23、タランチュラのバイク(ヤスシSide)
遅くなりました。よろしくお願いいたします。
何となく、ジョーの顔が見たくなった。
東の話があまりにも衝撃的で、ノリコの過去を思うと胸が締めつけられた。
それは俺がノリコに心を寄せているから、ということなのだろうか。
ジョーが親に置き去りにされて叶の親父さんに引き取られたことは、ガキの頃からここらじゃ誰もが知ってることで、いわば当たり前の話だった。
だから、今思うとそれを俺は当たり前のこととしてとらえていただけで、置き去りにされたジョーの気持ちを真剣に考えたことがあったか、ダチのジョーに心を寄せていたかと、今更ながら後悔した。
今ならジョーはキャバレーの事務所にいるだろう、そう思って駅の裏通りに入った。
そこは、パチンコ屋、ラブホ、キャバレー、一杯飲み屋、スナック等が並ぶ界隈で、まぁうちの店や『みのり』からもそうは離れてねぇけど、ここらあたりは一気に繁華街の雰囲気となる。
突然、少し先のラブホの辺りから、怒声が響き渡った。
それは、地元のいざこざとは違うヤバい感じがして、急いでそこに向かった。
すると、そこにはさっき『みのり』で別れたばかりの東と、何故かジョー、そして見たこともねぇ男3人が対峙していた。
どうやら怒声は、3人の男の誰かが発したようだ。
「どうした?ジョー。」
無表情の東と違って、苛立ちを隠さないジョーに俺は声をかけたが。
「えっ!?さっき一緒に仲良くランチした俺は、無視!?いくら何でも酷いよぉ。君、ちょっと冷たいんじゃない!?」
どう見ても一触即発の雰囲気の中、東だけが場違いな言葉と雰囲気で俺に話しかけてきた。
その様子に、ジョーだけでなく知らねぇ3人組も顔つきがより険しくなった。
そこで俺は、3人組の顔をしっかりと見たが、知らねぇ顔だった。
地元の奴なら、大抵は俺とジョーの顔見りゃ避けるが、しゃしゃり出てきた上にジロジロと顔を覗き込む俺にこいつらは今にも殴りかかりそうな様子だ。
ってことは、余所もんか・・・。
まぁ、見たとこあんま強そうに見えねえし・・・ここはこいつらおちょくるのも兼ねて、先に俺の用を済ますか。
そう思った俺は、ジョーに向かって。
「ジョー、俺あれから色々考えたんだけどよぉ。俺とお前が違うって話・・・やっぱ、俺とお前は違う。だけど、それは誰だって違うんじゃねぇか?同じ人間なんて、いねぇだろうが。つまりだ、面倒くせぇからそこらへん端折るけどよ、俺とお前が違う人間でも、ダチだろ?ガキの頃からずっと、これからもずっとダチだろ?だったら、そんでいいじゃねぇか。なあ?もういい加減拗ねるの止めて、飲みに行こうぜ?お前と一週間以上飲まねぇでいると、俺何かしっくりこねぇんだよ。」
もう面倒な御託はすっとばして、一気に俺の思っていることを喋った。
ストレートに言い過ぎたのか、ジョーは俺の言葉に一瞬面くらったようだったが、すぐに不貞腐れた表情になり。
「・・・何だよ、面倒くせぇから端折るって。はぁ、今日は親父さんの送迎があって遅くなっから、飲めねぇよ。飲むなら、週末だ。」
と、ぶっきら棒にそう答えた。
俺はそのジョーらしい受け答えに嬉しくなり、じゃあ週末なと言おうとしたが。
「ねぇっ、何か2人でイイ感じになってるけど!俺のこと無視したままだよ!」
この状況で敢えてなのか、東も完全に3人組を無視し続ける。
そろそろこいつら仕掛けてくるかと思ったが。
何故か3人組のうちの1人、ニヤけたニキビだらけのチンピラ風が、舌打ちをしてやってらんねぇ!と言い踵を返した。
理由はよくわかんねぇけど、さっきまでこいつらの方から絡んできた様子だったのに、急になんだ?と思っていたら。
「やってられないのは、俺の方。せっかく旨いもの食べていい気分だったのに、ここ入ろうとしたら急に絡まれて。それも理由が、昼間っからラブホ入るんじゃねぇよって。ムカつく。俺、バイク駐車させてもらってただけなのに。まるで俺がいやらしいこと今からするみたいに言われてさー。たまたま通りかかった彼もきっとそう思ってるよね?違うからね?バイク停められる場所探してたら、ここの店長さんがここに停めていいって親切に言ってくれたんだから。誤解しないでよ?・・・もう、俺早く帰らなきゃいけないのにー。」
東がそう言いながら、いともたやすくニキビのチンピラ風の腕をつかんで体の向きをかえさせた。
「ギャッ!」
東は軽くつかんでいるように見えるのに、ニキビチンピラの顔色が悪くなっていく。
あわてて後の2人が東に殴りかかるが。
1人はジョーがケリを入れ、もう1人の方は俺が顔にパンチを入れ阻止した。
転がる2人、そして東がつかんだ腕を離した奴は・・・その場でうずくまった。
地面に転がる3人を尻目に、東がラブホの車庫からバイクを出してきた。
カワサキのスゲェ格好いいバイクだった。
だけど、そのバイクにも所々アクセントで明るい青色が使われていた。
そして、タンクにゴツいグロテスクな蜘蛛の絵のステッカーが貼られていて。
しかも、その蜘蛛の色まで、明るい青色で。
蜘蛛が何で青色なんだよ?そう不思議に思っていたら。
転がっていた奴らのうちの1人がその蜘蛛をみて、震えあがり叫んだ。
「六本木の、タッ、タッ、タランチュラっ!?」
その言葉に、後の2人もはね起きて真っ青な顔で。
「嘘だろっ!?」
「ヤベェ、逃げるぞっ!!」
一目散に、逃げ出した。
その様子に、俺もジョーもあきれていたら。
冷たい表情のまま東が、ジョーに何か差し出してきた。
「あの3人、何か最初から変だったんだよねぇ。急に怒鳴ってきたり、凄んだり・・・ちょっと気になったから、これあげるよ。どうぞ?」
そう言った東の手にしていたものをのぞき込むと。
黒い皮の・・・・。
「あぁ!?財布っ!?」
驚く俺に。
「うん。多分中に免許証とか入ってるんじゃない?身元調べといたほうがいいと思ってー。ちょっと昔の技、つかっちゃったー・・・エへへ。」
と、さらっと言ってのけ、ジョーにサイフを渡すと。
急いでいるのはまんざら嘘ではなさそうで、東はバイクにまたがり直ぐにエンジンをかけた。




