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4、原因(ノリコside)

すっかりこちらをご無沙汰しています<(_ _)>

ムーンの方ばかりで、気が付いたら2か月も放置してしまいました

体調不良で、あまりエンジンがかかりませんがボチボチ頑張りますので、引き続き宜しくお願い致します

その日は、何だか朝から落ち着かなかった。

何て言うのか、ソワソワでもないし、考え事も纏まらない、つまり心が落ち着かない状態だ。

こういう時っていうのは、いつも何かあるわけで。

一番古い記憶では、父ちゃんと母ちゃんが私を叔母ちゃんちに置いて行く日の朝も、そんな気分になっていた。

店にハンドルを切り損ねたオート三輪が突っ込んできた日の朝も、メンスが初めて来た日の朝も、エミ姉がミス鎌倉ガールに選ばれた日の朝も。

そう言えば、最近ではヤスシが初めて店に来た日の朝も、そうだった。

別に悪い事ばかりじゃないんだけど・・・あれはきっと、そう。

大暴れするバカが店を壊さないように気をつけろってことだったのかもしれない。





「え・・・私が、ですか?」


定休日なのに、店の常連のジミーからの電話で、私はエミ姉と一緒に喫茶店に呼び出された。

そして店に着くと、席で立ちあがった大柄な男の人。

誰もが知る、コリーレコードのプロデューサーという文字が刷り込まれた名刺を差し出す、真っ黒なサングラスに、ヒゲのオジサン。

名刺と、大柄のためかなり上にあるオジサンの顔を、三回くらい視線を往復させて、ようやく頭に浮かんだことは。


部屋の中でサングラスしている意味って、あるのだろうか。


そんなどうでもいいことだった。


「ノリコッ凄いじゃん!この人ジミーの友達で、あのナンシー・星野も担当しているんだって。」


興奮したエミ姉が、私の肩を揺さぶりながらそう説明してくれた。


えーと・・・ナンシー・星野って・・・!!!


「ええっ!?ナンシー・星野っ!?」


朝から定まらなかった考え事が、漸く今、ここでつながったようだ。


私の驚きっぷりに、目の前のヒゲのオジサンが噴出した。

でも、そんなことより。

ナンシー・星野って・・・ポップスも、ジャズも歌いこなす有名な実力派歌手で、確か去年レコード大賞で、最優秀歌唱賞をとった人だ。

驚く私に、ひとしきりクスクス笑うと、オジサンが膝を曲げ目線を私に合わせた。

そして、私の手に自分の名刺を握らせると。


「君の歌って、切なくて、こう・・・胸がキュッとなるような哀愁があるのに、それとは反対に凄く逞しくて。生命力があるっていうか、哀しいだけじゃない、君の歌には生きる力を感じるんだよね。いい歌うたうじゃない。気に入ったよ、よかったら明日会社へ来て、テスト受けてみない?」


そう言って、会社の地図をくれた。






ジミーとオジサンとサンドイッチを食べて、喫茶店で別れた。

エミ姉と連れだって帰宅しようと思ったけれど、興奮して話が止まらないエミ姉に、1人でちょっと考えたいから散歩してくると言って、家とは反対の方向へ歩き出した。



テストって、もしテストに受かったら・・・歌手ってことだろうか。

その前に、明日店があるのに、テストが長引いたらステージに間に合わないかも・・・。

ってことは・・・明日ヤスシが来て、私がいなかったらまた、暴れる!?

それは、マズい!


そこまで考えると、私はまた方向を変え、駅へと急いだ。




鎌倉から横須賀線に乗り、横須賀で降りた。

ヤスシの家は知らないけど、駅裏の魚屋だと言っていた。

誰かに訊けばわかるだろう。

もし、ヤスシがいなくても、誰かにことづければいいし。

だから、別にヤスシに会いに来たわけじゃない。

ただ、私の歌が聴けないからって、前のように暴れたら困るから。

だから―――



駅裏商店街はすぐわかった。

ヤスシの実家の魚屋も。

小さい店が並んでいるけれど、生活感があっていい商店街だと思った。

まぁ、キャバレーやパチンコ屋、ラブホなんかもごちゃまぜであるから、子供に環境がいいとはいえないけど。

なんて考えながらキャバレーの前を通りかかると、パチンコ屋から最近見慣れた小柄な男が出てきた。


あ、いいタイミングだと思い、少し離れていたから声をかけようと思った時。


「やっちゃん。アタシ、すっからかんにスッちゃったんだよねー。ホテル付き合うから、ご飯奢ってー。」


ヤスシの後から遅れてパチンコ屋から出てきたスラリとした長い茶髪の女が、そう言ってヤスシの腕に自分の腕を絡めた。

するとヤスシはニタリと笑って、いきなり女に口づけた。


そして驚く私に気づくはずもなく、ヤスシと茶髪の女は笑いながらホテルへ入って行った。




ただ立ち尽くす私は―――

朝からの落ち着かない状態の原因が、レコード会社のテストの話じゃなくて。

もしかしたら、この状況のことだったのかもしれないという思いを、頭の中で必死に打ち消していた。





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