18 蝉語
夏休みに入って、数日が経った。
照りつける日差し。
外からは、蝉の声が絶え間なく響いている。
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「お邪魔しまーす!」
玄関の扉が開き、元気な声が部屋に響いた。
「いらっしゃい」
こはるが出迎える。
「うわ、涼し〜!!」
部屋に入った瞬間、渚が声を上げた。
「生き返る……」
「外やばすぎるって……」
紅葉も軽く息を吐く。
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部屋に入るや否や、テーブルにもたれかかる渚。
「で? 宿題やるんじゃなかったの?」
紅葉が渚に目を向ける。
「やるよ! やるけどさぁ!」
「まずはクールダウンしなきゃでしょ……」
「はいはい」
紅葉は笑いながらノートを取り出した。
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結局、ノートは開かれたまま。
ペンは転がり、会話だけが進んでいく。
「こはる、一人暮らしなんだよね?」
渚が部屋を見回しながら言う。
「はい、そうです」
「いいなぁ〜。自由じゃん」
「……自由、ですか?」
少しだけ首を傾げる。
「最初は、少しだけ寂しかったですけど……」
ふと、思い出す。
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雪斗に会えて嬉しかったのも束の間。
思うように会えずに、
ただ時間だけが過ぎていく日々。
寒い部屋に一人きり。
学校が始まっても、
朝起きて、
家を出て、
帰ってきて、
また一人。
でも今は……
雪斗とも仲良くなれた。
もちろん陽向とも。
そして……
目の前には渚や紅葉。
「今は、みなさんがいるので、全然寂しくないですよ♪」
「なにそれ〜!」
渚が勢いよく抱きついた。
「かわいすぎ!!」
「え、あ、ちょっと……」
「こはるはほんといい子〜!」
「ちょっと渚さん、暑いです……」
「あ、ごめん!」
ぱっと離れる。
「……あと少しだったのに」
紅葉がスマホを構えていた。
「何してるの?」
「いや、浮気現場の証拠写真を撮ろうかと」
「ほぅ……それならもう一回やろうか!」
再び渚がこはるに抱きつく。
「やめてくださいー!」
部屋に三人の笑い声が響き渡った。
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数時間後。
サラサラ……
部屋にはノートに文字を書く音。
「……そういえばさ」
ひと段落ついたのか、渚が口を開いた。
「この前の祭りの時、みんなはぐれちゃったじゃん?」
紅葉がピクッと肩を振るわせる。
「あの日、ちょっと気になったことがあるんだよね〜」
そう言いながら紅葉の方を見る。
「かき氷美味しかったよね」
視線を逸らす紅葉。
「紅葉から【こはるといる】ってメッセージがきたんだけど〜……こはるは?」
「え? 私には【渚さんたちと一緒にいる】って連絡がきましたよ……?」
「やっぱり!!」
ちょっと気まずそうに、紅葉の視線が宙をさまよう。
「渚のくせに……鋭い……」
声が少し震えていた。
「紅葉、あのね?」
「…………」
「私は、陽向と付き合ってるよ?」
「うん。知ってる」
「修学旅行の時も、紅葉が気を遣ってくれたの……知ってるよ?」
「……………」
「今回もさ、多分そうやって気を遣ってくれたんだろうけど………」
渚が続ける。
「私は紅葉のことも大好きなんだよ」
「…………」
「だからさ、あんまり変な気を遣わないで? 紅葉ともいっぱい思い出作りたいから!」
静寂に包まれた。
「そんな恥ずかしいこと……よく言えるね……」
「なっ! 人が真面目に!!」
「でも、ありがと。」
そう言いながら、二人は恥ずかしそうに笑っていた。
全部は分からないけど……
その暖かい雰囲気に……
こはるも自然と笑顔になっていた。
「よし、じゃ〜早速気を遣わないで聞くけど……」
「ん?」
「二人とも、実際修学旅行と花火の時はどうだったの?」
「へ?」
「はい?」
気の抜けた声が出た二人。
「ほら、気を遣った側としては、その結果が気になるし」
「気を遣わないで話してくれていいんだよ?」
まずは近くにいた渚を標的にし、詰め寄っていく紅葉。
「わ! わかった! 言うから!! ちょっと一旦落ち着いて!!」
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「――とまぁ、こんな感じでして……」
これ以上ないほど渚の顔が赤くなっている。
「ふーん」
「その顔やめて!」
「渚ってさ」
「ん?」
「ツンデレだよね」
「違うし!」
「で?」
紅葉が視線をこはるに向ける。
「こはるは?」
細めた目でこはるを見る紅葉。
「どうだった?」
「わ、わ、私ですか!?」
「私も話したんだ……こはるも言うんだ……」
恥ずかしさのあまり涙目の渚も、こはるをじっと見つめる。
「えっと……その………」
何を話していいのか分からず、もじもじするこはる。
「まずは、修学旅行ではどうだった?」
紅葉が優しく問う。
「……まずは、着物試着体験に行きました。」
「それから、手を繋いで歩いて……」
「え? それもう付き合ってるんじゃないの?」
「違いますよ!」
こはるが慌てて否定する。
「ほら、人が多かったじゃないですか?」
「確かにいっぱいだったね」
「人とぶつかったりしてよろけてしまって。危ないからって手を繋いでくれたんです。」
「あ〜………」
その話を聞いた二人。
(こはる小動物っぽいし)
(放し飼いは危ないし)
小動物を保護する飼い主(雪斗)が脳裏に浮かんでいた。
「まぁ確かに……」
「それじゃ仕方ないね……」
「??」
急に二人が大人しくなり、不思議がるこはるだが、そのまま話を続けた。
「それから――」
⸻
「……という感じで、花火を見て終わった感じです。」
さすがに届かなかった言葉のことまでは話さなかったが、花火の日までを話し終えたこはる。
渚同様に、顔が赤くなっているであろうことが自分でもわかった。
「清純だねぇ……」
「渚とは大違いだね」
「え?」
「え?」
「………」
「まぁ、冗談はさておき、会いたいんじゃない?」
「え?」
「ほらこはる、正直になりなよ♡」
からかうように言う渚。
「そういう渚も会いたいんでしょ? 陽向に」
「わ、私は別に思ってないよ!?」
「ツンデレ」
クスリと笑うこはる。
再度、こはるをちらっと見る紅葉。
「……話したいんでしょ?」
「……はい」
小さく頷くこはる。
(……なにこの子、可愛すぎだろ)
「じゃあ決まりだね。はい渚」
「え? 私!? ちょ、待って! 心の準備が!」
「いらないでしょ。ほら、連絡」
しぶしぶスマホを取り出す渚。
「……送った」
「なんて?」
「今何してるーって」
ブーッ
「……あ、返事きた」
「雪斗の家にいるって」
「へぇ」
「ちょうどいいじゃん」
紅葉はニヤリと笑った。




