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それぞれの道

 大陸を蝕んでいた静かな病が去り、世界は新たな夜明けを迎えた。

 教団との決戦から数週間が経ち、王都エレジアでは、この未曾有の危機を乗り越えた者たちを称える式典が執り行われていた。

 しかし、その華やかな雰囲気から離れた場所で、新たな時代を担う四人の功労者たちは、それぞれの道を選び、歩み始めていた。


 アランは、新設された『地脈観測局』の初代局長への就任を打診された。

 彼の科学的知見と今回の危機管理能力は、まさにこの役職にうってつけだった。

 彼は迷うことなくその任を引き受けた。

 その顔には、かつての冷徹な表情はなく、世界の健康を守るという新たな使命感に満ちた、穏やかな光が宿っていた。

「私の地図は、この世界を科学的に解き明かすためのものだ」

 アランはそう語ると、自らの手で描き、完成させた地脈の地図を、机の上に広げた。

 その地図には、大陸全土を走る地脈の道筋が緻密に描かれており、地脈の「古傷」が残る箇所には、特別な印が記されていた。

「この地図は、科学だけでは完成しなかった」

 アランはそう言って、隣に立つリィナに目を向けた。


 リィナは、外交官としての務めに戻ることを決めていた。

 彼女は、今回の事件を通じて、言葉や物理的な力だけでなく、心を通わせることの重要性を改めて知ったのだ。

 彼女は地脈観測局の顧問としてアランを支えることを決めた。

 地脈観測局のシステムは、アランの科学的な観測データと、リィナやライラのような「感応者」からの報告を統合することで、世界の健康状態を常に監視するものとなるだろう。


 一方、ゴリンとライラは、『夜明けの道』の観測所を離れることを拒んだ。

 彼らは今回の功績を称えられ、観測局の顧問として招聘されたが、その居場所はあくまでも『夜明けの道』だった。

「俺の技術は、道具を創り、道を守るためのものだ」

 ゴリンはそう言って、愛用の槌を手に、力強く頷いた。

 彼は、地脈観測局から送られてくるデータを基に、地脈の「古傷」を修復するための新たな装置の開発に取り掛かるつもりだった。

「私の歌は、生命の声に耳を傾け、その痛みを癒すためのもの」

 ライラはそう言って、ゴリンの隣に静かに立った。

 彼女は、地脈の「古傷」が痛むときには、遠く離れた場所からでも、その痛みを鎮めるための歌を捧げることを約束した。

 彼らの友情は、大陸の伝説として語り継がれていくだろう。

 科学と神秘、ドワーフの論理とエルフの感性という、決して交わることのなかった二つの道が、一つの大きな道へと合流したのだ。


 ◇


 数年後、「地脈観測局」は大陸に不可欠な組織として根付き、アランはその初代局長として多忙な日々を送っていた。

 地脈の「古傷」が痛むことはあっても、早期発見と処置が可能になり、大災害が起きることはなくなった。


 ある日、外交任務を終えたリィナが、南方に設置された観測局の本部を訪れた。

 完全に回復し、豊かな緑に覆われた丘の上に立つ二人の眼下には、平和な大地が広がっていた。

「あなたの『地図』と私の『声』、どちらが欠けても、この未来はありませんでしたね」 リィナはそう言って、微笑んだ。

 アランは、かつての彼なら口にしなかったであろう言葉で答える。

「ええ。そして、この世界の健康を維持するための、最も確かな『処方箋』は、きっと、こうして誰かと手を取り合うことなんでしょう」

 科学と神秘、論理と共感が手を取り合う、新しい時代の幕開けを予感させながら、二人の歩みは続いていくのだった。

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