第115話 アイリーンは魔術の不思議を解明したい
アタシはマリアンナ先生の魔法授業によって魔法が使えるようになったわ。
その影響もあってか、魔術でなら基本4属性すべて使えるようになったわ。
適性は火と土属性だから優劣は出るけど、それでもなかなか才能があるんじゃないかしら?
で、4属性すべて使えるようになったことで、分かったことがあるんだけど、属性が違っても魔術は詠唱が似通ってるのよね。
それに人によって詠唱が多少違ったとしても普通に発動するのよ。
「なーんか魔術って結構アバウトよね」
「ん? どういうこと?」
お茶会でアタシは思ってたことを話す。
「魔術を発動するには詠唱が必要でしょ? でもその詠唱って一字一句同じでなくても意味が通じる文章なら多少違っても発動するじゃない?」
「確かにそうですわ」
「しかも属性が違っても、詠唱内容が似通ってるような気がするわ。そんなわけで魔術って詠唱に法則性があると思うのよ。で、この法則が分かれば、どんな魔道具作りも夢じゃないわ」
魔道具は存在するけど基本的には貴族向けのため非常に高価な上にショボいものしか無いのよね。
でもアタシは前世にあった便利グッズやオタグッズが欲しいのよ。
「そういえば魔道具を作りたいって前から言ってたね。そもそも魔術は魔道具にどう関係するの?」
「良い質問ね、フラン。簡単に言うと、魔道具は特殊な技法で魔術の詠唱を対象に刻み込んで作るのよ。で、特殊な技法に必要な素材のひとつがミスリルね」
「そうでしたのね。初めて知りましたわ」
「ミスリルって、あの不思議金属のミスリルだよね」
ミスリルは魔法や魔術との親和性が極めて高いファンタジーな金属。
だから魔道具を作るのに非常に適した素材なのよね。
まあ銅や鉄でもいいっちゃいいけど、すぐに劣化して使えなくなるわ。
金やアダマンタイト、オリハルコンあたりならミスリルと同様に劣化しないらしいけど、価格面で考えるとミスリル一択よ。
「詳しい作り方はおいおいとして、作ろうと思えば多分今のアタシたちでも簡単なものなら作れると思うわ。でも、それだけじゃ魔術を唱えるのと大差ないし、荷物になってむしろ邪魔。だから望む効果を発揮する魔道具を作るためにも、魔術の詠唱の法則性を解き明かしたいのよね」
「なんか難しそうだね」
「魔術の謎を解き明かすのですわね。面白そうですわ」
「ちなみに魔術ギルド関係者にも確認したけど、魔術の詠唱は“よく分かんないけど発動に必要なもの”程度の認識だったわ」
「そうなんだ。だんだんと広まってきてるから研究されてるのかと思ってたよ」
アタシもそう思ってたわ。
でも日常の変化はほとんどない。魔術が広まってきてると言っても、ほんとに徐々にって感じなのよね。だから研究は本当に一部の人が細々とやってる程度、だと思うわ。
「それで、アイリは何かアイデアがありまして?」
「あるっちゃあるけど、それを説明するためにも、まずは比較しやすいように魔術の詠唱を並べて書くわね」
アタシはいつものようにポーチからメモ帳を取りだし、基本4属性の魔術の詠唱を書いていく。
「確かにこうして並べると、ほとんど同じですわね」
「でしょでしょ?」
例えば、火炎の玉の詠唱は、
“我は望む。其は魔力の器なり。器に注ぐは溢れんばかりの火炎の魔力。彼を穿つは器の火炎。我が声に応じ弓矢の如く現れ出でよ。火炎の玉”
なんだけど、他の属性だと火炎が水や風や土に置き換わり、穿つとか弓矢の部分が属性の表現に合わせた言葉になってるのよね。
「んー、なんか詠唱って規模とか、対象の指定とか、どんなイメージで発動するのかまで一連のプロセスをまとめた文章だね」
「さすがフラン。一発で見抜くとは。アタシもそう思うわ」
「それに文章として成り立つのであれば、先ほどアイリの言っていた多少詠唱が違っても魔術は発動する、ということですのね」
「そうよ。つまり詠唱に使える単語や文章をまとめていけば、それを組み合わせて自分の望む効果を作り出せるんじゃないかと思うのよ」
「「おおー」」
もちろん、固有魔術の再現はできないかもしれないけど、アタシの考えが正しければ新しい魔術を作れるはずよ。
「それにしても、詠唱に使える単語や文章を纏めるのめんどくさそうだね」
「その辺は仕方ないわよ」
検証は地道な作業が必須だもの。
「ん~、いっそのこと詠唱が数式だったら、ポエムみたいな詠唱をしないで済みそうなのに」
「そ、その発想は無かったわ!」
やっぱこの子は天才よ!
フランは声に出して詠唱するのを恥ずかしいから魔術は使わないって言ってるから、多分それをどうにかしたいって発想だろうけど、この気付きの価値はそこじゃないのよ!
「なるほどですわ。例えば、他の言語で魔術が発動するのなら、数式でも発動する可能性は高いですわね」
エリーもアタシの意図に気づいて補足説明をしてくれた。
数式なら文章や単語に揺らぎは無くなり、結果は必ず一意に決まる。
しかも対象に詠唱を刻み込む文字数を減らせる。
魔道具にするにはうってつけじゃない!
エリーは早速メイド長を呼び出すと、ライセンスフリーの生活魔術をエルフ語で発動するか確認してもらった。
彼女は100年以上も前から世代を超えてファーレンハイト家に仕えている人らしい。
彼女の祖父母は未だに共通語ではなく古来のエルフ語で話すので彼女もエルフ語を使えるんだそうな。長命種すげえ。
ちなみにエルフが使うのは精霊魔法であり、魔術を知ってたとしても出番はないし、使ったとしても標準語だろうとのこと。エルフ語で試すなんて発想は無い。
ちなみに精霊魔法については精霊を介して発動する魔法、程度しか知らないので割愛よ。
「この結果やこれからする検証は秘匿すべき情報ですわ」
「え? なんで? 広まれば魔術がもっと便利になると思うんだけど」
「便利すぎるからよ。それにこういう技術的なノウハウは魔道具を作る上で知られるのは良くないわ。真似されちゃったら売れないわよ」
表面上のことを言ってフランを納得させる。
魔術は便利な反面とても危険な物でもあるのよね。
前世の人間と同じようにきっとこの世界の人間である普人も欲望が強いと思う。
強力な力を得た人が悪人の場合だったらどうなるかは想像に難くない。
さらに隙あれば侵略を考えるような国に伝わってしまったら戦争になりかねない。
フランみたいな良い子に、そういう人の醜いことになるべく関わらせないようにしなくちゃいけない。こういうのは貴族であるアタシたちの領分よ。と言っても、政治的なことの判断はお父様たちに丸投げだけど。
「とにかくこれで好きな効果も持たせた魔道具作りに一気に近づいたわね。あ、エリー、フラン、情報の秘匿については、公爵様とうちのお父様に預ける形でいいわよね?」
「もちろんですわ。それが一番ですわ」
「うん、いいよ」
これでアタシはアタシのやりたいことに専念できるわね。
よーし、魔道具による便利グッズやオタグッズ開発がアタシを待ってる!
次回更新は6/2(土) 17:00の予定です。




