126、生き返った(ヤスシSide)
「よぉ、元気そうじゃねぇか。」
弁護士に指定された、この土地では観光名所の陣屋跡の公園駐車場で待っていると、個人タクシーが到着した。
弁護士に伴われ、タクシーから降りたジョーに、そう声をかけた。
相変わらずひねくれもののジョーは、そんな俺を見て顔を歪め。
「何で、おめぇがここにいんだよっ。」
と不貞腐れた。
「あぁ?本当は、刑務所まで迎えに行こうと思ったんだけどよ、その弁護士先生に止められたんだよっ。俺がいくら手紙書いてもおめぇは受け取らねぇし。おめぇのそのひねくれ具合を先生はよーくわかってるみたいでな?俺が刑務所まで迎えに行って、ひねくれもんのおめぇが帰らねえって暴れて、またムショに逆戻りもあり得るってな?だから、ここで待っててくれって言われたんだよ。ここなら、交通機関もねぇしな?人もいねぇし。自販機もねぇし・・・俺の言うこと聞くしかないよなぁ?」
そう言って俺はポケットから紺色の箱を取り出し、ジョーにこれ見よがしにかざして見せた。
すると、ジョーはため息をつき、確信犯かよ・・・と呟いた。
俺は、その様子を見ていた弁護士先生に頭を下げ。
「ありがとうございました。明後日、約束の場所に伺いますので。」
そう言って、頷いた弁護士が待たせていたタクシーに乗り込むのを見届け、ジョーに紺色の箱と、ライターを放った。
目の色を変えタバコとライターを掴んだジョーは、箱をあけピースを咥え火を点け、深く吸い込む。
「はぁ・・・生き返った。」
無言で、タバコを深く吸い込み1本吸い終えると、落ち着いたのか俺を見た。
「次は、酒か?女か?」
俺がそ言うと、ジョーは真顔になり唇をかみしめた。
「まさか、おめぇが迎えにくるなんて思ってなかった。いや・・ちょっと、思ったけどよ・・・俺、おめぇに酷ぇこと言っちまったままだし・・・手紙も拒否ってたし・・・弁護士だけの迎えでタクシーに乗って、やっぱりって思ったけど・・・おめぇが迎えに来てるな——「おい、ちゃんと見ろよ。迎えに来たのは、俺だけじゃねぇ。ミコトも一緒だ。」
ジョーの言葉を遮り俺はミコトの名前を出すと、後方に停めてあるシルバーに紺色のラインのギャランGTOを振り返った。
「はぁ・・・生き返った。」
ビールのコップを一気に空にすると、ジョーはさっきと同じセリフを吐いた。
「おめぇ、そればっかだな。タバコ吸えば、そう言って。温泉浸かったら、そう言って。ビール飲んでも・・・ククッ、女に突っ込んでもそういうのか?ダッセェ・・・。」
俺がそうからかうと、浴衣の胸をはだけたジョーが、テーブルを挟んだ向かい側で膨れた顔をした。
「うるせぇよっ・・・つうか、今日はここに泊まるのか?」
部屋の中をキョロキョロと見渡し、ジョーが今更ながら、ジョーに聞いてきた。
「ああ、いい温泉ホテルだろ?おめぇもいきなり帰るんじゃなくて、ここで3年6カ月の垢を洗い流して、横須賀に帰ればいいと思ってよ、予約したんだ。」
俺がジョーの空になったグラスにビールを注ぎながらそう言うと、ジョーは顏を歪めた。
「はっ、俺が今更、どの面さげて・・・・今更、横須賀なんか帰れねぇよ。」
「あ?おめぇの顔なんてどうでもいいんだよ。おめぇは、俺にとって大事なダチなんだよ。これからもずっとだ。だから、おめぇの帰るところは俺のところなんだよっ。」
有無を言わせず、俺は自分にも継いだビールを一気飲みした。




