49、奇跡の連続の中で(ノリコSide)
奇跡としか思えないことの連続だった。
だけど、やっぱりミッチーの才能の素晴らしさなのか。
デビュー曲の『紫陽花ブルース』がヒットチャート1位になったばかりなのに、『ミッドナイトスペシャルショー』で反響の大きかった『バーボンブルース』をレコード化することになって。
B面の方はまたカバー曲にするのかと思ったら、『destiny』っていうミッチーがエミ姉を思って出会った頃に作っていた、あまーいラブソングになった。
ミッチー曰く、エミ姉の為の歌だから、歌う時はミッチーの気持ちになってエミ姉を思って歌うようにって・・・面倒な注文がはいったけれど、これがまたいい歌で。
そう思ったのは私だけではなく、世間の皆様の思ってくれたようで。
結婚式ソングに使われ始めたらしい。
今度の曲の衣装も、また江村のおじちゃんが作ってくれることになって。
飲みに行った時、エミ姉から『バーボンブルース』の歌の経緯を聴いていたらしく、衣装は黒のロングドレスになった。
といっても、そのままだと本当に喪服みたいになってしまうので、繊細なレース生地でシルエットが綺麗なタイトロングドレスをデザインしてくれた。
私の体型でタイトか・・・と思ったのだけれど、デビューしてから忙しかったせいか、8キロくらい体重が落ちていたので、心配したほど変ではなかった。
レコードジャケットは、横須賀のあのキャバレーで撮影させてもらった。
時間があまりなかったけれど、ミッチーのこだわりでヤスシに頼んだら叶社長の娘さんの方に連絡を取ってくれたらしく、すぐに了解してもらえた。
実際あのキャバレーで撮影をしたら、あの歌詞のままの気持ちになってしまい、涙が止まらなくなってしまったけれど。
祭壇風の台を置いていた、あのステージで実際に歌っている私を撮るからと言われ、泣きながら歌ったら、なんとそれがPVにもなってしまった。
勿論泣き声だから音自体は違うものと差し替えたけれど、何故だかとても評判が良く、話題になった。
きっと、これも叶社長のおかげだと、心からそう思っている。
驚いたのは、仕事でかかわる人たちの手のひらを返したような、好待遇の態度だった。
デビュー前、あんなに素っ気なかった人たちが、私を下にも置かないような態度で親しげに話しかけてくる。
人間ってこんなに現金なものか・・・そう実感せざるを得ないほどの豹変ぶりで、内心私はドン引きだった。
でも、デビューの頃挨拶廻りをして、私が一生懸命なのに相手に鼻にもひっかけないような態度をとられて落ち込んだことは、今になって思えば無駄じゃなかったんだと思う。
あの時の体験がなければ、もしかしたら今こんなにちやほやされて、私はみっともなく勘違いしていたかもしれない。
本当に現実を見ることができてよかったと心から思うとともに、絶対に自分を見失わないで、新人らしくそしていつまでも丁寧な態度でいようと心に誓った。
「え?ディナーショーですか?」
南川社長が打合せをしたいからということで、歌番組の収録後急遽事務所に呼ばれていた。
「うん、あんまり時間がないんだけど。11月から12月にかけて色々なホテルやレストランから声がかかってるんだ。でも、東君が言うにはデビューしたてで慣れていないしまだ曲も少ないから、開催するのも数回にして、ホテルはグランドヒロセだけにしたほうがいいって言うんだけど。どうかな?」
社長が私に企画書を差し出しながら、問いかけた。
私は思いもよらない話に驚いて慌てて企画書を見たら内容はびっしりと埋まっていて、本当に私にオファーが来たんだと、少し怖くなった。
「・・・私に、できるでしょうか。ディナーショーのチケットって高額ですよね。トークだって・・・お客様に満足してもらえるかどうか、心配です。」
今までは私らしく歌えばいいんだ、なんて少し開き直った気持ちもあったけれど。
ディナーショーは、流石に経験不足の私で大丈夫だろうかと、心配な気持ちが先に立つ。
そんな私の考えを見透かしたように、ミッチーが大丈夫!と私の頭を撫で。
「ノリコはさぁ、歌って言うより・・・自分だけでディナーショーが回せるかとか、間がもつかっていうことが心配なんでしょ?だったら、社長。司会者つけよう!」
と、分不相応な提案をした。
「今晩は、風町さん。銀座での番組以来ですね。ご活躍、嬉しく拝見させていただいていますよ。」
ミッチーがディナーショーの司会に丁度いいのがいるから、食事でもしながら打合せをしようと言って、連れてこられた日本料理のお店の個室。
お店の人が、お連れ様がいらっしゃいましたと声をかけてきて、開いた障子の向こうから現れたのは『ミッドナイトスペシャルショー』の、あの司会の人だった。
ええっ、この人って司会者でも有名だけど、俳優でも第一線で活躍している人だってあれからエミ姉に聞いたんだけど。
そんな凄い人が、新人の私のディナーショーの司会になんて、失礼じゃないのかな?
私は驚きすぎて、今晩はとありがとうございますしか返せないでいると。
にこやかに微笑みながら向かいに座ったその人に、ミッチーが書類をバサリと渡し、とんでもないことを言い放った。
「おまえさ、この紙に書いてある11月、12月の予定空けて、ノリコのディナーショーの司会やれ。」
「相変わらず、無茶言いますねぇ。まったく・・・運良くというか何というか、舞台はこの日程の日にはありませんが、『ミッドナイトスペシャルショー』の司会と、番宣でテレビ出演があるんですが・・・。」
「あ?断れよ。ノリコが初めてディナーショーに出るんだから、得体のしれない奴つけたくないんだよ。」
相手の迷惑お構いなしで、ミッチーが偉そうな態度でそう言うけれど。
「えっ、ミッチー知り合いだったの?といっても、知り合いでもこんな無茶なことお願いしたら、迷惑だよ。決まった仕事を断れなんて、ひど――「わかりました。引き受けましょう。」
「えっ!?」
さっきミッチーの申し出に渋い顔をしていたその人が、突然うってかわった返事をしたことに私は茫然として、その人の顔をまじまじと見つめてしまった。




