17、取り越し苦労(ヤスシSide)
「ノリコ!」
叶の親父さんには口を出すなとキツくいわれたけどよ、どうしても話をしておきたくて改札を出てきた2人連れに声をかけた。
「え、ヤスシ?久しぶりだね。どうしたんだい、こんなところで・・・。」
ちょっと見ない間に、ノリコはびっくりするくれぇあか抜けていた。
しかも、身長のデカさは変わってねぇけど、なんとなく痩せて引き締まったような体つきになっていた。
そのことに今更ながら驚き、一瞬口ごもると。
「ああ・・・丁度よかった。こんな時間だけどさ、ちょっとうちの店寄らないかい?私、あんたに話があったんだよ。」
ハッとした様子で、ノリコがそう言葉を続けた。
「マサルのこと、助かったよ。本当に、あんたに気がついてもらってよかった。ありがとう。」
俺も話があるからと、『Chicago』に着くやいなや、奥のボックス席にノリコを座らせた途端、ノリコが頭を下げそう言った。
東のことが衝撃でそればっか心配していた俺は、少し前の出来事がすっかり頭から抜けていた。
「マサル・・・ああ、お前の幼馴染な。何か俺がいない間に、解決したみてぇだな。あの鬱陶しい『はま夕』のジジイも、土下座の勢いでうちの店に謝りに来たみてぇだし。もう商店街中バカな孫の噂だ。あんな大騒ぎしたからよ、返って自分の首絞めちまったな、あのジジイ。おお、そうだ。マサルも昨日か・・・学校行く前に店に顔出してくれて、礼をいわれたけどよぉ。こちとら、元々中里のクソガキが生意気でチョイチョイ小狡い悪さばっかしてたから、一回シメとこうと思ってたんだよ。久しぶりにあんだけ暴れて、すっきりしたからよ、気にすんな。」
そう言ってニヤリと笑って見せると、ノリコが少し眉間にしわを寄せた。
「あんたねぇ。せっかくいい事したのに、いくら相手が悪っていったって、あんな大怪我させたら元も子もないじゃんか!」
「俺は、別にいい事しようと思ってしたんじゃねぇよ。お前の幼馴染のマサルが困ってたから、助けただけだ。お前の大事な仲間なんだろ?だったら、筋がとおってりゃ、たとえいい事じゃなくてもよ、助けたさ。ぶちのめしたのは、使えもしねぇ道具大袈裟に見せびらかした挙句へっぴり腰で振り回したからよ、見ちゃいられねぇでつい手を出しちまったんだなぁ。後は、ガキのくせに粋がってダセェ事すんなって、おしおき兼ねてちょっと多めにお灸すえたんだよ。まあ言わばあれは、荒行だな。」
いつもよりダメージを酷くしたのは、マサルが中里の仲間の腕をかすったナイフの痕をわからなくする為でもあったことは言いたくもねぇし、言うつもりもねぇ。
だからつい、浩之のような屁理屈っぽい言い回しになっちまったのは、仕方がないことで。
「・・・ものも言いようだけどさ、いくら屁理屈こねたってやり過ぎた事には変わらないよ?はぁ・・・あんたって、何か残念だよねぇ。マジいいヤツなのにさ、自分の行いでそれ台無しにして親に心配かけて・・・まったく、しょうがないねぇ。もういい大人なんだから、いつまでも心配かけてちゃいけないよ!」
いくら見た目があか抜けても、やっぱりノリコはノリコで。
俺の喧嘩早さを相変わらずの口調で、叱り飛ばす。。
それがやっぱり嬉しくて、だけど『いいヤツ』なんて言われ慣れない言葉に照れもあって。
「わかった、わかった。ケッ、俺のこと『いいヤツ』なんて言うのはお前ぐらいだ。何か悪いもんでも食ったか?そおいや、何かゲッソリしてねぇか?腹でも壊したか?」
スッキリとしてあか抜けたのに、つい憎まれ口をたたく。
その言葉にノリコが目を吊り上げて、反論しようと口を開きかけたが。
突然、目の前のテーブルにフルーツの盛り合わせが置かれた。
それを置いた奴を見上げると、案の定にこやかな表情の色男の東。
「ノリコは健康だよ?痩せたのは、歌は腹筋使うから、筋力トレーニングと、朝ランニングしてるんだ。ゲッソリっていうより、スッキリだよ?女の子にちょっと言い方考えようね?ああ、これは。エミちゃんから、君にお礼の気持ちだってー。」
その言葉に、カウンターの中にいるノリコの従姉であるこの店のママを見やると、俺と目が合い何故かニヤリと笑いながらカウンターをでてこちらへ向かってきた。
何とも言えず、黙ってママに頭を下げてからテーブルに向き直ると、向かいのノリコの隣に座り込んできた東と目があった。
こいつも俺になんか言いてぇことがあるんだろうなと思ったが、いい加減頭ン中で色々気にしたり想像だけで心配したりするも面倒になってきて。
「あんた、東京から来たって話だけどよ。『六本木スパイダース』で『タランチュラ』って呼ばれてる東って、あんたの事か?『六本木スパイダース』って何だ?随分ヤバい奴ってきいたけどよ、ヤバいってどんぐらいヤバいんだ?それと、大きな御世話かもしんねぇけど、ここでもヤバいことするつもりか?俺、前にこの店で暴れたことあって・・・なのに、こうやってまた店で飲ませてもらってるし、ノリコは・・・俺にとって言いたいことが言えて、気ィ張んねえでまんま話せる・・・まぁ大事な友達だ。ノリコは姉ちゃんのことも、ノリコの叔母ちゃんのことも大好きだっていうからよ。だから、なんつうか・・・・・・・・・うん。まぁ、アレだ。ここへ来るまで、今言った事心配してたけどよ・・・何か思ってたのと違ぇな。」
東に面と向かって、きっちり問いただそうと思ったけど。
ここへやってきたママや、向かいに座るノリコの表情・・・そして、東の様子を見て、理由はわかんねぇけど、俺の取り越し苦労だったんじゃねぇかと気がついた。




