『チームGEDOU(外道)』石動不動
幹部連に作戦の全容が伝えられ、現場の総指揮は天野に一任されることになった。
「重責過ぎて、胃に穴があきそうですよ、メンタルもやられそうです。」
天野、一条、財前の三馬鹿トリオは、作戦内容漏洩防止のために、幹部専用休憩室でランチを取っていた。
「作戦は『チームHIDOU(非道)』が立案し、命令は司令官殿が出されるのだからな。
基本的には作戦通りに動けば問題ないだろう。現場判断が必要な場面のみではないかな。」
財前女史は天野を慰めるように言った。
「私はこの時期に特務官が来たということは、そういうことだろうと思っていたがな。」
「真田さんは現場で指揮するタイプじゃないしねー」
「俺は『チームGEDOU(外道)』のリーダー・石動不動が現場総指揮だと思ってたんですけどね。」
「そう思っていた人間は多いだろうな。」
「まぁ情報解禁になったら、『チームGEDOU(外道)』の石動不動とは早めに一度話をしておいたほうがよさそうだな。」
「ですよね。どんな人なんですか?」
「まさしく見るからに歴戦の勇者、傷は男の勲章、プロの傭兵という感じだな。あまりの大きさに見たらびっくりするだろうよ。私は人柄まではよく知らないが。」
一条女史は石動不動とは結構交流があるらしい。
「あ、筋肉馬鹿のところ行く時に私も一緒に着いていくよー」
「遊びに行くわけじゃないんですけどね。」
「脳筋ゴリラは私の大事な改造人間候補の一人だからなー」
交流というよりは一方的な勧誘だったようだ。
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後日、実行部隊への情報が解禁になり、天野は石動不動と話をするために屋外トレーニング場に向かう。
どこで聞きつけたのか本当に一条女史も一緒に着いて来た。
「本当について来るんですか?」
「ただの話し合いでは終わらないだろうしねー」
「改造人間候補の性能を見るにはいい機会なのだよー」
『ただの話し合いでは終わらないだろう』ということは天野も重々承知していた。
石動不動を見つけると一条女史はフランクリーに声をかけた。
「おぉー、筋肉馬鹿ー、元気かー?」
「その呼び方すんじゃねぇーよ」
「脳筋ゴリラのほうがいいのかー?」
「そろそろ、改造人間の素体になってくれる気になったかー?」
「絶対ならねえよ。」
「なんだよー、どうせ筋肉増強剤打ちまくってるんだろー、もう改造人間みたいなもんじゃないかー」
「そういや、最近は朝昼晩三回いかねぇとスッキリしねーな」
「栄養ドリンクだってそんな頻繁に飲まねえよー
もうそれただの薬物中毒じゃねえかよー」
『チームGEDOU(外道)』リーダー・石動不動。
まず一目見て驚いたのは、その圧倒的なデカさであった。
二メートル五十センチを超えるその身長もさながら、上半身裸のその体に鎧のように纏われた筋肉。
顔も体にも無数の傷があり、傷がない箇所はないようにすら見える。
目の前に巨石がそびえ立っているか、巨大な熊が出現したかのようだ。
その経歴もまさしく傭兵中の傭兵。十五歳で単身戦場に赴くと、もっとも過酷な戦場を自ら好んで渡り歩き、ひたすら戦場で十数年を過ごして来ている。今後最も苛烈な戦場となるであろう地球防衛軍にも自ら志願してきていた。
「次の作戦、現場総指揮をとることになった特務官の天野だ、よろしく頼む。」
石動のほうが年上なのだが、天野は今回は上官らしい口調でいくことにしていた。
「かぁーマジか、こんな青瓢箪の青二才が上に立つとか、そりゃねえだろ」
掌で顔を覆い天を仰ぐ石動。
「随分と青々しいなー」
石動のほうがはるかに実戦経験が多いのだからこういう反応になることは天野もわかっていた。
「真田さんのほうがいいというのかねー君はー」
「あぁ、ありゃだめだ。あれは政治屋タイプだ。政治屋が現場に出てくるとロクなことにならねえね。」
「しかしだな、よくわからない青っ白いあんちゃんが来たから、言うこと聞けと言われてもな、はいそうですか、という訳にいかねえだろう。」
「お前、青好きだなー」
「まぁここの奴らはな、敵見ると勝手に突っ込ん行くような奴らばかりだからな。
勝手に突っ込んで、勝手に死んでくような自殺志願者は、俺も放置しておきたいとこなんだが、
そういう独断専行するような奴らは、大概部隊を危険に晒すからな。
だから俺の言うことはちゃんと聞くように躾けなきゃならねえんだよ。
まぁやっぱり一番わかりやすいのは、圧倒的に絶対的な力で相手をねじ伏せて、力で押さえつけることだよな。力による恐怖支配ってやつだな。
そこでだ。俺はここに入って来た奴とは、最初にサシで勝負するんだよ。力じゃ俺には絶対敵わないってことを身をもって知ってもらって、俺の命令には絶対服従だってことを覚えてもらうためにな。
あんちゃんがいた国防軍のいい子ちゃんみたいに、言って頭でわかるような奴らじゃねーんだよ、ここに来る奴らは。
まあそれを新入りいびり、リンチみたいに言う奴もいるんだがよ、俺としてはちょっと違うんだよな。」
天野も軍人だから石動が言うことはよくわかった。
「いやあんたが言ってることは正しいよ。
だから俺もあんたの言うことは否定する気はない。」
石動はニヤリと不適な笑みを浮かべる。
「じゃあ、あんちゃんが俺に命令をする立場にあるってなら、ここはやはり俺と勝負してもらわないとな。」
今回はこういう展開になるだろうと天野も思っていた。
石動不動、この通常の社会生活から極端にはみ出した無法者、アウトローを従わせるには、確かに一度力の勝負で勝つしかないのだろう、と天野は考える。
『勝てる気は全然しないけどな』
「格闘技で体重の差は致命的だからな。
武器を使ってもいいぜ。
あんちゃんが立ち上がる限り何回でも続けてやるよ。
そうだな、十回勝負でもいい。十回やって一回でも俺に勝てたらあんちゃんの勝ちでいいぜ。」
「いや一回勝負でいい。」
「ほう、随分と舐められたもんじゃねえか。」
「いや誤解しないでくれよ。
二回目以降があるってことは、一回目はあんたの攻撃食らって負けたってことだ。
あんたの攻撃一回でもまともに受けたら、身体能力はがた落ちだ。
そんな体で二回目以降やったところで、俺の根性見せるってだけで、嬲り者にしかならないしな。
それこそ他の奴等が見たらリンチにしか見えないだろう。
勝てるとは思えねえが、俺が勝つなら一回目しかないってことだ。」
「へえ、随分と冷静な判断じゃねえか。」
確かに石動と天野の体重差には致命的な差があった。
格闘技においては体重がその破壊力を決定すると言ってもよい。
天野と石動の体重差は七十八十キロ差はゆうにありそうであった。
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屋外トレーニング場で対峙する二人。
それを見つめる一条女史。
「いやー、リングサイド特等席だねー」
『せっかく彩姐さんから学んだんだから、ここで使わせてもらうかな』
虚実を混ぜて、真偽の境界線を不明瞭にする。天野は勝機を見出すことは出来るか。
「いやしかし、大したもんだな。
それだけ筋肉増やしても大丈夫ってことは、よっぽど骨格がしっかりしてるんだろうな。
普通はデカイと多少動きが悪くなったりするんだが、俊敏な動きでスピードもあるし、体の柔軟性もある、もともとの身体能力がずば抜けているんだろうな。唯一小回りが利くという点では俺に分がありそうだが、体力、スタミナ、タフさもおそらくとんでもないだろうし、持久戦に持ち込むのはまず無理だな。
あんたが行ってたとこ、何十キロもある重たい装備持って昼も夜もひたすら走り続けるようなとこばかりじゃねえか。
地獄みたいな戦場ばかりを好き好んで渡り歩いているってんだからメンタルも相当なもんだろ。
どう考えて見ても俺に勝ち目はなさそうなんだが、さてどうするかな。」
長々と喋る天野に若干苛立ちを見せる石動。
「あんた随分おしゃべりなんだな。」
「いや普段は無口で控えめな性格さ。」
「俺の動揺を誘おうってことかい。」
「まぁ普通にやっても勝てないしね。」
「武器は使わねえのかい?」
「武器ねえー、どうすっかなー、相手素手だしねー」
天野は素手のまま構える。
石動のリーチが長いため用心しながら間合いを図る。
石動は猛然と突っ込んできて、その丸太のような腕から拳を打ち込んでくる。
『打撃だけか?』
石動は格闘技全般マスターをしているが、力でねじ伏せる、力で抑え込む、という意識が強すぎるためか、パンチのみを繰り返す。
『早くて、重そうなパンチだな、こんなの一発でももらったらアウトだぜ』
天野はこれを紙一重でかわし続ける。
『このままだといずれ一発もらっちまうな』
天野は相手の動きを見ながらひたすら、頭の中でシミュレーションを行う。
『殴りに来たところを腕を掴んで一本背負いか?
いやそのまま潰される可能性が高い。
潰されなくても、投げのモーションの途中で止まれば、そのまま背後から脇腹を殴打だ。
不自然な体勢でもこいつの打撃なら肋骨は二三本折れるだろう。』
天野の中で相手のバランスを崩すイメージがまとまらない。
『超低空タックルで転がすか?
いやあの地から根が生えたような足の太さだ。
重心も低いし、そう簡単にバランスを崩すとは思えない。
タックル受け止められて、真上から殴打されて、背骨が折れる。』
『仕方ない、誘うか』
一か八か天野は誘いを掛ける。
天野は後ろによろけたように見せ石動を誘い、
好機と見て大振りになった石動の手首を掴み体制を崩した。
次の瞬間石動は地面に転がされていた。
倒れた石動の首筋にはナイフが突き立てられている。
「動くな!」
「ちょっとでも動くと刺さるぞ」
「先っぽちょっと刺さってるての」
「武器は使わないんじゃなかったのか」
「使わないとは言ってない、だろ」
「あんたを一回転がしたところで、大したダメージなんて与えられないからな。
動きを完全に止めて、あんた自身に負けを認めさせるしかない。」
「あんたを転がすにしても大変だからな。
あんたが俺の手の内を知らない最初の一回しか俺には勝機はなかったってことだ。
一回どころか最初の三十秒しか俺の勝機はなかったかな。」
「なるほどな、いい判断だ、的確な作戦だな。」
「もう一点だけ確認だがな。
あんちゃん、このまま刺せる覚悟はあんのかい?」
「もしそうなったら再生医療を信じるしかないな。
あんたを継戦不可能にするには相当深く刺すしかないからな。
そこに再生医療に詳しい女史もいるのが救いだが。
再生医療のコストも馬鹿には出来ないらしいし、
このまま降参してもらえると助かるんだがな。」
石動は仕方ないという顔をした。
「わかった。俺の負けだ。」
石動の首筋のナイフをおさめる天野。
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「天野きゅんやるねー、筋肉馬鹿倒すとはー」
「勝負には勝ったが、倒してはいないな。こんな化け物素手で倒せる人間いないんじゃないかな。」
「天野きゅんもあたしの改造人間候補にしてあげるよー」
「そういうのマジでいいですから」
石動に向かって天野は言う。
「別にあんた達を縛りつける気はないさ。
ただ今度の作戦は防衛ラインの上げ下げが肝だからな。
その指示を俺が出させてもらうだけだ。」
「どうだい筋肉馬鹿、これで私の改造手術受ける気になったかー」
「骨格の強化からはじめれば、さらに筋肉のせることも出来るぞー」
一条女史は傷口に容赦なく塩を塗るタイプだ。
「いや、さすがに今でも筋肉のせ過ぎだ。
自分の筋肉が邪魔で死角が出来てるぞ。」
「天野きゅん、なんてこと言うだよー」
「せっかく筋肉馬鹿をその気にさせようとしたのにー」
黙っている石動に天野は言葉を続ける。
「あんた経歴みたが、格闘技全般マスターしてるんだろ?
力任せじゃなくて、技も使ったほうがいい。
技で来られたら、さすがに俺は勝てなかったぜ。」
「人間相手ならあんたの力に勝てる奴はいないだろうが、相手は異世界住人だからな。どんな力自慢がいるかわかったもんじゃないぜ。」
石動はようやく口を開く。
「あんたやっぱりよくしゃべるじゃねえか」
「彩姉さんに教えられてね」
「ちっ、あのクソアマ、ロクなこと教えねえな」




