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ぜんうさ。  作者: 月白
14/15

14 心知


 修学旅行当日。


 新幹線の中は、どこか浮き足立った空気に包まれていた。


「やっぱテンション上がるよね〜」


「まだ出発したばっかじゃん(笑)」


「ガム食べる?」


 賑やかな声があちこちから聞こえる。


「……」


 こはるは、窓の外をぼんやりと眺めていた。


(修学旅行……)


 ふと視線を横に向ける。


 少し離れた席。


 雪斗くんと陽向くんと百武くんの三人が話をしている。


 ふと雪斗と目があったが、雪斗は少し困った顔で笑い、また視線を戻して会話に戻っていった。


 こちらも渚と紅葉が、今日の日程についての話をしていた。


「初日のグループ行動。坐禅体験のコースだっけ?」


「そうだよ」


「紅葉さん、このコースがいいって言っていましたけど……何か理由があったんですか?」


「坐禅だよ」


「いや…今更だけどさ、なんでわざわざ坐禅の体験なの!?」


「あれ……足が痺れるんですよね……」


 月での所作訓練で天ちゃんに叩かれたことを思い出し、こはるは少しだけ肩を落とした。


「雑念を払い、自分の心と向き合う」


「自分の心と…?」


「そう。今の渚には必要だと思ったからね」


「ぐぬぬぬ………」


(自分の心と向き合う………か………)



 現地到着。


「あっ………」


「おっ………」


 鉢合わせる雪斗たちのグループとこはるたち。


「雪斗くんたちもここだったんですね!」


 久しぶりにちゃんと話せて嬉しそうに声をかけるこはる。


「こはるたちもここだったんだ。」


「はい!」


「こっちは俺が半分無理やり連れてきた(笑)」


「私は紅葉さんに強制連行されました!」


「ちょっと言い方」


 少しだけ空気が和らぐ。


「えっと……その……」


「まぁ、坐禅とか普段やらないしね」


「だよね…」


 渚と陽向。


 言葉は交わすが、相変わらずぎこちない。


「渚さん!よかったら――」


 ガシッ!


「よし!班長!坐禅体験の場所はあっちでいいんだよな!」


 百武の首に腕を回し、雪斗が強引に流す。


「陽向も行くぞ!」


「お、おう!」


 そのまま男子組は去っていった。


「あっ………」


 少し寂しそうに見送るこはる。


 去り際、雪斗が小さく“ごめん”のジェスチャーをした。



「まだ、ちゃんと話してないでしょ?」


「……」


 渚が視線を落とす。


「……一応は、お互いに謝ったよ」


「でも?」


「……」


「……なんか……どう話せばいいか、分かんない」


 ぽつりと呟く。


「ちゃんと謝りたいのに……」


「……そっか」


 少しだけ間を置いて。


「坐禅……私たちも行こうか」


「はい」


「……うん」



 夜。


 布団の上。


「足が痛い……です………」


「私は肩も痛い……」


「あの叩かれるやつ……自己申告の希望制だよね?なんでそんなに叩かれにいったの?」


「隣で音がなるたび、私びっくりしました」


「ごめん(笑)」


 渚が天井を見ながら言う。


「考えても考えても雑念ばっかりでさ。」


「今までの関係が居心地良すぎて。」


「好きなのに、それを伝えたら……」


「今の関係が壊れるかもとか色々考えちゃって」


「……」


 こはるは静かに聞いていた。


「でもさ」


 紅葉が少しだけ笑う。


「そういうのも含めて、楽しいんじゃないの?」


「そうなのかな?」


「私はしらないけど」


「なんかもう色々考えてたら疲れちゃった。こはるみたいに、自分の気持ちをドストレートに伝えられたら楽なのになぁ……」


「あ、こはるはどう思う?」


「えっ?」


 突然話を振られて、こはるは少し慌てた。


「その……そういう好き、とかは……」


 少し考える。


「……よく、分からないです」


「だよね(笑)」


「でも……」


 少しだけ言葉を探して、


「一緒にいると、楽しい。もっと一緒にいたいって思うのは……好き、なんですかね?」


「……」


 渚と紅葉が一瞬だけ顔を見合わせた。


「それはね」


 紅葉が優しく言う。


「かなり近いと思うよ」


「……そう、なんですね」


 こはるは小さく頷いた。


(……好き……)



 二日目。自由行動。


「今日は歩くよ〜」


「了解〜」


 坐禅のせいで足は重いが、空気は軽かった。



「……あ」


 道中でまた、男子組と遭遇する。


「また会ったな(笑)」


「ほんと偶然だね」


「……」


 やっぱり、まだ少しだけぎこちない。


(……このままじゃダメか)


 紅葉は小さく息を吐く。



「いたっ!」


 紅葉が急に声を上げる。


「え?」


「ごめん。ちょっと足挫いたかも。こはる、ちょっと肩貸してもらえる?」


「あ、はい!」


「雪斗も来て」


「え、俺?」


「か弱い女子が頼んでるんだよ」


「お、おう……」


「あと、百武くん。ごめん、ちょっと荷物持ってきてくれる?」


「えっ!え、あ、はい!」


 そのまま四人を連れて離れていく。



 残されたのは――


 渚と陽向、二人。


「……」


 沈黙。


「……あのさ」


「……ごめん」


 同時に声が重なる。


「……」


「……」


 一瞬だけ見合って、お互いクスッと笑う。


「……そっちからいいよ」


 陽向が笑いながら言う。


「……」


 渚は少しだけ視線を落として、


「……あの時」


「ちょっと言いすぎた……」


「ムキになってごめん」


「……いや、俺も悪い」


 陽向が小さく息を吐く。


「……あんな言い方しちゃって」


 沈黙が続く。


(私は――雪斗くんが大好きです!)


(直球ドストレート)


 ふと、二人のやりとりを思い出す渚。


(ドストレートに行けたら楽なのになぁ)


「……ドストレート、か。」


 渚がぼそっと呟き、顔を上げる。


「……私さ」


 まっすぐに陽向の目を見ながら。


「陽向のことが好きなんだよね」


 一瞬、空気が止まる。


「あの時さ……ちょっと、妬いてほしかったの」


「あんな冗談、いつもなら気にしないのに」


「……あの時はほんとに私らしくなかったね」


「俺……」


 陽向もまっすぐ渚を見る。


「あ〜大丈夫!今まで通り接してくれればそれでいいから!変なこと言ってごめんね!!」


「違う!」


「え?」


 いつもとは違う、陽向の真面目な声。


 真剣な眼差しにびっくりする渚。


「あの日、百武に告白されたって聞いて……俺ちょっとムカついた」


「……え?」


「……だから、妬いたんだよ。俺。」


「………」


「行くわけないじゃん!陽向たちと行くに決まってるよ!っていう渚の言葉に期待して。あんな酷い言い方しちゃって……」


「俺も本当にごめん」


「………それは、つまり?」


「先に言わせてごめん。俺も渚のことが好き…です」


 ぷっ


「……じゃあ」


 渚が言う。


「両想いだったってこと?」


「……みたい……だな」


「同じこと考えてたのに、あんなケンカしてたんだね」


「そう言うことだね」


 ぷっ


 二人で笑い合う。


 少しだけ間を置いて、


「……紅葉が気を利かせてくれたみたいだし、どうせなら……」


「……そうだな、一緒に回るか!」


「……うん!」


 二人の距離が縮まる。


 ゆっくりと手を取りながら、二人はゆっくりと歩いていった。



 少し離れた場所。


 四人がその様子を見ていた。


「……よかった」


 紅葉が小さく呟く。


「まぁ、そうなると思ってたけど」


 雪斗も肩をすくめる。


「……」


 こはるは、じっと二人を見ていた。


(……なんだろう……)


 胸の奥が、少しだけあたたかい。


(……ドキドキ、してる……?)


(……でも……)


(……なんか……)


 小さく、息を吐く。


(……いいなぁ……)


「……ぐすっ」


「ん?」


 隣で百武が泣いていた。


「二人が仲良くなれて良かったですね」


 こはるは笑顔でポケットティッシュを差し出した。



 その後。


 仁王門の前で合流した六人。


「えっと……その……色々ありまして、付き合うことになりました」


「色々迷惑かけてごめん!」


 少し照れた様子で報告する陽向と、みんなに謝る渚。


「本当に幸せそうで――」


 こはるの口を塞ぐ紅葉。


「それ以上言わなくていいから」


「んー?!んーーーー!?」


「……あれ?百武は?」


 陽向が振り返る。


 百武がひとり、少し離れた場所で肩を落として歩いていた。

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