸べようと思ったところで、突如兎が背筋を伸ばした。
健吾は不思議に首を傾げるが、うさぎの変化は未だ続いていた。
胸元あたりから、黒い線が稲妻状に走り、同じく横にも入る。
初めは怪我かと思ったが痛がってないあたり、元々の毛色かそれとも季節によって色が変わる羽毛とかと一緒か。
何はともあれ、異世界という不思議な環境と安堵を誘う見た目に騙されて、警戒心はこれっぽちもなかった。
そんな時、驚いたのは兎の顔が4方向に開いて、まるでそう折り紙のパックンみたいなお顔が御入来されてーーー
「ぎゃああああああああ!!!!」
「ギョエエエエエエエエ!!!!」
二人共まるで別人のような表情に変化して、仲良く抱きつく。
上げて落とすとはまさにこの事。
この時、健吾は見た目に騙されては行けないという言葉を身をもって味わったのだった。
「ど、どうするよリッキー!?」
「ド、ドウスルタッテロクナマホウツカエナインダゾ!?」
「俺だって素手だよ素手!! 殴ってみっか!? やってみっか!?」
「バッカヤロ! カマレタラダメナンダロ!!」
2人が叫んでいると静かに歯を鳴らした兎の音が、まるで黒板を引っ掻くような不快な音に聞こえ、絶叫の中でも嫌に響いた。
「いやあああああああああああああっっ!!」
「ヤァアァァアァァアアアァアアアっっ!!」
またも発狂した訳だが、リッキーだけは発狂のわけが違った。
「イッヤァァ!! ウッセー!! オマエノコエデビックリシタジャネェカ!!!」
「しゃあねぇだろ!! 見た目はお前のがちっせーけど俺より強いじゃん!!! なんも出来ない怖さ分かるか!? えぇ!?」
「オレッチダッテ、マッタクウゴカネェサイコキネシスモッテテモナニヒトツアンシンデキネェヨ!! ツウカチッセーイウナ!」
この様に2人で罵りあって叫んでいるが、抱き合いは終わっていない。
2人が叫ぶ中でも口を開いてジリジリと進む兎。
こんなに叫んでいるというのに中々襲ってきてこないのどちらにするか悩んでいるからだろうか?
なんにせよ、有難い。寿命が伸びてくれるのは助かる。
どうすんだよ! と叫びながら、リッキーも健吾も本当に何も無いか辺りを見渡したり、持ち物確認で手一杯。
そんな中健吾が短く叫んだ。
「リ、リッキー! 1個だけあったぞ。最後の持ち物!!」
「ナ、ナンダ!?」
健吾はニヤリと笑ってポーチのボタンを外して、二本を取り出した。
「ソ、ソレハーーー!?」
「あぁ、回復薬。その錠剤だ」
満面の笑みの顔の健吾。
落書きのような表情をするリッキー。
暫くして放心状態から帰ってきたリッキーの頭は正常だった。
「アッホカァ!!! カイフクヤクヲテキニナゲツケルアホウガドコニイル!!」
「ここに居る。まぁ、聞け。可能性は有るんじゃないか?」
健吾はそう言って兎の方を見やり、少しずつ離れながら説明をする。
「ゾンビ状態、つまり状態異常だろ? んで、錠剤は体を健康にする。·······意味わかるか?」
「······マサカ、ウマクイクカ?」
健吾が頬を釣りあげて恐怖と挑戦心の入り交じった表情を向ける。
「やってみる価値はあるよなぁ!?」
「ッ、イクシカネェ!」
健吾は試験管のコルクを抜いて、錠剤を自分の掌とリッキーの翼の上に。
最後の望みの蓋を開けた。
「せーの、で投げるか?」
「ソンナノイラン!! ノマシチマエバイインダ······ロッ!」
リッキーはそう叫んで、健吾の袂から旅立つと体をひねって勢いをつけ、渾身の掛け声と共に放り投げた。
翼で器用に使い、囲うように持っているが投げるのが難しい筈。
と、思っていたが······いや、やっぱ難しかったみたいだ。
投げる手前まで良かったものの、途中で翼の上を転がってしまい放つ時には明後日の方。
錠剤のため、あまりに小さくもう見つけられる気がしない。
「ナァーーーーーー!!」
「まっかせろリッキー! 一応これでも4年野球やってんだ、よっ!!」
しっかりとワインドアップしてから、スナップを聞かして思い切り振り抜く。
暫くやってないとはいえ、伊達にサードを守り抜いていない。
しっかりと踏み込んで左手を巻き込み、目標をひたと見据えて振り抜く。
ランナーの死守率はかなりのもの。投球の自信はある。
が、それは小学生の頃の話。
久しぶりに投げた為に離すタイミングを忘れていた健吾は、錠剤を思い切り地面に叩きつけた。
小さな錠剤が地面に叩きつけられ、その軌道は運悪く明後日の方へ飛んでいく。
そしてそれも見つからずーーー
「······」
「······」
かつてない沈黙が流れた。
その気まずさはまさに5人グループでつるんでると楽しいが、大して仲良くない奴とたまたま帰り道が一緒になってしまい、話題が見つからず黙り込んでしまう、あの時のようーーーー
「しゃぁくしぃぃいやぁしきあやぁぁけな」
唾液が絡んだ汚らしい音で威嚇をする兎。
どうやら目標の捕捉はついたみたいだ。
「いやいやいやいやいやいやいやいや、待て待て! どうする!?」
リッキーが目を丸くしたまま黒目をふるわせ、兎、健吾と見つめた後に元気よく健吾を指さしながら叫んだ。
「ヤ、ヤイ! オレッチハオイシクナイゾ!! ゼッタイコイツノホウガダベゴタエアルゾ!?」
リッキーはそう叫んで健吾のことを羽根で叩く。
「あっ! お前ふざけんなよ!!?」
リッキーが必死こいて健吾の後ろに回るが、即座に健吾がリッキーを捕まえて生贄とする。
だが、負けじとリッキーが袂から逃げ出して背中に張っつくが、健吾は背を向けてリッキーを差し出して·······と、大して立ち位置の変わらなくだらない争いが勃発する。
そんな仲、兎がモゾモゾすると突然高くジャンプした。
普通、上空に行くということは自分から逃げ場を失う行為であるが、その不可解さの理由を数秒後に理解した。
口が激しい動きを遂げたあと2倍もの大きさに膨れ上がったのだ。
これで、見事2人は丸呑み。逃げようにも落下の方が早くーーー
空中で静止した。
健吾もリッキーも瞬きひとつ出来ず、2人の頬にヨダレがタレ落ちてから呼吸を思い出す。
それから、その摩訶不思議現象を紐解く前に回答が颯爽と登場してきた。
【お待たせ。多分、杉山だと思うけど入口の暗号が弄られてて解読に時間がかかったんだ。ごめんね】
リッキーと健吾の首が機械じみた動きをしながら息ぴったりにユグドラシルの方へ向く。
「いえいえ·······俺たちとしてもしょうがないと思いますよ、ええ。ほんと。出来ればもっと早く願いたかったですけど」
「アァ、ケンゴトドウイケン」
すまない、とユグドラシルが後頭部を抑えつつ謝る。
【昔から熱が入ると周りが見えなくなるタチで。さぁ、今回の素因とご対面と行こうじゃないか?】
ユグドラシルはそう言って、下を指さしていつの間にか開かれた大穴に手をかけると姿を消した。
地上に取り残された健吾とリッキー。
いつもなら喜んで2人仲良く飛び込むところだが······
「リッキー」
「ウッ······オタガイサマダロ」
「うん、そうだなぁ。お互い様だなぁ」
健吾の笑みがかつてないほど不気味だ。
「確かに、怖いのよく分かるぞぉ。うんうん良くわかるぅ······」
「········オコッテル?」
お調子者のリッキーも流石に冷や汗が垂れている。
確かに後半はお互いにお互いを売っていたが、事の発端は自分といえば自分だったしーーー
「いやぁ、まさか? だって俺ら友達じゃねぇか」
「ソ、ソウダヨナ! イヤ、ホントゴメンナ!」
「良いって良いって。たださ、俺ここに来るまでまだ食ってないんだよな。朝飯」
健吾はそう言って明後日の方をみやりつつ、腹をわざとらしく擦りリッキーをチラ見する。
「········焼き鳥って異世界でも作れるかな」
「ケンゴ!!? マッテ、ドウイウイミダソレ!? ナンダヤキトリッテ!? エ、オイ! ナンデイマイッカイチラミシタ!?」
騒がしいリッキーを片手を振って遮るとニヤリと笑って、大穴に手をかけた。
「ほら、先いくぞ」
健吾はそれだけを呟いて穴へと身を任せ、既に下に辿り着いてるユグドラシルの隣をめざして降り立った。




