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異世界で村人A  作者: キリン衛門
地下世界編
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第20話《ユグドラシル様》

「·····えっ?」


 唐突すぎることに間抜けな声しか出なかったが、ただひとつわかる事実としてはチビが無鉄砲にモンスターの顔を蹴りつけたことぐらいだった。


 反応ができなかった様子の巨人モンスターはチビの蹴りをモロに食らい、豪風と砂埃を巻き上げて沈む。


 考えが分からない、というか会話ができないため、今の行為に辿り着いた思考を尋ねられないし、当の本人は胸を張ってトコトコ帰ってくる。


「ええええええぇ!? なんで今思いっきり蹴っ飛ばしたん!? まだどういうやつか分からなかったじゃん!!」


「アイツァ········。タブン、スギヤマサンノイッテタヤツデアッテルナラ、コノチカセカイノ『ヌシ』ダ」


「ぬ、『ヌシ』?? 主なんて居たのか? 俺全然見た事なかったぞ」


「オレッチモダ。ケド、スギヤマサンイワク、オレラヨリツヨクテ、オレラヨリカシコクッテ、ゼンセイキノスギヤマサンデモタオセルカドウカワカラナイレベルノツヨサダト、ソシテーーーー」


 前方の方から物音が聞こえる。

 懸念通り、ゆっくり体を起こした巨人の頬に大きな赤い擦り傷が見えるが、なんともない様子。


 首の骨を慣らして、目をしばたくと睨むような1つ目が此方を覗く。


【君達か·····私を起こしたのは·····】


「ひぃっ······喋った」


 全く喋ることを予想だにしていなかった健吾は、思わず腰が引ける。


 この図体で見下ろされて、しかも声のトーンが杉山さんよりも渋い。

 今ここで、踊りだせと言われたら喜んでやるだろう。


【うぅむ·······右頬が痒いな·······あぁ】


 まっずい。

 チビの行動が仇となった。

 これ謝罪すべきだよな!? 言葉が通じるんだし、ここの主だってんだから寛容に扱ってくれるよな!?

 頼む、頼むぞ······!


「アー·····サッキノツヅキナンダケド」


「しっ、リッキー! 今それどころじゃない!!」


「ココノヌシッテノハーーー」


「ほ、本当にこの度は誠にウチのチビめがご迷惑を······!! 先程からモンスターに襲われてばかりで警戒心が高まってたと言いますか·····!! 見た目で相手を判断してしまったと言いますか! あっ、いえ、主様のお顔が怖いというとかそういうのでは全く·······っ!!」


【はぁーーーーー、うんっ! 声の調子も戻ってきたぁ! いやぁ、流石に1度起こされたとはいえ、50年の眠りから覚めると流石に感覚が鈍るなぁ!!】


「·········メッチャオンコウナヒトラシイゾ」


 見た目とは裏腹の、先程よりも明るいトーンで淡々と喋る主。

 思わず開いた口が塞がらず、先程の空気のギャップに頭がついてかない。


 そんな思考停止状態の健吾を見つけた主は細目にして健吾を見つめた。


【む、君。怪我をしているね?】


「えっ? あ、え、あひゃい」


 何だこの声、我ながらきっしょいな。


【まあまあ、固くならないで。ほら大人しくしてて】


 主はそう言って地面を2回小突くと、健吾の背後から1本の幹を生やした。

 その幹が健吾の背中を舐め回す様にグルグルと眺めていると、幹が八方向に分裂して健吾の体を覆い尽くした。


「コレハ!? ヌシサマナニヲ!!」


【まぁまぁ落ち着け小鳥君。すぐに分かる】


 健吾は、幹に包まれていたが痛みを感じなかった。

 それよりも太陽の下で日向ぼっこしているかのような温かさに包まれて、気がついた時には呼吸の苦しさが消えていた。


「お、おぉ·····」


【どれ。何かおかしな所は?】


「·······ギャップ萌ってあるけど、ギャップが強すぎて逆に萌えない」


【はははっ、それは残念】


「ヌ、ヌシサマスゲェーーー!」


 感動のあまりにぴょんぴょんと跳ね出すリッキー。

 まるで今までの辛いことが吹き飛んだかのような笑顔は健吾の心を安堵させた。


【主様主様って、あんま好きじゃないんだよなぁその呼び名。ユグドラシルとでも呼んでくれないかな?】


「ユグドラシルサマ!!」


「ユグドラシル·····ゲームとかでめっちゃ聞いた事あるな······」


 何かの木の神様とか妖精とかだっけ。いや、この際なんでもいいや。

 とにかくめっちゃいい人だよこの人。見た目は凄い厳ついけど、ここの主をやってるだけある気がする。

 あの回復だってベスティアに近いけど、回復速度と完治具合がアイツらの比じゃない。


 あ、ベスティア夫婦がしょぼいって訳じゃないからな?


【ーーーさて。今何が起こってるのか教えてくれないかい?】




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





【·······つまり、君たちもあまり分かっていないと】


「はい。今は杉山さんを探して、どうするべきか判断煽るつもりでしたが、その所在が分からなくてーーー」


【私に広範囲の索敵能力は無いからなぁ。········そこのいい蹴りを食らわしてくれた者なら少しは知ってるんじゃないか?】


「いや、ホントにすみません。キツく叱っておきますので·····本当にすみません」


 ユグドラシルは優しい笑顔で大丈夫、大丈夫と言ってくれているが、もう申し訳なさすぎて頭が上がらない。

 それに、当のチビは他所を向いて謝る気ゼロだし。どうしてくれようかコイツ。


「ナニモシラネーミテーダ。スギヤマサンカラナニモツタエラレテナイラシイ」


【ううむ。となると、行くべきは’’あそこ’’かーーーむっ?】


 ユグドラシルが眉をひそめて(厳密には眉がないた鼻根めをひそめて)左方を見やると、何匹かのモンスターの群れを見つける。


 様子がおかしい。

 単純に逃げてる風に見えないし、走り方が異様だ。


 間違いない、ガロールとツェーリンと同じ症状が起きてる。

 彼らの目は軽く血走っており、胴体の肉が削げていたり、顔の半分が白骨化している。


 そんな一団相手にチビは、躊躇なく走り込んで全員蹴り飛ばしに行こうとするが、ユグドラシルが手を添えて止めて優しく微笑む。

 そして、一団に向かって軽く手を振って見せた。


 すると、一瞬にして全長3M程の植物の根が無数に生え、4.5本が一斉に絡みついて一団を捕縛していく。


 本当に一瞬の出来事だったので、瞬きしか出来ず惚けていると次に聞こえたのは微かに微笑んだユグドラシルの声だった。


【イイネ、判断材料が増えた】


 ユグドラシルはそう言って、未だに暴れるモンスター達の拘束具をしっかりとした物にした後、一言謝ってから、1匹のモンスターの体細い枝を差し込む。


「殺してしまうんですか?」


【いや、今体内の変化を調べてる。血流の速度、筋肉の変化、皮膚の異常······そういったものの違いを調べて病状を解明する】


「·····すげぇな。なんでも出来るなこの人」


「サスガユグドラシルサマ!」


 目を瞑って数分沈黙が続くと、枝を引き抜いて分かったよ、とユグドラシル。


【この子達、もう死んでるね】


「エ!? ドウイウコト!?」


【厳密には体がもう生きていない。心の臓は動いてないし、血液も循環していない。なんで動いているか不思議だね】


 それに、と眉をひそめて


【これは毒·······かな。血液の中に不純物が混ざってる。そいつがずっと細胞を食らっているんだが、同時に別の細胞を生んでいる······死んでも動いてるのはそのせいかな】


「痛みを感じず、会話もできない。それでいて体が生きてなくて毒で動くって、まるでゾンビだな」


【ゾンビ·····? 聞いたことの無い言い回しだが、私の見解だとこれは『屍の王』の従者じゃないか?】


 聞いたことなーーーいや、どっかでそのワード聞いたことあるぞ。

 ·······何処だっけ。


「ナンデスカ? ソノ、シカバネノオウノジュウシャッテ」


【屍の王······モンスターや人の命を食らう正体不明の人物。その者はモンスターの魂を喰らい、死んだモンスターを操り、モンスターに人を襲わせることが目的らしい】


「なんすか、その滅茶苦茶なの·····。そんな簡単に魂奪えるなら人間を直接襲えばいいものを。回りくどい上に理由が不明瞭過ぎません?」


【ああ、だから通称『屍の王』。単純に人とモンスターの命を食らって、屍の山を作る·······まぁ、要するに正体不明の狂人さ。そして、モンスターの魂を食らうのは、どういう訳か人の魂を食らった前例がないんだ】


「オッカネェナ」


 リッキーの頬が引きつっている。確かに、彼らにとっては迷惑極まりない存在。

 死んだ友人操れる訳だーーー


「っ! なら、ひとつお聞きしたいのですが、魂を抜かれたモンスターを助ける手段は知りませんか!?」


【残念ながら。私も起きてる年数が多い訳では無いが、その度に屍の王の話は必ず耳にしていた。だが、助かった一例を聞いたことがないね】


 ·······では、やはりガロールとツェーリンはもう。


 ツェーリンだけでも何とか、と思ったが思えばツェーリンの半顔抉れてたし、どのみちダメだろうか。


 健吾は覚悟はしていたものの、少しの希望ですら閉ざされてしまい表情が曇る。

 リッキーも同じ様子だ。


【しかし、私の住処を荒らすとは中々の重罪だね。どう懲らしめてやろうか】


「検討はつくんですか?」


【屍の王ってのはモンスターでは無い。死霊を操るなど、普通のモンスターでは成し得ない偉業。······まぁ例外もあるだろうけど、ここらに居るモンスター達の処遇は把握している。その例外はありえない】


「エッ? テイウコトハケンゴ?」


 ユグドラシルとリッキーはゆっくりと健吾へと視線を向ける。


「いやいやいや、出来ねえって! てか、出来たとしたら俺がツェーリンとガロールに襲われることねぇだろ?」


【そうだね。そこの青年には魔力が感じられないし、そもそもここでのメリットがない。それに、モンスター以外の人物ならまだもう一人いるだろう?】


 リッキーは首を傾げてユグドラシルを見るが、健吾は即座にわかった。

 だって、その質問は俺以外の人間という、とても簡単な質問なのだから。


「まさかーーーーー」


「ソレハサスガニナイナイ!!」


 リッキーも気づいた様子。


 健吾とリッキーも首を振って否定した。

 だって、そんなことチビが盆踊り始めるよりもありえない事実だ。


【残念だが、現状彼しかいないだろう。私も途中で挨拶の為に1度起こされたことがある。まさか、あの時見定めでもしていたのかな······】


 いやいや、あの人に限ってそれは無いだろう。


 だって、モンスターから助けてくれて、ご飯をくれて、修行をつけてくれて、寝床も浴槽も与えてくれて······こんなに尽くしてくれたのにそんなことってあるのか?


 だって、そんなーーーー


「······杉山さんが犯人だって言いたいんですか?」

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