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7、ビッグニュース(ヤスシSide)

3週間ぶりに行った『chicago』には、ノリコの姿はなかった。

買い物にでも行ってんだろうと思いながら、カウンターの席に腰を下ろすと。


「あらー、ヤッちゃん、ご無沙汰じゃない。あー、ノリコねぇ・・・いないよのぉ。」


俺に気づいたノリコの従姉でこの店のママが、火を点けようとしていた煙草を口から外して、申し訳なさそうな顔をした。

いや、申し訳ないと言いながら嬉しさを隠せないような表情で。


いかにもなアメリカンバーの匂いと喧騒はいつも通りだったが、ノリコがこの店にいないと分かった途端に色あせたように感じた。

ジュークボックスのポップな曲さえも、遠くに聞こえる。


「いねぇって、休みかよ?」


3週間も来なかったんだから何かあったのかもしんねぇけど、ノリコの歌が聴きたくてきたのによ、どういうことなんだとそう言いながらママを見た。

すると、待ってました!といわんばかりに目が開き、ママがカウンター越しに身を乗り出してきた。


「それがねぇ、聞いてよっ。ビッグニュースなんだからっ!ノリコねっ、歌手になるのよっ。あの、コリーレコードにスカウトされたのよぉ。ジミーの友達が、コリーレコードのプロデューサーでさぁ、あっ、その人、去年レコード大賞で、最優秀歌唱賞とったナンシー・星野もプロデュースしてるんだって!もう、アタシ、嬉しくってぇ!今レッスンに東京まで通ってて、遅くなるから店にでられないのよぉ。もう、夢みたい!ノリコもさー、ホント今まで苦労してきたからねぇ、やっと運が向いてきたんだよ!これから、絶対に幸せになんないとダメなんだよ、あの子は・・・あんな酷い親から生まれたのに、ひねくれもせず素直で・・・グスッ・・・人一倍働き者で、あんないい子いないって・・・グスッ・・・マジ神様って間違ったことしないで頑張っていれば・・・グスッ・・ちゃんと見ててくれるんだよねぇ・・・。」


興奮していたと思ったら、ノリコの親の話になるとママは途端に目を潤ませ、声を震わせた。


普段の俺なら知らなかったノリコの生い立ちが気になるところなんだろうけどもよ、ノリコがここにいなくて、歌手になってしまうってことの方がショックで、それで頭ン中がいっぱいになっちまった。

それも、何で俺がショックをうけているのか、自分でもわけわかんねぇし。

そんな自分に戸惑い、だからつい、今自分が不満に思うことを口にしちまった。


「何だよ、それ。じゃぁ、もうノリコの歌を聴けねぇってことかよ。」


俺が不機嫌にそう言うと、ママはキョトンとした顔をしたかと思ったら、突然笑い出した。


「やだー、ヤッちゃん何言ってんの。だって、レコードデビューするのよぉ?これからいつだって好きな時に、レコードかけてノリコの歌を聴けるようになるんじゃない。」





『Chicago』を飛び出した俺は、駅に向かって走り出した。

さっきのショックが何だったのか、分かっちまったから。


走りながら、心の中で叫ぶ。


俺は、ノリコの歌がただ聴きてぇんじゃねぇ!

俺は、ノリコが俺のために歌う歌が聴きてぇんだ!

だから———

ノリコ、お前と違ってひねくれまくった俺だけどよ、もっと、もっと!

俺のために歌ってくれよ!!



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