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80、楽屋にて(ノリコSide)

本日夜にもう1話更新できればと思っています。昨日は更新できなくてすみません。

叔母ちゃんはエミ姉に付き添われて、11時からの昼の部を見に来てくれた。

そして、ショーが終わった後、楽屋用に用意してくれた部屋に2人がやってきた。


広瀬さんが随分気を遣ってくれたのだと思うけれど。

『グランドヒロセ鎌倉』では、緑川さんも出演するということで、楽屋用にスイートルームを用意してくれて。

奥にはベッドルームが2つあるから、私の着替え用の部屋と緑川さんの着替え用の部屋に分けられるので、とても助かった。

春川さんとは事務所も一緒で、打合せも十分してきたから大丈夫だけど、緑川さんとは昨日が初対面で事務所も違うし今回マネージャーなしで来ているので、こちらとしても打合せやフォローをする為にはこういう部屋のタイプがありがたかった。

今緑川さんは割り当てられた部屋の方で、シャワーを浴びている。

私は衣装だけ脱いで、長めのパーカーワンピに着替えていた。



「へぇ、楽屋用にこんな立派な部屋を用意してくれたんだ。ノリコは恵まれているよ。ホテル側にも感謝しないといけないねぇ。」


私がショーを無事終えたのを自分の目で見て感慨深いものがあるのか、少し目を赤くした叔母ちゃんだったが、口調だけはいつもと変わらない様子でそう言った。

同様に目を赤くしたエミ姉も。


「そうだよね。随分太っ腹だよ。この間銀座であったけど、ここの副社長さん太っ腹だけじゃなくて、顏もかなりハンサムだしねぇ。あ、ハンサムって言えば、司会の春川さんも、今日出演してくれた緑川さんもハンサムだよねぇ。ノリコはハンサムに囲まれてうらやましいよぉ。」


と、ミッチーがいるのに、目の赤さをごまかすためか、やたらとハンサムを連呼した。

するとすかさずミッチーが、俺以外をハンサムなんて褒めないで!と騒ぎ出した。

いや、俺以外って・・・自分でハンサムって言うか?・・・まぁ確かにハンサムだけど。

いやいやそれよりも、エミ姉も叔母ちゃんもミッチーが『西 数スタイル』でいる違和感にはまったく動じないって、どいういうことだろう?

そう私が内心呆れていたら、いったん衣装を脱いでバスローブ姿になった緑川さんが、割り当てられたベッドルームから出てきて、私たちが座っているソファーへ笑顔でやってきた。

すると、綺麗にミッチーをスルーしたエミ姉がはしゃいだ声を出した。


「うわぁ、間近でみるとよりいっそうハンサムだねぇ。バスローブ姿もいろっぽ・・・「——エミちゃん!」


だけど、すかさずミッチーがそれを阻止し、史子ママも疲れたようだから、帰った方がいいと不機嫌な顔になった。

どう考えても完全にやきもちだ。

エミ姉もそれはわかっているみたいで、クスリと笑うと。


「はいはい、じゃぁママかえろー。ノリコ、ショー凄く良かったよ。あと2回公演、頑張ってね。」


と、素直にミッチーの言葉に従った。

叔母ちゃんも私の頭を撫でて、頑張ったね良かったよと褒めてくれた。


最後まで、ミッチーのスタイルについてスルーだったけれど・・・。





「このハトのクッキー、メチャうまだなぁ。明日、黄田の見舞いに行くから、このクッキー買ってもっていこうかな。」


広瀬さんからの差し入れのクッキーを頬張りながら、緑川さんがそう言った。

ミッチーはエミ姉と叔母ちゃんを1階まで送って行ったから、私はミッチーが戻ってくるのを待ちながら、緑川さんとソファーでお茶を飲んでいた。


元々私は『オリーブ』のファンではあったけれど、黄田さんは天真爛漫、緑川さんは無口でよく言えばクール・・・もっと言えば近寄りがたいといった印象だった。

それは、あくまでテレビでの印象だけれど、多分それは他の人も同じだと思う。

でも実際の緑川さんは、口調もざっくばらんで親しみやすい人だった。

それに歌はもちろんのこと、話をするスピードや間が私とよく似ていて、言葉にも裏がないし、疲れないのだ。

それは緑川さんも同じように思ったようで、昨日から私がミッチーや春川さんとダラダラ話をしているところで、一緒に食事をしたりお茶を飲んだりお菓子を食べて楽しそうにしている。


「ああ、このクッキーはここの1階のショップで売っていますよ。最近、地元で人気なんです。フロントに電話して、用意してもらっておきましょうか?」


緑川さんの言葉にそう答えると、うんお願い!とすぐに返事が返ってきたので、私は立ち上がった。

そして、部屋の隅に設置された固定電話に手を伸ばしかけたら、突然電話が鳴った。

そのタイミングに一瞬ビクリとしたけれど、ビクリとさせられたことにイラっとしたのはその電話の相手が話しだした時。


『あっ、ノリコちゃん?オレオレ!あのさー、今フロントからなんだけど、今日——「戸田さんですよね?先日は、銀座のショーを見に来てくださってありがとうございました。この部屋、楽屋替わりにお借りしているので、電話に出るのは私だけじゃありませんから、先に名乗ってくださいね?」


少し嫌味っぽくなったのは、受話器から思わず耳を遠ざけるくらい電話のこちら側を考えていない、いつもの大きな声と不躾な喋り方のせいだ!


私の態度を見て、緑川さんがクスリと笑った。

多分、声も丸聞こえなんだろう。


『えー、でも。今、ハイって出た声でノリコちゃんだってわかったんだから、いいじゃんかー・・・何かぁ、富士見の俺に対する冷たさが、優しかったノリコちゃんにも移っちゃったみたいで、へこむんだけどー。ねぇ、それってさー・・・「あのっ、用件はなんですか?ヤスシのことは今、関係ないですよね?」


そんな大きな声で、フロントから電話でヤスシの名前を出されたらたまらないと思い、さっきに続いてまた戸田さんの言葉を遮ってしまった。


『おー、そうだそうだ。あのさ、この間『underground』に飲みに行った時、俺の友達で裕子ちゃんっていただろ?その子がさー、今日のショーも見たいっていうから、東さんに頼んだら見せてもらえることになって。でさ、裕子ちゃんがノリコちゃんにプレゼント渡したいっていうから、悪いけどそっち行っていいか?』


戸田さんの話自体はとてもありがたいものだった。

本当はこの間、もう少し裕子さんや美智子さんと話をしたかったし。

でも、ここにいるのは私だけではなくて、緑川さんもいるからとりあえず緑川さんに許可をもらわないと・・・と思い、チラリと緑川さんを見たら。

私の考えていることがわかったのか、いいよ俺はかまわないよと先回りして許可をくれた。





「しかし、声の大きな人だよなぁ。あれ、先に注意しなかったら、ここの部屋番号あの声でそのまま繰り返してたよなー。フロントから電話してるっていってたからさぁ・・・リノちゃんのこと本名で呼んでたからまだいいけど、でも会話周りに丸聞こえだったろうなぁ。」


部屋番号を教えて、部屋までどうぞと告げて電話を切ると、緑川さんが3枚目のハトクッキーをかじりながら、苦笑していた。

私は、悪い人じゃないんですよちょっとああいう感じなだけで、あれでも若手の華道家なんですよと言うと、えええっと緑川さんがのけぞって、ちょっと引いた顔をした。


「あの口調からだと、信じられないですよねーでもミッ・・・いや、西先生には弱いですから、西先生が帰ってきたら少しは大人しくなると思いますけど。」


とりあえず、ミッチーが帰ってくれば大丈夫だと伝えようと思ったのだけど。


「あのさ、俺部外者だから知らないふりしようと思ってたけど、何か話しづらいって言うか。うーん、リノちゃんたちとはこれからもいい関係で仕事していけたらいいなって思ってるから、ハッキリ聞くけど。西先生って、リノちゃんの身内?さっきのお姉さんって西先生の奥さん?指輪してたし・・・ごめん、無理やり聞くようなことじゃないけど、気になって。ぶっちゃけ、リノちゃんの事務所のスタッフの雰囲気が滅茶苦茶いいなぁって思ってて。実は、うちの社長今年80歳で、今年いっぱいで事務所畳むことになってて。スタッフの数も減らしてて・・・他の事務所を紹介するって言われてるんだけど、何か大手ってさぁ・・・ていうか、今の事務所の社長に会うまで信用できない人ばっかりだったし。もういっそのことフリーになるかなぁって思ってたんだ。まぁ、黄田は大手に行きたいみたいなんだけど。で、意見がなかなか噛み合わなくて。もう決めないとっていう時に、黄田が盲腸になっちゃって・・・でも、リノちゃんがヘルプで歌ってくれて、『サザンリバー』の社長さんやスタッフさん、西先生、春川さんと出会って・・・って言っても昨日の事だけど、昨日からいい事務所だな・・・居心地いいなぁって、思ってさぁ。だから、やっぱり気になることははっきり聞こうと思って。もちろん、他言はしないよ。約束する・・・って、言っても口だけじゃ信用できないか・・・うーん。」


緑川さんの事情を一気に話してくれた。

しかも、結構ヘビーな話。

だから、緑川さんみたいに売れている人なのに、だれもスタッフがつかず1人で来てたんだと、理由が分かった。

私は、話に説得力がないよなぁと困った顔をしている緑川さんに、ニコリと笑うと。


「一緒に歌って・・・その歌の中で、空気感とか、感情とか・・・色々説明できないものを共有して。確かに私たち、昨日が初対面で・・・でも理屈じゃないけど、私、緑川さんを信用してます。なんか、上手く言えないんですけど。」


本当に上手く気持ちを伝えられなくてもどかしいけれど、それでも私のまとまらない言葉に緑川さんが俺も・・・と頷いてくれた。


「そうなんだよな、俺も・・・昨日最初にここのラウンジバーでリノちゃんと歌ったときに、そう思った。それで、周りをみたら皆雰囲気がよくて。あー、この人たち信用できるなって思ったんだ。だから、この後の仕事も頼んだんだ。随分無理言っちゃったけどさぁ。」


「そうなんですか。私の事だけじゃなくて、周りの人たちのこともそう思ってくれて、嬉しいです・・・『西先生』って普段使わない呼び方で、辛かったんですよ実は。言われた通り、西先生・・・普段はミッチーって呼んでるんですけど、ミッチーは私の姉の旦那さんです。本人の許可なしに勝手に話せないので、詳しい話は後で本人に許可を取ってから話しますけど・・・ああ、姉っていいましたけど、私養女で実は従姉妹なんですけど。でも、さっきの叔母である養母も姉も私の事凄く可愛がってくれて、ミッチーも本当の妹みたいに思ってくれていて・・・だから、作詞・作曲家なのに心配して私についてまわってくれて。事務所も、ミッチーの後輩のお父さんの事務所を選んでくれて、春川さんもミッチーの後輩だから無理言って司会についてもらって。そんな感じですねぇ。詳しいことは、また後で話しますけど・・・緑川さんの事情がそう言う風なら、一度ミッチーに相談してみたらどうでしょうか。普段は無茶苦茶な人ですけど、いざって時は結構まともなこと言いますし。よかったら、私も同席しますよ?」


一気にそう言うと、緑川さんがありがとうと頭を下げた。

いや、そんな頭をさげてもらうようなことじゃないと慌ててしまったけれど。


ピンポーン——


ドアチャイムが鳴ったから、話は途切れて。

戸田さんなら面倒だけど、ミッチーが帰ってきたのなら今の話の続きができると思い、私は確認もせずに部屋のドアを開けたら。


「ノリコちゃん、ダメだよ。誰か確認しないと!ジェントルマンの戸田ちゃんだったからよかったけど、これが知らない人だったら・・・・うわっ!?」


戸田さんの圧迫感のある顔が目の前にあって、私は思わず大きくのけぞりかけた。

そんな私にお構いなしに、私の軽率な行動を咎めかけた戸田さんだったが、言葉の途中でいきなり声を上げた。

私は驚いて体勢を立て直し、戸田さんを見ると。


「よぉ・・・典物てんぶつノリコ。久しぶりだなぁ。」


戸田さんを押しのけ、この間『グランドヒロセ銀座』の前を歩いていた、ガタイのいい邪悪な雰囲気をまとった男が、ニヤリと嗤ってそう言った。



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