我こそは、桃から生まれた桃太郎
ようやく鬼登場です。
干上がった海を歩いて、鬼ヶ島にたどり着く。
もっと警戒しているのかと思えば、そうでもなかった。
そっと隠れながら、鬼ヶ島の中心部分にたどり着く。
そこには館があり、たぶんここが、鬼ヶ島で一番偉い人がいるのだと思う。
でも、あっけないほど簡単に進めた。
それもそうだろう。
鬼ヶ島には、鬼がたくさんいるのではなく、その数は少なかった。
松明が明かりをともしてくれている分、その姿を見るのも容易だった。
ただ、恐ろしい形相を思い浮かべていただけに、その姿はかなり意外だった。
たしかに、背は高く、肌も浅黒い。
顔つきも確かにいかついけど、今見ている限り、それほどでもない。
なにより、皆疲れきっている。
様子を窺っていると、館の中からひときわ体の大きな鬼が出てきた。
「よし、道ができた! 今夜もいくか!」
体の大きな鬼は、やる気をみなぎらせている。
「お頭、ちょっと勘弁してくださいよ。あれだけ喰ったら、当分いらないでしょ。というか戻したい気分でさ」
近くにいた小さな鬼が、大きな鬼に不平を告げていた。
「いや、まだ足りぬ。人の世は悲しみと苦しみの世だ。喰ってやらねばならぬだろう」
使命感に燃えているのか、お頭と呼ばれた鬼はまだやる気を見せていた。
「いやいや、でもね、お頭。喰ってるこっちの身にもなってくださいな」
それでも、小さな鬼は抵抗していた。
仲間割れ?
思わずポチに話しかけていた。
その途端、お頭と呼ばれていた鬼が僕の方を見て、何か引っ張るようにしたかと思うと、僕の体を引き寄せてきた。
「小僧、何をこそこそしている」
鬼の形相とはこのことを言うのだろう。
確かに、この顔は怖い。
でも、どちらにせよ対決しなければならない。
早いか遅いかの違いだけだ。
「僕の名は桃太郎。僕の大切なお爺さんやお婆さんから取り上げた、大切なものを取り返しに来た」
正々堂々と名乗りを上げる。
それが、鬼の世界に入って、僕がここにいるという証になる。
今まではのぞいていただけだ。
僕は名乗ることで、この世界に確かにいることになった。
「ほう、勇気があるな、人の子。桃太郎とかいったか、どれ……」
その途端、あの不思議な感覚がやってきた。
サトルの時に感じたものに似ている。
ヒトミさんに見られているような感覚に似ている。
でも、同じじゃない。
「何でもかんでも、思い通りになると思ったら大間違いだ!」
刀を抜き、得体のしれないものを切りつけた。
その途端、あの不思議な感覚はなくなっていた。
「ほう、拒絶の意志を示すか。それもよかろう。だが、少し遅かったな。ずいぶん見させてもらった。なるほどなるほど、あの爺、婆の息子か、そうかそうか」
楽しげに僕を見つめる鬼のお頭。
「お前……」
「桃太郎だ!」
僕を示すのは桃太郎という名前。
それは、お爺さんとお婆さんからもらった大切なものだ。
お前なんかで、呼ばれたくはない。
「ふん、いいだろう。桃太郎。お前が返してほしいあの者たちの記憶がどのようなものか見せてやろう。お前のそれは、一方的な物の見方だ。これを見て、それで本当に返してほしいと思うかな?」
不敵な笑いを見せている。
「取り戻す。そのために、僕はここにいる!」
そう宣言した途端、鬼の頭から何かが僕の中に流れ込んできた。
あともう少し。




