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異世界で村人A  作者: キリン衛門
地下世界編
22/51

第21話 《疑惑》

【その推測で間違いないだろうね】


「アノヒトガ? ウソダー!」


「そうすよ。リッキー達とかなり長い間共に居たんですよ? 今更、魂を喰らい出す理由ってあるんですか??」


 リッキーと健吾の二人が無い無いと手を振る中、ユグドラシルは可能性はあると、自信ありげな表情で語る。


【元々屍の王ってのは、頻繁に魂を摂取するわけじゃない。本当に数年又は数十年に1度なんだ。だから、あまりの不定期さに足取りが掴めないし、今まで詳しい正体が割れたことは無い】


 会話の途中に遠方から、1匹の呻き声が聞こえるがユグドラシルが1度地面を小突くとその音が止んだ。

 位置が分からないのに捕縛できたのかこの人。


【それに今更、というか今だからこそ事を起こす理由があるとは思わない?】


「? ドウイウコト?」


 リッキーが首を傾げる。


【その、杉山がここに来てから数年か数十年。何一つ変わらなかった変化の中で一つだけ唐突に変わったことがあるって言うことさ】


「ココ最近の出来事······」


 俺はここに来たばっかだから変化が分からないな。

 話を思い返すならば、チビの登場と杉山さんが木板になったことか?

 皆の話を聞いた感じそれくらいしか思い当たる変化無いもんな。


 リッキー達とかと会うことが変化だとは思わないし、べスティア夫婦もさして······


「ワカッタ! スギヤマサンガシンジャッタコトカ?!」


 リッキーよ。俺もそれ思ったけど、ココ最近の出来事では無いだろ。死んだの数年前だって言ってたし。


【うーむ。惜しいって訳じゃないが、連結する理由の一つしては必要な思考かもね】


「ヤッター!」


「えええええ!? だって、死んだのって結構前っすよ?」


 ユグドラシルは、顎を擦りながらリッキーを指さす。


【時に小鳥君】


「リッキーダ!」


【リッキー君。君が最後に杉山さんを見たのはいつだい?】


「エト、キノウノゴハーーー」


 ユグドラシルがリッキーの口元に細枝を生やして、違う、と続け


【杉山が’’人間の姿をしていた’’のを見たのはいつだって言う話のほうさ】


「イヤ、オレッチハニンゲンダッタスギヤマサンミタコトナイゾ。ハジメテアッタトキカラ、アノヒトハイタニナッテタ」


【やっぱり、怪しいな。そもそも彼は本当に人間なのか? 誰も不思議に思わなかったが、実は人間じゃないんじゃーーー】


「待ってくださいよ! まだわかんないすよ! まだ本人の口から何も聞いてない訳ですし」


 健吾は声を荒らげた。

 信じらない。

 異世界出身という同じ境遇だったし、厳しくはあれど一生懸命指導してくれ·······たし、色々と世話になった。


 そ、そうだ! い、異世界の話だ! 元々異世界人なら屍の王じゃない!


【·······悪いが、その、異世界という話が突拍子過ぎて信じられないし、屍の王の生態がわからない以上、どんな力があるか分からない。洗脳の力があってもおかしくない】


「っ·······」


 そ、そうか。

 案外あっさり異世界の概念を否定されたけど、その可能性がある限り、完全否定は無理か·····。


【それに、ココ最近起きた変化の話に戻るが、杉山以降現れなかった種族ーーーというヒントまで出せば分かるかい?】


 リッキーが眉をひそめてゆっくりと呟く。


「·······ニンゲンッテコト?」


 ユグドラシルが指を慣らしてリッキーを指した。


【ご名答。今まで全く行動を起こさず唐突に今回事を起こしたのは、依代が欲しかったんじゃないかな。若く、健康的な人間の体が】


 そのユグドラシルのセリフの後、チラと健吾を見る。


「お、俺のことを言ってるんですか?」


【君以外の人間が何処にいる。こっからは憶測でしかないが、杉山の目的は健吾君の体。今、杉山の体は何かをきっかけに動かなくなってしまい木板で遠隔の対話を図っていた。そして、新しい体を探しているところに健吾君の登場。そこで、皆を撹乱させるためにモンスターを従者にさせ、弱りきったところを奪うっていう寸法ーーーじゃないかな】


 健吾はユグドラシルの理論に疑問を抱く。


「·······モンスターを従者にさせて撹乱させる意味は無いんじゃないですか? 俺はあの人より圧倒的に弱いんですよ? やろうと思えばいつでも出来たはずじゃないですか」


 まだ確信を得るのに納得出来る情報が少ない。

 いくら不安を仰がれてる中とはいえ、あの人の恩をそう簡単に疑うことは出来ない。


【屍の王の生態がわからない以上、従者にしたのは分からない。さしずめ、人間本体を乗り移るには条件があるんじゃないか? 例えて言うなら、そうだな······精神の崩壊。魂が体から離れようとしていた時、とか】


 精神の崩壊········ガロールとツェーリンの事例か。確かにあれはツェーリンが襲ってこなければ、どうしようもなく泣いてたかもしれないが、あの時は生きるのに必死でーーー


 あれ······? なにか引っかかるな。そういえば1階に彼らが居る偶然はおかしくないか。

 そう言えば、ガロールとツェーリンと共に寝床にいたとリッキーが言っていた。


 何故、杉山さんと俺がいる1階へ······?


「じゃ、じゃあ杉山さんがすぐに事を起こさなかったのは!? いつでも魂を取れるならば、来て早々に始めればよかったものを!」


【それも、条件のうちの一つなのでは? 例えば、信頼を得る事とか、健康的な体を作るための栄養のあるものを与えるとか、適度な運動とか······】


「アゥ、ア、アォ·······」


 当てはまる。

 食事は必要だと思ったから食ったし、運動は自分からマハトの特訓がしたいからと修行が始まった。


 確かに、あの時俺が先に申し出たから始まったものの、杉山さんが「運動しておいた方がこの先為になるのでは?」と唆して、言葉巧みに言いくるめられたら賛成していたかもしれない。


 それに、リッキーも何か当てはまる事でもあるのか、うめき声を上げている。

 あの、お喋りリッキーが呆然と呆気にとられているのはあの4人でいた時に滅多になかったことだ。


「·········っ、けれどやっぱり信じられません」


【頑固だなぁ。けど、それぐらいの信頼を他人に向けられるのはいい事だ。その気概を忘れないことも大事だが、たまには折れなければ進まぬ話もあるからね?】


 ユグドラシルが会話をしながら指を立てると、ピクリと瞼をふるわせる。


【········流石にバレたか。そりゃあこんなに捕縛され続けられたら気づくか】


 ユグドラシルはそう呟くと何も無いところに指を振る。

 その数秒後、住宅街の横道と言う道から一斉にモンスターの大群が現れ、広かった大道が一気に黒い大群に染まった。


 ざっと30〜40位居るだろうか。

 奥行きを見れないが合流していた時にはそのぐらいに見えた。今も尚増えていても可笑しくない。


「ピ、ピギャアアアアアアアア!!!」


「ど、どどうします!? 流石にユグドラシルさんでもヤバいすか!?」


【やばいってわけじゃないんだけど、こんなにいっぺんにくると捕縛が不可能だね。単純に数を減らすか足止めをするぐらいしかーーー】


「だったら足止めでお願いします!!」


 健吾が即答で返答をすると群れのほうに向き直った。大きさはバラバラだし、見た目も均一性がないがべスティア夫婦は今のところ見当たらない。

 だが、別の事実に気づいてしまい顔をしかめる。


 エルギュス種だ。群れの先頭で奴らを引率している。だが、見た目は初めに見たあいつと少し違ったので側近のどちらかに違いない。


 かと言って油断ならない相手だ。

 もしかしたら、あっさりとユグドラシルさんの攻撃を抜けて襲ってきてもーーー


【健吾君。冷や汗かいてるけど、私の実力疑ってる?】


 ユグドラシルはそう口元を歪めると、何もせずただ群れの方を見やる。


 微動だに動かないユグドラシル。それをお構い無しに直進するギュリエス種と一団。

 その距離、後100M近くと言ったところで彼らの足元に問題が生じた。


 ギュリエス種が1歩足を踏み込んだ途端に地面から大木の苗が生え、急成長を始めたのだ。

 勿論、止めるすべがない彼らは幹に絡まれながらどんどん成長していく。

 木々を止められることが出来ず、群れは頭や手足をばたつかせながら上空へと昇っていった。


 そして、ようやく成長が終わったと思った頃には立派な大樹の数とそれにねじれ込んでいるモンスターの数々が出来上がっていた。


「ハ、ハァェーーー」


「こ、こうなんか、俺の知ってる足止めってこういうのじゃないっつうか、もはやこれ束縛というか······」


【いいや、ただの足止めだよ。彼らの筋力は今強化されているから、何匹かは暫くしたら出てくるよ】


 そうユグドラシルが説明してると、上空から何かが降ってきた。

 頭にコツりとぶつかった何かを手に取ると、そこには削れた木片。

 落下を目で追うように見上げると、既に片腕が自由になるギュリエス種が目に入った。


「うっわ!!」


【ほら、先を急ごう。モタモタしてるとアイツらに噛みつかれるよ】


「サ、サキッテドコヘ?! ナニカオモイアタルトコデモ?!」


【話は他にも有るだろう? 屍の王は死んだモンスターを使役するけど、エターナルとなると、話はまた別だ。と、なるとエターナルに関連する場所が現状怪しい】


 ユグドラシルはそう言って西の方を指さす。

 初めは何言ってるか分からなかったが冗談だろうと思いっていたが、真剣な表情に声を上げて尋ねた。


「まさかっ、エターナルの所までよじ登るんですか!?」


「オレハモンダイネーヨ」


【ははっ、まさか。流石にそこまで苦労のすることはしないさ。目的地はこの地下世界の中央さ】


「中央·······なんかあんの? リッキー」


 そう尋ねるが、リッキーは首を傾げる。

 散策をせずにこの騒動だったので結局、この土地に詳しくない。それに、リッキーも分からないとなると何も無いとしか結論が出ない。


【それは君達が行けないだけで本当はあるのさ。あるものが】


 ユグドラシルはそう微笑むと、頭上から大きな音がした。

 気づけばもう上半身が自由になっているギュリエス種が見える。


 先を急がないと! と、リッキーが叫ぶが、一言断ってユグドラシルが地面に手を着いた。

 まるでクラウチングスタートのような構えで、まさか走り出すのかと思ったが、違うみたいだ。


 両手の指先を這うように木々の根が絡みつき、ほんの10秒くらいもすると全身を覆っていた。

 そして、長く鬱陶しかった髪も結ばれて左に流れ、見るも美しい木々の全身フォルムが完成した。


「「お、おぉぉ」」


 二人揃って、感嘆の声を漏らす。


【すまないね、これを着ておかないと気合いが入らないんだ】


 そう言って、健吾とリッキーとチビを軽く持ち上げると、クラウチングスタートの構えをし、砂埃も巻き上げながら四足歩行で駆けだした。

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