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ぜんうさ。  作者: 月白
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18/36

18 蝉語


 夏休みに入って、数日が経った。


 照りつける日差し。

 外からは、蝉の声が絶え間なく響いている。



「お邪魔しまーす!」


 玄関の扉が開き、元気な声が部屋に響いた。


「いらっしゃい」


 こはるが出迎える。


「うわ、涼し〜!!」


 部屋に入った瞬間、渚が声を上げた。


「生き返る……」


「外やばすぎるって……」


 紅葉も軽く息を吐く。



 部屋に入るや否や、テーブルにもたれかかる渚。


「で? 宿題やるんじゃなかったの?」


 紅葉が渚に目を向ける。


「やるよ! やるけどさぁ!」


「まずはクールダウンしなきゃでしょ……」


「はいはい」


 紅葉は笑いながらノートを取り出した。



 結局、ノートは開かれたまま。


 ペンは転がり、会話だけが進んでいく。


「こはる、一人暮らしなんだよね?」


 渚が部屋を見回しながら言う。


「はい、そうです」


「いいなぁ〜。自由じゃん」


「……自由、ですか?」


 少しだけ首を傾げる。


「最初は、少しだけ寂しかったですけど……」


 ふと、思い出す。



 雪斗に会えて嬉しかったのも束の間。


 思うように会えずに、

 ただ時間だけが過ぎていく日々。


 寒い部屋に一人きり。


 学校が始まっても、


 朝起きて、


 家を出て、


 帰ってきて、


 また一人。


 でも今は……


 雪斗とも仲良くなれた。

 もちろん陽向とも。


 そして……


 目の前には渚や紅葉。


「今は、みなさんがいるので、全然寂しくないですよ♪」


「なにそれ〜!」


 渚が勢いよく抱きついた。


「かわいすぎ!!」


「え、あ、ちょっと……」


「こはるはほんといい子〜!」


「ちょっと渚さん、暑いです……」


「あ、ごめん!」


 ぱっと離れる。


「……あと少しだったのに」


 紅葉がスマホを構えていた。


「何してるの?」


「いや、浮気現場の証拠写真を撮ろうかと」


「ほぅ……それならもう一回やろうか!」


 再び渚がこはるに抱きつく。


「やめてくださいー!」


 部屋に三人の笑い声が響き渡った。



 数時間後。


 サラサラ……


 部屋にはノートに文字を書く音。


「……そういえばさ」


 ひと段落ついたのか、渚が口を開いた。


「この前の祭りの時、みんなはぐれちゃったじゃん?」


 紅葉がピクッと肩を振るわせる。


「あの日、ちょっと気になったことがあるんだよね〜」


 そう言いながら紅葉の方を見る。


「かき氷美味しかったよね」


 視線を逸らす紅葉。


「紅葉から【こはるといる】ってメッセージがきたんだけど〜……こはるは?」


「え? 私には【渚さんたちと一緒にいる】って連絡がきましたよ……?」


「やっぱり!!」


 ちょっと気まずそうに、紅葉の視線が宙をさまよう。


「渚のくせに……鋭い……」


 声が少し震えていた。


「紅葉、あのね?」


「…………」


「私は、陽向と付き合ってるよ?」


「うん。知ってる」


「修学旅行の時も、紅葉が気を遣ってくれたの……知ってるよ?」


「……………」


「今回もさ、多分そうやって気を遣ってくれたんだろうけど………」


 渚が続ける。


「私は紅葉のことも大好きなんだよ」


「…………」


「だからさ、あんまり変な気を遣わないで? 紅葉ともいっぱい思い出作りたいから!」


 静寂に包まれた。


「そんな恥ずかしいこと……よく言えるね……」


「なっ! 人が真面目に!!」


「でも、ありがと。」


 そう言いながら、二人は恥ずかしそうに笑っていた。


 全部は分からないけど……

 その暖かい雰囲気に……

 こはるも自然と笑顔になっていた。


「よし、じゃ〜早速気を遣わないで聞くけど……」


「ん?」


「二人とも、実際修学旅行と花火の時はどうだったの?」


「へ?」


「はい?」


 気の抜けた声が出た二人。


「ほら、気を遣った側としては、その結果が気になるし」


「気を遣わないで話してくれていいんだよ?」


 まずは近くにいた渚を標的にし、詰め寄っていく紅葉。


「わ! わかった! 言うから!! ちょっと一旦落ち着いて!!」



「――とまぁ、こんな感じでして……」


 これ以上ないほど渚の顔が赤くなっている。


「ふーん」


「その顔やめて!」


「渚ってさ」


「ん?」


「ツンデレだよね」


「違うし!」


「で?」


 紅葉が視線をこはるに向ける。


「こはるは?」


 細めた目でこはるを見る紅葉。


「どうだった?」


「わ、わ、私ですか!?」


「私も話したんだ……こはるも言うんだ……」


 恥ずかしさのあまり涙目の渚も、こはるをじっと見つめる。


「えっと……その………」


 何を話していいのか分からず、もじもじするこはる。


「まずは、修学旅行ではどうだった?」


 紅葉が優しく問う。


「……まずは、着物試着体験に行きました。」


「それから、手を繋いで歩いて……」


「え? それもう付き合ってるんじゃないの?」


「違いますよ!」


 こはるが慌てて否定する。


「ほら、人が多かったじゃないですか?」


「確かにいっぱいだったね」


「人とぶつかったりしてよろけてしまって。危ないからって手を繋いでくれたんです。」


「あ〜………」


 その話を聞いた二人。


(こはる小動物っぽいし)


(放し飼いは危ないし)


 小動物こはるを保護する飼い主(雪斗)が脳裏に浮かんでいた。


「まぁ確かに……」


「それじゃ仕方ないね……」


「??」


 急に二人が大人しくなり、不思議がるこはるだが、そのまま話を続けた。


「それから――」



「……という感じで、花火を見て終わった感じです。」


 さすがに届かなかった言葉のことまでは話さなかったが、花火の日までを話し終えたこはる。


 渚同様に、顔が赤くなっているであろうことが自分でもわかった。


「清純だねぇ……」


「渚とは大違いだね」


「え?」


「え?」


「………」


「まぁ、冗談はさておき、会いたいんじゃない?」


「え?」


「ほらこはる、正直になりなよ♡」


 からかうように言う渚。


「そういう渚も会いたいんでしょ? 陽向に」


「わ、私は別に思ってないよ!?」


「ツンデレ」


 クスリと笑うこはる。


 再度、こはるをちらっと見る紅葉。


「……話したいんでしょ?」


「……はい」


 小さく頷くこはる。


(……なにこの子、可愛すぎだろ)


「じゃあ決まりだね。はい渚」


「え? 私!? ちょ、待って! 心の準備が!」


「いらないでしょ。ほら、連絡」


 しぶしぶスマホを取り出す渚。


「……送った」


「なんて?」


「今何してるーって」


 ブーッ


「……あ、返事きた」


「雪斗の家にいるって」


「へぇ」


「ちょうどいいじゃん」


 紅葉はニヤリと笑った。

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