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妹の人形 〜最後にゾッとする怖い話〜

作者: おりみみ
掲載日:2026/05/16

「お姉ちゃんお誕生日おめでとう! これ、私からのプレゼントだよ!」


 私の十六回目の誕生日、元気100%な妹から貰ったものは可愛らしい人形だった。


 素材は木製。ピノキオみたいなしっかりした関節があり、つぶらな黒い瞳がチャームポイント。


 なんでも、妹がとても大切にしていた人形らしい。


 一体どこのメーカーなのか聞いてみたら、学校の校舎裏に落ちてたと言うもんだから驚いた。

 それ、よく持って帰る気になったよね……怖いよ。


 でも、人形へのお手入れも念入りで、新品と言われても差し支えない程に綺麗だった。


 フランス人形とか凄い高額だし、この人形も実はお値段するのかもしれない。


 それはそうと、人形を貰った私は嬉しい気持ちでいっぱいだった。


 可愛い妹からの可愛い人形の贈り物、いいじゃないいいじゃない。


 私はぬいぐるみに囲まれて寝るのが好きなタイプの人間なので、校舎裏のマドンナことお人形さんを枕元に置いて寝ることにした。


 マイメロディのぬいぐるみの輪に、木製マドンナがぽつんと異彩を放ってはいるけど、新しい仲間としてどうぞよろしくお願いしますね。

 あなたの可愛いさならサンリオデビューも夢じゃない!


 で。


「ははっ八時半!?」


 学校を迎えた月曜日、私は見事に遅刻した。


 これは決して可愛い人形のせいではない。普段おっちょこちょいな私にとっては週間イベントのひとつだ。


 新入りの人形さんに恥ずかしいところを見せてしまったね。


 まぁ、一週間後にまた遅刻するだろうから、そのうち私の『八時半!?』に慣れるってマドンナちゃん。


 二時目は体育。

 制服は着替えが面倒なのであらかじめジャージを着て準備を整える。


 学校のバックに今日のお供、イベント限定で手に入れたウインクしているマイメロぬいぐるみを入れ、ダッシュで登校した。




「あ、朝いないと思ったら遅刻だったんだー」


 ジャージの上着を着ながらそう言ったのは、私の友達エミちゃんだ。


「二時間目の授業が始まる前に来れたし、ちゃんとパンを咥えて走って来るお決まりもしたから遅刻帳消しにならないかな~」


「食パン?」


「いや、森永のチョコパンだけど」


「はいダメーッッ! 食パン以外は遅刻を帳消しにできませんー、残念賞な君にはコンビニで貰ったおしぼりをプレゼントしちゃおう」


「微妙にいらねぇ~」


 おしぼりをバックにしまった時、手にコツっと硬いものに当たる。


 中を見てみると、何故か昨日妹から貰った人形が入っていた。


「あれ、何そのよく出来た人形。いつものマイメロはどうしたの? ……浮気?」


「浮気も何も無いでしょ。それに、今日はウインクマイメロを持って来たはずなんだけど……間違えて代わりに持ってきちゃったのかも」


 ま、校舎裏に居たって言ってたし、お人形さんも学校にもう一度来てみたかったのかなあ。

 校舎裏って捨てられてたってことだろうし、学校にいい思い出無さそうだけど。


 人形をバックに戻して、いざ体育館へ出陣。


 二時間目はバレーボール。

 男子と女子で別れてパスの練習をしていたところ。


「あ~ごめんっ、遠くに投げちゃった。加減が難しいくて……」


「へーきへーき」


 力の加減をしないとダメなタイプの脳筋エミちゃん。

 体育館にある物置までボールが勢いよく転がっていく。


 吸い込まれるように物置部屋の奥まで転がって行ったバレーボールを拾いあげ、手を振っているエミちゃんの元に戻ろうとしたその時。


 跳び箱を背に座るように置いてあった、妹の人形と目が合った。


 ひぃッ……と声を上げ、バレーボールを手から落としてしまった。


 なんで人形がここに……さてはエミちゃんの仕業?


 そうかそうかぁ、さてはワザと物置部屋にバレーボールを投げ込んで、私を驚かせる作成だね?


 だけど、エミちゃんは何も知らなかった。

 私がバレーボールと共に人形を抱き抱えて来たら、私と同じように『ひぃッ』とした。


 まぁ……私の気になって仕方が無い男子が、気を引くためのイタズラで仕掛けた罠かもしれないし?


 不思議なこともあるもんだなあ。

 ふぅ。別に怖くなんて無いよ、可愛い妹から貰った大事な人形だし。うん。




 物置事件から、特に変わったことも無く下校時間になった。


 学校あるある、下校する時間帯に限って大振りの雨。

 梅雨の六月は特にそうだ、早く夏をスキップして秋になれ。


 ちなみに私とエミちゃんは、雷なんてどうってことないという男前な乙女である。

 そして、怖いよぉと萌え声で男子の裾を掴む女子にチッとする乙女でもある。


「レインコートを着て帰るの面倒くさいなあ」


 エミちゃんは自転車登校。

 雨の日のエミちゃんは上下黒のレインコートを着るので、全身黒ずくめの怪しい人物へと変身を遂げる。


「あれ、その人形置いてくの?」


 私のロッカーに人形が入っていることに気づいた黒エミはそう言って来た。


「雨降ってるし、濡らしたら困るからね」


 それに、校舎裏と物置部屋が大好きなこの人形なら、学校に置いていっても何も問題ない。

 明日荷物点検でロッカーを開ける先生の反応が楽しみなくらいだ。





 雷は収まったものの、雨は止む気配の無い登下校。


 ピチピチと音を立てる私の折りたたみ傘は、もちろんマイメロ仕様だ。


 高校生にもなってキャラクターの傘はどうなのとお母さんに言われたけど、好きなんだから仕方ない。今は多様性を重んじる時代でしょ。

 

「あ、お姉ちゃんおかえりー!」


 実家の玄関前。

 カエルのレインコートを着た可愛さ天使な妹のお迎えだ! かわわわ最強か!!!


 いやあ、カエルのレインコートなんてアニメの世界限定だと思ってたけど、現実でそれを遥かに越えて来るとは……恐ろしや。


「ただいま~、雨の中待ってるとかどうしたの?」


 ニッコニコだった妹の顔が一変、可愛いムス顔になる。


「玄関のチャイムが鳴ったと思ったら、ずぶ濡れになって落っこちてたのよっ! もうもう、ちゃんと大事にしてって言ったのにどうしてなのっ」


 落っこちてたって……まさか。


 妹が私に差し出したもの、それは雨に濡れて色濃くなった妹の人形だった。


 学校にあったはずの人形がなんで玄関にあるの……?


「あ……ごめんね、えと、えへへ……うっかりうっかり」


 妹の前だ、我慢しなくちゃいけない。


 怪しまれないよう、笑顔を見せないがら濡れた人形を手に取り、家に入った私は真っ先に二階に駆け上がった。


 二階の左部屋が自室。

 雨の影響で階段に干してある洗濯物を手で払い除け、自室のドアを勢いよく開け入る。


 この人形をどうにかしなければ。

 明らかにおかしい、怖い、ならば押し入れの奥にしまってしまおう。


 古着が押し込まれたぎゅうぎゅうの押し入れに人形を放り込み、ドアを閉める。が。


 私は察してしまった。


 ───押し入れにしまおうが、あの人形はまた私の前に現れるに違いない。


 いくら遠ざけようとも、何をしようとも、人形はしつこいストーカーの如く出現する。

 隠す、今までと同じじゃダメだ。売る? 送り返されるだけだ。

 そうだ、もうやることはひとつしかない。


 押し入れから取り出した人形を、私は勢いよく床に叩きつける。


 無駄に頑丈なこの人形は、叩きつけるだけじゃ温い。

 両手で人形を持った私は、ギシギシと音を立てながら、力任せに人形を引き裂いた。


 人形を壊してしまえば、もう怖いものはない。


 息を整えつつ私は、床に散らばった人形であったものを眺めていた。


 我に返った私は、人形供養にでも出してしまえば良かったと、怪異が起きたからと言って妹の大切な人形を壊してしまったと、後悔していた。


 でも、もう終わったことだ。

 散らばった残骸は燃えるゴミとして出してしまえばいい、丁度明日がゴミ収集日だ。


 私は燃えるゴミの袋にひとつひとつ欠片を残さないように入れ、上から他のゴミで蓋をするように被せた上で何重にも片縛りをした。




 遅刻のないところ以外は至って普通の朝を迎えた。


 ファミリーを二人失ったマイメロディーズが私を囲んでおはようと告げている。


 おはようマイメロ、ウインクマイメロは夜な夜な探したけど行方不明だったよ。

 力不足な私を許してくれ。一昨日からの新入りは……申し訳ない。


 朝のマイメロ対話を済ませ、片手に人形残骸の入った燃えるゴミ袋を持ち階段を降りていく。


 玄関にゴミ袋を置き、リビングに向かおうとした時、玄関に赤いランドセルがあることに気づく。


 私の妹はまだ学校に行ってない?

 高校と違って小学校は遠く、私より朝の早いはず。


 もしかして昨日の私のようにベットでスヤスヤ寝ているのだろうか。

 皆勤賞を目標にしている妹の危機!


 「起きてるー? 学校でしょー」


 階段下から声をかけても返事無し。

 仕方ないなあ、私の爽やかモーニングコールで起こして上げよう。


 二階に戻って、中央の妹の部屋をノックしながら応答を待たずに入る。


 妹の部屋は私のマイメロ尽くし部屋といい勝負で、韓国アイドルのポスターが何枚も貼られていた。


 音楽教室のベートーヴェン方式で、夜になったら視線とか人の気配を感じないのだろうかと心配になるが、そもそも今、ポスターどころか妹の気配さえ無い。


「あれ~もしかしてベットの毛布にくるまってるんですか~……遅刻するぞオラァ!」


 二階建てベットによじ登った私は、厚くなった毛布を力任せに両手で退かした。


 私は妹の「むにゃ……お姉ちゃん?」みたいな反応を期待していた。


 可愛い妹の顔を思い出し……その時気づいた。

 愛おしい妹の顔を思い出せなくなっていたことに。


 妹の名前すら思い出せない。

 でも確かに、私の名付けたとあるモノのあだ名だけはしっかり覚えていた。


 校舎裏のマドンナ。


 壊したはずの人形が毛布から顔を覗かせていた。

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