グランドクエスト
宿屋、1階のロビーには、次々に大勢の人間が集まり、何やら話していた。
しかし、レイアはケープを付けたまま、その輪には加わることなく、端の壁に背中をつける。
「レイア様。よろしいのですか。」
「ここにいましょ。マッキン。」
そのうち、大きな斧を持った髭面の中年男性が、大声で斧を振り上げて叫ぶ。
「全く『うんえい』は何してるんだ。早く『ろぐあうと』させろ。」
何人かが同調するように、そうだそうだと拳を突き上げた。
レイアはその剣幕に押されるようにキュッと体を壁に押し付けた。
「この者たちは。」
「皆、あなたの言うところの勇者達よ。」
異世界から現れる勇者にしては、ガラが悪いとマッキンはそう思った。
「大丈夫ですか。確かに、レイア様があの様な粗野な者達と関わる必要はないかと。それに、騎士も連れていないようです。」
マッキンは精一杯、主人を元気づけたつもりだったが、レイアは力なく微笑んだ。
「そうじゃないのよ。あなたは特別なの。私、人と関わるのが苦手なの。それも克服しようと、この『げー』、いえ、世界に来たのだけど。」
「自分には普通じゃないですか。」
マッキンの何気ない言葉に、一瞬、ハッとした顔をしたレイアは何か言いかけてやめた。
「そうね。まずはあなたから練習よね。」
また、突然、先程と同じような音がした。マッキンはチラリと主人の表情を見て、さも平然とした顔を装う。
宿屋にいた人間が一斉に話すのを止め、一瞬の静寂が緊張を生む。
「『ぐらんど・くえすと』が出たようね。」
とレイアがまた、空中で指を小さく動かしていく。
すぐ近くで同じような指の動きをしていた痩せ型でメガネをかけた気難しそうな男が、自信たっぷりの様子で何か仲間に説明を始める。
「『さーばー』が矛盾を自己解決する為に、『くりあ』による『でーた』の『こうしん』を要求したんだな。って事は、『うんえい』の手を離れ、俺達は取り残されたというわけだ。」
「つまり、『げーむ』の世界に取り残された。」
男の仲間は、そう少し笑みを浮かべた。
マッキンにも、「取り残された」という言葉から、何らかの要因で勇者が帰れなくなったことは理解できた。
マッキンにとって不思議だったことは、帰れないことを喜ぶものもいる事だった。
マッキンはレイアを見た。
まるで心を読まれぬように仮面をかぶったような無表情だったが、レイアもこの男が言わんとする意味をしっかり理解しているようだった。
周りを見れば帰れなくなったと泣きわめく者もいる。喜ぶものは一部だった。
「あの、レイア様。」
「魔王を倒さない限り、元の世界には帰れないってことよ。」
「それはなんとなく、理解できました。」
「落ち着いてるのね。」
「魔王を倒すことは世界の平穏をもたらします。神が勇者のことを留め置くのも道理かと。」
レイアは何も言わず、こっちへと階段を登り、客室に入って、鍵を掛けた。
そこは、板張りの部屋に質素なベットがおいてあるだけの部屋でマッキンは勇者にしては寂しい部屋に泊まられているのだなと思いながら、定位置とばかり、ドアのすぐ横に立った。
レイアは、すっとケープを取って、大きく息を吐くと、先ほどとはうって変わって眼に涙を溜めて喚き散らした。
「私は嫌よ。こんな世界でモンスターに囲まれて死ぬなんて。」
マッキンは思わず、主人の肩に手をかけていた。少女の肩である。
「私が必ずレイア様をお守りします。」
レイアはマッキンの手を払うことはしなかった。しかし、感情の高まりは
「私は『うんえいがいしゃ』の『しゃちょうれいじょう』よ。」
レイアはそう怒鳴ったが、マッキンは意味がわからなかった。
レイアはそんなマッキンの顔を見て、ようやく落ち着いて、そうよねとため息を一つついた。
「あの、『うんえい』っていうのは、この世界の事を決める団体なんだけど、そこの1番偉い人の娘が私。わかるかしら。」
マッキンは与えられた情報をまた総動員して、なんとか辻褄の合う答えを探し出す。それは驚くべき答えでマッキンの声は自然と、小さくなった。しかし、そうであれば、今までのことも全て納得がつくとマッキンは思った。
「最高神の姫君で有らせられるということですか。」
しかし、マッキンが懸命に導き出した答えにレイアは吹き出す。
「あの。私、何か、おかしな事を言いましたか。」
「最高神の姫君は傑作よ。マッキン。」




