表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぜんうさ。  作者: 月白
PR
34/36

34 家族


「……ん……」


 ゆっくりと目を開ける。


 見慣れない天井――

ではなく、もう見慣れ始めた天井。


「……」


 少しだけぼんやりしたまま、手を持ち上げる。


「……?」


 その向こうに――


 ほんの一瞬だけ、光が透けた気がした。


「……」


 次の瞬間には、何事もなかったように元通り。


 しばらくその手を見つめて――


 そっと、握る。


「……まだ……大丈夫……」


 小さく呟いて、布団から身体を起こした。



 リビング。


「おはようございます」


「おはよう、こはるちゃん」


 母親がやわらかく笑う。


「よく眠れた?」


「はい、とても」


 自然に交わされる会話。


 もうすっかり、ここが”居場所”になっていた。


 そして……


 テーブルの奥


「……」


 大きな影。


 無口で、鋭い目つきの男の人が新聞を読んでいた。


 新聞を下におろし、こはるに目を向けると……


「……月城さん。体調は大丈夫か」


 少し低い声。


「ありがとうございます。ご心配をおかけしてしまって……」


 ぺこりと頭を下げるこはる。


「……そうか」


 短く、それだけ。

――のはずだった。


「あ、お父さん」


 お父さんと呼ばれた男性が再びこはるに視線を向ける。


「……?」


「わたしのこと……こはるって呼んでくれませんか?」


 一瞬、空気が止まる。


「いや……月城さ……」


 言いかけて、止まる。


「こはる………」

 自分の名前を呼び、じっと父親を見つめるこはる。


「……こはる」


「はい♪」


 嬉しそうに笑うこはる。


 横で見ていた雪斗と母親が、ぽかんとする。



「すげーな……初対面の父さんにあそこまでいける人、初めて見た」


「パッと見るでみんな怖がるのにね(笑)」


「そうですか?」


 こはるは首をかしげる。


「そんなことないですよ」


 少しだけ笑って――


「とっても優しい顔、してますから」


「……」


 父親は何も言わなかったが、


 新聞を持つ手が、少しだけ止まっていた。



「こはるちゃん、大丈夫?休んででもいいのよ?」

「いえ、お邪魔している以上は私もやれることはやりたいので。」


 こはるの返事に少しだけ笑う母親。

「そう、それじゃ……お願いしようかしら」

「はい!」


 こはるの家に続き、雪斗の家でも大掃除が始まった。


 各々最初に手をつけるところが決まっているのだろう。雪斗は自分の部屋を。母親は台所を。父親はトイレと風呂場の掃除を開始していた。


 こはるも自分が寝かせてもらっている客室を………


 布団を干し、掃除機をかけ、雑巾で窓を拭く。


 基本的に汚れてもいなく、元から綺麗だったこともあり、掃除が終わるのにあまり時間は掛からなかった。


「客室おわりました!」


 と言いながら、リビングへと戻るこはる。


「あら、早いわね!」


 台所から顔を覗かせる母親。


「それじゃ、次はリビングをお願いしようかしら。」

「任せてください!」


 そう言って、フキンで隅々まで拭き始めるこはる。

そして………棚の前で、こはるの手がとまった。


 そこには――

小さな写真立て。


「……」


 はるの写真。

 その時、すっと雪斗が階段から降りてきた。


「……あー、そこはいいよ」


 雪斗が言う。


「……俺がやる」


「え……?」


 その声に母親が、驚いたように顔を覗かせた。


「わ、わかりました」


 少しだけ目を細める母親。

「……雪斗が?」

「……たまにはやらないと」


 ぶっきらぼうに答える雪斗。


 フキンを雪斗に渡し、新しいものを貰おうと母親の元に行くと……


「今まで……絶対触ろうともしなかったのに……」


 そう呟き、母親にこはるは首を傾げる。


「思い出すから嫌だって……はるちゃんの写真を触ることも、それこそ見ることも……ほとんどなかったの」

「そうなんですか……」

「……こはるちゃんが来るようになってからくらいからね」


「写真をよく見るようになったのよ」

「……そうなんですか」


 こはるは、静かに写真の棚を掃除している雪斗を見る。


 そして――


 やわらかく微笑んだ。


「……きっと」


 少しだけ、目を細める。


「……喜んでますよ」



 お昼過ぎ。


 ソファで、こはるが眠っている。


 すぅ、と静かな寝息。


「……」


(体調がまだ万全じゃないのに無理するから……)

 そう思いながら、雪斗が持ってきた毛布をかける。


 その時――


「……まだ…あそびたい………」


 小さな声。


「……もっとなでて……」


「……」


 雪斗の手が、一瞬止まる。


 何も言わず、そっと頭を撫でた。



 夜


 リビングには父親と母親の2人。


「……どうぞ」


 そっとお茶を差し出す母親。

出されたお茶を一口飲む。


「……いい子だな」


 ぽつりと父が言う。


「ほんとにね」


 母親が笑う。

少しだけ間があって――


「娘がいたら……あんな感じなんだろうな……」

「ふふっ……」


 母親はやわらかく笑う。


「それは……あの子たち次第ね」


 買い物をして


 ご飯を作って


 テレビを見て


 数日間が……あっという間に過ぎていった。


 まるで最初から家族だったみたいに。


 笑い合いながら……


12月31日 23:00


 初詣に行く準備をし、雪斗を待っているこはる。


「……気をつけて行きなさい」

 テーブルに座った父親が、新聞を読みながら言う。


「……」


 こはるは、父親の前に……


「……お父さん」

「……」

「ありがとうございます」


 少しだけ笑って、


「転ばないように、気をつけます」


 そして台所から……


「まだ雪も残ってるし、寒いから。ちゃんと暖かくして行くのよ?」

 母親が顔を覗かせて言う。


 こはるは母親の方に向き直し、


「……おかあさん」


「ありがとうございます」


 やわらかく、微笑む。


「大丈夫です。もう十分……あったかいです」


 そう言いながら自分の胸に手を当てるこはる。


「……そう」


 母親は、少しだけ嬉しそうに目を細めた。

ドタドタと足音が聞こえる。


「悪い待たせた……行こうか」

「はい!」


 扉を開ける。


 冷たい空気。


 白い息。


 雪の匂い。


 一歩、外へ踏み出す。


 ゆっくりと……


 玄関の扉が閉まる。


 チリーン――


 小さな音が、静かに残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ