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ぜんうさ。  作者: 月白
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29/36

29 心和


 こはるの周りに、クラスメイトが集まる。


「おかえりー!」

「待ってたよー!」

「ラスト頑張ろうね!」


 その中心で――


 こはるが、楽しそうに笑っていた。


 紅葉が、そっと雪斗の隣に立つ。


「……やるじゃん」


 小声で呟く。


「ケーキ……4日分にまけてあげる」

「なんで増えてんだよ」

「悔しいからに決まってるでしょ」


 そう言ってふっと笑う紅葉。

その表情は、少しだけ軽くなっていた。


 ざわつく教室。

その声に――


 パンッ


 渚が手を叩く。


「はいはい!まだお客さんもいるし並んでるんだから!持ち場に戻って戻って!」

「はーい」


 各自持ち場へと戻っていく。


「こはるもいける?」

「任せてください!」


 ぎゅっと拳を握る。


「ぷっ…それじゃ最後、頑張ろうね!」

「はい!」


 そう言って2人はお客さんの待つテーブルまで歩いていった。



「ご注文お伺いします」

「かしこまりました、少々お待ちくださいね♪」

「写真はダメなので、しっかりと目に焼き付けておいてください(笑)」


 その声は――


 さっきまでとは、少し違っていた。


 柔らかくて、


 自然で、


 温かい。


「月城さん……変わった?薄幸の美少女じゃなくなってる……」

「確かに……なんか明るい感じになってるね」

「バズり対策かな?」


 こはるの変化に気付いたクラスメイト。


 その声は、少し離れていても――


 こはるの耳には、ちゃんと届いていた。


 その変化は自分自身も自覚しているため、そりゃそうだよね、と思わず笑ってしまう。


 すると……


「うさぎのおねえちゃん!」


 小さな声。

振り返ると、小さな女の子が立っていた。


「どうかしましたか?」


 しゃがんで目線を合わせる。


「ありがとう!ジュースおいしかったです!」


 ぎゅっと手を握られる。


「……こちらこそ、ありがとうございます」


 優しく微笑む。


 その様子を少し離れたところから見ていた雪斗も、思わず微笑んだ。


「雪斗くーん」

 後ろから陽向の声が聞こえた。


「こはるちゃんに見惚れてナイデ、奥のテーブルのオーダーに行ってきてクダサーイ」

 茶化すように言う陽向。


「っ……!わかったよ………」

 そう言って奥のテーブルへ行く雪斗。


 雪斗とすれ違い、空いたグラスを持ってきた渚が、陽向の近く寄ってくる。


「今、『見惚れてないで』の部分」

「あぁ……否定しなかったぞあいつ……」


「まぁ、そういうことなんじゃない?」

 ひょこっと後ろから紅葉が笑いながら現れた。



 文化祭も終盤に近づき、行列も少し落ち着いてきた教室。


「こはる」


 ふいに、渚が呼ぶ。


「どうしました?」

「さっきさ……ちょっと思い出しちゃって」

「?」


 苦笑いの渚。


「修学旅行の班決めのときさ……」

「私と陽向が喧嘩してて……“全然楽しくない!“って言ってたじゃん?」

「……あ……」


 自分の言葉を思い出したこはる。


「あの時のこはるの気持ち、今になってわかったよ。正直私も……さっきまで全然楽しくなかった……」


 申し訳なさそうな表情になるこはる。

「えっと……その……すみま――」

「でも今――」


 こはるの言葉を遮り、ぐっと親指を立てる。


「めっちゃ楽しいよ!」


 その言葉にこはるも、つられて笑った。


「ラストスパートいっくよー!」


 クラス全体の空気が、少しずつ一つになっていく。


 誰かが足りないところを補って、


 誰かが声をかけて、


 笑いながら、


 忙しささえ楽しむように。


――文化祭は、大成功だった。



 後夜祭。


「何食べる!?」

「とりあえず全部回ろ!」


 夜の校内。


 いつもとは違う光。


 笑い声。


 屋台の灯り。


 非日常の続き。


「こはる!」

「はい?」

「せっかくだし、みんなで写真撮ろー!」

「え、あ……はい」


 並んで、


 笑って、


 シャッターが切られる。


「ほら雪斗!陽向!2人もおいで!写真撮るよ!」

「え?まじ?俺着替えていいっすか?」

「ダメに決まってるだろ」

「なんなら陽向がメインまであるよ」


 そんなやりとりの中で――


 こはるは、笑っていた。


 心から。


 それを見ていた紅葉が、ふと雪斗の方を見る。


 バシッ


「いっ!?」


 雪斗の頭に衝撃が走る。


「なにすんだよ!」


「別に、ちょっとムカついただけ」


 紅葉がそっぽを向いた。


 少しだけ笑っていた。


「ケーキ忘れないでよ」


「……はいはい」


 雪斗も苦笑する。


 その様子を見て、


 こはるはまた、笑った。



 帰り道。


「楽しかったねー!」

「来年も楽しみすぎる」


 他愛のない会話。


 夜の空気は少し冷たい。


「……」


 こはるも、


 歩きながら笑っていた。


 ちゃんと、心から。


 チリーン……


 小さく、鈴の音が鳴る。


 こはるは少し歩くペースを落とした。


 月に照らされるみんなを見て……


 この日を、


 きっと、忘れない――そう思った。

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