表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Flying

作者: 筑間 陸

 


 飛べないのなら、死のうと思った。



 物心ついた時から、ずっと空に憧れてきた。

 小学生で初めて飛行機に乗った時、ますます空が好きになった。

 高校生でバンジージャンプをし、飛ぶっていいなぁと思った。

 大人になってスカイダイビングをし、一瞬だけど空と一体になった気がした。

 それからは、少しでも空に近づくために、色々な飛行機の免許を取ったりもした。でも何をやっても、心から満足することはできなかった。どんな手段で飛ぼうとも、それは機械の力で、自分の力ではないからだ。

 いつの間にか、飛ぶことだけが生き甲斐になっていた。

 そして、人間は空を飛ぶことができない。絶対に。

 だから、死のうと思ったわけだ。本当に、私には空を飛ぶこと以外にやりたいことがないのだから。

 もちろん、生活するために最低限の仕事はしている。けれど、別にどうでもいい。私がいなくなっても、困る人などいない。


 そういうわけで、今、この辺で一番高いビルの屋上に来ている。フェンスはもう乗り越えているから、あとは両手を放すだけだ。

 恐怖はない。ただ、下にいる人たちには申し訳ないなとは思う。でもそれだけだ。

 空を見上げる。イカロスはいいな、と呟く。彼は迷宮から脱出するために、色々な鳥の羽を蝋で固めて翼を作った。そしてその翼で、父の助言も聞かず太陽まで昇った。太陽の熱で蝋が溶け、翼はばらばらになり、彼は地に墜ちた。それでも彼は飛んだのだ。私は、飛べない。だから死ぬ。

 あまり綺麗とは言えない空気を、思い切り吸い込む。

 そして。


 両手を、フェンスから放した――。












 叩きつけられた感触はない。私はもう、死んだのか。

 目を、開ける。建物や人が見える。だが、小さい。しかも流れている。

 違う。流れているのは、私だ。私は両手を広げている。

 私は、私は――飛んでいる? 私は、飛んでいる! なぜだ? いや、理由なんてどうでもいい!

 飛んでいるんだ! 自分自身で!

 なんて素晴らしいんだろう! 建物や人はとても小さく、雲はとても近くに見える。空気は綺麗で、空はもっと青い。

 ただ、少し寒くて息苦しい。私は死んだはずなのに。不思議だ。

 まあそんなことは、空を飛ぶ悦びと比べればどうでもいいことだけれど。


 しばらく何も考えずに飛んでいると、いつの間にか眼下にあのビルがあった。私は、自然とそこに降り立った。どうやら私は、まだ生きているようだ。

 見える景色は変わらず、空気はあまり綺麗ではない。

 

 けれど。



 飛べたのだから、生きようと思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ