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   対決 5

「結界を破壊させて、何になるんです? この里の者は、ただ故郷の星に還りたい、そう願っているだけですよ? それを壊してしまえる理由が、あなたにあるんですか?」

 びゅっ、びゅっと鬼の腕で空を切りながら、上総が問う。

「あるさ。俺は、茜を守りたい。そのためには、あんたのように、何百年も生きてる鬼にウロウロされては困るんでね。結界がなくなれば、あんただって普通に年老いて死ぬんだろう?」

 敬悟が、上総の足をひょいと払う。

 ざっと倒れ込む上総に馬乗りになると、上総の右肘の上をがっちり押さえ込み、その喉仏をぐっと掴み上げる。

「ぐぅ……」

 上総が、声にならない声を上げて呻いた。

「いくら鬼でも、ここを潰されれば死ぬだろう?」

 締め上げる腕に力を込める。

「や……れっ。殺……せ」

 交錯する鋭い眼光――。

 それは、確かに似た光を放っていた。

 ドン――。

 上総の鳩尾に、敬悟は思いっきり拳を叩き込む。呻くこともなく、上総は気を失った。

「そう簡単に、人殺しができるかっつうの……」

 はぁはぁと荒い息の下、地面に仰向けに横たわる上総を見下ろしながら、敬悟が呟いた。

 それは、人として生きてきた敬悟の甘さだったかもしれない。だが、もしその部分を無くしてしまったら、再び人として生きていくことは出来ないだろう。

 それよりも、今は茜の方が心配だった。茜の向かった洞窟の奥に視線を向ける。

「ドジでおっちょこちょいだからな」 

 クスリと笑いが漏れた。

 びゅっ――。

 風の唸る不気味な音が響いて、敬悟は背中が灼熱するのを感じた。すぐさま襲って来た焼け付くような痛み――。

「なっ……」

 敬悟の背中に鬼の爪でえぐられた傷が、斜めに走っていた。

 溢れ出すおびただしい血が腰から足へ伝い、足下に血だまりを作って行く。

 敬悟は、激痛に顔を歪めながら、ガクンと両膝を付いてしまった。

「甘いのですよ、あなたは。それでは何も守れはしない――」

 気絶したと思った上総が、氷のような眼差しを向けて敬悟を見下ろしていた。

「これで、終わりです。成仏して下さい」

 鬼の腕が、敬悟の頭部を目掛けて振り落とされる。

 ズン――。

 鈍い音が、静まり返った洞窟内に響いた。

 どぼどぼと音を立てて、溢れ出す赤黒い血。

 だが、その血だまりに倒れ込んだのは、敬悟ではなかった。

「随分……器用な真似をしてくれる……」

 そう言って、上総は笑った。

 それはあの、いつもの嘲る様な嗤いではなく、心からの笑みに敬悟には見えた。

 はぁ、はぁと、敬悟が荒い息をつく。

 その右腕は、鬼のそれに変化していた。

 上総と同じ、赤い鬼の腕――。

 とっさに起こした、メタモルフォーゼ。

 その変化した敬悟の鋭い鬼の爪は、上総の身体を貫いた。

「行け……結界の発生装置は、そのまま宇宙船の自爆装置に繋がっている……。それが壊されればこの洞窟は、崩落する……」

 ごぼっと音を立てて、上総の口から大量の血が吐き出される。

「行け……」

 掠れた声で呟くと、上総は静かに目を閉じた。

「おい……」

 敬悟は、力無く地面に横たわる上総の身体を揺さぶった。

 目の前で、変化していた上総の腕と顔が人間のものにすうっと戻って行くのを、呆然と見詰める。

「な……んで……」

 何故、涙が出るのだろう――?

 何故、こんなに悲しいんだろう――?

 上総は、いずれは倒さなければならない敵だった。茜を守るには、それしか選択肢はなかった筈だ。

 それでも。

 後から溢れ出す涙の理由わけを、敬悟は分からずにいた――。 



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