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9、母ちゃん至上主義(ヤスシSide)

珍しく、母ちゃんに泣かれた。


確かにこのところ、いつもにましてロクでもねぇことばかりやってっからだけど。

だけど、ロクでもねぇことをした俺を、叱りつけるんじゃなくて。

うちの母ちゃんは、こんなことばっかしてたらいつか取り返しのつかないケガをしたり、命にかかわることになるって言う。

俺に万が一のことがあったら、生きていけないと・・・。

俺が喧嘩でぶちのめした相手だって、親や家族がいて母ちゃんと同じように思ってるんだから、相手だって大切な命なんだって切々と涙ながらに語りやがる。

つい先日母ちゃんの姉ちゃんが突然倒れて亡くなったばかりだからよ、こういうの敏感になっちまってるんだろうけど。

そおいや、ノリコが親を泣かすなって言ってたよな・・・。

はぁ・・・俺も大概クズ野郎だよ。


この前ノリコが鎌倉駅で連れてた男、雰囲気で色恋の間柄じゃねぇってわかったけど、妙に親し気で・・・スゲェ洒落た色男だった。

ノリコだって、髪切って、髪の色も明るくなって、すっかり垢抜けちまって。

あの揺れるポニーテール・・・その揺れる毛先に、もう見とれることもねぇんだよな。


そんなこと思い出だしたらまたムカついて、思わず大きなため息がでた。


バコッ――


いきなり後頭部に衝撃がきた。

振り返ると、使ってねぇ丸めたままのカレンダーらしき紙の筒を握った父ちゃんが、眉毛を釣り上げて俺をにらんでいた。


「ヤスシッ、母ちゃん泣かすなっ!母ちゃんの話をちゃんと聞けっ!!」


「・・・・・・。」


うちの父ちゃんは、イカレている。

息子が喧嘩して相手ボコボコにして、それがうちのお得意さんの料理屋の孫で怒鳴り込まれたっつうのに、母ちゃん泣かしたことにキレてんだからよ。

父ちゃんは、母ちゃん至上主義だ。

父ちゃんの中では母ちゃんが正義で。

だけど、母ちゃん一筋にも程度ってもんがあんだろ。


まぁ、うちの親は学があるせいか、昔っから俺が何やったって頭ごなしには怒んねえ。

そうなった理由を必ず聞く。

そんで、俺なりの理由に筋が通っていたら、納得した上ででも暴力は良くないと注意するだけ。

甘いっちゃ甘いんだけどよ、何か懐が深いっつうか・・・そんなところを、どっか逆に尊敬していたりする。


だけど、高校を卒業して魚屋を手伝うようになって、また・・・じいちゃんと不本意にかわした約束が俺に重くのしかかって来て・・・しかも、俺の名前・・・保の志を引き継ぐって意味じゃんか。

祖父ちゃんが命名したっていうからよ、もうそれって計画的なもんだろうがよ。

嫁ももらわず家のために体壊すくれぇ働いて、若くして亡くなった父ちゃんの兄ちゃんの志なんて、俺、重すぎてむりだっつうの。

俺、そんな大した人間じゃねぇ、完全な力不足だ。

それなのに俺に背負えって・・・いや、なんも考えず安易に背負うって約束しちまった俺は、その気持ちの重さに押しつぶされそうになる。

結局、俺が生まれてきた意味って・・・『保の意志』を引き継ぐためだったってことなのか?

俺は、俺で・・・俺だけの人生を選ぶって事できねぇのか?

だけど、約束は約束で・・・・。


そんなことを考えると、いつも堪んなくなって。

やり遂げる根性も力もねぇ俺自身が情けなくって。

人になんか俺のこと決められたくねぇって。

頭ン中がぐるぐるして、結局誰かをぶちのめすことで、いつも俺の心の迷いを紛らわせている・・・そんなくだらねぇ自分にまた反吐がでる。

いつもそんなことの繰り返しだ。

だけど、ノリコに会って・・・ノリコの歌を聴いて・・・俺の中で何かが癒されて、何かが変わったと思ったんだけどよ。


ガキの頃からチビだった俺だけど、運動神経は恵まれていたらしくおまけに家が魚屋で昔っから魚食ってるせいか骨太で力は強ぇし体力が有り余っているから、ここらあたりじゃ喧嘩で負けたことがねぇ。

ジョーとは家が近所でガキの頃からつるんでいたから、2人ともここいらじゃ手の付けられない悪ガキだった。

まぁ、卑怯なことや弱いもの苛めなんてことは、ダセェからやんなかったけどよ。

阿呆みたいに粋がっている奴にはイラッときて、喧嘩とかバンバンふっかけてた。

俺らが小学生の時でも中学生や高校生にしかけてたから生傷が絶えなかったけど、そのうち地元じゃ俺らに喧嘩を売る奴なんかいなくなった。

まぁ、喧嘩で警察に補導ってのもしょっちゅうで・・・確かに、親には迷惑をかけた。

今回もだ・・・結局親に頭を下げさせちまったし、迷惑をかけちまった。


「母ちゃん、父ちゃん、悪かった。ごめんな。」


流石に己を反省して、頭を下げた。

すると、その頭に柔らかくて温かい手が触れて。


「フフッ・・・ヤッちゃん、素直なところは昔から変わらないねぇ。」


二十歳を過ぎた男が親に頭を撫でられるって流石にみっともなくてどうかと思うけどよ、まぁ母ちゃんがそれで泣きやんで笑ったから、黙ってそのままにしておいた。

って、結局。

母ちゃん至上主義って、俺もか・・・。



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