第122話 馬車でのお話し
私たちは今、馬車に揺られて布の名産地コットリアに向かってる。
お父さんとお母さんから旅行の許可はもらってある。
着替えも日用品も準備バッチリ。日用品以外についてもアイテムボックスの魔法のお陰で省スペースだ。
もっとも、アイテムボックスの魔法を誰彼構わず見せれば面倒ごとに巻き込まれることは必至なため、カモフラージュとして大きなリュックやポーチは常に持ってきてる。これはアイリの提案であり三人で合意済みだ。
「それにしてもまさか王子様たちもついて来るとは思わなかったね」
「ええ、私も驚きましたわ」
そう、私たちが旅行の計画を立てた日の午後に王子様たちがやってきて、話す流れになったのだ。
来週からしばらく不在になるって言ったら、
「なんだと? それでは俺様たちが暇になってしまうではないか。ふん、仕方がない。ならば早く用事を済ませられるよう、俺様たちも視察とやらに付き合ってやる」
と、頼んでもないのについてくることになった。
っていうか、王子様が一緒に視察したからと言って早く終わるの?
むしろ余計時間がかかるんじゃ?
謎だ。
それとよく分かんないけど、王子様みたいに身分が高い人って、そんな簡単にあっちこっち行ってもいいのかな?
ちなみに王子様たちは別の馬車だ。
「そうよね~。まさかアタシたちが下着開発のために行くなんて言いづらいものね」
今回の旅行の目的がまさか下着のためとは言えない。
対外的には「衣類に使う布の生産地を視察する」という名目になっている。
公爵令嬢の視察に平民の私が一緒にいられるのは、ファーレンハイト家から冒険者ギルドへの指名依頼という大義名分を得ているからだ。
ものすごいコネっぽく見えるけど、内容は回復魔法の使い手として万が一の際に対処することだから問題ない。
何年も回復魔法のバイトしてるし、特に女性からの評判はいいから周りからのやっかみや不満もない。
んふふん、完璧だよね。バイトやってる日は少ないけど、地道な活動が信頼になるのだ。
まあ、毒舌美青年執事のスチュアートさんとスーパーメイドのスーさんは護衛としての役割もあるので、私が活躍する事態は起きないと思うけど。
私は護衛しないのかって?
私は猫獣人だけあって音や気配に敏感だし、外壁の外での冒険者活動で警戒することには慣れてるけど、お仕事として護衛ができるかと言われると無理だ。
護衛の訓練を積んでない私がスチュアートさんやスーさんみたいにこなせるとはとても思えない。
とはいっても、万が一彼らがいない時に不測の事態が起きたら私が何とかするつもり。
獣人の身体能力に魔法を駆使すれば、二人をつれて逃げることは十分できるはず。
「ところでアイリーン様、フランから話は聞いたのですけど、今回作る下着というものはどのようなものなのか改めて伺ってもよろしいですか?」
「もちろんよ、マリアンナ先生」
ちなみにこの旅行にはお母さんも来てたりする。
家で下着を作る目的でコットリアまで旅行に行くことを話したら、超興味津々だった。
翌日冒険者ギルドに行くと、私たちが旅行に行くのと同じ期間、お母さんはコットリアの町に臨時出張することに決まった。
にっこり微笑むお母さんとは対照的に、ギルマスは疲れた顔をしてた。
お母さんはギルマスの弱味でも握ってるのかな?
一緒の馬車に同席してるのは魔法の講義をするお仕事としてだ。時間はたっぷりあるのでこうして休み時間は雑談してる。
「なるほど、素晴らしい下着ですね。私はさらしを使って固定してるけど、アイリーン様のおっしゃる下着ならとても楽そうです」
「そうよ。楽なだけじゃなく見た目も美しくできるし、マリアンナ先生の魅力を高めてくれるわ。ケイン先生もイチコロよ。そうだ、もし良かったら、テスターをやってもらえないかしら?」
「テスター? 私で良いのですか?」
「もちろん。実はヴァージニア様にもお渡ししたいんだけど、ある程度形になるまではさすがに渡せないと思うのよ」
ヴァージニア様は、エリーのお母さんね。
「それにヴァージニア様はとにかく胸が大きいので、なるべく近い人の意見を取り入れたのよ。その、先生も大きいじゃないですか」
アイリはお母さんの胸を見ながら、自分の胸に手を添える。
「これからですよ、アイリーン様。まだ10歳じゃないですか」
「そうよね、アタシもそう思ってたんだけど、そう思いたかったんだけど、どうやらアタシは隔世遺伝でドワーフらしいのよね……」
「そ、そうなんですね……」
「うふふ……エリーとフランが羨ましいわ……ヴァージニア様とマリアンナ先生を見れば未来は明るいもの……」
アイリが遠い目をしながら自嘲気味に笑ってる。
なんて声をかけていいのか分かんない。
ただこれだけは言える。お母さんの大きさに憧れのは分かるよ。
私は前世は平均サイズだったし。
「大丈夫ですわ、アイリ」
「エリー?」
エリーがそっとアイリの肩に手を置くと、力強く言い放った。
「小さな胸はステータスですわ」
「ぶふぅーー!!」
「むぁー!!」
私に向かって吹かないで!
「ちょっとアンタなに言ってるのよ! っていうかどこで覚えてきたのよ!?」
「あら、一昨年のお泊まり会でアイリが言ってましたわ」
「そ、そうだったー!! ぐぬぬ……誰に対して言ったわけでもないけど、ブーメランつらたん!」
「あらあら、仲良しね」
「フランシェスカ様、お拭きいたしますね」
私はメイドのスーさんに顔を拭いてもらったり、アイリはムンクの叫びっぽくなってたり、エリーはイタズラっぽいけど上品に笑ってたり、お母さんは微笑ましく私たちを眺めてたり、私のネコミミをさりげなく触るスーさんは鼻から赤い何かを漏れ出してたり、私は赤い何かに触らないようスーさんから離れよう抵抗したりと、馬車の中はとてもカオスになっていった。
「御者席にいて良かった……」
御者をしてるスチュアートさんの呟きが聞こえた気がした。
フランが外壁の外で冒険者活動をするようになったと言っても、隣町まで離れるとなるとマリアンナはフランが心配なのでついてきています。
理由を付けてギルマスに臨時出張を認めさせてます。
職権乱用?
中世ヨーロッパっぽい時代なのでそんなもんです(
次回更新は6/29(金) 17:00の予定です。




