第123話 私的な七不思議の一つ
「おい、銀の! 今日はまだ勝負をして無いぞ! 早速勝負だ!」
ファーレンハイト家の領地であり、布の名産地コットリアにあるお屋敷に着いた。
そして馬車から降りるやいなや、既に馬車から降りていた王子様は私に勝負を仕掛けてきた。
王子様は出会った頃はそれはもう酷い性格だった。
でも、彼は平民である私や貴族として爵位の低い男爵令嬢のアイリとの勝負に負けて以来、私たちにある程度の敬意を払うようになった。
相変わらず俺様してるし、主に私がライバル認定されてるけど。
「コットリアまで来てそれなの? もう少しで夕方だよ? 明日にしない? それに宿や荷物はどうするの? 私は決まってるからいいけどさ」
私は、と言うより私たち一行は、コットリアにあるファーレンハイト家のお屋敷に泊まることになってる。
王子様たちはどうするつもりなんだろう?
「ふん、既にエリザベスに話はついている。俺様たちもエリザベスのとこに泊まってやるから安心しろ」
「フラン嬢、少しでいいから付き合ってもらえないかい? 馬車の中で楽しみにしてる殿下とマッシュを抑えるのが大変だったんだ」
「そうだぞ、俺にも相手してくれよな!」
信号機トリオである王子様、マイケル様、マッシュ様が次々好き放題言ってくる。
「あらあら、人気者ねフラン。初めまして、ハロルド殿下、マイケル様、マッシュ様。私はマリアンナと申します。いつもフランがお世話になっております」
正直勝負を受けるのがめんどくさいし、どう理由をつけて断ろうか考えてると、馬車から降りてきたお母さんが声をかける。
「む? 銀の姉君か? 俺様はハロルド・フォン・サンライトだ。彼女とは良き関係を築かせてもらっている。姉妹だけあってそっくりだな」
王子様は俺様してるけど、平民相手でもちゃんと名前を名乗れるようになってた。
すごい進歩!
でもね
「あら、ありがとう存じます。ですが私はフランの母です」
「なに!? お、おい、銀の! 本当なのか!?」
王子様はめっちゃ驚いてる。
「うん、私のお母さんだよ。すごいでしょ? 若くて綺麗ですごく強くて、でもとっても優しい自慢のお母さんだよ」
「そ、そうか」
王子様に続き、マイケル様とマッシュ様もめっちゃ驚いてる。
だよね。
私も初見ならそう思うもん。
見た目は相変わらず20歳前後。といってもそれは私の感覚で、この世界の人にはもう少し若く見られてるっぽい。
私は10歳だから、今はもう姉妹と思う方が自然なくらいになってる。
っていうか私の記憶の限りでは、お母さんは私が3歳の頃から見た目が変わらないような気がする。
私的な七不思議の一つだ。
「殿下、先に済ませることを済ませてからの方が、今よりもゆっくり時間が取れますよ。それにしばらくは一緒に過ごすのですから急ぐ必要もありませんよ」
「む、そうか。ならば勝負はまとまった時間にするとしよう」
「うんうん、後で相手してあげるから」
「な、なんだか扱いがぞんざいじゃないかい?」
「気のせいだよ」
マイケル様は釈然としない表情だけど、王子様とマッシュ様は気にせず、馬車の周辺で待ってるお付きの執事さんやメイドさんのところに向かっていった。
「お母さん、ありがとね」
「いいのよ。エリザベス様やアイリーン様もいらっしゃるもの。一段落してからの方がみんなのためよ」
それでも、私は気づかいが嬉しくてお母さんに抱きついた。
前世では気恥ずかしくてハグなんてできなかったけど、今は習慣になってるし全く気にならない。
感謝の気持ちだけじゃなく、甘えも多少入ってるけど気にしない。
中身が大人だろうと今は正真正銘10歳だから甘えても問題ないのだ。
「……尊いです……」
スーさんの呟きが聞こえた気がしたけど、気にしない。
私たちはお屋敷のメイドさんに連れられて滞在する部屋に案内してもらっている。
「それにしても普段住んでない領地のお屋敷なのにえらい広いわね」
アイリは感心しながらしみじみと言う。
「急な来客があっても対応できるようにしているのですわ。これぐらいの人数なら問題ありませんわ」
さすがは公爵家。ダイナミックだ。
「エリザベス様、私まで招待いただきありがとう存じます」
「構いませんわ。テスターをしていただくのですもの。試着や調整をするのにいちいち宿からここまで呼ぶのはお互いに手間ですわ」
「そうよ。先生の声を直接聞いた方がやりやすいわ」
「お気遣い感謝します」
せっかくみんな一緒にコットリアの町に来たのに、お母さんだけ別のところは少し寂しいと思ってたのですっごく嬉しい。
私もエリーに抱きついてお礼を言った。
次回更新は7/2(月) 17:00の予定です。




