世界崩壊の光景
わたしは地方都市のまだ周囲に田んぼや畑の残る古い住宅地に住んでいる。
夕飯を済ませ、風呂に入る前に少し散歩をしようかと表に出た。
隣の家の玄関先で、ちょっと年の行った青年が大きな飛行機の模型をいじくっていた。ラジコンらしく、
「飛ぶの?」
と訊くと、はにかみつつちょっと自慢げに、
「ええ。まあ今夜は飛ばさないけど」
と答えた。それもそうかと思う。飛行機は黒いプロペラ機で、もう日が沈んですっかり暗くなっている。
空を見ると、細切れの雲が散った間に星が見え、ひゅん、と、流れ星が走った。
「あ、流れ星」
わたしが言うと青年も、
「あ、あそこにも」
と言う。
雲の間に、あちこち、流れ星が飛んでいる。
流れ星は金色に輝き、背景となる静止した星々まで金色に見え出した。
流れ星は見上げる空の至る所に走り、金色の粉を振りまいたように、空全体が金色にけぶってきた。
「すごいねえ。流星群だ」
何流星群と言うのだろうと、わたしは感心しながら眺めていた。
西の空の高い所に、わたしはすごい物を発見した。
「ああっ、あれ!」
思わず声を上げて指差し、青年も見上げて驚いた。
空に、裏側からストローで吸い上げているような、深い穴が突き抜けているのだ。
空の上のことだからスケールがよく分からないが、かなり大きな穴が、金粉の幕を真空へ吸い上げているように見える。
奥へ差し込む黒いロート状の壁を、紫色の光の塊が降りてきた。呼吸するように次々降りてきて、金色にけぶっていた空を赤紫に、ガス状星雲のように網目状に染めていく。
地球のすぐ外の宇宙に何かものすごい現象が起きているのを思いながら、カラフルな天体ショーに見入っていた。
空を見上げてから30秒にも満たないあっという間のことだったと思う。
火の玉が降ってきて、路地の先に落ちた。
火の粉がわっと爆発し、高熱が襲ってきた。
わたしは体に感じた熱に驚いて、とっさに側溝へ飛び込み、必死にほふく前進した。側溝は今は下水道が整備されて雨水を流す以外に用のなくなった物で、四角いコンクリートの狭い空間を、まさに火事場の馬鹿力で自分でも驚くスピードで先へ逃れた。自分の背後を、側溝の外を、火の粉を含んだ高熱の空気がなぶるのを感じていた。
用水路に突き当たる終点まで逃げてきて、わたしはようやく立ち上がった。
家々が燃え上がっていた。
黒くなった青年が路上で動きを止めるのが見えた。
炎は町のあちこちで上がっていた。まだ空からもあちこちへ火の玉が降ってきていた。
空も赤く染まりながら、不気味な紫の胎動をなお強く大きく広げていた。
熱風になぶられながら、
ああ、これが世界の終わりか、と、
わたしは無力に立ち尽くした。