1、『Chicago』にて(ヤスシside)
『ブルーシリーズ』魚富士の父ちゃんと母ちゃんの出会いのストーリーです。
携帯もコンビニもない時代背景です。
決して明るい内容ではなく、また美男美女のキラキララブストーリーからは程遠く、ビジュアル的にかなり残念なカップルの(一応)ラブストーリーです。
『TOP OF YOKOSUKA』とリンクしていますので、そちらから読まれた方がいいかもしれません。
また、文中に差別的な内容がありますが、キャラクター要素として必要なための表現です。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
出会いは、鎌倉には珍しいアメリカンな雰囲気のバー、『Chicago』だった。
そこの雇われママがイイ女という噂で、ジョーが見てぇっつうからくっついて来たんだけどよ。
正直俺は、イイ女にはあんま興味ねぇ。
俺が興味あんのは、ヤレる女。
器量だって関係ねぇし、年増だってかまわねぇ。
そんな俺に対し、ジョーは正反対のメンクイだ。
よくこんなんで俺らつるんでいると思うが、ジョーは昔っから唯一気を許せるダチで――
「なんだよっ、イイ女っつうから来てみりゃ、彼氏いんじゃねぇか。」
バドをあおり、吐き捨てるようにジョーがそう言った。
見ればママらしき化粧のケバい女の横には、デレッとした顔の体格のいい赤毛男がいた。
アメ公か・・・。
鼻の下を伸ばして、ママの手を握っている。
うんざりした顔で、ジョーが顔を背けた。
「何だよ、ジョー。男がいるから諦めんのか?ダセェぞ。」
俺がからかうようにそう言うと、あいつの後にヤるのが嫌なだけだ、とジョーが言った。
俺は別に・・・イイ女に興味なんかねぇけど――
そのジョーの一言で何となく、つまんねぇ・・・と思っちまったんだ。
そう思っちまったらどうしようもねぇ俺は、ソロリとカウンターのスツールから腰を上げた。
「お前、もういっぺん言ってみろっ!」
俺が女の前に立ち、乱暴な英語でホテルに行こうぜと言うと、女の彼氏がいきり立った。
スラングで、クソッタレ!と返すと案の定、男が殴りかかってきた。
単に体がデカいだけの、木偶の坊だった。
男のパンチを軽くかわし。
手を使わず、膝を下腹部に入れただけで男は倒れ失神した。
ったく、つまんねぇなぁ・・・。
そう思っていたら。
その失神している彼氏のダチらしきアメ公どもが、俺を取り囲んだ。
「そうこなくっちゃ、なぁ?」
俺は、ニヤリと嗤うと。
舌でベロリと、上唇を舐めた。
ジョーが後ろで、結局お前は喧嘩がヤりたいだけだろと呆れた声を出したが。
そんな事はもう、関係ねぇ。
俺の体全ての血がドクドクと音をたて、まるで獣が体中を駆け巡っているかのようだ。
「もう、その辺で、止めとけ。」
気がつけば、ジョーが俺の血だらけの手を抑えていた。
目の前の胸倉をつかんでいる男は、どうやら気絶をしているようだ。
鼻の原型をとどめておらず、血だらけだ。
俺は舌打ちをするとその男を放り出し、まだ意識のある奴の方へ足を向けた。
俺と目があった床に倒れていた男は、悲鳴を上げながら後ずさりする。
「おいっ、ヤスシッ。いい加減に――「黙ってろっ。まだ、殴りたんねぇんだよっ!」
もうこうなったら、止めらんねぇ。
いつもこうだ。
誰かをぶちのめさねぇと、この興奮が・・・俺の体内で暴れまわる獣が、収まらねぇんだ!
俺は躊躇うことなく、後ずさる男に手を伸ばした――
いや、実際には・・・手を伸ばしかけたのだが・・・。
バシャッ――
いきなり、バケツに入った水をぶっかけられた。
今は、2月。
さすがに水は冷たかった。
それで一気に・・・興奮がおさまった。
ため息をついて、俺に水をぶっかけた奴を見ると・・・。
いや、見る前に、銀のトレーで思いっきり頭を殴られた。
そして。
「この、バカッ!アンタ、本当に、バカ野郎だなッ!」
そう怒鳴ったのは・・・デカい、ポニーテールの女。
あんま器量は良くねぇけど、妙に迫力のある女。
思わず、その迫力に圧倒されていると。
「悪ぃな、店・・・滅茶苦茶にしちまったな・・・弁償すっからよ。」
俺の後ろから、ジョーがそう言った。
ハッ、として周りを見渡すと。
グラスが飛び散り、椅子やテーブルも倒れ、傷がついていた。
しかも、俺が殴った奴らの血がそこらに流れていて・・・。
確かに、こりゃぁ酷ぇ。
このデカい女がブチギレるのも、当たり前か。
俺は自分のしでかした不始末を確認すると、ため息をついて。
「壊したもんは、弁償すっから。」
そう言ったのだけれど。
目の前の女は目を剥いて、また怒り出した。
「本当に、アンタってバカだねっ。弁償しろって話しじゃないよっ。アンタッ、親はっ!?
親はいるのかいっ!?」
いきなり俺の親の話になって、戸惑ったが。
いる、と答えると、またトレーで頭を殴られた。
「目を覚ましなっ。アンタッ、こんなことやってたら、そのうち警察の御厄介になるよっ。そんなことになったら、アンタの親悲しむよっ。アンタッ、自分の親を悲しませるようなバカなこと、してちゃいけないよっ!」
こんなバカな俺に、真剣な目を向ける目の前の女。
今まで誰も俺にこんなこと言う奴なんて、いなかった――
それから。
ジョーは上手く、バー『Chicago』の雇われママを喰い。
俺は、何故か――
「あら、ヤッちゃん。丁度いいところに来たね。今から、ノリコのステージだよ?」
週に1度は俺に真剣な目で説教をしたデカい女、ノリコの歌を聴きに来るようになっていた。
『Chicago』の雇われママはノリコの従姉で、身寄りのないノリコは、ママの家で育ったそうだ。
今は、ママの店を手伝いながら、店のステージでブルースを歌っている。
本人同様、その歌は迫力があって。
優しくて、切なくて・・・皆を癒す、ブルースだ。
俺はノリコのブルースを聴くと、体の中の獣は暴れず・・・何故か心が静まった。
だけど、それから半年後・・・突然。
叶の親父さんが殺られ――
俺は留置所の中で、ノリコの言葉を噛みしめていた。
『目を覚ましなっ。アンタッ、こんなことやってたら、そのうち警察の御厄介になるよっ。そんなことになったら、アンタの親悲しむよっ。アンタッ、自分の親悲しませるようなバカなこと、してちゃいけないよっ!』
留置所の中で、何度も何度も、ノリコの言葉を噛みしめた。
すると、ノリコのブルースが聴きたくなった。
ノリコはまだ、俺に真剣な目を向けてくれるのだろうか。
留置所を出たら、一番にノリコに会いに行こう。
そして、ノリコにブルースを歌ってもらおう。
留置所を出たら――
そう思いながら、俺は毛布を頭からかぶり。
目を閉じた・・・。




