37、デビュー(ノリコSide)
テレビ初出演の「レッツ・ソング!」は毎回生でスタジオから放送だが、その日は珍しく公開番組となっていた。
元々視聴率の高い人気番組で、出演者は大御所からトップアイドルまで錚々たるメンバーで、会場も盛り上がっていて。
そこへ新人コナーに、私ともう1人の新人女性アイドルが登場した。
なんと、その新人女性アイドルはコリーレコードで一緒にテストを受けた人だったのだけれど。
可愛い系の女性新人アイドルと、スーツを着て男装をしたよくわからない女性歌手・・・。
まぁ、会場は微妙な反応だよね。
知らない新人の歌手なんかより、早くお目当ての歌手を見たいっていう顔をしている前列のおじさん。
ハコの大きさは段違いだけど、普段ライブで歌っているせいか冷静に客の表情を見て取れる。
横の新人女性アイドルはガチガチになっていて、司会者の質問にもうまく答えられない。
司会者は人気男性アナウンサーでそんな状況にも慣れている様で、フレッシュで可愛いいですねぇ頑張って歌ってください!とフォローを入れていた。
そして、次は私への質問かなと思っていたら・・・質問はなく名前のみの紹介で、直ぐに女性アイドルの歌のイントロが流れ出した。
時間の関係なのか、それとも司会者の好みの問題なのか・・・まぁ、事前に楽屋に挨拶に行った時も、あんまりいい感じじゃなかったから。
先週まではそんなことばかりで落ち込んでいたけれど、よく考えれば新人なんて腐るほどいてそして消えていく・・・全員にいい対応なんてそうそうしていられないのかも。
それに、相手の対応があんまりよくないって落ち込んでいたのは、結局は無意識に相手を責めていたという事で・・・対応が良くないのは、私に対応を良くしてもらうまでの魅力や力がないだけの話だという事に気がついた。
自分に力がない事なのに人のせいにして勝手に傷つくなんて、お門違いだよね。
それに気がついたら、すごく気持ちが楽になった。
まぁ・・・ヤスシの鯛茶漬けを食べたからというのもあるのかもしれないけれど。
凄く美味しくて、凄く優しい味で、あれを食べたら凄く元気になった。
と、そんなことを考えていたら・・・。
「!?」
歌い出した新人アイドルが思いっきり音程を外した。
必死で決められた振付を踊っていたのだけれど、音程が外れたことで右手だったのか左手だったのかわからなくなったようで・・・歌詞も飛んでしまって・・・。
歌が終わる頃には会場内はヤジが飛び交っていて、続けて歌う私にとっては非常にやりにくい状況となったのだけれど。
伊達に、酔っ払い相手に歌っているわけじゃない、上等じゃん、やってやるよ!
そう思いながらステージ中央へ向かうと。
「引っ込めー!」
前列のおじさんがヤジを飛ばしてきたから。
「言われなくても、歌ったら、引っ込むよ。」
つい、素で返してしまった。
すると、場内がドッと笑って、それに調子に乗ったのかおじさんが続けてヤジを飛ばす。
「男か女か、はっきりしろっ!」
「衣装は、事務所方針!」
私の返しに、再び笑いが起き・・・・そして、雰囲気を一掃するように私は、いつもよりパンチを込めて歌い出した。
「いやー、よかったよ、君!歌うまいねぇ。会場も信じられないくらい盛り上がってたし・・・えーと、風町リノちゃんだっけ?パンチあったよー。トークも旨いじゃない。何だ、さっきもっと喋ればよかったのに!」
人気男性アナウンサーの司会者が、番組終了後挨拶に行く前にやってきて上機嫌でそう言った。
いや、もっと喋ればって・・・自分が話をふらなかったんじゃん!
何をいっているのかと、驚いて司会者の顔を見ていたら。
「今日はありがとうございました。うちの風町面白いでしょう?これからも宜しくお願いします。」
ミッチーがやって来て、ドヤ顔で司会者に挨拶をした。
その瞬間、司会者が驚いた顔をして。
「えっ、西先生?・・・先生が、新人歌手の担当したんですか?確かに、いい曲でしたけど・・・まさか、先生の歌だとは知りませんでした。」
私とミッチーをマジマジと見比べてそう言った。
「ええ、オーディションの時に彼女の歌とキャラクターが気に入って、担当したいって思ったんですよ。今回の『紫陽花ブルース』は、風町をイメージしたらすぐにできたんです。」
ミッチーが調子のいい事を言う。
エミ姉と紫陽花寺にデートに行くのが楽しみすぎて、できた曲じゃん!
顔には出さないように注意しながら心の中で突っ込みつつ、とりあえず私も丁寧に挨拶をしておいた。
世の中本当に、何がどうなるのかわからない。
その『レッツ・ソング!』の出演が好評で、翌週も番組出演の依頼が来た。
しかも、今度は新人コーナーではない、普通の出演依頼だ。
南川社長によると、番組への私の問い合わせが多いことと、レコードの売り上げが好調ということもあるそうだ。
1回のチャンスをものにできるかどうかは、実力も必要だけど運も確かにある。
私の前に歌ったアイドル歌手があそこまで失敗しなければ、私もそこまで目立たなかったかもしれない。
彼女には悪いけれど、運がよかったのだ。
そして、チャンスをつかむことが次につながるってことで。
だから、1回1回のチャンスを逃さないように、必死で取り組んでいかないといけない。
そう胆に銘じて歌うしかない。
結局、何がよかったのか・・・まぁ、運が良かったのだろうけれど。
レコードは順調に売り上げが伸びていて、新人ながらも人気番組に続けて出演できるようになった。
キャンペーンに出かけても、ありがたいことに沢山の人が見に来てくれて、私は恵まれた状況だった。




