第102話 完全勝利
ノリノリで問題を出すアイリ。
王子様は文章問題に苦戦してる。
「一つ鉄貨一枚の黒パンを銅貨一枚払って買った。お釣りはいくらか。だよ、殿下」
マイケル様が王子様に耳打ちしてる内容を高性能なネコミミはしっかりキャッチした。
「……ふん、ならば答えは「釣りなぞない」だ!」
「ふぶー! 外れです!」
「なにっ! なぜだ!」
「これは算術の問題よ。お釣りがいらないからって「釣りはない」では答えになりませんよ」
「いや、一枚はいちま……」
「殿下、この問題は引っかけ問題だよ。銅貨は一枚で鉄貨10枚の価値があるから、10-1がこの問題だよ」
「くっ! 計られたかっ!」
マイケル様は優しく耳打ちしてるけど、その程度の小声じゃ私には筒抜けだ。んふふん。
それにしても王子様は自分で買い物したことなんて無いのかな?
召し使いに買い物は任せっきりにしててお金の価値を知らないような感じっぽい。
アイリの表情を見ると多分それを見越して問題を出してる。わぁ大人げない。
でも彼の反応が面白いからいいけど。
「えっと……10-1は……1、2、3……答えは9だ!」
「殿下、答えは本当にそれで、いいですか?」
「うっ、くっ! ちょっと待て! もう一度確認する!」
アイリは完全におちょくってる。
一方、王子様は文字が読めないことや、一度間違えたことで焦っているのかおちょくられていることに気づいてない。
なんだかだんだんと気の毒になってきた。
指を数えるだけではなく、マイケル様にも確認したようだ。
「間違いない! 答えは9だ!」
「っ──────────」
「お、おい……」
「────────────────正解っ!」
「ふんっ! 当然だ!!」
思わず立ち上がる王子様。
溜めを作るとかアイリは演出に余念がない。
「うおおお! 殿下! すげーぜ! 俺じゃあんな問題解けないぞ!」
「白熱の勝負ですわね」
何だかんだと相手の年齢を考えて盛り上げてるアイリすごい。
「今のが渾身の問題だったようだが残念だったな! 俺様は負けん! これで最後にしてやる!」
「ええ、望むところよ!」
「俺のターン! いくぞ! 4+99+78は!? どうだ! 解けまい! ふははは!」
うわー、なんかもう負けたくないからって適当になってない?
「フラン、出番よ」
「はーい」
ここで私に振るのね。
でも安心。これくらいなら式をメモっておけば暗算でも余裕だ。
「今さら銀のに頼っても答えなぞ出るものか!」
「4+99+78だよね。ちょっと待ってね。……答えは181だよ」
「はっ!?」
なに驚いてるのさ。
自分で出したのに。
「答えは合ってるよね?」
「え? いや……」
「殿下、まさか自分で分からない問題を出したのですか?」
「そ、そんなことない。正解だ!」
あ、これ、絶対分かってなかったパターンだよね。
アイリも気づいてるけど、多分演出のためにあえて見逃してる。
「アタシのターン! ドロー! ふふふ、これでラストターンですよ!」
「ぐっ……!」
うん、やっぱり普通に続けた。
でもこっちが出題する番ということは、わたしがとどめをさす出番が無くなるわけだけど、その辺はどうするんだろ?
「最後は単純だけど難しい問題でいきましょう。と、その問題を出す前に、殿下、数字を適当に4つ言ってください」
「なんだ? 1、7、8、9でいいか?」
「はい。では……」
アイリは白紙にさらさらと書き込むと紙を見せてきた。
7819+8197-1978は?
「これが最後の問題です」
これはひどい。
「は? おい、ふざけるな! こんなの解けるわけないだろ!」
「おや? 殿下、負けを認めるのですか?」
「ちょっと待ってほしい。アイリーン嬢、貴女は解けるのかい?」
「もちろん解けます。そうだ、せっかくだからフランにも解いてもらいましょう」
なるほど、ここで私の出番でとどめをさす訳ね。
簡単とは言ってもさすがにこれを暗算でやるのは厳しい。
……
そうよ、見栄張ったよ。これを暗算で解くのは無理だよ!
だから取って置きの裏技を使おう。
んふふん、これは誰にもバレないし不正でもなんでもない裏技だ。
「フラン、もう一枚同じ問題を書いて渡すからちょっと待ってね」
「ううん、いらないよ。その代わりちょっと問題を見せてね。えーと……うん、後はアイリが使っていいよ」
私は式を確認して目を閉じ裏技を使った。念のため後ろを向く。
「はへ? 本当にいいの?」
「うん。あ、答えを書き終えたら言ってね」
「まあフランがそう言うなら…………できたわ」
アイリは答えを書き終えたようなので、私は目を閉じたまま答えを言う。
「それじゃ答えを言うよ。答えは14038だよ」
私は目を開けて振り返ると、ちょうどアイリが答えを書いた紙を見て確認していた。
「うわ、正解。あってるわ」
「そんなバカな! おい、審判! 貴様も解いてみろ!」
王子様は納得がいかないのか、セバスチャンさんにも解くように怒鳴る。
「かしこまりました。では僭越ながら…………確かに14038でございます。正解です」
「どうかしら、殿下。このまま続けても殿下に勝ち目は無いと思いますわ」
「ーーー~~~っ! くそおっ! 今日のところは俺様たちの負けだ!!」
王子様はよほど悔しいのか地団駄を踏んでる。
俺様なんて言ってるけどこういうところを見るとやっぱり年相応だ。
生意気な子どもだけど。
「おーーほっほっほっ! アイリだけでなくフランも学力はとても優秀でしてよ! 二人は劣ってなどいないですわ、殿下」
「ふん、認めてやる。確かにそこの二人は優秀だとな」
「さすがエリザベス嬢が認める訳だね。今の俺じゃ敵わないなぁ。次に会うときには少しでも差を縮めておくよ」
「俺は勝負がまだだぜ! 次に会うときが楽しみだぜ!」
マイケル様にも認めてもらえたようだ。マッシュ様は……楽しみにしなくていいよ。
「おい、銀の、桃色の! お前らは俺様たちが勝つまで誰にも負けるなよ! 負けたら許さんからな! 特に銀の!」
「え? 私? なあに?」
「いつの間にかなめた口調になってるが、お前が勝者だから特別に許してやる。次は負かせてやるから覚悟しておけよ!!」
「えーっと、うん、頑張ってね?」
剣術勝負では王子様になにもさせずに勝ったので、彼の純粋な実力は分からない。でもうまく説明できないけど、なぜか負ける気が全くしない。不思議な感覚だ。
一方、算術の方は論外だ。中身が大人の私が小学生の年齢の子ども相手に「さんすう」の勝負とかいじめにしかならない。っていうか、算術に限っては高校数学レベルでもなければ負ける気しないし。
そもそも高校数学レベルの理論が中世ヨーロッパっぽい時代のこの世界にあるのか疑わしいような気もするし。
そんなわけで、王子様の言葉は強がりにしか聞こえない。
どう頑張るんだろうかと首をかしげて適当に返事をしてしまった。まあいいや。
「くっ、調子が狂う……! 今日は暇を潰せたしもう帰るぞ」
「分かったよ殿下。レディたち、今日は楽しかったよ。またね」
「今度は俺が勝負するの忘れるなよ! エリザベス、手配は頼んだぜ!」
「ええ、分かりましたわ。それではごきげんよう」
こうして王子様たちは帰っていった。
次回更新は4/19(木) 17:00の予定です。




