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沈黙Fall Snow  作者: 憂木冷
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P-1



 三週間くらい前だっただろうか?

 確かもう一二月には入っていたと思う。

 そう、高校生活最後の冬を迎えた今月のことだ。その日僕は珍しく学校で話掛けられた。

 クラスメイトの女子。名前は覚えていないが、割と目立つタイプで、よく『さっきゅん』とか呼ばれているのを聞く。だから多分、名前に『さ』が付くのだろう。パーソナリティに関しても、活発そうだなと思う程度にしか知らない。つまりよく知らないヒトだ。特に興味はないから問題は無いけれど。

 自分でも、「もう一二月だというのに、クラスメイトの名前を思い出せないなんてことがあるのか?」とは思うが。実際、普段呼ばない人間の名前なんて忘れてしまうものらしい。いつもあだ名で呼んでいると、いざ誰かが本名を出した時に、一瞬「誰のこと?」となってしまう感じに近いんじゃないだろうか……いや、近くもないか。

 忘れる前に、僕はそもそも覚えてすらいないはずだし。

 とりあえず僕の中で、彼女のことは『さっきゅん』と呼ぶことにしよう。

 放課後。

 用があるから付いて来て欲しいと言うさっきゅんに、僕は疑問符を浮かべながら肯いて、その背を追った。

 僕にとってはありがたかったが、移動中に彼女から話掛けてくることは無かった。呼び出されていることに関して、何か説明をしてくれてもよさそうだが。わざわざこちらから話を持ち掛けるのも面倒なので、黙って付いて行くことにした。

 外に出て、体育館の裏。ともすれば泣き出しそうな曇天の下には、また別の誰かが待っていた。

 知らない女子。

 知らないヒト。

 名前とかの問題ではなく、顔を見たこともない。制服は同高の物だし、学年ごとに色分けされている胸元のリボンも同学年の物だ。だから正確には、『顔を見たことも覚えていない』ということなのだろう。

 寒さのせいか、少し震えていて、頬や耳にも朱が差している。早く用事を済ませてしまうべきだと思い、さっきゅんに説明を促そうかと視線を送る。が、彼女はそれを振り切るかのようなタイミングで知らない女子のもとに駆け寄り、小声で何か喋ると、別れの挨拶を残して走り去ってしまった。

 見送るふたり。

 見切れるさっきゅん。

 残ったふたり。

 …………。

 正直、意味が分からない。

 なんて。

 呑気に困惑出来たら僕も楽なんだが。ここまで来てしまったら大方の予想は付くというものだろう。断定はできなくとも。

 知らない女子は喋らない。

 もちろん僕も沈黙を広げる。僕が喋ることなんてない。

 風が吹けば冷めていく体温。醒めていく感情。

 数秒して。諦めたかのように、もしくは決意したかのようにブレザーのポケットから一封の封筒を取りだすと、知らない女子は一言添えてそれを差し出して来た。

 一度目を合わせ、静かに受け取る。

 カラカラと、枯葉がコンクリートを引き摺る乾いた音が共鳴している。

 知らない女子も、さっきのさっきゅんと同じ様に、別れの挨拶と僕を残して走り去って行った。

 カラカラ。

 乾いた葉。

 カラカラカラカラ。

 乾いた僕。

 カラカラカラカラカラカラ。

 ……。

 どうしたものか。

 ……。

 とりあえず。

 読む。

 そして、それはあまりにも予想通りに。なんの変哲もない。

 交際申込書。

 ラブレターだった。



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