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67、着なれないもん着てめかし込んだ男(ヤスシSide)

「ヤスシ君、普段スーツなんて着ないのに、なんでそんなにネクタイ締めるの上手いの?」


いつものように午前中に店が終わり、急いでシャワーをあびて横須賀線に飛び乗った俺は、渋谷区松濤の浩之家に15時半についた。

ディナーショーは18時だから、着替えてゆっくり向かっても十分間に合う。

鏡に向かいネクタイを締めていると、後ろから浩之が覗き込んできた。

そう言う浩之は、シルクの趣味の良いネクタイをしているのに、どこか野暮ったかった。

俺はため息をつくと、ディンプルを作りプレーンノットで結んだネクタイをほどきながら、高校の制服はブレザーにネクタイだったからなと答えた。


「え、僕だってブレザーにネクタイの制服だったけど・・・ネクタイは結んであるのを首から下げるタイプだったから自分で結んだことなかったんだよ。あー、だからヤスシ君は慣れてるんだ。」


グタグタ御託を並べる浩之の言葉を無視し、教えてやっからネクタイを解けと言うと、浩之は素直に従った。

2人で鏡に向かい、結ぶ前の左右のネクタイの長さのバランスを示し、ゆっくりと巻き付け方を見せていく。

ディンプルの入れ方も教え、ついでに葬式の時は入れるなというルールも付け加えて、ウインザーノットで締めていく。


「あれ?さっき、ヤスシ君が締めてた感じと違うんじゃない?」


「これは、ウインザーノットっていう締め方だ。今日のおめぇのYシャツ襟の開き角度の大きいワイドカラーだろ?それに合う締め方だ。俺は小柄だし、襟がレギュラーカラーだからよ、プレーンノットっていう締め方だ。体型、Yシャツの襟の形、場面で締め方を変えた方がしっくりくるぞ。」


俺はそう言いながら浩之の締めたネクタイのノットをキュッと引き締め、自分のネクタイを手早く締めなおす。

そんな俺をジッとみつめていた浩之が、アホなことを言い出した。


「いいこと考えた。ヤスシ君、僕の持ってるネクタイ、色んな結び方で結んでおいてくれない?そうすれば、それ頭からかぶればいいだけだし。」


「アホか。ネクタイくれぇ自分で結べるようになれ。おめぇは俺と違って、ネクタイをしなきゃなんねぇ仕事に就くんだろうが。俺だって、ネクタイの結び方を調べたり練習して普通に結べるようになったんだ。努力を惜しむな。」


面倒だから言わねぇが、俺の高校も出来上がったネクタイをゴムの輪に着けて首から下げるタイプのものだった。

首が詰まった感じで、ジョーとそれがダセェということになり。

制服のネクタイはよくある紺と暗い緑のレジメンタルの柄で、簡単に似たようなネクタイが見つかったから、勝手にそれをつけて俺らは通っていた。

そうなると、結び方にこだわりが出てきて、ジョーと2人で毎日バリエーションを変えて結んでいた。




アンティーク家具で揃えられた明るいダイニングに行くと、浩之の母親の由紀さんがあら素敵ねと俺を見ながら微笑んだ。


「すみません、何か俺までスーツを新調してもらって・・・しかも、オーダーメイドのこんな良い物を・・・俺、普段スーツ着ねぇのに。」


「いいのよ、浩之がしょっちゅうやっちゃんのおうちに押しかけて、お世話になっているんだもの。それに、亡くなったお義母さんが、やっちゃんにオーダーのスーツ作ってあげたいって言っていたから、丁度いい機会だと思って。浩之だって、やっちゃんが一緒じゃなければ、テーラーに行くなんて言わなかっただろうし。成人式のスーツを用意しなきゃって言っているのに・・・今、若い人のお洋服はブランドっていうの?そういうものの方がお洒落なんだって、聞かないんだもの。もうお父さんも私もお手上げで・・・本当に、週の半分でもやっちゃんが来てくれることになって、うちは大歓迎。」


『ひろ瀬』に勤めることが決まった時、週の半分だし俺はこっちで安いアパートでも借りようかと思っていたのだが、浩之の家に泊めさせてもらうよう父ちゃんが知らない間に頼んでいた。

夜も遅いし迷惑をかけると思って、俺は最初からここに泊めさせてもらうことは頭になかったが、浩之がうちに泊まってと言ってきかなかった。

それなら家賃として金を・・・と言っても気にしなくていいと突っぱねられ、合いカギを渡され、俺の部屋まで用意してくれていた。

そして、広瀬からノリコのディナーショーのチケットを浩之の分までもらったことを知った浩之の両親が、ディナーショーならスーツだと言い出した。

そんで連れていかれたのが、相場師だったひい祖父ちゃんの時から付き合いのある、『テーラー寺門』。

寺町っぽいところにアンティーク調のどっしりとした店を構えていて、すげぇ歴史と高級感を漂わせていた。

みるからに高ぇだろと思って尻ごみをしかけたが、浩之の父親の孝浩たかひろさんが是非プレゼントさせてくれと言い出して、引くに引けなくなった。

おまけにYシャツまでオーダーで、もうわけわかんねぇから形と色の好き嫌いだけを伝え後は店の人に任せちまった。

んで、出来上がったのが、明るい紺色のシングルスーツ。

オーダーメイドのせいか、自分でも驚くほどしっくりと来た。

ネクタイは同系色でシンプルにまとめ、スクエアの形で入れたチーフは水色。

あと、靴はどうすりゃいいかわかんねぇから『ネイビーブルー』のおっさんに相談したら、茶色の革のひも靴を出された。

俺がひも靴面倒だなと言うと、プレーントゥっていうんだそれくらい覚えておけとどやされた。



とりあえず、着なれないもん着てめかし込んだ男2人が『グランドヒロセ銀座』についたのは17時前だった。

チェックインをして、部屋に着替えを置いて浩之が下で待っているからすぐに出ようとしたところで部屋のチャイムが鳴った。

何だ?と思いながらドアを開けると、ミチルが困った顔で立っていた。



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