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30、気づいた気持ち(ヤスシSide)

「麻実ちゃんと浜田の関係は聞いてて、だけど浜田って俺達と必要以外あんまり離さないし・・・というより、不愛想で。それで、麻実ちゃんに浜田っていつもあんな風なのかきいたんだよ。そうしたら、人によるって良くわかんない答えで。じゃあ、浜田に友達っているかって聞いたら、いるっていうからさ、どんな奴か聞いたんだよ。」


広瀬の『やきもち』という言葉に異常に戸田が抵抗したが、うるせぇからギロリと睨むと途端に静かになった。

そんで、話しにくいから敬語はいらねぇ自分の言葉で話せと言ったら、広瀬がクスリと笑い、砕けた口調で話だしたのだった。


俺は、浩之が再び持ってきたお茶をグビリと飲むと、今の話を聞いて頭に浮かんだことを口にした。

ちなみに、東は浩之が持ってきた白玉ぜんざいを無言で頬張っている・・・こいつ本当に、30半ばかよ。


「俺たちって・・・ジョーの言ってた麻実の取り巻きの『お坊ちゃま3人組』って、おめぇらのことか?」


「え?」


「そいつらマジクソムカツく金持ちの大学生で、えーと・・・超デッケェ花屋のジュニアと、まあまあデケェ花屋のジュニアと、えーと、全国展開の超・超デッケェラブホのジュニアだって?ジョーが言ってた。で、超デッケェ花屋のジュニアが麻実の彼氏だって言ってたけど・・・今留学中なんだろ?」


「「・・・・・・。」」

「プッ・・・。」


ジョーに聞いたそのままを言うと、目の前の2人は目を見開いたまま無言になり。

と同時に浩之がふきだし、笑いながら訂正した。


「アハハハッ・・・クククッ・・・ジョーさんって相変わらずヒネてるよねぇ。あのさぁ、戸田先輩はまあまあデケェ花屋のジュニアじゃなくて、青山流の華道教室を鎌倉で大きく開いてるところの息子さんで跡取り。それで、広瀬先輩は全国展開の超・超デッケェラブホのジュニアじゃなくて、全国内外展開のホテルグランドヒロセの跡取り。で、多分その麻実さん?って人の彼氏、超デッケェ花屋のジュニアって、青山先輩ですよね?・・・ヤスシ君、その人、華道の青山流家元の一人息子さんで、次期家元だよ?」


「・・・・・・はぁ、ジョーのクソ野郎。うっかり信じちまったじゃねぇか。でもまぁ、そんなこたぁどうでもいい。麻実のことだ・・・マジ、どうしたか心配してんだ。麻実は体が弱ぇ。自分1人で生活なんかできねぇんだ。金はあるだろうが、親父さんは死んじまったし、ずっと面倒見てきたジョーはどっかいっちまった。麻実気は強ぇけど、体がついていかねぇ。それ、わかって細心の注意はらってやれる人間がいねぇと、麻実はもたねぇ。」


俺がそう言うと、広瀬が厳しい顔で頷いた。


「俺のところで麻実ちゃん預かってるんだ。俺の母親が来てくれて、ショックで倒れた麻実ちゃんみててくれてる。俺は麻実ちゃんの友達でもあるし、昨日・・・叶さんが・・・こっちへ戻る前に、一緒にうちの両親と麻実ちゃんと叶さんと食事してたんだ・・・叶さん、すごく楽しそうで嬉しそうで・・・上機嫌で・・・それで、別れ際に・・・俺に、何度も麻実ちゃんのこと、何かあったら頼むって・・・だから、俺・・・責任もって、麻実ちゃんのフォローするから。」


無意識だろうが、叶の親父さんはこいつを信じて、こいつに麻実を託したんだと感じた。


「そうか・・・なら、よかった。俺自身、麻実とは顔見知りぐれぇで、そんなに喋ったこともねぇからよ。ただ、ジョーがガキの頃から大事にしてきて、ジョーから麻実のことを聞いたり、あと・・・麻実の幼馴染で俺と仲のいい後輩がいてよ、そいつからちょこちょこ麻実のこと聞いてたぐれぇだから。俺が出しゃばる話でもねぇんだけどよ。ただ、マジ、心配してたから、安心した。叶の親父さんが直接おめぇに頼んだってことは、おめぇを見込んだってことだ。だから、俺も・・・麻実のこと、よろしくお願いします。」


ジョーの大切な妹は、俺だって大切だってことで。

だから俺は座り直して、広瀬に深く頭を下げた。

そんな俺の態度に広瀬が慌てたようにわかりましたから頭を上げてくださいと言うので、下げていた頭を戻したが。

顔を上げると目の前の戸田が驚いた表情で俺を見ていた。


「何だよ、さっきから。俺に対して、期待外れとか、見下してみたり、ビビったり、今度は驚いてんのか?まぁ、何思おうが勝手だけどよ。一つ、いいか?おめぇ、何か胆が据わってねぇんだよっ。だから、そんなにおめぇの脳内が忙しい事になるんだよ。腹ン中にひとつ、これだけは絶対に譲れねぇってもの持ってねぇから、どうでもいいことが気になって、核心からズレるんだよ。男だろうが、女だろうが、関係ねぇ。おめぇ、一体今日は俺に何を言いに来たんだよ。気になってた麻実のことが分かったからよ。もう面倒くせぇから、用件だけ早く言えや。」


俺が向いの戸田から視線を外さず一気にそう言うと、戸田の目に戸惑いの色が見えた。


男だろうが、女だろうが・・・つい、ノリコを思い浮かべてその言葉が出た。

あいつは、俺なんかよりもずっと腹が据わっている。

あんな大した奴、いねぇよ。

だから、俺はあいつには何でも話せるんだ・・・そう思うと急にノリコの声だけでも聞きたくなり、もうこの際話なんか聞かねぇでこいつら追い返そうかと思った。


だけど、広瀬が突然。


「やっぱり、麻実ちゃんが言ってた通りの人だったじゃないか。俺はそう思うけど、戸田はそう思わないか?」


よくわからねぇことを言い出した。


「結局、さっきから何の話してんだよ。」


そう俺がイラついた声を出すと、戸田がはぁっ・・・とため息をついて、ガバリと頭を俺に下げて悪かったと謝った。


俺はその様子にこいつはコロコロ態度が変わり、本当に忙しい奴だと呆れていたら。


「さっきの、浜田の友達ってどんな奴か麻実ちゃんに聞いたって話。ジョーの友達は子供の頃からずっと富士見保志っていう奴で、ジョーよりも喧嘩が強くて、男らしい。あんなに男らしい奴見たことないって。本当に強い奴だって・・・喧嘩だけじゃなく、心が強くて優しいんだ・・・なんて言うからさ。華清かしんあ・・・麻実ちゃんの彼氏だけど。華清が凄くヤキモチやいて、俺たちも麻実ちゃんが男をそこまで褒めるって今までになかったから、吃驚して。」


吃驚したのは、俺の方だ。


「それ、本当に俺の事か?何か、間違ってねぇか?」


「いや、君のことだ。俺もさっき店に来て会った時は、半信半疑だったけど。話をしてみて君のことだと思ったよ。戸田も、そうだろ?」


広瀬に問いかけられた戸田は、頷くと俺を真っ直ぐ見つめ話を続けた。


「あんまり麻実ちゃんがあんたのこと褒めるから、華清がキレてよ・・・そのヤスシってやつに惚れてたのかっ、って。そしたら、麻実ちゃんが何でも色恋に話を持っていくな!そういう話じゃなくて、人間性の話だ。そもそも、ヤスシは自分なんか眼中にないって・・・麻実ちゃんが言うから。あんなに美人の麻実ちゃんをソデにするって、そんなにスゲェ奴なのかって俺たち勝手に思ってて。」


やっと、話が繋がった。

だから、最初俺じゃなくて、東に話しかけたのか。

つうか、麻実をソデにするって、勘違いもいいとこだ。


「あのよぉ・・・ダチの大事な女にどうこうなんて思う奴いるかよ。」


俺が至極当たり前のことを言うと、何故か戸田も広瀬も目を反らした。

その意味が分からなくて首をかしげると、浩之がこの人たちはそうじゃないみたいだよと言う。

ということは・・・俺はあきれ返った。


「は?何だ、おめぇたち、麻実に惚れてんのか?ダチの彼女だってさっき言ってただろうが。」


「いや・・・2人が付き合う前から、麻実ちゃんのこと好きだったから。」

「そ、そうだよっ。俺なんか麻実ちゃんと初めて会ったのは、華清と一緒だったし。それに、麻実ちゃんみたいにイイ女、好きになるななんて方が無理だよ。あんたは違うのか?あんな綺麗な子、一緒にいてドキドキしないのかよ?」


広瀬と戸田がそれぞれの言い分を告げるが、俺にはよくわかんねぇ話で。

まあ、麻実はジョーの大切な女ということもあるけどよ、つまりは。


「ドキドキねぇ・・・ねぇよ。別に麻実が俺にとってイイ女ってわけでもないしな。まぁ、性格はとんでもねぇ暴れん坊だが、いい奴はいい奴だけどよぉ。突っ込んだら、ぶっ壊れそうな女は、俺ダメなんだよ。」


「はあっ!?」

「おいっ!」


俺の言葉に、戸田と広瀬が怒った顔で、反応した。

まぁ、身も蓋もねぇこと言っちまったからな、だけどこれが本心なわけで。


「言い方が悪かったな。つまり、麻実は俺のタイプじゃねぇ。俺は・・・強ぇ女が好きなんだ。身も心も強くて、苦しみも悲しみも馬力で跳ね飛ばせるような・・・うまいもんはうまいって、バカバカ食うような活力のある奴がいい。気取ってなくて、正直者で、純情で、肝が据わってて、優しくて。だけど曲がったことは大嫌い、違うと思ったら誰にだって正面切って言う。おせっかいで、照れ屋で、可愛い・・・俺はそんな女がいいんだ。」


タイプなんて今までヤレる女以外考えたこともなかったが、自然とそんな言葉が口から出ていた。

だけど、そう喋りながら俺の頭に浮かんでいたのは、ノリコで。

初対面で喧嘩した俺に説教したノリコ、みたらしを頬張るノリコ、手が震えていたノリコ、元気のない俺を心配してくれたノリコ、親に迷惑をかけるなといったノリコ、店が休みだとわざわざ横須賀まで知らせに来たノリコ・・・頬にキスをしたらテンパってコーラの瓶を倒したノリコ・・・俺の為に歌うノリコ・・・。

ちげぇ、そんな女がいいんじゃねぇ。

おれは、そんなノリコがいいんだ。


俺は、ノリコに惚れてんだよな。


そう自分で認めたら、ストンと腹ン中に何かが収まったような気がした。

そして、ノリコにも俺を特別だと思ってほしい。

そんな欲望が沸き上がった。



「ヤスシ君、なーんか特定の人への告白みたいだけどぉ、それ、本人に直接言った方がいいと思うけど?」


白玉ぜんざいを食い終わった東が、そう言うとニヤニヤと笑いやがった。

ムカつくから無視だ、そう思ったのだが、こいつもムカつくことにニヤニヤと笑いながら。


「え、まだ告白してなかったの?ヤスシ君にしてはめずらしいよねぇ。僕この間見てて、もうすぐにヤスシは君口説くだろうなぁって思ってたのに。あ、でも・・・ヤスシ君全然いつもと違う態度だし、もしかしてすごーく好きすぎていまだに何もできないとか?」


浩之が生意気にもそんなこと言いやがって、俺は前に浩之を『Chicago』へ飲みに連れて行ったことを後悔した。

まさか、浩之までもがそんな風に思っていたとは、考えもしなかった。

そうガックリして、もう二度と浩之をあの店に連れていかねぇ!そう思っていたら。

いきなり広瀬が、話し出した。


「本当にこっちの勝手な思い込みで、変なことばかりいってしまったようだ。申し訳なかった。本題なんだが、この街を統括していた麻実ちゃんのお父さん、叶さんが殺されて・・・浜田が消えて、神崎かんざき みことはまだ警察だ。この街の置かれていた状況は浜田から聞いている。このままだと、土地の買い占めを進めようとしていた奴らの思うつぼになってしまう。ここは、麻実ちゃんの生まれ育った、お父さんが守ろうとした街だ。純粋に、俺も守る手伝いをしたい。だけど、この街の誰にその話を持っていけばいいかわからなくて、今の麻実ちゃんにはとても聞ける状態ではないし。そしたら、富士見保志に話をしろって言われてたこと思い出だして。富士見さん、俺たちの思いは、麻実ちゃんが少しでもこれ以上傷つかないことだ。この街が奪われたら、麻実ちゃんは悲しむ。余所者の俺たちが言うのもなんだけど、俺たちもこの街を守りたい。そして、叶さんを傷つけた奴らを暴きたい。ただ、麻実ちゃんの為だ。だから、君たちの手助けをすることを俺たちにさせてほしい。」


必死のその顔が、こいつらの麻実への気持ちを物語っていた。

ダチの彼女なのに——さっきはそう思ったが、こいつらの気持ちは本物で。

それがわかるのも、ノリコを思う気持ちに気がついたからだろうか。


惚れるっつうのはやっかいなもんだが、本物の気持ちなわけで。

だから、その思いの強さだけ、自分が強くなれるのか・・・。


ノリコが好きだ・・・・・・俺の中で気持ちが溢れた。



俺は広瀬と戸田の申し出を受けることにし、東の話をし始めたが。


「ところで、広瀬先輩は誰にヤスシ君に話をしろって言われたんですか?広瀬先輩の周りにヤスシ君知っている人っていましたっけ?」


ふいに、浩之が思いついた疑問を口にした。

それに対し、広瀬が。


「叶さんが殺される前から色々あって、浜田は俺に何度か連絡をしてきて。その中で、もし何かあって俺側が知っている人間と連絡がつかなくなったら、富士見保志と連絡を取ってくれって。そいつなら、事情を知らなくても、浜田ジョーの頼みだって言えば、力を貸してくれるって・・・ヤスシなら、浜田ジョーの頼みは断らないって言ったんだ。」


と、ジョーとのやり取りを明かした。


半信半疑だったけど本人と会って納得したよという広瀬を見ながら、俺は背筋に悪寒が走った。


「あいつ・・・黒幕殺して、自分も死ぬつもりじゃねぇだろうな。」




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