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沈黙Fall Snow  作者: 憂木冷
4/10

N-2



 一台の軽自動車が通りを這いながら僕とすれ違って行った。すれ違うと言っても、広い通りの車道と歩道ではそれなりに距離はあるのだけれど、夜中の寒気の中で、その走行音は嫌でも身近に聞こえて。枝だけになった広葉樹の電飾行列の彼方へと、静寂を残しながら消えて行った。

 テールランプの名残なごりを見送って、また冷たいタイルをゆっくりと踏み進む。

 秒速一歩。

 たまにはゆっくりと歩くのもいい。いつもは見逃してしまっている世界の一部に目を向けながら。いつも見ているつもりの世界を見直しながら。

 町は明るいばかりで、ヒトは何を見ているのだろう。隣りに居る誰かか? イルミネーションか?

 苦労して美しさを作り出さなくたって、天上の大海はこんなに輝かしいのに。なんて、こんなことを言い出したら無粋なのは僕の方になってしまうのだろう。数には勝てない。まあ、数に限らなくても、僕は負けてばかりの生活を送っているのだが……。それでも、多数決に賛成するヒトは最近では少数派になっていると思うのだけど……でも、反対しているからと言って、完全に関わらないというのは難しいものだ。僕だって人間関係の構築には否定的だが、家族はいる。それと同じ。無勢に多勢で掛かることを好ましく思っていなかったとしても、いざとなれば流されて多勢の一人に加わる。そういうものだ。少なくとも僕の見てきたヒト達はそういう人間ばかりだった。

 だから、みんなして、同じ日に、同じものを見て、同じ様なことを思って、同じ様なことを言うのが悪いとは言わないし、思わない。ただ、下らないと…………いや、思わないな。思わない。なんにも思わない。

 駅前のロータリーまで来ると、仕事帰りだろうか、流石に一人で歩いている社会人も何人かいる。

 だが、いつも見る仕事帰りの社会人の様な疲れた様子は、あまり滲みでていない。左腕の巻かれた文字盤は、すでに一二と一の間を示されているのにもかかわらず。

 ……あ。

 ……。……。

 ……………………。

 そうか。どうして今まで忘れていたのだろう。覚えていれば散歩をしようだなんて思わなかったのに。

 今日は一二月二四日だ。

 正確にはもう二五日だが。

 なるほど、だから町が浮ついていたのか。

 クリスマスで盛り上がるなんて、いかにも普通のことじゃないか。なんの違和感もない。普通の彼らは、ただ普通の流れに乗っているだけだったのだ。納得した。

 こうなると、もう今夜はこの街に僕の居場所なんて見つかりそうもないな。

 ……帰ろう。

 わざわざ踏切まで越えて、あまり行かない夜の街を堪能しようと思っていたのだが。仕方ない、こんな日もあるのだろう。ちょうど駅の近くまで戻ってきたところだったし、少し先の踏切を越えれば家までは一五分程度だ。気付くタイミングとしては最悪ではなかっただろう。家を出る時点で気付かなかった以上、悪いことに変わりはないけど。

 それにしてもクリスマスか。

 そう考えると、この間までの出来事も多少は納得できる……かな?



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